「よーっし、やりますかぁ〜」
「もう一度言っておくぞ。お手柔らかに頼む」
「神奈子様が手加減してくれたらそうしますよー。俺、負ける気無いんで強気でヤラせてもらいます。構いませんよね?」
「フン……だが私とてすぐに負ける気は無い。さぁ、始めよう。久しぶりに強気で相手をしてやる。胸を借りるつもりで掛かってくるといい」
「そんじゃま、神様の仰せの通りに……♪」
幻月を見やるとバチッと視線が搗ち合い、それに気付いた彼女は頷いて、元気一杯に、そして声高に戦闘開始の宣言をする。
「始めッ!ダーリン頑張って!!」
「ストレートな応援、サンキューな。つーワケで、早速ヤラせてもらいますよ。雷武器『雷針』!」
「な、に……!?」
沢山の針を作りその都度投擲する。霊夢の御札のようにホーミング性は無いものの、俺が針を投げるという神奈子様にとって意外な行動をしたお陰で、彼女は僅かに反応が遅れた。
好機だとほくそ笑みつつ更に針を投擲していく。この密度のせいか、余裕を持っての回避はできないようで、背中に装備していた御柱を一本取り外し、盾のように使って針を受け止めていく。
「チッ、ろくに当たってないな……?」
「そうかお前、私を痺れさせるつもりか……!案外、まどろっこしい戦い方をするんだな」
「……もう少し火力が必要っぽいな……」
「!」
「神鎚『ハンマー・ザ・ミョルニル』!!」
「おいおい……っ」
巨大な鎚を作り神奈子様に飛び掛かる。これなら物理攻撃も電撃攻撃も可能で、雷武器シリーズとも遜色無い戦いができる。それでいて、火力は底上げされているのが我ながら便利だと思う。
《ミョルニル……成程、北欧の雷神の得物ね。神話が好きなあなたらしいわ〜》
《ギリシャ神話モデルの武器もいつか作りたいね。ま、雷を使ってる時点で、大神ゼウスと同じ武器を使ってるようなモンだけど》
《ゼウス様の火力は桁違いだけどね》
そりゃそうだ。というより、宇宙を焦がすような雷霆を使えるだなんて、火力が違うだとかそういう次元ではない。幾ら俺が強くなろうと踏み込めない神の領域だ。それもただの神などではなく、最強に限りなく近い神の……だ。
インフレが加速しようとも決して越えられない、絶対の壁。俺にとっては霊夢と同レベルに思える。壁という意味で見れば、だが。
「オラァッ!!っはああぁっ!!……くっそがぁあ、せぃやあああああッッ!!」
「くぁっ……重いッ……」
御柱でミョルニルを受けた神奈子様。足は地面に沈み込みつつあるが、それまで。俺でも押し切れる気配が無い。
一度飛び退いて距離を取り、改めてミョルニルを構え肉薄する。速度をも上乗せした攻撃を見るや、神奈子様も気合を入れた様子で御柱を構えた。
「はあああああっ……!!」
「フンッ……ぬああっ!!」
「!?」
空中で組み合う御柱とミョルニル。しかしまるでバットのように振るわれた御柱に俺のミョルニルが弾き飛ばされ、体勢を崩してしまう。
体勢を立て直そうにも、ミョルニルが大きすぎるあまり邪魔になってしまい、背中を地面にぶつけることになってしまう。俺が体勢を崩す事など全くの想定外だったので、これほど大きなサイズの武器を作ったのだ。
「おおおおおおっっ!!」
「うわっ……」
眼前に迫ってくる、太い御柱。あんなモノで顔を潰されたら俺でも大怪我だ。慌てて細分化し全身を蝙蝠に変えて緊急回避した。
そのうち何匹かはそのまま押し潰されてしまったようだが、人型に戻る際その欠損を左腕だけに集め即再生を果たす。
そしてミョルニルは蝙蝠を押し潰した神奈子様が御柱で叩き壊したようだ。なんだか脳筋すぎる。
「ちくしょー、御柱を振り回すなんて聞いてねー……彼岸島かってんだよ……っ」
