「あ〜っ!見付けたぞぉ〜、エスカルゴくーん!」
「?……って、え?モルモー!?なんで
「死・ん・じゃ・えっ♡」
「うっ……!?」
モルモーが俺に掌を見せるように翳すと、大量の刃物が創造される。その手を握ると同時にそれらが放たれ、手足翼に刺さり、その幾つかは首、頭をも掠める。
神代からの生物であるモルモーの奇襲にしては、些かレベルが低いように思える。逃げられても面倒だからとでも考えて、敢えて声を出して己の存在を知らしめたのだろうか。確かな存在を認知すれば、逃げられにくいとでも……いや確かにその通りだが。
でも俺は誰が相手であろうと、そしてどんな奇襲でも、決して逃げたりはしない。どうせ範囲攻撃を仕掛けてやれば一蹴できなくもないのだから。
しかし今回に限っては場所が悪い。ここは地獄、しかもよりによって市街地同然の場所で、周囲にはちらほらと小町のような死神などが居るのだ。もしここで範囲攻撃でもしようものなら……。そんなの、察するに余りある。
「面倒なタイミングで来たな……!狙ったのかよッ、チクショウ!」
「狙ったに決まってるよね、範囲攻撃が得意なのは聞いて知ってるしぃ♡」
「許可取りに行くんだよ、今くらい邪魔すんなっ!破壊符『
「きゃあっ!?」
赤黒いレーザーはバチバチと凄まじいスパークを放ちながらモルモーへ一直線。けれどもモルモーはそれを空中で身を捻って紙一重で回避して見せた。流石の身のこなしだ。
「あっぶなー!殺す気満々じゃん!」
「うっせ!お前が殺意に満ちてるからだろが!俺ァそれをお返ししてるだけだ!もう一丁!」
「ひゃあっ!?……わっ、おぉっと、ほいっ♡」
「クソが、ちょこまかと……!」
「……?死神が集まってきた?…………成程、
無詠唱で魔法を行使するモルモー。瞬間、時間が停止し、更に創造魔法にて数多のナイフを俺の頭の周囲に配置。しかも咲夜さん達と違いかなりの至近距離だ。殺意に満ち満ちている。
だが小町ではないなら奴らを助ける義理はない。ましてや船頭ではない死神達なんて、霊夢の仇とも言える存在だ。
とりあえず死神達は死のうが生きようが放置で、俺はモルモーの相手をする事にしたが────。
「んなッ……!?消えた!?」
死神に気を取られた隙をついたのか、モルモーは目の前から姿を消していた。そして、ふわりと甘い匂いが空気の揺れと共に背後から香ってきて、俺は初めて気が付いた。彼女に背後を取られたことに。
「
「クッソ……がぁ…………!!」
グサグサと10本以上のナイフが背中に刺さった。しかも全て心臓を貫いている。これはかなり痛い。1本や2本程度であればナイフを抜いて再生も可能ではあるのだが、10本程度の集中攻撃では必然的に穴も大きくなってしまうので、再生も叶わず、すぐ意識がブラックアウトしてしまう。
「アーッハッハッハ!ヘカテー様が目をつけた奴もこの程度!私に隙を見せたのが運の…………はぁ!?なッ、なんで生きてるのよッ!?」
体感ではすぐだが、実時間では数秒経過しているだろう。高笑いをしていたモルモーは目を丸くして俺を見上げている。
「俺、不死身だから。エリスから聞いてなかった?それなら悪いなぁ、俺は殺せないよ。すぐ復活するからな。……残念でした♡」
「は……はぁああああっ!?ふざけないでよ、そんなインチキな事があるもんですか!神でもないくせにそんなの有り得ないわ!」
「あっ、そう。それじゃあモルモーは俺を殺すのに失敗したっつー事だ。どちらにせよ残念でした〜」
「違うし!ちゃんと心の臓を潰したわ!!何本ものナイフで串刺しにしまくってやったし!!死んでるはずなのよ!目の前のあんたは誰!?」
「あぁん?分かりきった事を言うな。俺は俺だよ。相も変わらず、エスカルゴ・スカーレットだ」
「……こりゃあ認めざるを得ないわね、私があんたを殺し損なった事は!でもねぇ!これで殺すからっ!ハァァァァッ!!」
「っ……うっ……お゙っ……なん、だ……?」
吐き気がしてきた。内臓がズキズキ、チクチクと痛くなってくる。リバースしそうになるが気合いで飲み込んだものの、すぐに逆流してくる。鉄の味……吐血しそうになっているようだ。
手足の感覚もおかしくなってきた。まるで指先に血が集まって浮腫んできたかのような……。
「……お前まさかッ……チクショウ判断遅れたッ……!う、く、そ……オ゙エェッ……」
「もう遅いわ!フラフラのまま、モルモーちゃんの殺意に満ちたこの攻撃を喰らうがいいわッ!」
