神と戦うにあたって、俺には鍛えておくべき力が幾つもある。時間はあまり無いだろう。だが特訓に費やせる時間に限りがあるのもまた事実だ。
故に、大会前と同じくセックスやデートの回数は極力減らしている。里や山など遊びに何処かに行く回数も減った。正直言って、フラストレーションは溜まりまくっている。
けれども、せめて神との決戦の目処が立つまでは我慢して力を高めておかなくてはならない。
「────『
今日は、妖怪の山の中で耐熱訓練だ。やはり俺が苦手なのは熱。神の中には炎を扱う者もそれなりに存在する。なので、それに備えておくのも手だ。
そして、煮え滾るマグマの上で、俺は地獄の力を解放。その力は紅蓮地獄、またの名を鉢特摩の力。時間などの概念以外全ての物質を凍らせてしまう、八寒地獄の力だ。
「……うん、マグマはこんなもんか」
地中深くの、噴出前のマグマは1300〜1400℃だと以前何かの文献で見た事がある。鉄の融点は1500℃ちょっとだったと記憶しているので、ギリギリ鉄が融解しない温度なのだろう。
そんなマグマでさえも、紅蓮地獄の力で凍らせることが可能なのだ。やはりこれは恐ろしい力だ。
もしこれを普通の生物を相手に放てば、きっと、一瞬でその命を永遠に凍結させられるに違いない。
「
《とはいえ、本音を言えば、諏訪子達みたいな他の神の力も使って戦いたいんだけどね》
《そうねぇ……力だけを引き出せればいいんだけど、流石の私もそれは無理だわ。もしも事情を話せば、早苗さんとかは絶対に止めるでしょうし。手放しで賛成するとすれば、建御雷さんだけじゃないの?》
《わかる。……母さん、袿姫も渋々ながらも賛成……いや、応援はしてくれると思う。んー、俺だけじゃ限界はあるしなぁ……。ね、話してみちゃダメかな?賛成されても反対されてもへカーティアに加担するのは変わらないんだしさ》
《まぁねぇ……私としては気乗りはしないんだけど、その方が確実性も増すし…………うん、そうね。一応全員に話しておきましょうかね。勝てる可能性は、ほんの少しでも上げておきたいし》
《うん。あ、へカーティア、サポートお願い。多分俺だけじゃ言葉足らずとか……言葉選びとか間違って余計な事を言っちゃうかもだし》
《オーケーオーケー、任せて♪》
◆
特訓後、暑さに慣れる為にと山の中でホバリングしつつ、神々への説明、そして説得を始めた。先程話した通りへカーティアが補佐をしてくれている。
《──と、いうワケで。全知全能(笑)のゼウスと戦うかもしれないから、全員の力を貸してほしい。そうすれば絶対に勝てるから》
《はわわわ……流石にゼウスはヤバいですよぉ……!まさに神の中の神、宇宙最強なんですよ!?絶対にダメですよエスカルゴさんっ、永遠に封印されたらどうするんですか!》
《その時は多分へカーティアが助けてくれるから》
《そうよ早苗さん、安心なさいな》
《そもそもギリシャ神話における『封印』ってさ、何か重い物を上に乗せて動けなくさせるだけっつー極めて杜撰な封印なんだ。霊夢や早苗が使うような封印とは全く違うんだし。山だの山脈だのとさぁ、そんなのを乗せるだけだよ。……じゃ、もし俺に山を乗せたらどうなる?まぁ、簡単に言えば死ぬだろ?つまり復活すんじゃん?封印失敗するってワケだ》
《で、でもでもっ……万が一って事も……》
《早苗。……ゼウスとへカーティア、多分、フツーに戦ったらへカーティアの方が強ぇよ?》
《……え?》
《ギガントマキアっていう戦い知ってる?巨人族と神族の戦争……みたいなモンなんだけどさ》
《んっと……》
《その戦争には多くの神が参加した。でもその中でまともに巨人を単独撃破したのはへカーティアだけだったんだ。他の神々も善戦こそしたものの、単独撃破までには至らなかった。……これで分かるだろ?単純な戦闘能力ならへカーティアの方が上なんだ》