「それなら丸太じゃないとダメだろう」
「ハ、まさか神奈子様に彼岸島ネタが通じるとは」
「こちらのセリフだよ。外界出身同士、漫画ネタを肴に美味い酒が飲めそうだな」
「そんなら俺は
「どこがだ!!」
少々早口で、創造魔法を行使。俺の身長のおよそ4、5倍程度の樹木を創造し、力一杯に振り回す。葉がバラバラと舞い散って、ある意味では目眩しになっているようだ。
しかし、神奈子様は負けじと御柱を振り回して、少しずつ、けれども確かに距離を詰めてくる。
「『いい丸太』で察してはいたが……。くっ、お前は
「そらどーも!っだりゃああっ!!」
「だがな、慣れない武器は使わないことだ!動きが乱れているぞッ!」
「あッ……いい丸太がァ!!」
「もうやめろ、言うな、笑いそうになるだろうっ!神祭『エクスパンデット・オンバシラ』!!」
葉を散らし視界を狭めさせる樹木を破壊すると、次に神奈子様は御柱を次々に投擲してくる。耳元を掠める度にブォンブォンと重い風切り音が聞こえ、案外彼女の狙いが正確である事を思い知った。
御柱をここまで活用するとは、まるであの兄弟やその師匠みたいだ。
「んじゃ、そろそろ……ッ!魔剣『妖魔雷霊剣』!」
「……邪悪な気配が……高まっていく……!?」
「へへへへっ、久しぶりに言われましたよ、それ!そらっ、これで終わりだッ!!」
妖魔雷霊剣の力を全力で引き出した上で、決着をつけるべく真上に飛び上がる。全ての力を放出する準備を整え彼女の前に降下するが……そのまま放置で俺の接近を許す神奈子様ではない。
「飛び上がっては的になるだけだぞ!御柱『メテオリックオンバシラ』!!」
「────ッ!!」
広範囲に御柱を投擲。そうして俺の左右の移動を封じた上で、青白く、御柱同士の隙間を埋めるかのように横に拡がっていく弾幕を展開する。
御柱と弾幕の隙間はほんの僅か。2人通れるか、通れないか……それほど狭い隙間だ。けれども俺は、そんな問題は無視してひたすらゴリ押す。
「いっくぜぇぇ……『魔界断裂斬』!!」
「カルちゃんそれはダメっ…………」
全身に被弾しつつ剣を叩きつけると、延長線上に衝撃波を放ちつつ地面、ステージそのもの、更にはコロシアム本体をも割ってしまう。
神奈子様が剣戟を喰らうことは無かったが、ほぼ正面から衝撃波を喰らったようで、コロシアムや、ステージの破片などと共に吹き飛ばされていた。
「よしっ……。って、結構抉れちゃったか……」
「もーっ!ダーリンってば危なすぎよ!勝ったから許してあげるけど!!」
「勝った……のか?神奈子様……は……」
御柱と注連縄が瓦礫に埋まっているのが見えた。となると神奈子様はあそこに居る。勝負が終わったなら、と思い小走りで救助に向かうと……その瞬間、ブワッと空気が揺らぎ、ぐらりと視界が揺れた。
気付かぬ内に地面に倒れていた俺は頚椎の辺りに走る謎の激痛に苦しめられていた。
言うことを聞かない手で首を触ってみると、丁度喉の辺りを、鋭利な刃物か何かで首の左半分が切断されているのが分かった。食道、気管も切断されていて、右側が、文字通り首の皮一枚で繋がっているような状態だった。
「えっ…………ダーリン!?」
「お父さんっ……」
「おぉーっ、神奈子のヤツやるねぇ!エスカルゴに致命傷っぽい傷を負わせたよ!?」
「おい諏訪子、そこ喜ぶところか……?」
肉の断面を触ってみると、案外中身はプニプニとしているのが分かる。首の筋肉にも触れてみるが、外から触るより固くはない。内側から触ると筋肉も柔らかいようだ。
再生には凡そ3秒を要した。神奈子様が風の刃で俺の首を刎ねようとして、ギリギリで失敗したのがまさに不幸中の幸いというものだろう。
