俺が各地の悪魔集めに奔走した数日後の昼過ぎ。俺達は揃って魔界のヴィナにある教会に来ていた。廃墟と呼ばれるだけあって、かなりの荒廃具合だ。
俺は幻月と夢月を迎えに行って、時間ギリギリに会場に到着した。近くに大悪魔の気配を感じる、と夢幻姉妹はどこかピリピリしていた。
「居るよね?近くに」
「近くに居るわね。まるで見張ってるみたいだわ。会場にもそこそこ居そう。……レミリアも居る?」
「ああ。レミリア達の事は一足先に連れてきたよ。面倒な事になってなきゃいいけど……」
「「レミリア……
教会の一室の、ミサを行うような広い部屋にて、メンバーが集合した。正面から向かって右側に俺と幻月、夢月が座り、通路を挟んで向かい側に残りの3人が座っている。少し悪い空気だ。
すると壇上にエリスが瞬間移動か何かで現れて、それを見たレミリアは彼女をギロリと睨みつける。
ある程度の人数が席に着いているのを認めると、エリスが声を張り上げる。
「さてと、これで参加者は全員揃ったわね?えー、初めましての奴も居るから自己紹介しとくわ。私はエリス、この悪魔連合を率いる大悪魔よ!ダーリン以外は私に逆らうの禁止だから、そこ宜しくね〜」
手をヒラヒラさせながらそんな事を言うエリス。どこまでも、誰かの神経を逆撫でするような奴だ。すると幻月は、ヒビが入る程の強さで机を殴って、邪悪な気配を漏らしながらエリスに反抗する。
「はぁ?あんた、ダーリンの何?私以外がイキナリダーリン呼びするとか有り得ないんですけど??」
「え、何?誰?」
「ていうかなんであんたが仕切るのよ?ダーリンのツテで集まったんだしさー、ダーリンがリーダーでいいじゃん。その方が纏めやすくない?」
「別にいいよ。俺、リーダーなんて性に合わねえし任せときゃいいさ」
「そう……?まぁ、あなたがそう言うならいいけど、あいつに従うのは何か嫌なんだけど……」
「いや急に逆らって何なの?まぁいいや、じゃあ、あんたから自己紹介ね。皆に聞こえるよう、大きな声でっ!はい、いってみよー!」
「……チッ、なんかムカつく」
天使の翼を持つ悪魔、幻月が立ち上がる。ここに居るメンバーだと、エリスとモルモー以外とは既に顔見知りなのでそこまで改まる必要も無さそうだ。寧ろ、エリスの前で個人情報を晒すなんて、あまり良くないだろう。それについては予め幻月に伝えてあるので、浅い紹介しかしないはずだ。
「私は幻月。妹の夢月と世界を創った悪魔よ。私に逆らうようなら殺すから」
「へー、あなたが噂の『幻月ちゃん』?ダーリンがよく言ってるのよね、『愛しの幻月ちゃん』って!へー、羨ましいなぁ〜!へぇ〜っ!」
「フン。まぁあなたと違って?愛されてるのでぇ?プププ〜ッ、愛されない悪魔ちゃんは惨めねぇ〜♡僻む事でしか自己肯定感を得られないのかしらね?お可哀想にねぇ♡」
「……存外にムカつくヤツだったのね。まぁいいわ、次の
「紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。何故、お前が主催なのかは……とりあえず聞かないでおくよエリス。というか、あなたが飛ばされた異界って、魔界のことだったのね?モルモー?」
(……チッ……なんでこのガキが……。こんなでも一応エンプーサの仇だし、殺しとけばヘカテー様からの評価も上がるのかな?)
