※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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叛逆戦争の序章

《ハァイ、エスカルゴくん。準備はイイわね?》

 

《……うん。集合場所は?》

 

《摩訶鉢特摩に来なさい。加護し(まもっ)といてあげる》

 

《了解》

 

 硬いものを破壊する特訓、及び袿姫とも交わった数日後。とうとう、へカーティアから決戦の日時を伝えられた。それが今日。

 暦の上では残念ながら仏滅なのだが、寧ろそれがイイかもしれない。これから倒すのは仏ではなく神だが、悪魔の俺には仏滅が合っている。

 決戦というワケで、異変に赴く時の霊夢の巫女服よろしく、俺の勝負服ことへカTにも、アレンジを加えてある。表はそのままだが、黒無地の背中には白の逆五芒星を刺繍した。逆五芒星────悪魔の象徴、つまりはデビルスターである。

 

 

 ◆

 

 

「あ、来た来た。ねぇ聞いてよ!宣戦布告したら、凄い事になったのよ!もうねぇ、大パニックなの!青ざめるヤツも居れば慌てて逃げるヤツも居たし、まァ予想の範囲内ではあるけど、慌てっぷりがもう面白くて面白くって!数万年は笑いのネタにできるくらいなのよ!あなたにも見せたかったわ〜!」

 

「そ、そっか……」

 

「元気少ないわね?どうしたの?」

 

「んー……まー……色々とさ。思う事があるワケよ、俺としても」

 

「ふぅん?言ってみなさい、それで楽になれるかもしれないしね」

 

「……うん」

 

 本人には言い難い内容だからこれまで言わないでおいたし、できるだけ考えないようにもしていた事なのだが、いざ本人を前にすると……やはりあの事が頭に過(よぎ)ってしまう。

 自分で思うが、俺は知的好奇心は割とある方だ。そんな俺が、こんなモヤモヤするなら知らなければよかったと思ってしまう程に言い難い事なのだ。

 だが仕方ない。こんな気持ちでは戦える筈も無いだろうし、何より気持ちよくない。確認をしよう。そう、あくまでただの確認だ。

 

「……確認なんだけどさ。へカーティアは純狐の友人なんだよね?」

 

「?そうだけど……何を今更?」

 

「ううん。ただの確認だよ。ただのね。……まさか、とは思うけど……。こんな事言うのも烏滸がましいし畏れ多いんだけど…………」

 

「んん?何よ、あなたらしくないわねぇ。ハッキリ言っちゃいなさいよ。私達の仲でしょう?今更何を言っても怒ったりはしないわ」

 

「じゃあ言わせてもらうね。へカーティア、まさか純狐を裏切ったり……騙したりしてないよな?」

 

「……………………どういう意味?」

 

「この前、もっと深くへカーティアを知りたいって思って、ヘカテーに纏わる神話や逸話とかを兎に角調べまくったんだ。そこで初めて知った事が、少しへカーティアを疑う原因になったっつーか……さ」

 

「……」

 

「へカーティア……ヘカテーは、今でこそギリシャ神だけど、その実、へカーティアの由来は遥か遠方のエジプト神話……の、ヘケト神なんだろ?」

 

「……。そうねぇ、ものすっっっごく昔の話だけど。それがどうかした?」

 

「そのヘケト神は蛙なんだろ?」

 

「!」

 

「蛙の姿、または蛙の頭部をしてる女神……だっけ。そういや嫦娥のヤローも蛙なんだよね?」

 

「……何が言いたいの?」

 

「嫦娥=へカーティア……っつーのは?」

 

「ほうほう?でも別人よ?」

 

「神について調べてると、よくあるよね。同一視。例えばへカーティアはアルテミスと同一視する事もあるらしいよね?一般論では無い方(マイナー)だけど、同一視されてるっちゃ〜されてるようだしね」

 

「……」

 

「つまりエジプト神話のヘケト神がギリシャ神話のヘカテーに成り得るとするのなら……ギリシャ神話のヘカテーも中国神話の嫦娥に成り得る……。どちらも月関連の神だ、共通項はある。ヘケト神の例からも分かる通り、同一視は神話をも超えるんだ(・・・・・・・・・・・・・)」

 

「…………」

 