「……痛かったぁ〜っ……危ないっすねー神奈子様、いよいよ本領発揮ですか?」
ゴッと竜巻のような局所的暴風が吹くと、彼女に乗っかっていた瓦礫などは粉微塵になり、呆気なく吹き飛んだ。
そこから出てきたのは、スイッチが入ったように先程とまるで違う凄まじい気配を纏った神奈子様。傷付いた御柱、注連縄を
「フッ……フフフフッ……ははははははは!!油断が過ぎるぞ、エスカルゴ!もう一丁!」
「う……ッ!!」
またもや首を目掛けて飛んでくる風の刃。何とか回避はできたものの、その余波で首に深さ2cm程の切り傷ができてしまう。
「〜〜〜〜〜ッ……」
「痛いか?苦しいか?よく耐えた、流石の耐久性だ本当に……。もう仕留めたと思ったんだがな……」
「やっぱ、自分の血はあんま美味くないっすねぇ。俺が勝ったら神奈子様の血ィ飲ませてもらいます、構わないですね?」
「ふん、首の皮一枚で繋がっていた割に余裕だな?相変わらず口の減らない奴だよ、お前は」
「それが取り柄なんで。つーか、風の刃みたいなの使えるなら最初から使ってくれりゃいいのに、酷いものですねぇ。出し惜しみだなんて、舐めプ以外の何者でもないじゃあないっすか」
「出し惜しみが舐めプか。それを言うなら、お前もそうだろう。私は勝つ気だぞ?お前を殺して、な。殺害は禁止されていないからな」
「へへへ、怖い怖い。んじゃ俺は気絶させますよ、いつも通りね」
「言ってろ……!ハアアッ!!」
「!!」
空気に揺らぎを感じた直後に回避をする。すると髪がスパッと切り飛ばされ宙に舞う。しかも今度は一つだけではなく、多くの風の刃を飛ばしてきた。まるで弾幕のような密度だ、間違いなく本気で俺を殺しにきている。
「私の力を侮るなよ……!ただの山の神、風の神だと思わない事だッ!!オオオオオオオ……ッ」
初期微動のように地面が震える。するとボコン、ボコンとステージのそこかしこが急激に盛り上がりそこから間欠泉のように透明の液体が飛び出した。あの湯気を見るに、かなりの熱湯らしい。
しかも水圧で穴周りを破壊しているのか、水柱は徐々に太くなってきているようだ。
「水脈を掘り当てたのか……!?どうやって!?」
「
「はっ……?な…………か、神奈子様が……水神!?」
「異国の事ばかり調べるより前に、自国の事に目を向ければいいんじゃないか?もう少し身近な神々に気を配ってみろ!そうすれば更に強くなれる!」
「……!」
「知は力なりッ!!お前のその知的好奇心を存分に活かせ!そうすればいずれお前の望みは叶う!!」
「…………オッス、頑張ります」
「だが、ここは私が勝つ!思い知らせてやるぞ、私という神をッ……神の力を!」
「いんや、もう十分に思い知りましたよ。なので、今この時を以て俺の勝利は確定しました」
「あ゙ぁん!?一体何を……!」
砂埃を巻き上げる旋風が発生する。それは途端に大きな竜巻へと発達して、ステージの中心に陣取るようになる。
風を吹かせるのもそうだが、風の刃まで全方位にバラ撒かれるようになったので、足は吹き飛び翼は削られ、耳に切り込みが入ってしまう。致命傷だけ何とか避け続けている。
間欠泉の方も、勢いは徐々に増しているようで、穴は広がり続けるばかり。俺の動ける範囲が時間の経過と共に狭くなってきてしまう。
「何年も何年も、何度も何度も弾幕ごっこしてきたっつーのに……アレ全部、手ェ抜いてたんですねぇ。ライナーに裏切られたときのエレンの独白の意味、ちょっとだけ分かりました……こんな気分なんだ」
「ちょっとダーリン、ちゃんと避けてっ!あちこち切られてるじゃない!」
「……後は頼んだ、幻月」
「え……?」
