決戦当日。俺達は地底にある闘技場に来ている。入場料さえ払えば好きに使えるので、気軽に戦える場所としてはかなり有用である。
地底特有の生温い風が吹く中、そこに俺達悪魔と神々が集結しつつあった。
円形の巨大なスタジアムの片隅に集まり、人数を数える。反対側では神々側も同じように雁首揃えて人数を数えたりなんだりしている。
「エリスの奴、おっせぇな。おいモルモー、なんでアイツん事置いてきた?」
「トイレ行くって言ってそれっきりだから」
「ふーん……?なら代表としてクジ引きは俺がやる。遅れた奴が悪い。俺ァ時間も言ったし。皆、それで文句無いか?」
「「
「ええ、私はそれで構わないわよ」
(お父さんでも誰でもいい……)
「モルモーちゃんは別にいーよ?エリス様が許して下さるかは、また別だと思うけどね〜」
「エリスが居ねぇと初めて会ったときみたいな軽い調子なのな。まぁいいや」
ポンッと手の上にそれぞれの名前を書いた7つのクジ、手だけを入れられるような穴の空いた小箱を創造する。それを横目で見ていたへカーティアが、満面の笑みで小走りをしつつこちらにやってきた。モルモーの邪気が高まる。
「1人足りないようだけど大丈夫?」
「うん。……てかモルモーの事は無視……?」
「じゃ、クジ引いちゃいましょっか!私も、ほら!クジ作ったからね!こっちの箱に入れて、と♪」
「マジで無視かよ」
「箱、交換する?それともこのままにする?」
「……いいよもう、このままで」
「オッケーオッケー!それじゃ先鋒…………はいっ!あら、てゐさんだわ」
「うげーっ!なんで最初から私の出番なの!?」
神々の集まりの中からてゐの声が聞こえてきた。背が低いからか、彼女の姿は見えなかった。気配も掻き消されているかのように希薄で、今のように、声がしなければ気付けないほどである。
「え?へカーティア、てゐ連れてきたの!?」
「あなた、何度か力を借りてるでしょう?それに、縁結びの神というか、幸運を付与する神というか……実際、彼女は神徳持ちだからねぇ。現人神の妖怪兎バージョンみたいなものなのよね、てゐさん」
「……悪魔側の先鋒、レミリアなんだけど」
「あらま、これは想定外」
「フフ、竹林のイタズラ兎が相手なのね?良いわ、ボコボコにしてあげる」
「ひええぇ……」
耳を抱えて蹲ってしまった。てゐのまともな戦闘なんてこれまでに見た事が無いので、どんな戦いをするのか、やはり少し気になる所ではある。てゐがまともに戦ってくれるなら……の話だが。
「神々の次鋒……諏訪子さん!」
「悪魔の次鋒……霊魔!」
「ありゃあ、エスカルゴじゃなかったかー。宜しく頼むよぉ、霊魔くん♪」
「……………………」
それからもクジを引いていき、遂に7人の順番を決め終わった。俺は三将で、五番目に戦うらしい。因みにお相手は神奈子様である。参加しないような空気だったのにも関わらず参加するなど、どういう風の吹き回しだろう。
「結局、神奈子様も参加したんすね。俺はてっきり早苗か隠岐奈かと思ってましたよ。あとサグメとか久侘歌ちゃんとか?」
「ああ、本来なら早苗の予定だったんだが……」
「じゃあ何で?」
「早苗は私が置いてきた。修行はしたが、ハッキリ言ってこの闘いにはついていけない。後は好戦的か否かで誰にしようかと話し合ったよ。てゐも好戦的ではないが奴に限っては人数合わせ的な意味合いもあってな。本人もそれは承知の上だよ」
「で、早苗の代わりに神奈子様が登場、と。結局、神側はいつもとそんな変わらないメンツになったんですね」
「
「いやぁそれが結構違うんですよ。霊魔居るんで。あとエリスとモルモーとか」
「霊魔くんは…………何故だ?何故引き入れた?」
「人生何事も経験ですからねぇ。引きこもりになるようなら、その前に経験させてやりたいんですよ。霊魔、人見知りを拗らせて引きこもりになりそうな気配がするんでね」
「ええ……。まぁ、なんというか、諏訪子ならきっと大丈夫だ。……じゃ……戦う時はお手柔らかに、な」
「んー、まーそこは神奈子様次第っすね♪」
「オイオイ……感電ばかりはもう嫌だぞ……はぁ……」
それでも、早苗の代わりに戦うと言うのだから、やはり神奈子様は何だかんだ優しいんじゃないかと俺は思う。
因みに団体戦の順番及び組み合わせについては、このように決まった。決まった直後にエリスが来たようだが、もう文句は言わせない。遅れたのが悪いのだから。
