「よ、依姫様、豊姫様ぁ!何かヤバいヤツが静かの海に現れましたぁ!!裏側の、都に近い方です!」
「あら。満月でもないのに、どうしたものかしら」
「ヤバいヤツ、とは?」
「なんかなんか、なんかホント、よく分かんないんですけど、血塗れで1人でギャーギャー騒いでて、自分で自分を傷付けてて……!見てるだけで身の毛もよだつような、兎にも角にもヤバいヤツなんです!早く来てくださいッ!浜に居ます!!」
「……お姉様」
「ええ。只事じゃなさそうね」
◆
「────と、玉兎に言われて来てみれば……!何故あなたがまた月に居るんですかエスカルゴさん!」
「悪ィね、急に。依姫に用があってさ。ヤバい奴を演じないとさ、そっちから来てくれないだろう?」
「確かに、通常の侵入者であれば玉兎に対処させていますが!……まんまとあなたの目論見通りにいったワケですね。どうぞそのままお帰り下さい」
「もしも、目的も果たさない内には帰らないよって言ったら?」
「力ずくで」
扇子を構える豊姫と、祇園様の刀を構える依姫。久しぶりにまともな敵意を浴びせられた気がする。何もここまで邪険にしなくとも良いと思うのだが。
「帰らせるなら都を壊す。ここを一歩も動かずとも壊せる。豊姫の能力で追い返したとしても無駄だ。すぐに来るよ」
「……目的は?私に用が、との事ですが?」
「うん。神様の力を使いこなす特訓の相手になってほしいんだ」
「…………はい?特訓相手、ですか?何故そんな……」
「異国の神様と戦う事になって。でも滅茶苦茶強い神様だから、俺も1人じゃ戦えないって判断して、幻想郷とかで知り合った神様達に力を貸してもらう事になったんだ」
「……」
「まぁ……依姫なら分かるだろうけど、神様の力って一朝一夕には上手く使えるようにならないじゃん?だから、先輩である依姫に指導してほしいというか相手になってほしいというか……そんな感じだよ」
「それだけ……ですか?」
「うん、そんだけよ。シンプルだろ?」
「…………」
はぁ、とあからさまに大きな溜め息をつく2人。双子なのではと勘ぐってしまう息のピッタリさだ。
豊姫は扇子を閉じ、依姫は構えていた刀を地面にサクッと突き刺し、警戒を解いた。どうやら、俺に敵意が無いことを理解してくれたらしい。
「────私があなたの相手をする義理など無いのですがね。ですがこの際、仕方ありませんね。都を盾にされては逆らえないですし……事実、あなたにはそれを可能にしてしまう能力もある事ですしね」
「そっか。ありがとな。いや俺だって都を盾にするクソみたいな事はしたくないんだけどさ、そうでもしないとお願い聞いてくれねぇじゃん?」
「当たり前です。ですが……あなたを追い出すという建前があれば、そのような事も可能にはなります。一応は、ですがね。……お姉様、ここは私に任せて、お姉様は兎を連れて先に戻っていて下さい」
「ええ、そうするわ。エスカルゴくん、疲れた時は桃を食べるとイイわよ。水分補給にもなるからね。その辺の木のヤツは好きに食べて良いわ」
「お、マジ?サンキュ!姫とか永琳へのお土産にも持ってこっかな。よっちゃんも食べる?」
「要りません」
「せいぜい地形を滅茶苦茶にしないことね〜」
後ろ手に手を振り、後方の茂みに隠れていた兎を引き連れて、豊姫は宮殿の方へ戻って行った。漸く依姫と2人になれた。
思う存分力をぶつけ合うとするなら今しかない。
「ったく、何故『よっちゃん』などと……!あなたは少し馴れ馴れし過ぎます!言っておきますが、私はあなたに心を許した覚えはありませんから!」
「うん、俺もよっちゃんに心を許した覚えはない。でもまー、堅いことは抜きでイイじゃん?もうさ、何回も戦ってきた仲だし?」
「どうでもいいですね。さっさと始めましょう?」
「……つれないなぁ。ま、イイけど」
俺は手元にスキマを開き、そこから一振りの剣を取り出す。十拳剣の1つで、武甕槌命の御神体とも言われる、あの剣。布都御魂剣だ。
かなりの長剣で、手にズッシリとクる。普段から使っている妖魔雷霊剣や暗黒斬月剣とは違い、重い攻撃が繰り出せるのが強みだ。
「それは……ッ!あなたも神の……得物を……?」