「マジで出し惜しみ無しでヤリますよ、神奈子様。本気で。────兇獣『ヴァルゴスタイル』」
最近、新たに魔法と共に開発した強化系スペルを使う。幻想郷の誰より強化系の技術を保有している俺だが、その集大成がこれだ。
妖力や霊力、魔力───といった、幾つかの力を有している俺だが、これまでは1つか2つしか力を引き出したり、併用したりできなかった。
闇と狂気の併用は己の身を滅ぼす。けれども最も強い素の力を発揮する事が可能になった。そして、今回初めて公の場で使ったこの技術は、闇も狂気も妖力も魔力も雷も霊力も生命力も、全てを統合した最強の強化系スペルである。
当然、リスクは不老不死の俺とて尋常ではない。大抵の場合、死ぬ。いつも死んでいる俺が言うのもアレだが、「死」とはリスクとしては最高で最大のモノだと思う。
霊力は、神に対して有効打にならない。けれども魔力やその他の力と混ざったのであれば、その限りではないのだ。
因みにこれは、妖魔雷霊剣が「禍々しい気配」とよく言われる所から着想を得たものだ。その結果、自滅する程に力を引き出す技術を獲得した。全く、我ながらアホらしい────。
◆
私でも聞き覚えのないスペルカードを発動させたダーリンは、ピタリと動きが止まる。翼も切られ、胴体、腕にも風の刃が飛んできてズバズバと切られ血飛沫がステージに舞う。
けれども、その度にダーリンからは嫌な気配が……悪魔の私でさえ鳥肌が立つような、禍々しい気配がジワジワと漏れてくる。
「ガ、ガギ、ガガ、ガァァ……ンググギギ……ギィィヤァァアアオオオオオオオオオォォォッ!!」
「!?」
酷い雄叫びを上げたダーリンは目にも留まらないスピードで飛び出して、思い切り拳を振り抜いた。神奈子は御柱でガードしたみたいだけど、やっぱり幾ら神の力が篭っていても所詮は木。悪魔の中でも上位な存在である吸血鬼のダーリンの攻撃を受けて無事なはずがなかった。
御柱は簡単に真っ二つに……いや、木片になって、爆発でもしたかのようにバラバラと弾けた。
「グハッ……ゲボァッ…………何なん、だ……この、嫌な気配は……!?」
「まずい……!彼奴め暴走しおったな!おい神奈子、降参しろ降参!勝負を終わらせろ、我が止める!」
「うるさい黙れ建御雷、これは私の戦いだッ!奴を倒すまでは……グッッ……」
「ちっ、神奈子の奴め……。こんな時に頑固さを発揮しなくてもいいだろうが……!」
ステージに飛び出しかけた、建御雷という子供の姿の神は、腕を組み舌打ちしながら席に座り直す。神奈子は自分の周囲に風による結界のようなものを張ってるようで、何度も何度も神奈子に殴り掛かるダーリンの手をその度に吹き飛ばしている。
気が付くと、ダーリンの後ろでは今にも間欠泉が吹き出しそうな程に地面が膨らんできていた。私は何だか嫌な予感がした。
「──今だ吹き飛べッ!」
「ギィィ……!!」
一度退避しドロップキックを仕掛けたダーリン。でも相変わらず風の結界に阻まれてしまい、後方に吹き飛ばされてしまう。
直後、今にも吹き出しそうだった間欠泉がついに決壊。ダーリンの胴体を突き破り大量の血、臓物を撒き散らせながら、胸から上部分が観客席の方へと飛んでくる。
「きゃあっ!!」
「お兄さ……嘘……!?」
「おと……わっ!?」
「見ちゃダメよ霊魔くんっ……!」
血だらけ臓物だらけの光景に、私や夢月なんかは見慣れているので急いでダーリンの元へ駆け寄る。レミリアは霊魔くんの目を隠してお父さんのグロい姿を見せないようにと気を使っている。
エリスとモルモーは……と言えば、特にダーリンを心配する風でも無くただ冷たい視線を向けてくる。何だか殺したくなってきた。殺すまでは行かずとも殴り飛ばしたくなってくる。
