「ようこそ、地獄の最下層……摩訶鉢特摩へ♡」
「寒ッ…………くない?」
「八寒地獄に来る際、防寒対策するのは基本よ?」
「……へカーティアの魔法かぁ。凄い……ありがと」
「
「……?どういう事?」
「
何の対策だろうと首を傾げていると、小さく溜め息をついたへカーティアが、ドヤ顔にも似た笑みを浮かべてサラッと驚愕の事実を告げた。
「そもそもあなたは
「えっ」
「そして、私があなたに与えている力はここ以外の全ての地獄の力。力が使えるのだから、その環境に適応できないワケが無いわ。あなたは、自分が放つ雷で感電死するのかしら?」
「……あー」
「使えるなら影響は受けないの。覚えときなさい。多少、暑かったり寒かったりはするかもだけどね」
「……オッス」
言われてみれば当然の事だった。ということは、無間地獄でクソデカ獄卒と戦った時も装備の重さで悩むことは無かったという事になる。なんともまぁ呆れる話だ。少し考えれば分かったことなのに。
とはいっても俺に装備させたのは久侘歌ちゃんや映姫の優しさなので、寧ろ俺はその気持ちを有難く受け取っておこうと思う。
装備しなくていいのはあくまでも「可能」というだけ。絶対にそうしなくてはいけないのではない。それなら、彼女達がどうしても心配だと言うなら、重くても装備を着けよう。
「さて、本題に入るわよ?」
「あ、うん。2人きりになるのを狙ったっつー事はそれなりにヤバイ話題なんだろうね。そして、他の神との通信は切断中。……でしょ?」
「ご明察、その通りよ。流石は私の器くん、理解が早くて助かるわ。あとはあなたがそのヤバイ話題にノッてくれると嬉しいのだけど……どうかしら」
「彼女達に関わる事じゃないんなら何でもやるよ」
「その言葉、信じていいのね?」
「……その条件が守れるなら、の話だけどね」
「安心して。彼女や子供達には全く関係無いから。何なら幻想郷、魔界、月ともそんな関係無いわよ」
「そいつは重畳だな。心の準備はできてる、何でも言ってよ。俺にできる事なら何でも手伝う」
「あなたにしか頼めないわ。歴代の器や配下の中でトップクラスのあなたにしか、ね」
トップクラス……どうやらトップではないらしい。誰が彼女の中のトップなのだろう。そいつを殺して俺がへカーティアの中の一番に成り上がりたいものだが……へカーティアが認める程だし、恐らく俺では太刀打ちのできないヤバイ奴なのだろう。
「ピースちゃんに決まってるでしょう。可愛いし、強いし、与えた力を使いこなせるし?何なら、私の命令違反である事を知りつつも友情を大切にする。そして、それを素直に謝れる心……!あなたのような獰猛さ、攻撃性が無いのが唯一の欠点という最高の逸材なのよ、ピースちゃんは♡」
「あ、うん。ピースなら納得しかねぇわ」
ピースに獰猛さが、攻撃性が無い?……いや、一体何を言っているのだろう。こればかりは流石の俺もへカーティアの言葉を否定したくなる。
「でしょ。……じゃ、今から話す事は絶対に他言無用だからね?話し終わったら他の神に覗かれないよう記憶にロック掛けとくわよ?」
「よく分からないけど了解」
おっほんと咳払いして話し始めるへカーティア。その内容は、あの可愛らしい口から飛び出たなんて到底思えないほど、そして俺の想像を遥かに超えるヤバさだった。
まさに、全世界を根底からひっくり返すような、へカーティアだからこそ言えるセリフ。俺でさえも
「へカーティアなら実際に実行に移すんだろう」と思えてしまうような言い知れぬ恐ろしさ、説得力を秘めたセリフだった。
「────私は、ギリシャ神界を乗っ取るわ。私のサポートをしなさい」
「…………?」
「ふふ、理解が追い付いてないって顔ね?そりゃあ仕方ないわ」
「理解は……できてるつもりだよ。でも……ギリシャ神界を乗っ取るってそれ、ゼウスや他のオリンポス十二神に背くって事じゃ……」
「そうよ。主神であるゼウス様に叛逆するの」
「────ッ!?どう……して?」
「そぉねぇ〜……シンプルに言えばムカつくから?」
「え……何が……?」
「ギガントマキアで神々の為にあんなに凄い活躍をしたというのに……。私がオリンポス十二神に新たに加えられるどころか、天界、地上、海洋での行動を許可されただけ。単独でギガースを倒せたのは私とヘルメスだけだというのにね」
「へカーティアがクリュティオスを倒したのは一応知ってたけど……ヘルメスもなの?」
「ま、あいつはハデス様から隠れ兜を借りてのソレだし、別に凄くも何ともないけど。身を隠して戦うなんて、卑怯者のそれだわ。ハデス様も、隠れ兜をヘルメスに貸したもんだから参戦しなかったしね。ビビりなのよ。戦闘に美学がないし」
「美学……」
「ねぇ、エスカルゴくん?