「そ。武甕槌命から賜った布都御魂剣。本物の神器だぜ、コレ」
「武甕槌命?……成程、あなたが。
「決別?」
「────何年も前の事ですが……私があの方の力を借りようとした際、ハッキリとこう仰ったのです。
『もうお前に力を貸さぬ。漸く我と相性のいい器を見つけた』……と。神器は、存在する神の力を納める器と言っても過言ではありません。手にするだけでその神の力をある程度は扱えるのですから。そして神器を与えられた者こそが、神の器なのです」
最近どこかで聞いた話をこんな所でも聞くとは。建御雷もモルモー達を切ったへカーティアのようなことをしていたらしい。
成程、エリスが「神は裏切るわ」と言った理由がよく分かる。切られた方としては確かに裏切られた気持ちになるだろう。
その点、依姫がそう騒ぎ立てないのは、とっくに多くの神々の器だったので、気持ちに余裕があったという事なのだろう。
モルモーやエンプーサ達には、へカーティアしか居なかったのだ。それなら、エリスには誰が居たのだろう。
……考えないでおこう。元彼とかそれに近いのは、どうにも俺の気分が悪くなる。吐き気を催す程に。
「……ああ、そういう事。依姫は祇園様の器なんだ」
「はい。祇園様曰く『最も相性が良いのが依姫だ』とのことでした。私は他の神の器でもありますが。証拠に、私の部屋には数多の神器があります」
「凄いな……。やっぱ依姫は俺の先輩だね。色々指導してほしい」
「……良いでしょう。あの武甕槌命があなたのどこに惹かれたのか見極める良い機会です。どこからでも掛かってきなさい。神の力を使ってみなさい。私はそれらを全て往なします」
「お。話が早いな」
「あなたが武甕槌命の器なのであれば、私としてもそれなりの態度で対応せねば、あの方に失礼です」
「俺に失礼だとは考えないんだね。まあ俺は地上の妖怪だし仕方ないか。対話してくれるだけ有難いと思うことにするよ」
「そういう言葉は胸の内に秘めておくものですよ」
「あ、そう?」
「とにかく、器である内は対等に接してあげます。神の器同士、互いにしか理解できない事も多々あるでしょう。ここから先は、侵入者としてではなく、切磋琢磨する同志として剣を交えましょう」
どこが対等だ、というツッコミはしないでおく。それこそ、つい先程の彼女が言ったように胸の内に秘めておくべき言葉だろう。
だが対等に接してくれるだけ有難いというもの。今だけでなく、これからも相手してくれるだろう。武甕槌命の威光に肖るようで、少し申し訳ないが。
《まさか依姫に頼るとはなァ……。コイツの事は苦手なのではなかったか?》
《けど、神様の力を借りて戦う事が多いのって霊夢より依姫だしな。寧ろ依姫はそっちがメインだし。なら頼るしかないわな。てかなんで建御雷と繋がりあるワケ?》
《攻撃的な雷神と言えばこの我を置いて他にない。だからじゃないか?
《ほーん……建御雷は攻撃的だから、建御雷の攻撃も強いのか。性格が表れるっつーのは面白いな》
《お前の攻撃が範囲攻撃主体なのも、お前の性格が広範囲に及んでいる事の表れだと思うぞ》
《性格が広範囲に及んでる is 何……?》
《お前のハーレム?は広範囲だ。それでなくとも、顔も広い。手にかけた種族の幅も広い》
《そんなに殺したっけ?》
《……堕とした種族、か》
《成程》
手にかけたなんて、人聞きの悪い事を。建御雷も俺並に言葉選びが下手なような気がしてならない。イラつきはしないので別に構わないが……。
それにしても、布の隙間から覗く依姫の太もも、あれは何度見ても眼福だ。姉の豊姫の方が胸も足も豊満なのは特に個人的にポイントが高い。
これで経産婦だなんて。ましてや日本の象徴たる天皇の先祖だなんて、信じられない。豊姫の息子と依姫による近親相姦の結果、神武天皇が……。やはりにわかには信じ難い。
「なにを余所見しているのです?行きますよッ!」
「!!」
倒れるかのような前傾姿勢で、急加速してくる。間合いに入るのと同時に左下段に構えた物干し竿の如き剣を、一息の内に振り上げる。
「くぁっ……あっぶねっ……!!」