「ダーリン、起きて!起きてってば!」
「大丈夫だよ姉さん、まだ生きてるっ!お兄さん、目を開けて!再生してぶっ飛ばしちゃって!」
「これ、心臓の動き手でサポートした方がいい!?どうしよ夢月!?」
「だ、大丈夫だよお兄さんは!ほら、臍の辺りまで再生してるから!」
「……っていうか、今再生しちゃったら下半身裸!?ちょちょっ、それはまずいって!」
(す、凄い……。あの2人、エスカルゴを心配するんじゃなくて
「レミリアさん……あの……えっと、お父さんは……」
「……大丈夫、あなたのお父さんは負けていないわ。ちゃんと生きてる。流石の生命力よ」
「少ししか飛んでこなかったのに……」
「そ……そうね……」
「ちょっとレミリアぁ!ちょっとくらいダーリンの心配もしたらどう!?」
「してるわよっ!でも流石に子供の教育に悪いから見せないの!私だって一児の母なんだからそっちの心配もさせてよね!」
「じゃあせめて知恵を貸しなさいよっ!どうすれば露出を防げる!?」
「もうじき股関節の辺りまで再生するから、ズボン創造したら嵌めるように彼の身体を刺しとくのよ、ズボンにね!そうすれば、足はそのように再生してくれるから!」
「えぇ……ノーパン……」
「つべこべ言ってないでさっさと創────って、ちょちょちょちょちょっっ……!!」
レミリアが霊魔くんの目隠しをやめたかと思うと何故だか慌てた様子で走ってくる。ダーリンの方を見ると、その理由はすぐに分かった。
「あらあらまぁまぁ……エスカルゴくんったら」
「あーあ、エスカルゴってば……。これじゃあ完全に犯罪者だねぇ」
「きゃああっ!カルちゃん、前隠しなさいっ!」
「ガハハハ!無駄だ神綺、あのバカめ完全に理性を失っておる!あれはまずいなぁ、後から恥ずかしい思いをすることになるぞぉ?」
「……はぁ〜……バカウサ」
神連中も私達と同じように困惑と焦りしかない。何しろダーリンは全裸のまま神奈子に殴り掛かったからだ。胴体さえ修復してしまえば残り部分は楽に再生可能らしい。
「ギャオルルァァァァァァッッ!!」
「だから、お前は雅かっ!!全裸で相対するな!!バカが!!」
「ブギャオオオオォォォッッ」
御柱を投げダーリンの顔面に投げつけた神奈子。本当に酷い雄叫びだ。腹の底から出してるような、けれども喉を酷使しているような、とにかく身体に悪そうな声に聞こえる。
そして勝負が遂に動き出した。御柱を投げる為に神奈子は風の結界を解除した。ダーリンは一時的に紅い霧となって御柱を回避したと思えば、次の瞬間には神奈子の首を締め上げていた。
「ぐ、が……あ゙、あぁっ……」
再び風を起こし、ダーリンの身体を切断しようと試みる神奈子。けれど風が斬撃判定を持つ範囲だけ霧となり、なんと、動かずして回避してしまった。
手は依然として神奈子の首を掴んでいる。やはり吸血鬼は怪力だ、神奈子は振り解けないでいた。
身体が消え、手だけが首を絞め続けるというこの光景に、私を始めとする悪魔に加え、へカーティアという赤髪の神も目を輝かせていた。
「あ!神奈子のヤツ泡吹いてる!落ちてるよもう!決着だ決着!ヤバいよ、エスカルゴ止めないと!」
「おうっ、我が────」
ダーリンが私に「後は頼んだ」と言った理由が、やっと分かった。
「行くよダーリン、私が止めるから……!」
私は自分の特性を発揮する。風の動きを見るに、今のダーリンに当たり判定は存在しない。手だけが形になっているだけで本体不明の状態だ。
けれど、私が特性を発揮すれば話は別だ。一つ、私が指定したスペルを無効化させる私の特性。その応用みたいなもの。
つまり彼の「当たり判定不明を無効化」させた。