モルモーの奴、俺と全く同じ事をしてきた。ただ少し違うのはその原理。モルモーは、魔法か何かで鉄分を集めているらしい。
内臓の痛みは、血が血管や臓器を突き破ってきた痛み。手足の指の感覚は、心臓から遠い体の先端に血が……というより鉄分が集まってきたから。
モルモーの頭上に地面から集めた砂鉄による玉が生成される。しかもチリチリと動いている。もしもあんな玉を喰らえば細切れになる。
「あーくそ、血ィ吐いたら頭クラクラしてきた……。けどよォ、モルモー。もうお前に俺は殺させねー!傷翼『
「ッッ……ウソでしょ!?」
モルモーの作った砂鉄の玉から砂鉄を奪い返す。
磁力を操るモルモー、雷ないしは電気を操る俺。2人の内どちらがより強く砂鉄を引き寄せるのか。その答えは1つ。────俺の加減次第である。
世の中には、コイルというものがある。巻き数やその他の諸々の条件によって、強さが変化していく便利なモノだ。俺がやっているのも、それとあまり変わらない。応用だ。
モルモーが磁力を操るならそれ以上に強いコイルモドキを作り、砂鉄を強奪し翼を作ってみせた。
「どーよ、これ?母さんそっくりの黒い翼♡」
「〜〜〜〜〜ッッ……ちょっとぉ!どうしてあんたはそうも私に対抗する手段を持ってるワケェ!?」
「知らねーな、たまたま対策しやすい攻撃ばかりをしてくれるお前が悪ィんだッ!」
「それならねェ!こうしてやるまでよぉぉ!!ゼロ距離……いいや……マイナス距離でッ!創造よッ!!」
「うげェッ……!?は、針だと……こんなのメタリカじゃあねぇか……!」
心臓、肉を突き破り多数の針が飛び出してくる。まるでジョジョ5部に登場するリゾット・ネエロのスタンド、メタリカの攻撃だ。
血塗れの針はモルモーの方へ飛んでいき、彼女に刺さるだろうと思ったが、彼女はそれを楽々という様子でキャッチして見せた。
針に付着した血を舐めると頬に手を当て、目尻を下げる。
「うーん、美味しい血だわ!って…………えっ……?」
「……?」
「この味……なんで……?あんたまさか、レミリアがエスカルゴくんに変身でもしてるっての!?」
「は??」
「いや違う……それにしては妙に雑味が多いし……。このモルモーちゃんの血筋にこんな雑味野郎は未だかつて存在したことないし……」
「うるせェよ。……モルモーの血筋?」
「でもこの味……レミリア味?……あとなんだろう、色んな味がする……」
「……あー……」
一度人間に戻った後で、俺は、永琳の薬によって二度目の吸血鬼化を果たした。けれどもその薬は、
つまり俺には、一部とはいえレミリアと同じ血が流れている事になるワケだ。モルモーが俺の血からその因子を感じ取ったのは、とどのつまり、永琳の薬のお陰という事だ。
「え?つまり……何?えっ?元人間……なのよね??半神とか半妖とかじゃなくて純血の人間よね?」
「おう」
「なのに私の子孫??えっ??」
「え?」
「だってレミリアが私の子孫だもん」
「はっ!?」
彼女の突然のカミングアウトに動揺を隠せない。モルモーは神代からの吸血鬼。それだけ長く生きていれば子孫を残す機会だってあってもおかしくないだろう。というより、その機会が無い方がおかしいくらいだ。ましてやここまでのキュートさだ、さぞモテただろう。ヤリまくりだったかもしれないし、案外プラトニックなのかもしれない。
それにしても、レミリアがモルモーの子孫とは。
という事は、モルモーの理屈で言うのなら……俺とレミリア、そしてフランは、後天的でありながらも実の姉弟や親戚であり、レイチェルはレミリアとの近親相姦にて産まれた子供……となる。
情報量が多すぎて頭が混乱しかけてくるが、血で繋がっていると言うのなら、成程確かにそうなる。困ったものだが……。
「だから、レミリアと同じ血が流れてるんなら問答無用でエスカルゴくんも私の子孫って事になるけどどういう事?なんで?……私の舌がおかしくなった?いや、そんなの有り得ないしなぁ……」
「吸血鬼化する時、レミリア達の細胞を使ったからだと思うな。フランの細胞も使ってるらしいから、雑味っていうのは混ざってるせいだと思うぞ」
「それも変よね。フランドール・スカーレットは、レミリアの実の妹。それなら結構近い味するはず。だけどあんたのはもっともっと混ざってる!多くの絵の具を混ぜて真っ黒にしている感じよ!」
「……それ以外は俺も知らないなぁ」
子供の存在を言えばまた面倒な事になる可能性がある。こういう事は、言わないに越した事はない。子供達は、隠せるなら隠すべき存在だ。