「あっれぇ〜、レミリアちゃんも来てたんだぁ〜♡私に負ける程度の強さでダーリンの役に立てるの?身の程知らずぅ〜♡」
「負けた?それはお前じゃないの?私に磔にされて動けなくなって、再生力も大した事ないから魔法で逃げるしか無かった、無能で憐れな悪魔さん?」
「トドメを刺せないレミリアちゃんの方が弱いよ?私が逃げたのは戦略的撤退で、敗北ではないもの。何なら後で戦ってあげてもいいよ?」
「フン、それじゃ神を
「やれるもんならやってみなさい♪……はい、そこのメイド!」
「夢月。幻月の双子の妹よ。……あなた、お兄さんの何なのか知らないけど……あまりイラつかせないで。大悪魔だか何だか知らないけど、殺すよ?十中八九私の方が強いし。大悪魔エリスだと聞いてビックリしたけど、大した事なさそうだしね」
「あー怖い怖い、ホント野蛮なのねぇ。これだから下賎な悪魔は困るわー」
「「なんですってぇ……!?」」
「落ち着け夢幻姉妹。エリスの言葉に乗せられちゃ負けだよ、その時点でな」
「そーだけど……はぁ、ダメね落ち着かないと……」
「分かってるけど……まぁ、いいや。ねぇ、姉さん。もし次ムカついたら、ボコにすればいいよ」
「フンッ、それもそーねっ」
集合して10分も経っていないというのに、早くも険悪な空気になってしまっている。分かってはいたことだが、幾ら何でもこれは酷いような気がする。
エリスが誰かを煽るのは想定内。俺が宥める役をやるのも想定内。幻月と夢月がシンプルにキレて、レミリアが優雅に煽り返すのすら既定路線だった。とはいえここまで早くそうなるとは思わなかった。
心臓がもたないというか、何というか。こういうギスギスした険悪な空気に弱い俺にとっては、針の筵に座っている気分だ。
こんな事を思うとあの子に悪いのだが、くるみを誘わなくて良かった。ここに居れば絶対にエリスに煽られていただろうし、それに反応するだろうし、幻月や夢月といった味方勢力とも衝突しかねない。
どうして、こうも皆揃って仲良くできないのか。悪魔としての宿命だとでも言わんばかりに、何故か喧嘩腰の子が多い。
「自己紹介の内容、うっすいなぁ〜。次、どーぞ」
「モルモーよ。レミリアとエスカルゴ……さんには、少し前にも会ったわね。ヘカテー様を初め、神々を見返したいから参戦する事にしたわ。宜しく」
「……あなた、先日とキャラ違ってない?二重人格?キャラ定まってないの?キャラがブレブレよ」
「っさいわね……別にどーでもいいでしょ……」
「はーん。言うわねぇ、エスカルゴに秒速で負けたくせに。ここじゃ最下位レベルの強さだろうから、大きい顔しない方が身の為だと思うわ」
「…………チッ。魔界に飛ばすなんてそんなの勝負とは言えないでしょ……」
何故俺に「さん」を付けるのか。そして何故妙な間があったのか。大方エリスに忖度したのだろう。俺に「さん」を付けた方が良さそうだと遅れて判断したからこその、あの妙な間か。
それにしても、先日のイケイケなモルモーを見た後だと、小さくなっている今の彼女は、どうしても変な風に見えてしまう。似合わないというか微妙に気持ち悪いというか。
他の悪魔達はそれを知らないからか、レミリアの発言に首を傾げるだけだったが、俺としては彼女に同意したい所だ。キャラがブレてるように見える。
「次は俺かな。エスカルゴ・スカーレットだ。他に自己紹介する必要は無いだろうから、俺については割愛させてもらう。早く作戦会議に移りたいしな」
「それじゃダメでしょ〜?まぁいいかぁ、次の人はちゃんと自己紹介くらいしてね?最後の…………ってあれ?1人足りてなくない?ねぇダーリン?4人に声掛けるって言ってなかったー?」
「あれ?もう連れてきたぞ……ってオイ、俺の後ろに隠れてんなっつの……おいコラ、出てこい」
「だ、だって〜……」
「……仕方ないから、俺の方から紹介させてもらう。俺の後ろに隠れてるのは俺の倅。博麗霊魔だ。まだ幼いが、実はそこそこやる男なんでね。人生何事も経験だからと思って連れてきた」
「え……霊魔くん!?居たの!?」
「ああ。今の今まで、気配を隠してたんだろうな。なぁ、モルモー、レミリア。ここに来た時からこのチビの気配、感じ取れてたか?」
「……全く」
「私もよ。というか霊魔くん……言っちゃ悪いと思うけれど、まだ弾幕もそんなになんじゃ?」
「と、思うだろ?レミリアですらそう思うんだから相当力を隠すのが上手いんだな、霊魔?」
「そそ、そんな事ないってお父さん……。僕は別に、隠してなんか……ないって……」
「……ヒヒッ……今はそれでもいいぜ。戦ってくれるならな。戦いてェんだろ?」
「……うん」
本当は霊麗を誘いたかった。だが断られたので、近くで耳をそばだてていた霊魔を誘ったのである。霊夢は猛反対していたが、先日のモルモーの騒動で霊魔が吸血鬼を処理していた事が発覚していた事もあって、渋々ではあるが了承を得られたのである。
当然、本番まで猛特訓させる事が条件である。
「じゃあいいや、俺の膝ァ座れ」
「い、いいの?良かったっ……」
まるで猫の首根っこを掴むように、霊魔の襟首を掴み、ボスッと俺の足に座らせてやった。目の前に息子の頭があるのはどうにも変な感じがする。
「ちっちゃくてカワイー♡……目付きとか、ダーリンそっくりなのね!」
