「言っとくけどね、ダーリンのお母さんだからって容赦はしないんだからねっ!」
「しなくていいのよ、容赦なんて。私も人数合わせみたいなものだし、この戦いの本質は…………ね?」
「っ……やっぱそうなのね。本命は
「そうね。なら、楽しませてもらいましょ……♪」
神vs悪魔七番勝負も、いよいよ中盤。ド真ん中、中堅戦の始まりだ。エントリーするは愛しの天使、否、悪魔。夢幻姉妹の姉、幻月。そして放任主義を旨とする魔界の母、そして俺の母。魔界神の神綺。
創造vs破壊のようなものだ。どちらが相手をより上回るのか、気になるところではある。
「中堅戦、始め」
「オラァァッ!」
「相変わらず力任せなのねっ……でも!────」
(ッ……!?何か、ヤバい気がする……!)
聞こえはするが、何を言っているのか理解不能な言葉を呟く母さん。理解できないという事は、今の俺には決して扱えないレベルの魔法に違いない。
レベルが違いすぎると詠唱を聞いても理解不能になる。それは、幻想郷の魔法と魔界の魔法どちらも変わらないようだ。
……という事は、これまで母さんが俺の前で使った魔法は、俺でも扱える低レベルなモノで……今こそ、母さんは本領を発揮しようとしているのか。
レベルが違いすぎてもはや頭が痛くなってくる。酷い話だ、息子の前で手を抜いていたなんて。その彼女には強気を見せるくせに…………。
《ごめんなさいね。だけどね、手を抜いていたワケじゃないのよ?その子のレベルに合った魔法を使うようにしているだけなんだから》
《俺相手には手を抜いてた事に変わりないじゃん。まさか、俺が幻月に嫉妬する日が来るなんてね》
《そこまで?……そこまで言うなら、あなたに成ってもらおうかしら》
《何に?》
《私の傀儡に》
《え》
ハッと母さんを見る。眼下では、幻月が母さんに殴り掛かっているのが見える。すると何と母さんは幻月の拳を素手でパシンと受け止めてしまった。
「は、はぁ……!?」
「どうしたの?」
「ッ……もういっちょ……!ハアアァッ!!」
両拳によるラッシュ攻撃が始まる。風すら生じる速度の拳が残像を作り、まるで無駄無駄ラッシュのように見えてしまう。
しかし母さんは、そんな拳を全てその都度両手で受け止めている。スパパパンッ、パパパンッと肌と肌がぶつかり合う音が、拍手なんかよりずっと短いスパンで聞こえてくる。
けれどもおかしい事が1つ。母さんが幻月の拳を受け止める度に、俺の手が痛む。まるで誰かの拳を手のひらで受け止めているかのように。
《母さん……もしかしてこれ……》
《私のダメージをあなたに横流ししているわ。すぐ終わる戦いだから、我慢してね?》
《すぐ終わるんだ……てか母さんまで接近戦って……マジで?目を疑うんだけどこんなの》
《カルちゃんの戦いを見ているからね、見様見真似ではあるけれどこれくらいなら可能よ。元々、眼は良いしね》
《マジかぁ……》
《服装のせいで足は使えないけれど……仕方ないわ。他にもやれる事はあるし、ね》
《?》
無駄の無い動きで幻月の攻撃を受け止めていく。どうしてそれほど彼女の攻撃を止められるのか、と考えてみるが、幻月が読まれやすい攻撃をしているようには見えない。
母さんの眼が良いのは置いといて、袖が長い故に母さんの手元の動きが幻月から見えにくいからかもしれない。
「な……なんか近接戦に慣れてない!?こうなったら仕方ないわねッ……喰らえ!!」
「!!」
距離を取った幻月は一瞬だけ力を溜め、高密度な弾幕を発射する。俺と幻月が初めて対峙したときに見た、あの弾幕。……発狂弾幕だ。
「あんたが相手だったら、スペルカードじゃなくてイイわよねェッ!本気の弾幕……レーザーも追加よ!はああああああああぁぁぁぁっっ!!!」
