「おい霊魔ァ。俺の息子なら、たとえ負けても良い戦いはするんだぜ。分かってるよな?簡単に負けることは俺……はともかく、霊夢の顔に泥を塗ることになるからな。……いやマジで、分かってるよな?」
「う、うん……分かってるよ」
「スパルタだねぇエスカルゴ。そんなんじゃいつか大事な人を亡くすかもよ?」
「そんな心配は無いね、俺の子達は強ェから」
「ふーん」
霊魔はいつも通りけん玉を手に持ち、相変わらずオドオドした様子でステージに立っている。対する諏訪子は、余裕の表情でカエル座りのようなものをしていて、少し距離を置いて霊魔を見上げている。
「君さぁ、なんかオモチャ持ってるけどさ、それで戦えんの?大丈夫?」
「……だ……大丈夫……大丈夫だから……」
「やれやれ。早く始めよ、エスカルゴ」
「じゃ、始め」
合図と共に手を合わせ、霊魔の真下の地面を隆起させる諏訪子。しかし彼は全く動じず、けん玉の玉だけをぶら下げ、けん先を諏訪子に突き付ける。
途端に2人の気配が高まり、見ているだけで毛が逆立ってくるような、ザワザワとした空気になる。
(……グラグラする……落とされる?倒れて埋まる?いや…………なんかどれも違う)
「合掌『だいだらぼっちの参拝』!!」
(後ろ……前…………手で挟むんだ)
3mほど局所的に隆起した地面を狙い、諏訪子が巨大な手を霊魔に向かわせる。しかし霊魔は母から受け継いだその膨大な霊力を、これでもかと存分に発揮して見せた。
「……自己『スフェリカルバリア』」
手に挟まれる直前、霊魔は霊力による技を行使。半透明な球体が霊魔を包み込み、諏訪子の攻撃から自身の身を守った。
スフェリカル、直訳で球状。どこで知ったのかは知らないが、霊魔も最低限の英語はわかるようだ。霊夢だって「ホーミング」や「アミュレット」と、割と英語は使うので、それを考えるのなら、霊夢や魔理沙といった、彼にとって身近な人達から教えてもらったりしているのだろう。
……俺が幼い頃と比べて、皆揃って優秀すぎる。
「んがっ!?かッ……硬い……!!」
「……僕の結界は壊れない」
「んぎぎぎっ……砕いてやるぅぅ〜っ!!」
「範囲は狭いし……一点に集中させてるもん」
以前、諏訪子のあの攻撃に挟まれた事があるが、あれはかなりの威力だったと記憶している。確か、俺の骨すらも粉砕骨折した程だったと思う。
つまり霊魔のあの球状結界は、並の吸血鬼の肉体よりは強いわけである。確かに、霊力を一点に集中させれば、密度が高まってより強固なものとなる。霊力を込めた拳やお祓い棒での物理攻撃が、ただの弾幕より威力が高いのと同じ理屈だ。
(僕も運が悪いよね……。何で日本神話の神様が相手なんだろ……。野良神様とはレベルが違いすぎるし、霊力との相性、最悪みたいじゃん。地面を使っての攻撃は防げるけどさ……そうじゃない攻撃だったら、これ、すぐ壊れるし……)
「ぐぎぎぎ……硬い〜っ……!!」
諏訪子は、更に力を込めて霊魔の結界を壊そうと悪戦苦闘している。当の霊魔は結界に囲まれた中でカツンコツンとけん玉で遊んでいる始末だ。
俺としては「遊んでないで真面目にやれ!!」と檄を飛ばしたい所だが、アレもきっと、霊魔なりの勝負のルーティンか何かだろう。だから今は、特に何も言うまい。
(夢想封印も効かなさそうだし……なら……電撃しかダメかな。このまま僕の攻略法に気付かなきゃいいけど……そんなの無理だよねー……)
「なら、こうだ!土着神『手長足長さま』!!」
(……だよね。神様だもん、対処法なんてすぐ気付くはずだよね。……結界の強さしか試せなかったな……ちょっと心残りかも。ごめんなさい……お父さん)
「ッ!?ヒビが入った…………?よしッ、いくよ!!そんな結界なんてブチ壊す!はああぁぁ〜ッ!!」
「……。もっと特訓すれば良かったね」
結界が破壊されそうになるその瞬間、霊魔は翼を広げ、ヒビが広がっていく結界に頭突きをし、自ら結界を破って脱出してしまう。
解除をするのではなく強行突破をしたのは、解除すると上手くタイミングを合わせない限り被弾するとでも考えたのだろう。俺もああいった状況でならきっとそう動くはず。故に霊魔のあの動きには深く納得がいった。
「ッ……!幼くても吸血鬼だね、なんて速さだ……!私じゃあ目で追うのが精一杯だよっ!」
「神様。これが僕の奥義だよ。……今のところは」
「!?」
「権化『けん玉の化身』」
空中に陣取った霊魔の前に巨大なけん玉が出現。パチパチと細かいながらもスパークを放っていて、まるで帯電しているかのようだった。
雷武器シリーズを使う俺には、すぐに分かった。あれは俺の雷武器と本質は同じ。雷の力を操って、雷エネルギーを物理的にけん玉の形にしている。
「……稲妻落とし」
「うぉうっ!?う、うわぁっ、危なっ!」
霊魔が手に持ったけん玉で遊ぶと、巨大なけん玉までもがその動きをする。彼がけんを放り投げれば大きい方もその通りの動きをし、紐に繋がれた玉をブンブンと振り回し、綺麗に「稲妻落とし」を披露してくれる。
技の精度、綺麗さだけで言えば、いつの間にやら俺よりずっと上達していたようだ。
「たこ焼き」
霊魔が降り立つのと同時に巨大な玉がステージに落下。諏訪子を轢くように彼女に向かいゴロゴロと転がり始めるが、彼女はそれを見るや難無く空中に回避する。しかし、そんな彼女の真上は、皿が玉を押さえるように迫ってきていた。
「おっと危ない♪」
「……まだだよ」
それすらも回避した諏訪子は、不運な事に、玉の穴の前に降り立ってしまう。この「たこ焼き」にはまだ続きがある。
けん先を玉の穴に突き刺し、けんを起こすのだ。諏訪子は丁度その間に居た。
(────後ろかっ!)
