「レミリア。ちょっと話があるんだが、いいか?」
「うん?どうしたの?」
「メイド妖精の事なんだけど……その中の1人だけ、俺用のメイドにしてもいいかな?」
「は?……え、えぇ……?」
「勿論、俺が居ない時はこれまで通りでいいから。急なアレで申し訳ないが……頼む」
読書の為に大図書館へ向かおうとしている彼女を呼び止め、つい先程交わったあの妖精の話をする。とは言っても、セックスしたとは言わずやんわりと伝えるのみだ。
下手な事は言えない。それでもできる限りの事は伝えた上で、深々と頭を下げる。
「別にイイわよ。ろくに働かない者が殆どだしね。でも、そうねぇ……何か、目印とか無いの?似た子がいっぱい居るでしょ」
「彼女の首に赤いチョーカーを付けてある。それが目印だ」
「赤いチョーカーね。OK、ちょっと話してくる」
「えっ?い、いや、改めて話す必要は……」
「何を言っているの?紅魔館の主はこの私。まだ、そのメイド妖精は私の配下よ?あなた用のメイドにするのは構わないわ。でも、主人として話くらいはさせなさい?
「ハイ……」
「別に『私を裏切るなら死になさい』とか言わないから、大丈夫よ。だけど、できるだけこういう事はやめてね。役に立たない事が多いメイド妖精でも、我が紅魔館の住人なんだから」
「うん。俺用のメイドは、1人でいい」
「ええ、それでいいわ。……というか、あなた専用のメイド妖精だというのに、
「各家庭にまでは連れて行けないだろう……。いや、理解してくれる嫁や彼女ばかりだと思うけど、でも博麗神社には連れて行きにくいからさ……。だから、巫月ですら永遠亭に置いてるんだ」
本当は連れ歩きたいくらいだ、と暗にアピール。ぶっちゃけどちらでも構わないが、霊夢への説明が滅茶苦茶大変だろう。
というより、誰かとヤッている時、あの子を放置しておくというのも辛いというか、なんというか。常に連れ歩くなら、ずっと背後に立たせておくのは気が引けてならない。……たとえそれが、メイドを引き連れるという事だとしても。
「霊夢や霊愛ちゃんは怒りそうだもんねぇ……確かにそうだったわ。ま、あなた居ない時はこれまで通り働いてくれるって言うなら、それでいっか。うん、それでいいわ」
「良かった……」
「これが主たる者の器よ。覚えておきなさい♪」
「ああ。……ありがとう」
◆
あの件以来、少し仲が深まって話すようになった同僚の子と窓拭きしながら話していると、話題は、自然とご主人様の方に向かっていった。
話題の始まりはやっぱり、私の赤い首輪だった。
「えーっ!エスカルゴさん専用の性処理妖精〜!?な、何それ、聞いたことないんだけどっ!?」
「しーっ!ちょっと、声大きいよっ!」
「あっ、ごめん……。でもさでもさ、私、そんなこと言われなかったよ?相性いい子を探してる様子でもなかったしさ〜……どうやって気に入られたのっ!?イイなイイな〜!ズ〜ル〜い〜!」
「私も分からないの。だけどこれで、私はご主人様だけのメイドなんだ……♪」
「ご主人様はレミリア様じゃないのっ!?」
「ううん、私のご主人様はエスカルゴさんだけ……♡うふふっ……ふふっ……」
「えー、でも、お嬢様に何も言わないでご主人様を変えるなんて無理じゃない?私達も一応、お嬢様の配下なんだよ?」
「そこはご主人様が話をつけてくれるって……任せろって仰ってたから……♪」
「わ〜……なんかもうルンルンじゃん、イイなぁ……私も気に入られたいな〜」
「頑張って♪」
「ぐぬぬ〜、この前まで処女だったくせにぃ〜……」
「えへへ、もう10回はエッチしちゃった……♡」
私がそう言うと、同僚の子は口をポカンと開けてフリーズしてしまった。確かこの子は、3回は指名されてエッチしてるはず。だから、単純計算で私の3倍はご主人様とエッチしてるはずだけど……。
「……え?わ、私なんて……セックスで1回イッたら休憩してそこで終わり……。で、それが3回あったんだよ?」
「休憩?どうして……?」
「え、だって……疲れるじゃん?」
「……それが原因だと思う……」
「ええっ!?じゃああなた、休憩ナシで……」
「水分補給以外、休憩ナシ♡」
「あなた本当に妖精!?あんな激しいの耐えられるワケないじゃんっ!」
「ん〜……私の日課が功を奏したっていうのかな……そんな感じかもっ♡」
「ええ……。日課ってアレだよね?オナニーだよね?オナニーってそんなに体力つくの……?」
「よく分かんないけど無駄な体力を使わなくなるんじゃないかな?知らないけど」
「うーむ……オナニーの回数、ちょっと増やしてみるべきなのかな……。因みにあなたは週に何回?」
「週に5〜10回くらいかなぁ」
「多ッ!?私なんて週2だよ!?」
「私なんてまだまだ……。ご主人様は、ほぼ毎日10回くらいセックスでイッてるんだから……体力の消費は桁違いだよ♪」
「うぇ〜……お気に入りにならなくて良かった……のかも……?」
「うんうんっ!ご主人様とセックスできるメイド妖精は私だけでいいよ♪」