「ひっ……」
「あっ、ごめん……撫でられるの嫌だった?」
「あ、え、えっと、い、嫌じゃ、ない……です……」
「人見知りなんだ。ここに来れたのだって殆ど奇跡みたいな感じさ」
「へー、そっかそっか〜。お姉ちゃんね、あなたのお父さんとラブラブなのよ〜!義理の家族みたいなものだし、仲良くしましょ♪」
「っ……う、ん…………」
「……………………」
「ちょっと、どーしたのよダーリン?急にドス黒い気配漏れさせて〜。息子に嫉妬するのはダメよ?」
「………………………………………………………………………………」
「ねぇってばー、怒んないでよぉ?」
「……幻月は俺の相手だけしてりゃいいんだよ」
「んもー、独占欲強いなぁっ♡ 好きっ♡」
「ちっ、ちげーし!……いや……違くもないか……?」
「はいはいはいはいそこの悪魔達は何やってんの?神共をブチ倒そうって集まりなんだから、しっかりしてくれる?」
「ハンッ、ダーリンに頼まなきゃ頭数揃えらんないクセによく言うわ!協力してやってんだからこれ位大目に見なさいよね〜。大悪魔のクセに器が小さい女なのね〜♪」
「な、なんですって……!?」
またもヤバい空気になった。この2人、あまりに相性が悪すぎやしないか。酷い。これは酷すぎる。幾ら反りが合わない相手でも、ここまでバチバチに衝突するなんて中々無いことだ。
頼む、何事も無く静まってくれ、とエリスを見て必死に目で訴えかけてみると、俺の視線に気付いたエリスはこちらを一瞥。ニコリと微笑んで見せた。
「ま、いいわ。とりあえずダーリンが早く作戦会議したいって言ってたから、始めましょっか♪」
「え……あ、うん……そうね、始めましょ!」
その態度の変わり様に幻月はモロに困惑。一方、レミリアはますます鋭い目でエリスを睨みつける。そういう手のひら返しな所がやはり気に入らないんだろう。そこは何となく分かる気がする。俺もよくやってしまうのだが……。
そして幻月は、感情に流されエリスを煽った事を恥じているのか、もしくはイラついているようで、小さな舌打ちを連発させつつそっぽを向いている。
「よしっ、会議を始めましょう!神側にはスパイを潜ませてあるわ!どんな作戦で来るのか探る為の!その結果を今報告してもらうわ!ダーリン!」
「……あ、俺?報告ったってなぁ……あー、アレだ、戦争的な戦い方というよりは団体戦のつもりだって聞いてるぞ。7人制のだな」
《順番決めは代表者によるクジ引きよん♪》
《順番決めは代表者によるクジ引き、だとさ》
「代表者って誰?勿論私よねぇ?」
《誰でもいいわ。結果は決まってるからねぇ》
「誰でもいい。ジャンケンでもしようや」
「いやいや、そこは私でしょうよ?主催はこの私、エリス様なのよ?」
「……まぁいい。時間停止とかやってクジを握らせるとかは禁止だからな?モルモー?」
「分かってる……ますよ」
《私が時間を止めれば誰も認識できないからねぇ。クジは作るけれど、私が時間を
《おっかねぇ……流石、へカーティアは規格外だ》
「ふーん?じゃあ現地で決めるんだ?」
「そうなるだろーな。平等であり平等じゃねぇな。な、レミリア?」
「そうね。クジなんて、能力でどうにでもできそうだものね。不正しないようにと見張らせられるほど信頼のおける者もいないし」
「おいおい、俺はダメか?」
「あなたもそこそこ不正しそうよ?へカーティアと戦いたくないからって」
「まぁねぇ。それについては否定はしないかなぁ」
「ほら見なさい」
《大丈夫、私の相手はあなたではないから。そこは安心してもらって構わないわよ♪》
「ま、これ以上話し合うことは無いだろ?そろそろお開きにしようぜ。会議ったって顔合わせだけでも十分だろ?」
「んー、そうね!スパイが思ったより優秀だから、これでお開きにしようかな!戦う日時、場所とかが決まったらダーリンが皆に言って回ればいいし?」
「面倒臭いな。モルモーとエリスがどこに居るのか分からないじゃあないか」
「私達は暫くこの教会を拠点とする予定よ。だから大丈夫!」
「……そか」
「こんなに早く終わるのなら、どうして作戦会議と銘打ってメンバーを集めたのかしら?余計な諍いを生んだだけに思えてしまうわ。大悪魔様はやる事が陰湿だからねぇ」
「黙りなよお子ちゃまレミリア。こっちは戦争的な戦いを想定してたのよ。神共は大人しい顔して戦争好きだからね。そしたら何よ団体戦って。1対1で十分に悪魔を殲滅できますとでも言いたいワケ!?ムカつくわホント!」
「成程、それは一理あるかもねぇ。まぁそれはそれとして、会議も終わったんなら勝負しましょうよ、エリス?先日の決着といきましょう?」
「フン、掛かってきなさい!……あ、ダーリンは引き続きスパイお願いね!……はあぁぁぁっ!!」
教会の中であるにも関わらずレミリアとエリスは衝突。帰り道は分かるだろうからレミリアはここに置いていく事にして、俺は霊魔、夢幻姉妹を連れて足早に避難してしまった。モルモーはエリスの傍に残るようだ。好きにさせておこう。
さて、俺は引き続き二重スパイを継続して、神と作戦を話し合わなくては……。
ヴィナにある教会のミサの会場は、カトリックのを想定してます。大学の講義室のアレみたいな、長い机?台?があります。