悪魔特有の邪悪な気配がドパッと間欠泉のように溢れる。同時に、発狂弾幕に加え青白いレーザーも放ち、左右の移動を制限してくる。
そこまでは前にも見たことはあるが、幻月は更に攻撃パターンを変えてきた。マスパのような極太のレーザーを、上下左右問わず、文字通り、無差別に振り回してきたのだ。
発狂弾幕で既にろくに行動が取れないのにあんなレーザーまで放たれてしまえば、母さんはもう手が出せない。どうするのか──とは思ったが、やはりそこは創造神たる母さん。被弾しつつ対抗策を打ち出す。
「魔界神『
苦無弾・小粒弾幕が綯い交ぜになった弾幕が配置されて、一呼吸置いてから一息に放たれる。とても綺麗で目を奪われるがその実、発狂弾幕と相違ないただの超高密度弾幕だ。
発狂vs発狂というこのぶつかり合いでは、やはり弾幕の密度が濃い方が勝負を制する事になる。この2人の弾幕の密度はほぼ同等、決着も時間の問題と思われたが────。
「く、う……うっ……あっ……!」
次第に母さんの被弾が少し目立ち始めた。幻月はレーザーまで使っているので、母さんよりも攻撃の手数が多いと言える。
然しもの母さんと言えども、幻月が相手では弾幕のみではゴリ押し不可能だという事だ。
「トドメよ!真正面から……ハアッ!!」
「あっ────!!」
極太のレーザーにて正面から母さんを撃ち抜いた幻月。被弾覚悟で動いた母さんだったが、太さ故に回避は叶わずにレーザーに即被弾し、壁に思い切り背中をぶつけてしまった。
悪魔とは違って耐久力がそこそこだからなのか、ガクリと項垂れ、ぴくぴくと動く程度しかできないようだ。
「母さんっ…………」
「さぁ神綺、もうお終いかしらぁ!?」
「……ええ、お終い……ね……」
「ッ!……そこまで。勝者幻月」
「母さん、今行く────あっ?」
よく見ると、母さんの口元は何やら動いている。自分で自分に治癒魔法を掛けているのか、みるみるうちに傷も癒され、服なども修復されてしまった。
「……フン、そんなの降参みたいなものじゃないの。世界の主人同士、もっとイイ戦いができると思ったのにさ」
「そうね……。だけど私達が争うのは、カルちゃんが望んでいないと思うの……」
「……!」
成程、ダメージの横流しを近接戦闘のときのみに抑えたのはそう思ってのことだったのか。確かに、どちらにも傷付いてほしくはないが、それと同時に2人の戦いを見物していたくもあった。……明らかに矛盾している想いだと自覚してはいるが。
「それもそーねっ!じゃ、終わりにしてあげる!」
「ありがとう、幻月ちゃん。……頑張ってね♪」
「な……にを、頑張るって言うのよっ!もうっ!」
「うふふふっ……♪」
少しよく分からない意味深な会話をした2人は、小さく手を振り合ってそれぞれの陣営に戻った。
五将、中堅とくれば次は三将。つまり俺だ。
「よーしっ、次は俺だぁ。相手は……神奈子様かぁ。合図は幻月、頼んだ」
「はーいっ♪」
「……やれやれだ。つくづく思ったが、私の運は大凶レベルだな」
苦笑した神奈子様は、背中に注連縄と御柱を装備した状態でステージ入りした。やはり、そうやって何かを装備して相手が大きく見えるとそれだけ強く見えてしまう。虫や動物が威嚇する際に羽根を広げ体毛を立て身体を大きく見せるのと、大元の理由は変わらないのだろう。
「物理攻撃もしてきそうな神奈子様ッスねぇ。まァその方が楽しめてイイですけど……ね」
こうして、戦績が2vs2の状態で後半の三将戦に突入したのであった。何事も、楽しんだモン勝ち。俺は勝つ。いずれへカーティアを倒す為にも。
幻月の初登場は464話(2018/12/23)……そんな前だったんだ……。