砂浜故か、砂に足を取られ体勢を崩してしまい、ほんの僅かに回避が遅れる。それでもどうにか重い布都御魂剣を依姫の剣が通るであろう道筋に翳し、彼女の剣戟を受け流す。
そして、刃と刃が触れ合っている1秒にも満たない隙を使いカウンターを仕掛けてやる。
「フッ……!」
「きゃっ!?」
剣を受け流しながらその方向に倒れるように足を払う。剣を振る事により力がそちらへ流れるので、依姫も祇園様の剣と同じ方向へ身体が傾く。
しかも俺の速さや力などは、手加減をしていても地上での凡そ6倍。依姫は身体を倒すどころか横に倒れながら宙に浮き、そんな体勢では受け身すらもロクに取れないので、横腹を打ち付けるようにして崩れ落ちてしまった。
「っ……クッ!」
「うおっ!?」
身体は倒れたまま剣を砂浜に刺し、複数の刃にて俺を囲んできた。四肢は絶妙に絡め取られてしまい首しかまともに動かせない。
無理矢理に抜け出すとしてもダルマ状態になる。鎧を纏って抜け出す事も考えたが、神の剣である事などを考慮すると、恐らくだが、鎧ごと斬られるに違いない。
「詰みです。残念ですね」
「まだだ」
「はい?」
「今すぐ俺から離れた方がいいよ。愛宕様の火より熱い火を出すから」
「世迷い言を……。雷神の武甕槌命に力を借りているあなたが、どうして愛宕様をも上回る火を出せるのです?」
「愛宕様より熱い火を使う神様は……きっと居ない。地上には多分居ない。何となくそう思う。でもよ、依姫。
「────ッ!!」
「『
大焦熱地獄の力を瞬間的に引き出して、俺を囲む刃を一瞬で蒸発させてしまった。依姫は当然すぐに飛び退き、俺という熱源から回避してしまう。
もし制御ができなければ都と共に依姫も蒸発しただろう。100%とまでは言えないが、ある程度は制御できて何よりだ。
「直撃は免れたか。でも、熱かったろ?スカートの裾が燃えるくらいにはさ。流石、地獄の女神の力は強力だな」
「地獄の女神だと……!?『
「ッ……!?」
こちらに剣を向けると、剣先に眩いばかりの光が集う。チカッと瞬いた瞬間、マスパの如く放たれたソレを布都御魂剣にて一刀両断しようとするが……。
「うお……マジか……!」
「くっ!やはり武甕槌命が相手では……」
建御雷の方が雷神としての格が上なのか、依姫の放った雷を、この布都御魂剣が吸収してしまった。やはり建御雷、強すぎる。俺の守護神が建御雷で、本当に良かった。
「『雷霤撃波』!!」
「ッ……受け止めろ!!」
俺が鎧を纏うように、依姫も雷を纏った。しかし俺の攻撃が当たるなり、胸を押さえ蹲ってしまう。
同じ属性だから打ち消すのかと思ったが、思ったよりも一方的に攻められるようだ。上位互換という事なのだろうが……もしそうだとするなら、俺の雷の攻撃はゼウスに吸収されてしまうのでは…………?
「こ……このッ!!」
「へへ、遅くなってんぞ依姫ェ!『体内電気』!」
「あぎっ……ぐ、ぐあっ……!?」
「神の剣と言えどもちゃんと金属だしな、柄なんて大した抵抗にもならねー!」
「う、ううっ……これがあの方の……雷……!」
「まだ建御雷の雷使ってない。これは自前さ」
「ッ……!」
「寧ろここからだ。
「え……?」
下半身、そして両腕が痙攣する程に痺れさせたら後はお楽しみタイム。そういう約束は無かったが、構わないだろう。いざという時の手段は沢山ある。
《……やはりお前は下衆だ……。清々しい程に下衆な思考をしているぞ?》
《それが俺だよ、建御雷》
《やれやれだ。こんな奴でも我との力の相性は抜群なのが残念だ。お前以上の器は存在しないだろう。霊愛や霊麗、霊魔はイマイチだろうしな。全くお前という奴は……》
やはり、そろそろ俺も「新しいジャンル」に手を出す時だ。
決意を固めた俺は、桃色の妄想をオカズに生唾を飲み込み、目の前の標的に歩み寄った。
「どんな些細なことにも指導してくれる人は欲しいものだ」みたいな意味でしたっけ。
漫画版儚月抄のラストで、綿月姉妹がぎゃふんするシーンがありますけど、そこに幾つかの刀剣も描写されていますよね。
俺はそれを、布都御魂剣のような「神器」だと解釈しました。ただ、愛剣が祇園様のアレって事で。
あれらの剣について、特に設定無かったですよね?なので神器って事にしました。