神と悪魔による団体戦が終わり、参加者が帰路に着く中……モルモーは意を決して、1人の少女に声を掛けてみる。
その少女は、モルモーと同じ種族である吸血鬼。レミリア・スカーレットだ。
「……ねぇレミリア」
「あなたに呼ばれるような事をした覚えは無いわ。叛逆ごっこは終わったんでしょ。それならさっさとどこかに帰りなさいよ。私も帰るから」
「そこまで邪険にしなくてもいいじゃない。吸血鬼同士、ちょっと話したい事があるのよね」
「私は無い。それじゃ」
「素っ気無さすぎ!あんたさー、本当は自分が何者なのか気になってるんじゃないの?」
「どういう意味?」
「
(エリスが消えた途端、この前みたいな調子に……。好かないわね、こういうタイプの奴は)
少々威圧的になったモルモーに対し、レミリアが口を開こうとした、まさにその時。へカーティアと並んで歩きながら息子を神社に帰らせていた彼は、レミリアの発言を妨げるように、話し掛けてきた。スキマを開いている。向こう側の景色は紅魔館だ。館まで送っていくぞ、と言いたいらしい。
「レミリアはどーする?」
「モルモーと喋ってるから大丈夫よ。でも、心配は要らないわ。幻想郷までちゃんと帰れるから」
「わかった。じゃ、また幻想郷でな」
「ええ、またね。…………っと」
「へーっ、彼に送ってもらわなくていいんだ?まあそうだよねー、自分の出自は気になるもんねぇ♪」
「……」
「私の血ィ吸ってみなさいよ。何か分かるかもよ?うふふふふっ……♪」
「はぁ?何を言ってるの?……まぁいい、お望み通り吸い殺してやる」
「少食である事で有名なレミリア・スカーレットにそれが可能なら、やってみるといいわ?ほぉ〜ら、吸ってみなよ」
「フン。首から吸う気は毛頭無いよ。傅くように、その手を差し出すんだ。この私にね」
「あらあら、偉ぶっちゃってまぁ……。まぁいいわ。私はモルモー、誰かに傅くのは慣れっこよ」
主に従う従者のように、レミリアの前に膝をつくモルモー。ゆっくりと手を出すとレミリアはそれを優しく掴み、しかし痛みを味わわせるように深々と牙を突き立てた。
「ッ……いったぁ〜……ちょっとレミリアぁ、そこ骨なんですけどぉ!?牙でゴリゴリしないでってば……痛ァッ!?いだいぃいい!!」
「黙りなさい。うるさいと味が────」
モルモーの「血の味」を感じ取った途端、顔色を悪くさせるレミリア。勿論、決して不味かったワケではない。かといって、特段美味ではなかったが、レミリアともあろう者が顔色を悪くさせるからには相応の理由というものが存在する。
「……この味ッ……いや、そんな……嘘よ、だって私はレミリア・スカーレットよ…………こっ……紅魔館の……主……私は……スカーレット家の、当主……」
「あ。もしかして
レミリアは口元に垂れる血を拭い、ゆっくりと……ギリリと歯を食い縛って、この上なく苦々しい顔をしながら頷く。
「やっぱりそうだ。あなたは私の子孫なんだ……♪」
「ち……違うッ……!私は……私達はっ、ツェペシュの末裔だっ……」
「だからー、ツェペシュはとうに滅んでるっての。子孫も含め、あんたが生まれるずっと前にね〜」
以前にも聞いた話だが、やはりレミリアにとって信じられない話だった。実際に見ていないからだと言ってしまえばそれまでだが、それを言うのなら、ツェペシュという存在自体がある意味では眉唾モノだろう。レミリアは絶対に認めやしないだろうが。
「ツェペシュをはじめとして、私以外を始祖とする吸血鬼、及びその子孫は、
「何故……何故、滅ぼした……!?同族だろうに……!同族嫌悪とでも言うつもりか!?」
「同族嫌悪……そうね、ある意味そうかもしれない。あなたも、妹が居るなら知ってると思うけどさー……血ってのは、何よりも強い力を持ってるモンなの。血で繋がった絆とでも言おうかしら。だから私は、世界中の吸血鬼を全て、私の血族にしたかったの。簡単な話でしょ?」
「何だと……」
「族の長と
「…………お前が、現存する吸血鬼の始祖……。なら、初めての子は誰との子供だ……?」
「おっ、鋭い。確かねぇ、私の子はね、お兄様との間にデキた子供なのよね。それっきりもう何万年もヤッてないわ、子孫がちゃんと子孫を増やすように監視してたもんね。私の子は親族とヤッて子を為し増やし続けた。遺伝子異常を起こさないよう遠縁の奴を選んで、押し付けてね」
「……」
「まぁでも、何万年も監視なんて無理よね。次第に数を増やすんだから。だからこうして、確認しては一族郎党皆殺しにする生活が始まったの。吸血鬼を殺し始めたの、何年前からだろ……?自分でも、全く覚えてないや……」
「……成程ね」
「私がエンプーサと幻想郷に来た真の目的はコレ。あなたが……スカーレット家が、私の血筋であるかを確認する為なの。……あ、
「それなら何故エンプーサが私と戦うのを認めた?私がエンプーサに殺されていれば、私がお前の子孫である事なんて、こうして確認できなかったよ」
「その時は、フランドール・スカーレットの血でも飲めばいいかなーって。あなた達の能力についてはクレイドールから聞き出してたのでぇ……私は時間を操れるから、最悪の場合は時間を止めて飲めば安全だものね。だから、なにもスカーレット家の奴ならレミリアじゃなくて良かったのよねー」
(もしかしてレイチェルの存在は知らない?いや、それもそうか。私達の存在はクレイ、エスカルゴの存在は数年前にへカーティアから聞いていたなら、レイチェルは生まれてない……つまり知る由もない。モルモーを紅魔館にさえ行かせなければ……!)