「…………」
けんに串刺しにされそうになった諏訪子は、
霊魔は、玉を地面に置いて周囲を警戒している。諏訪子が地面から出てきたところで再び玉を落とすつもりだろう。
しかしそこは洩矢諏訪子。彼女がそうバカ正直に出てくるはずが無かった。
「とりゃっ♪」
「────ッッ!?」
地面から飛び出すのと同時に、その勢いのまま、霊魔に金的を喰らわせる。初めての衝撃に、霊魔は股間を押さえ、目を白黒させながら地面に転がる。
「ぷにっ♡……って感じだねぇ。まだまだ若いねェ、そんなんじゃあ互角とも程遠いね。いやまぁ、まだ幼いからね、仕方ないね」
「……ッ!っっ…………っ……!!」
息もろくに出来ていないらしく、今の霊魔は何も言えないようだ。金的は息が止まる。仕方が無い。吐かないだけ、気絶しないだけマシだったろう……と思っていると、とうとう力尽きたか、ガクリと力が抜けた様子で倒れ込んでしまった。ピクピクと腰や足が震えている。見ているだけで玉が縮み上がる。男ならではの苦しみだ。
「勝者、洩矢諏訪子。……これで1対1、勝負はまだ終わりそうにねぇな」
気絶した霊魔を抱え、観客席に戻る。微弱な電気ショックを与えて強制的に目を覚まさせレミリアに彼を預ける。母性が芽生えているレミリアだったらきっとよく面倒を見てくれるはずだ。
因みに、霊魔に治癒魔法は使わない。金的は怪我ではないので治癒魔法を掛けても無意味だからだ。
「大丈夫?もう痛くない?」
「ま……まだ、ちょっと痛い、です……」
「あら……。今は休んでいてね、膝枕したげるから。さ、おいで霊魔くん」
「っ……お……お願い、します……」
「…………………………チッ」
「こらこら、実の息子に嫉妬しないの」
「あ?し、嫉妬?してねーわそんなもん。パルスィじゃねぇんだぞ」
「あらそう、残念。嫉妬してくれたと思ったのに」
「してるよ」
「ふふ……」
悪戯っぽく笑うレミリアは、やはりどこか子供に見えなくもない。それでも、更に幼い外見の霊魔の頭を撫で、優しく寝かしつけようとしているサマを見ていると、姉というよりは、やはり母親に見えてしまうから不思議だ。
子供の要素と大人の要素が共存しているような、そんな感じがする。
《久しぶりに楽しめたよ。ちょっとはね。あの結界強すぎじゃない?霊夢の修行の結果なの?》
《お疲れさん。修行云々は知らないけど流石諏訪子だよ、まさか一撃とはね》
《私は地上戦が得意だからね。彼が地に足をつけた時点で勝負は決まってたようなもんだね》
《そーだな、俺もそう思う。まぁ仕方ないな》
《ちょっと諏訪子さん!霊魔くん相手に金的なんて酷いと思わないの!?危険だわ!》
《そうだぞ諏訪子、あれは流石の私も引いた》
《神綺も神奈子もうるさいなー。弾幕使ってたら、それはそれで文句言うくせにさ。痛みだけで勝負を終わらせたんだよ?余計な怪我はさせてないしね。スマートに勝ったと褒めて欲しいくらいだよ》
《まだ幼子だぞ……建御雷もこれには震えていたぞ。男だからな、あの苦しみはよく分かるんだろう》
《じゃあ、怪我させた方が良かったのかな?ねぇ?神綺?治るからって怪我させた方が良かった?》
《それは…………》
《まぁまぁ。確かに霊魔に怪我はさせてねぇんだ、俺は別に良いと思うよ。ね、母さん?神奈子様?》
《お前はもう少し子供を大事にするんだな》
《そうよカルちゃん!》
《わぁってるよ……。でも、男として、身体的弱点のことは知っておいてほしいんだ。こっちが幾ら口で言っても、あんな苦しみ、伝わりようがねェんだ》
さて、次は五将戦だ。ここからは本格的にヤバい奴らが戦う事になるだろう。霊魔の敗北、諏訪子の勝利によって叛逆側と体制側は1対1の降り出しに戻った。
つまりは、良くも悪くも、次の五将戦がある種のターニングポイントになるだろう。
姉達がエロ本を読んでキャッキャウフフしてる中、1人黙々とけん玉をしている霊魔……。
因みに、博麗家の主な娯楽は書籍です。霊魔は本に全く興味を示しません。
霊愛はエロ本や漫画、霊麗はエロ本や漫画や小説、霊魔はけん玉。霊夢は言わずもがな。小説ですね。
博麗家御用達のお店はやはり鈴奈庵。
……このネタで短編書けそう。