そして、副将と大将のこの組み合わせを見るに、明らかにへカーティアが操作している。思ったより酷かった。フルボッコにする気満々ではないか。
体制側
先鋒:因幡てゐ
次鋒:洩矢諏訪子
五将:埴安神袿姫
中堅:神綺
三将:八坂神奈子
副将:武甕槌命
大将:へカーティア・ラピスラズリ
叛逆側
先鋒:レミリア・スカーレット
次鋒:博麗霊魔
五将:夢月
中堅:幻月
三将:エスカルゴ・スカーレット
副将:モルモー
大将:エリス
7人制の団体戦なので、見ての通り先に4勝したチームの勝利である。袿姫vs夢月、母さんvs幻月や神奈子様vs俺といった勝敗が読めない組み合わせもあるにはあるが、へカーティアがわざとモルモーとエリスを最後に設置したのを見るに、へカーティアとしては最終戦までもつれ込む予定なのだろう。
俺もある程度は予想してみる事にしよう。
「さぁ、叛逆者達よ!神々に叛逆してみなさい!!己の力を誇示するのよ!」
「ねぇモルモー、あの赤髪がヘカテー?そんな強いようには見えないんだけど?……聞いてる?」
「ヘカテー様……イメチェン後の方がステキ……!」
「ダサいTシャツじゃん……」
「もーっ!エリス様には分からないんですかぁ!?あのナイスなデザインが!流石ですヘカテー様……!あの方の配下を辞めさせられた現実、今更になって寂しくなってくるわ……」
「そ、そう……なら叛逆しなきゃ。ヘカテーの相手は私らしいけど、モルモーも頑張ってよねー?」
「はい!」
モルモーのキャラが更によく分からなくなった。俺達と出会った時のような軽さでもない、エリスに従う時の重い感じでもない。へカーティアの前だと心酔するかのような態度を見せるらしい。
ああいった、悪い八方美人っぷりは少し嫌いだ。霊夢のような、誰の前でも態度を変えない八方美人だったら良かったのに。
「進行はエリスやるか?」
「メンドーだなぁ〜。ダーリンやって♡」
「リーダー名乗るなら進行くらいやれよ。んじゃ、悪魔達による叛逆戦争、始めまーす。先鋒の2人、ステージに入場してください。……こんな感じ?」
《グダグダだけど味があっていいわね》
《無味無臭だよ》
ステージの真上でアナウンスのモノマネをする。すると神々と悪魔達は壁を飛び越え近くの席に座りステージを挟んで向かい合う形になる。
レミリアはコキコキと指を鳴らし、てゐはわざとらしく指を絡ませて、妙にキョロキョロしている。始めてこの場に立つんじゃないだろうに、一体全体どうしたのやら。
「まずは私からか……幸先悪いスタートになりそうな予感がするウサ」
「それこそ、あなたの幸運でどうにかしなさいよ?前に私と戦った時みたいに」
「弱い者イジメはんたーい!こんなの当主様のすることじゃないんじゃないのー?」
「生憎、私はいずれこの世界を支配するからねぇ。神々如き、捻り潰せるようでなきゃいけないのよ」
「ひぇー、くわばらくわばら」
「……えっと?始めていいんかね?まぁとりあえず、始め〜い!」
気の抜けるような適当な合図と共に、レミリアは先陣を切って動き出す。ギリギリ目で追える程度の速度でてゐに迫ると、突っ立っているてゐの脛へのローキックを見舞う。
「いだぁっっ!?」
「まだまだ────よっ!!」
弁慶の泣き所をやられバランスを崩したてゐは、前のめりに倒れそうになるが、レミリアは顔を蹴り上げてやる事で倒れるのを阻止。てゐとしてみれば倒れた方が楽だったろうに、酷な事をするものだ。
顔を蹴られたてゐは空中に打ち上げられて噴水のように吐血してしまう。妖怪とはいっても妖怪兎は突出して頑丈な種族でもないので、レミリアが手を抜いていても彼女が軽く攻撃するだけでこうなってしまう。
着地もできずボテッと落ちたてゐは、口元の血をゴシゴシと強く拭い、腹を押さえて立ち上がった。
「げふっ……あ゙ー、いったぁ……」
「気絶しなかったのね。降参する?」
「フン、おこちゃまがよく言うモンだね。年長者は敬いな?わたしゃ、別に手ェ使わずともあんたには勝てるんだから」
「ヘェ。それならこれはどうっ……!?」
更に速度を上げててゐに向かっていくレミリア。しかし彼女が加速しきる前に、スタジアム外からの謎の飛来物によりレミリアは足を止める事になる。
謎の飛来物は次第にその影を大きくさせてやがて地面に墜落。2人の間に落ちたソレは旧都に住まう鬼。何者かによって吹き飛ばされたと見える。