「あッ……あぁ、そりゃ勿論……い、いい、けど……」
「
「記憶違いだったら、申し訳ないんだけど……確か、ギリシャ神って不死身……だったよね……?ゼウスを唯一負かせたテュポーンでさえ、手足の腱を奪ってやっとゼウスを幽閉できたんだし……」
「そう。だから封印するの。永遠にね」
「…………」
「あと、イイコト教えてあげる。ギリシャ神はね、肉片になっても生命維持が可能。それなのに、自己再生力は殆ど無いのよ。治療するには第三者が補助しなくてはならないの」
「……!そうか、ゼウスは腱を奪われたけど腱を再生できないんだ。だから、ヘルメスとパーンが番人のデルピュネーを騙して腱を取り戻した……?」
「そう。そして、奪った『身体の一部』は、決して消滅させる事はできない。神の不死性が、その神の肉片にもあるからよ」
「食ってもダメ?」
「ナチュラルサイコねあなた」
「ンなワケ」
「まぁとにかく、無駄なのよ。噛めても消化不可能だと思うわ」
「じゃあ空間自体消したら?」
「……どういう意味?」
「ほら、俺ってスキマ空間開けるじゃん。その中にぶち込んでスキマ空間を閉じる。つまり消すんだ。どう……かな?」
「あなたいつもスキマ空間?とやらを開いてモノを取り出したり色々してるじゃないの。そんな便利なスキマ空間、使っちゃうの?」
「幾らでも開けますしおすし?」
「ふむ。……向こう行ったら試してみましょうか」
「そうだね」
「それじゃ、確認だけど、あなたは私の叛逆に加担するって事でイイのね?」
「うん」
「……♪」
へカーティアはクスクスと嬉しそうに笑い、俺の前でクルクルと回って見せる。スカートがはためき綺麗な太ももがチラチラと見えてきて、俺の煩悩を刺激してくる。
「もしも、よ?もしも、私達でゼウス様を打倒し……私がギリシャ神の……世界の頂点に立てたなら……。お礼にあなたの望みを叶えてあげる。何でもね」
「何でも……ねぇ」
「そう。エッチなお願いでも全然OKよ♡……勿論、目的を完遂しないとダメだけどね」
「……!?」
「私とナニしたい……?言ってみなさいな?彼女達に言わせるんだから、あなたにこういうのやらせても構わないわよね?」
意趣返しのつもりか。それなら言ってやる。俺の思うまま、欲望の全てを。それを全て叶えてやる。有言実行してやる。
「…………へカーティアと……セックスしたい!キスもしてみたいしっ……抱き締めてみたいっ……!」
「……あなたならそう言ってくれると思ったわ。私とこうして話す時、あなたはいつも心を隠している。私を性的な目で見まいと、必死に考えを私との話題だけに向けている。……でしょ?」
「お見通しだよなー……。いや分かってたけどさぁ、いざそう言われると恥ずかしいんだけど……」
「えぇ……」
ミニスカ、裸足、肩出し。エロくない要素が一体へカーティアの何処にある?足が好きな時点でもう彼女にはエロ要素しか見い出せない。
3つの球体と彼女を繋ぐ鎖が繋がっている、あの黒いチョーカーも何気にオシャレだし、スカートが少し派手なくらいで別におかしくも何ともないイイ格好だと思う。
俺がWelcome♥Hellのシャツを勝負服として着用しているのも、かなり気に入っているからだ。
「あのね……面と向かって『セックスしたい』なんて言われた私の方が恥ずかしいからね……?」