《だがエスカルゴ、それではへカーティアがお前に助力を求める理由が成り立たないんじゃないのか?単独で撃破が可能ならお前に助けを求める必要など無いと私は思うが》
《単純な戦闘能力ではへカーティアの方が上でも、実際に本人と戦ったら、予想もしてなかった事態に陥るかもしれない。そこで、俺なんです。皆が力を貸してくれさえすれば、ゼウスよりも多くの能力を発揮できる。へカーティアと組んでなら、ゼウスを追い詰められる。それに、他の神がゼウスの加勢に来ないとも限りませんし。テュポーンとの決戦時、幽閉されたゼウスを助けに複数の神様が加勢に来た例もありますから》
《理屈はわかるがなぁ……》
《ゼウスは雷使いです。そんなら同系統の力を使う俺は、へカーティアの盾に成れる。というよりも、世界最強と謳われる神の力を喰らってみたいっつー気持ちも多少はありますけどね。俺がどこまで神の中の神の放つ雷に耐えられるのか……》
《面白いじゃないか神奈子!なァ、エスカルゴよ!我の雷とゼウスの雷、どちらが強いか存分に試してみるがよい!戦え!戦え!》
《間違いなくゼウス様の方が強いわよん》
《俺もそう思うよ》
《なん……だと……!?》
《ゼウス様の雷は宇宙を焦がすと言われてる程よ?あなたのも強いけど、精々キロ単位のクレーターを作るくらいでしょう?比ぶべくもないわ》
《ぬぅ……!》
《キロ単位のクレーターを作るのだって十分ヤバい強さなんだけどね。でもゼウスと比べると……ね》
《ねぇ、エスカルゴくん?勝ち目はあるの?》
《……ゼウス以外の神ならね。でもゼウスは別格だ。へカーティアとちゃんと組んで漸く勝てるって感じだろうと思ってるよ。実際のゼウスは俺の予想とかよりもヤバいんだろうから》
《……分かった。私は、力を貸すわ。その代わりって言ってはアレだけど……。絶対に帰ってきなさいね。へカーティアさんが負けました、エスカルゴくんも山とか以外の方法で封印されました〜では、最悪のシナリオなのよ?》
《ん……分かってる。気を付けるよ》
心配そうな声で警戒を促そうとする袿姫。やはり彼女は優しい。畜生には邪神とか言われているが、別に邪神っぽくはない気がする。
こんなに親切でフランクな神様のどこが邪神か。確かに、気配が禍々しく感じた事もなくはないが……畜生界の空気が澱んでいたからかもしれない。
《……母さんも、手伝ってくれる?》
《……。ええ、そうね。全力でサポートするわ。でも私は、あまり神殺しとかはしてほしくないな、って思っているの》
《まぁ……だよね。母さんも神だもんな》
《それもあるけれど……何より、あなたにそこまでの大罪を背負ってほしくない。分かるでしょう?》
《……うん。分かるよ》
《神殺しとか、それ程の大罪を犯すのはこれきりにしてくれる?》
《…………ごめん。約束はできない》
《……》
《この先、何があるか分からない。悪神が幻想郷に来たり、子供達や彼女達が酷い目に遭ったら、俺は絶対に報復する。相手が神だろうと、殺してやる。勿論、それ相応の事をされたら、だけどさ》
《うん……そうよね。あなたはそういう子だものね。分かった。でも、これは約束なさい。ゼウスさんもヘラさんも、あなたやあなたの彼女達、子供達とは直接関係の無い神様よね。そういう神様を殺すとか再起不能にさせるのは、今回限りにしなさい。もしこの約束が守れなかったなら、流石の私でも、もうあなたを庇えない。あまりにも危なっかしいわ》
《分かったよ。……まぁ、直接関係ない神様に喧嘩を売ったら幻想郷を危険に晒すだけだしね。大丈夫、今回だけにするよ》
《約束よ》
《うん》
それから更に神奈子様、渋る隠岐奈、ビビる雛、早苗、てゐから無事に了承を得たので、これからは神々の力を使いこなす特訓に移行することにした。諏訪子が案外ノリノリだったのが印象的だ。
次の特訓の場は旧地獄……それからあそこだ。俺が目指すは、天界よりも更に上の遥か彼方────。