「ちょッ……何なのあなた!?」
「イテテ……。おっとスマンな、邪魔しちまったか。勇儀姐さんに吹っ飛ばされてなぁ、ガッハッハ!」
「……寧ろよく生きてるわね。流石は鬼……。てか、さっさと出ていきなさいよ、こっちも戦闘中よ!」
「あいよ、スマンね。ところで、誰と戦ってんだ?観客しか居ないじゃねェか」
「…………え?」
レミリア、そして観客がてゐの姿を探すも、もうレミリアの近くにてゐの姿は無かった。
旧都の鬼が帰って行っても尚てゐの姿はどこにも見えない。気配を断っているようで、気配で探す事すらも困難になっているようだ。
「上……は、居ない。下も……居ない。どこにいると言うの……?」
「こっちなんだよねぇ〜」
「えっ……」
レミリアの背後に突如現れたてゐ。その身には、俺の持ち物であるはずのあの黒い光学迷彩スーツを纏っている。いつの間に盗んだのかわからないが、本当に余計な事をする奴だ。
そしててゐはレミリアが振り向く前に飛び蹴りを見舞う。大したダメージにはなっていないだろうが背中への蹴りは単純に嫌だと思う。
更に、威力は無いものの勢いのついた蹴り故に、レミリアは前に一歩……二歩、三歩と進んで、そこに仕掛けられていた落とし穴に落ちてしまった。
「きゃ!?な、何よこの落とし穴は!?いつの間に掘ったの……!?」
「会場が決定した時点で下見に来るのは基本ウサ。ま、1つだけだから安心しなよ」
「って、それはエスカルゴの……!?」
「そぉ〜だよ、これくらいのアイテムが無きゃ酷い力の差があるじゃん?盗ませてもらったよ〜」
「……ちょっとエスカルゴ!?あなたのセキュリティガバガバ過ぎるわよ!!」
「穴の中で喚いててもねぇ……って、アレ?」
当然、レミリアがいつまでも穴の中に居るはずも無い。さっさと脱出した彼女はてゐを堂々と上から踏み付けにして、抵抗が緩んだと見るや、胸ぐらを掴んで宙ぶらりん状態にしてしまった。
「よくもこの私を落とし穴なんかに落としたねェ。ブン殴られる覚悟は出来てるね?」
「負けても悔いはないよ。面白いものが見れたし、一先ず満足だね。ウッシッシッシ……♪」
「あっそう。じゃ、おやすみ」
「────!!」
殴ると言いつつ、ステージの壁にてゐを投げて、壁を破壊してしまった。
「イテテテテ……アバラ、ヒビ入ったかな……。1本くらいは折れてるかなー……こんな痛み、何万年ぶりだろうね…………あー、痛ぁ……。手ェ抜いてやったんだし……そっちも手ェ抜いて、よ……」
ガックリと項垂れ動かなくなったてゐ。レミリアだったら手加減などもちゃんとしているだろうし、きちんと気絶に追い込んでいるはずだ。とりあえずこれで終わりか。呆気ない気がする。
手を使わずとも勝てるとも言っていたが、結局、そこまでの幸運は使わなかったらしい。何故なら、それほどに強い幸運を使っていたら、レミリアでももっと追い込まれたはずだからだ。
自分を幸運にする。つまりは、戦う相手を不幸に陥れるのと、さほど変わらない。ニアイコールだ。となれば、てゐは特定の相手に不運をばら撒ける、雛や紫苑と変わらない力を使えるワケだ。あまりに厄介すぎる。今回のは手を抜いていたと言わざるを得ないだろう。
「えーと……先鋒戦勝者、レミリア・スカーレット。叛逆側が1つ勝利に近付いたね。……んじゃ次かな。次鋒の2人、ステージに入って」
てゐの落とし穴を創造した土で埋め、てゐを治癒させた上で観客席に戻らせた。何だか呆気なかった気もするが、レミリアとてゐでは……まぁ仕方ない。
妖怪としての格などは2人共別ベクトルで凄いのだろうが、戦闘面で見れば大差ありすぎる。てゐが本気を出さなさすぎた。
《諏訪子と霊魔、か。何か変な組み合わせになったもんだなぁ。へカーティアが操作した結果?》
《ううん、エリスとモルモーしか操作してないわ。これは完全なる偶然みたいよ》
《そうなんだ。……エリスをボコるの?》
《まぁねぇ……。わからせてやらなきゃね。私の後にあなたもアッチでわからせたらもう最高じゃない?大人しくなるかもよ?》
《それも悪くないね》
処女神なのにそんな事を助言するとは、なんだか空恐ろしい。そして、ある種の戦闘狂だとも言えるへカーティアの「わからせ」が何なのかを想像した俺は……背筋が凍るような気がしてきたのであった。