後は簡単だ。彼の急所部分を見抜いたら、そこに蹴りを喰らわせればいい。
「ごめんね、痛いけど我慢して!やぁっ!」
「ギィィアアアアアッ、ブグギャアアアァァァアアアアアァァァァァッッ…………」
ダーリンは霧から吸血鬼の姿に戻り、股間を手で押さえて数秒のたうち回って、神奈子と同じように泡を吹いて気絶した。
うまく
こうして、三将戦はどうにかこうにかダーリンの勝利で終わらせる事ができた。私が審判を任されていたので、こちらに有利になるよう不正したかもと思われるだろうが、きっと
この戦いの本命は残り2人の……モルモーとエリスなんだから。
◆
「っ……ゲホッ、ゴホッ……」
「おう神奈子、お目覚めか」
「建、御雷……か……。勝負は……?」
「終わった。残念だがお前の負けだ。幻月とやらがあのバカの暴走を一撃で止めおったぞ?クククッ、どうやったかは知らんがそこそこ強いようだなぁ、アイツは」
「そうか……。なあ、神綺……」
「どうしたの?」
「ステージを、元に戻してくれ……。すまない、私としたことが熱くなりすぎた。水浸し、切り傷だらけだろう」
「もう戻したわ」
「……本当にすまない、手間をかけさせた」
「大丈夫よ、ステージを直すのはいつもの事よ」
「……」
「それにしても、丸太だの何だのと、お前達は何の会話をしていたのだ?全く以て理解不能だ」
「……漫画の話だよ。外の世界のな……」
「ふむ。笑うような内容なのだな。ギャグ漫画か。お前がそんな漫画を読むなんて意外だな」
「いや、彼岸島はホラー……うーん、ギャグ……か?いやもうよく分からないな、アレのジャンルは……」
「そうなのか……?まあいい、今もそれを持っているのか?それなら後で貸してもらいたいものだが」
「モルモーとやらに勝てたなら、全シリーズ貸してやらんこともない。確か納屋の奥にあるはずだ」
「クカカッ……その言葉、忘れるなよ神奈子……」
「勿論だ。……ところでエスカルゴは?」
「気絶したまま、目を覚まさない。余程強い衝撃を受けたようでな。まァ金的だ、直ぐに目覚めるさ。特に心配する事はあるまい」
「……生命力が枯渇していたように見えるが……もう回復したと言うのか?」
「まさか。あのバカとて、生命力は数日かけて回復させる。神綺が処置しただけだ」
「嗚呼、成程……それなら納得だ。贅沢なヤツめ」
吸血鬼は、蝙蝠に変身して細分化できる他、霧にも変化して細かい所に入り込めるそうです。
求聞の吸血鬼の項に、確かその記述があったはず。
「そして誰もいなくなるか?」で姿を消してるのは霧になってるからだと考察してます。霧になったら当たり判定が消えるのは本当にクソだと思います。厄介種族すぎる。
「いい丸太」については「いい丸太 雅」と画像検索すれば出てきます。
神奈子様は建御名方神が元ネタとする説もあれば、建御名方神と八坂刀売神の両方が元ネタとする説もあるようです。
俺は名前だけ八坂刀売神で本質は建御名方神、とか思っていたので、どちらも!っていう説を見た時は天啓を得た気分でしたね。かなり前の話ですが。
成程、名前だけじゃなくて両方の性質もか、と。
まぁ名は体を表すって言いますしね。香霖堂の件もあるし、名前ってのはやはり重要なんでしょうね。
建御名方神:蛇神(龍神)、水神、風神、狩猟神、農耕神、軍神、開拓の神
八坂刀売神:水神、農業神、温泉の神、国造りの神
共通項は水神、農業。
水と風ってことで農業の方でも祀られるそうです。凄いな、連想ゲームかよ。
日本の神に限らないですが、神徳や神性が一種類と限らないのが面白いところですよね。
守矢神社にある風神の湖っていうのは、神奈子様が持つ水神要素も含んでたりするのかな、と。