「ふーん。じゃあいいや。あんたが私の子孫なら、殺す必要も無いか」
「なんで?」
「レミリアにもさっき言ったけどさ、この私以外を始祖とする吸血鬼は全滅させたいの。私を吸血鬼のヒエラルキーの頂点にする為に、みたいな?血は、何よりも強い繋がりがあるしね」
「……ふーん。まぁ、別に好きにするといいよ。俺ァ自分のヒエラルキーをどうにかする事しか考えないようにするから」
「あっそ、そりゃ良かったわ。けど、あんたは絶対ヒエラルキーの頂点に立てないわよぉ」
「その必要は無い。俺は二番目でいい」
「誰があんたの中での一番か知らないけど、とりまあんたは三番目よ。この私が、あんたよりもずっと上だからね」
「じゃあ潰す」
「言っとくけどぉ、殺したらヒエラルキーも何も、元も子もなくなるわよ?私を殺せるなら別だけど」
「殺すつもりはサラサラ無いし、殺されるつもりも無い。ただ、1つだけ────」
「?……あんた何ベルト弄って……きゃあああっ!?なななな、何下半身露出させてんのよバカァ!!」
「経産婦の割に、やけにウブな反応だなモルモー?どっちが上なのか、身体に
「はぁ!?ちょっとやめてよ、こっち来ないでっ!いやぁぁぁ!!」
「お前に限っては、自我くらい残しといてやるよ。大魔術『絶対服従の淫術』」
今回の相手は、大悪魔とも言える超大物吸血鬼。本気も本気、持てる限りの魔力を使い果たす勢いで魔法を掛ける。
わからせてやるのだ。モルモーに。引っ掻き回すだけ引っ掻き回しておいて、逃げようとする女に。当然、やっている事はただの犯罪。クズ野郎のする所業。しかしもうそれでいい。毒を以て毒を制す、という言葉の通り。クズにはクズをぶつけて制す。ただそれだけだ。
「あ……あぁあっ……身体が…………アツい……いやっ……やめてぇ……それだけはゆるしてぇ……もう二度と、あなたに関わったりはしない、からぁっ……」
「うーん……?何言ってんだお前?そんな言葉、信用できるワケないだろう?」
「え…………」
「何年生きてんのか知らねぇけど、口八丁手八丁で修羅場を潜り抜けてきたんだろうしね。つーかさ、寧ろ俺と関わってくれよ」
「え……えっ?」
「モルモー可愛いからさ……とりあえずお仕置きってことで。ワカッてんな?死にたくなきゃ俺に従え。さもなくば殺す。血と尿に濡れたお前を本気で死姦してやるよ。流石の俺も、死姦なんてまだ経験したことが無くてさ」
「く……狂ってるッ……コイツ…………!!」
「狂ってる?それ褒め言葉ね。つーか、それはお前なんじゃないのか?自分の血族以外の同族を滅ぼすなんて、狂ってなきゃ思い付かねぇよ。イキすぎた血統主義もここまでクると狂気だぜ?」
「違う……違う!私は狂ってなんかないから!!」
「あ、そう。ま、何でもいいんだけどね。股開け、どうせ濡れてんだろ?そういう魔術だしな、アレ。ほぉら、俺にしようとしてた尊厳破壊?とやらを、今ここで実践してやろうじゃあねぇか、オイ!」
「ッ……嫌っ、キモい!来ないでっ!触んないでぇ!このッ……近親相姦野郎!!」
「アハハッ、何それ?もしかしてだけど俺の良心に訴えかけてるつもり?もしそうなら残念だったね、近親相姦なんて俺にとっちゃ日常茶飯事なンだわ」
「ッ……!?」
「つーかさぁ、お前も近親相姦経験者じゃねぇの?なんかそんな感じがするんだよなぁ」
「……!?」
「あ、ビンゴ?誰かを罵倒する時って、その殆どは自分が言われて嫌な事を無意識の内に言うんだと。本当かどうかは置いといて、とりあえずモルモーの場合は当たってるようだね。なんだ、仲間じゃん。俺もお前も同じなんだよ、モルモー」
「ひッ……いやッ……やめて、本当にっ……なんでも、シテあげるからっ……!せ、セックスだけは本当に、やめてくださいっ……お願いしますっ……こ、子供、デキちゃうからぁっ……」
「だ〜め。甘えんな。甘えるなら可愛く媚びろよ。得意だろ?」
「ッ……う、ううっ……」
「尊厳破壊される覚悟も無いクセにこの俺にそれをヤろうとすんじゃあねぇよ。自らの見込みの甘さを呪え。反撃されるという想定もできなかったお前の負けだ。自分を恨むんだな、死ぬまでね♡」
「いやあああああああぁぁっ……」
初
時の止まった静かな世界で、肌をぶつけ合う音と悲鳴だけが残酷に響く────。
時間停止が可能な者が逃げに徹したらどうなるか?
それがコレです。レミリアはそもそも戦闘開始すらできませんでした。