愛娘の存在がモルモーに知られておらず、密かにホッとしたレミリア。モルモーの時間魔法は、時間関連の能力や特性などを持たないレミリアでは対処不可能。最悪の場合は、娘を守れないからである。
「それにさ、私の子孫ならエンプーサ如きに負けるなんて有り得ないもの。アイツ雑魚だし。それで、あなたは私の血族である事が分かった。だけどさ、あのエスカルゴは元人間なのよね?」
ニタァ……と、未だかつて誰も見た試しが無い程に口元を歪めて笑うモルモー。彼女の気配が高まり、邪悪な気配がドパァッと溢れてくる。
それを見て、レミリアは嫌な予想が頭を過ぎる。彼女自身が気付かない内に足が震え始めたものの、キッとモルモーを睨み付ける。
「…………まさか!」
「エスカルゴ・スカーレットは、人である事をやめ吸血鬼となった。新たなツェペシュとも言えるわ。という事はぁ〜……私の狩りの対象ってワ・ケ♡」
「そんな事させない!!」
「ならモルモーちゃんを止めてみれば?」
「言われなくとも……!」
「
舌なめずりしたモルモーは得意のあの魔法を発動させてしまう。やがて、レミリアの制止も虚しく、モルモーは────。
レミリアが「ツェペシュの末裔を名乗ってるだけ」なのは神主も明言してますからね。悲しいなぁ。
でもレミリアには由緒正しい血族であってほしい。ということでモルモーの血族としました。
悪魔なのに、レミリアのスペルにやたら神の要素があるのは、神代を生きた吸血鬼の子孫であることのメタファー、という妄想です。
(スカーレット姉妹の武器は北欧神話由来だけど)
スカーレット姉妹に十字架が効かないのは彼女達がキリスト教徒ではないからでしょう。
古代ギリシャがルーツなら、彼女達がキリスト教徒ではないのも何とな〜く説明がつくんじゃないかと思いました。
まぁ、現在のギリシャではキリスト教から派生したらしい「ギリシャ正教」が多数派だそうですが。
外の世界でクレイドール一派のみが猛威を奮ってたのは、モルモーが他の吸血鬼を滅ぼしたからです。
最後に残ったのが、たまたまクレイドールでした。血を吸い、子孫判定が出たら残す、出なかったら即滅ぼす。簡単ですね。
モルモーはエスカルゴの存在を知った時点で狩りの標的に指定していました。へカーティアの件という建前があったので、眷属を増やすとかいった大胆な行動がとれた感じです。
そういった建前が無いなら、エンプーサやラミアに怪しまれます。血統主義なモルモーは普段であれば己の眷属を増やす事すらあまり好まないので。
(吸血鬼は血とかではなくエキスを入れて吸血鬼に変身させる。故に眷属ではあっても血族ではない)
もしもモルモーが隠密に行動せずに「吸血鬼狩りをしている」ことが公に広まれば、クレイとの面会も実現せず、彼女が幻想郷の存在を知ることもなく、此度の襲撃も実現はしませんでした。
普通に考えて、狩るなら隠密にですよね。狩り易くしたいですからね。彼女は、己の存在を世間に誇示したいワケじゃないですから。
「世界を裏から支配する」みたいなのを好むタイプですね。
血の繋がりが何よりも強固なのは、ギリシャ神話のオリンポス十二神が示している気がする。