「言った俺の方が恥ずかしいっしょ……」
「そう思ってるのはあなただけ。……まっ、この私を前にして、怯まずちゃんと目を見て言えたんなら……上出来かしらね?」
「……?」
そしてへカーティアは、思い出したようにポンと手を打ち、ニッコリと微笑んで見せた。
「ちゃんと契約しましょうか。『私達は手を組んでゼウスを初めとするギリシャ神に叛逆する。主神のゼウス、正妻のヘラを殺害もしくは無力化させる。反逆戦争終結後、私へカーティア・ラピスラズリは協力者エスカルゴ・スカーレットの望みをなんでも叶える』……こんなところでイイかしら?」
「イイ!凄くイイ……と思う。だけど本当にイイの?疑いたくないけど疑っちゃうぜそんなの……」
「それは仕方ないわ。私は神だし、本来なら悪魔の願いなんて叶えるはずないしね」
「……」
「でも安心なさい。私は嘘をつかないから」
「……うん」
あの契約に、変な部分は無いように思える。嘘をつかないというあの言葉を信じるしかないだろう。そしてそれを楽しみに待っていよう。できれば3Pなんて思ったりもするが……。
「あとピースちゃんは呼ばないわよ。危ないから。こういう危ない目に遭うのは私とあなただけで十分だからね」
「俺はいいんだ。まぁいいんですけどね??」
「こうして契約してしまった以上、私とあなたは、運命共同体も同然よ。せいぜい頑張りましょうね。私を神々の王にしてちょうだい♡」
「仰せのままに。我が主へカーティア様。……って、何言ってんだろ俺」
「ふふっ……可愛かったわよ、今の従者の真似事♪」
「はいはい……」
「それじゃ、準備が整ったら連絡するわ。あなたももっと力を高めておきなさい。ではまた♪」
「────!」
気付いたら俺は、紅魔館の屋根の上で寝ていた。夢でも見ていたかのようなフワフワした気分だが、この身に残るへカーティアの魔力が今の会話が現実だったのだと分かりやすく教えてくれる。
エリス戦で言っていたが、へカーティアの魔法はただの魔法ではない。その気になれば、残滓すらも消せる。きっとこれは、わざと残しているのだ。
「ヘラの殺害……ラミアの仇討ち……、
憧れとも言えるギリシャの神々との戦いに思いを馳せる俺だったが、その瞬間、へカーティアが1つ絶対に有り得ない事を言っていると気が付いた。
へカーティアは処女神でもある。つまり、俺とのセックス及び他の性行為は、彼女を処女神ではなくさせる、ある意味で
それならば、俺とへカーティアとのセックスは、
もし実現すれば、へカーティアの神格を殺す事になるのだから。簡単に言えば、神様としての能力や権能を1つ失う事になってしまうのである。
例えるなら、軍神、山の神、風神、水神でもある神奈子様が水神としての能力を使えなくなるという意味だ。これは、神様にとって致命的だ。その分の信仰心を失う事にも繋がるし、それだけ自らの力を失う事になってしまう。
ただセックスするだけで、能力は失うし、力も、信仰心すらも失う。へカーティアがそんな事を実行させてくれるはずがない。
それに気が付いた時、俺は落ち込み……失意の中、もう一度地獄に行こうと、とりあえず地獄の街中に向かい、映姫にも報告した上で、公式に見学させてもらう事にした。