などと話していると、背後から、何やらヤバめの気配を感じた。まるで、威圧するような……こちらに有無を言わさないような、圧力を感じた。
「────ご主人様とセックスが、なんだって?」
「「おっ……お嬢様っ!!」」
声を掛けられてやっと気が付いた。あの気配は、レミリアお嬢様だ。戦闘中のご主人様以外では全く感じたことのない圧力だ。
「チョーカー付けてるあなた。……そう、あなたよ。窓拭きを終えたら執務室に来なさい。いいわね」
「は……はい……」
それだけ言うと、お嬢様は背を向けて戻っていく。
内容は何となく察せた。それだけに、今話す時に微笑を浮かべていたのが、本気で怖くなってくる。ご主人様の事だから、約束通り話はつけてくれたと思うけれど、それでも、腑に落ちなかったりしたのかもしれない。……困った。
「……ひえぇ……お嬢様自ら動くって相当じゃん……」
「う、うん……そうみたいだね……」
「早く終わらそ!私に任せてもらってもいいけど、お嬢様そういうの察してやり直しさせそうだし!」
「そだね、終わらそ……。それで早くお嬢様のお話も終わらせたい……」
それからは無言で拭き掃除して、さっさと仕事を終わらせた。ここまで早く終わらせられたのは多分自分史上初めての事だと思う。
手洗いを済ませてから執務室へ向かうが、かなり緊張する。そんな所に入るのは、初めてだからだ。メイド妖精の雇用はお嬢様ではなく咲夜さんが行うことだし、入る機会も無い。
「来たわね。入っていいわ」
「失礼しますっ……」
ノックする前に気付かれた。流石お嬢様、姿など見なくとも気配だけで察せる、ということらしい。とりあえず形式的にノックし、入室する。
両肘をつき指を組んだ手に顎を乗せるお嬢様は、とても紅魔館の主人という威厳というか風格があるように見える。幼く見えても恐ろしい実力者であることが、肌で感じられる。
「呼ばれた理由は……分かるわね?」
「……はい。ご……エスカルゴさんの件、ですよね」
「ええ。……まぁアイツは女好きだから、色々と心も身体も疲れる事があると思うの。彼と出会ってから私も色々とそういう経験をしているからね。でも、彼のお付きのメイドになるという事はそういう事も覚悟しているんでしょう?」
「はい……!」
「あなた、彼との経験は?」
「ッ……」
「そう、
言っていいのか判断に迷う。私がそうなら、他のメイドとご主人様との関係も疑われかねない。でも嘘をつけばどうなるのかは目に見えている。
いや……ご主人様がどうにかしてくれるはず。私は私の事についてのみお話しするだけ……。
「……あります」
「でしょうねぇ。そうでもないと、あなたを専属のメイドにしようとしないだろうし。ところで、彼はあなたを紅魔館に置いとくつもりらしいわよ。他の家庭には連れて行きにくいみたい。確かに、それはそうなんだけど……あなたはこれをどう考える?」
「ご主人様第一ですから私からは何も言いませんし考えません。ご主人様に従うだけです」
「そう?わかったわ。……もう、ご主人様だなんて、気が早い子なのねぇ」
「あっ……申し訳──」
「あぁ、あとあなた、彼から名前貰いなさい」
「……えっ?」
「いつまでも名無しの妖精じゃダメ。あなたはもうアイツの……エスカルゴの従者なのだから。OK?」
「は……はいっ……!!」
「それと、咲夜から
「はい……!」
「暫くの間は、メイドの業務、しなくていいわよ。その代わり、今すぐとは言わないけれど出来るだけ早く
「はい!」
「じゃあ、話は終わり。あなたと話す前に咲夜には話を通してあるから、これから咲夜に付きっきりで勉強なさい」
「わかりました!ありがとうございますっ!!失礼しましたっ!!」
私は足早に部屋を出て、メイド長の居そうな所を目指して走り出す。ご主人様の性処理妖精になる、という話だったが……いつの間にか、ご主人様の専属メイドになるという話にグレードアップしていた。よく分からないけれど、それならそれで、あの方と居れる時間が圧倒的に増えるワケで……。最高だ。
「……ふぅ……こういうのはあまり慣れないわね……。でもま、素直で良い子ね。エスカルゴが好きそう」
◆
次に俺が紅魔館に出向くと、咲夜さん、弦月姫と並びあのメイド妖精が出迎えてくれた。以前よりも明るく、そして以前よりも自信に満ち溢れたとても良い顔をしている。
「おかえりなさいませ!ご主人様っ!」
「ただいま。……シャロン」
「っ!……シャロン……」
「君の名前だ。どうかな?嫌なら嫌で……」
「可愛いっ……ありがとうございます……♡」
「そう?それなら良かった」
紅魔館に来る前、レミリアの蝙蝠が俺の元に来て伝言を残した。メイド妖精の名前を考えておけと。だから俺は、俺のこの低スペ脳ミソに対応しているあらゆる言語から、彼女に合っていそうな名を出力した。それが「シャロン」。幻想入りする直前まで遊んでいたゲームでの、最推しの名である。
ソシャゲの最推しの名をお気に入りメイドにつけるエスカルゴの心境が分かるようでよく分からない。