「じゃあへカーティアがここに居るって事は、今頃エジプト神界にヘケト神は居ないのかな?いいや、それは違うね。ヘケト神もへカーティアも、同時に存在している。同一視っていうのは、同じと看做すという事。決して、同一人物と決定付けるものではないから。とはいえヘケト神とヘカテーに限っては同一人物の可能性も無くはない。同一視(・・・)というより由来(・・)だから」

 

「イマイチ回りくどいわねぇ」

 

「嫦娥と純狐がイタチごっこを続けてるのは裏からへカーティアが手を回してるんじゃないのか?って思うんだけど、どうなの?」

 

「それは無いわねぇ……」

 

 言うと思っていた。それは無い(・・・・・)。だがそれは更にへカーティアへの疑念を深めてしまう言葉だった。

 へカーティアの強さを知っているからこそ余計にその言葉が信じられないのだ。

 

「無いって……だってッ……それはおかしいだろ!?へカーティアが、依姫に負けるワケねェだろう!?豊姫に負けるのか!?サグメに負けるのかよッ!?俺が囮やってへカーティア、純狐、ピースの3人で攻めたときに言ってたよな!?綿月姉妹とサグメが嫦娥への道を阻んだってさ!!」

 

「そうねぇ」

 

「3対3だッ(・・・・・)!ましてやへカーティアだ、純狐だ、純化されたピースだ!本来なら、本気なんか微塵も出さずに都ごと秒殺できんだろ!?本気だったら、どうしてあん時にそうしなかったッ!?」

 

「んー……勝負は楽しんでナンボだし?それに、もし嫦娥を殺したら……怨みを糧に存在を維持していると言っても過言ではない純狐がどうなるのか、私にも予想つかないもの」

 

「……ッ!」

 

「あなたも知ってる通り、私は勝負を楽しむ傾向にある。そして純狐は、月の賢者達との知恵較べをも楽しむ程に余裕があるわ。復讐に燃えているように見える……いや実際そうなんだけど、それでもただの復讐の為に月に行ったワケじゃないしねぇ……」

 

 確かにその通りだ。ご尤もな返答だ。けれども、これだけで疑念が消えるはずもない。

 

「もう1つの根拠は、この、ゼウスへの叛逆だ!」

 

「!」

 

「ゼウスを倒す事はギリシャ神界のみならず世界を手に入れるのに等しい……!それ程ゼウスは神の中の神だから!でも月には嫦娥という裏の主的な神様が存在している!そしてへカーティアは、月の地獄の女神でもあるんだ、月を手に入れたいと考えたって不自然じゃあない!ゼウスを倒す事は地上、天空を手に入れるのと同義だから、それと同じ事で、月を手に入れようと画策してもおかしくない!」

 

「もし私が嫦娥やそれに類する存在なら、もう月は手に入れてることになると思うけれど?」

 

「いいや、手に入れてない!あくまでそれは嫦娥、同一視されているだけのへカーティアは、まだ月を手に入れていない!」

 

「ふむ?」

 

「でもへカーティアは純狐は友人だと思ってるから友人の前で嫦娥は殺せないんだ!復讐が果たされたそのとき、純狐がどうなるのか分からないから……!だから、表向きには『勝負を楽しんでる』と言っているがその実、イタチごっこを演じてるだけ……!」

 

「面白い仮説ねぇ」

 

「へカーティアの3つの身体は月、地球、異界だ。だけど3ってのはとても安定した数字で、それぞれ別のものをも司ってるんだよな。例えば、そう……。上弦、満月、下弦という月の三相や、処女、婦人、老婆という女性の三相……過去、現在、未来、という時の三相も表してるんだよな?」

 

「!」

 

「エジプト神話、ギリシャ神話、中国神話……偶然か分からないけど、これも『3』だよな」

 

「……そうね」

 

「そして、もし嫦娥がへカーティアのような要素を持つなら…………いや、違う」

 

「?」

 

「嫦娥がへカーティアの要素を持つんじゃあない。へカーティアが嫦娥の要素を持つんだ。ギリシャでへカーティアが三相というものを司るようになったのはエジプトと中国を経由しギリシャに来たから。つまり前後関係が違うんだ。嫦娥は、へカーティアから見て昔の自分のような存在なワケで……」

 

「ワケで?」

 

「へカーティアが嫦娥を殺したいのは、太陽とかの件もあるけど……未熟な頃の自分を消してしまいたいから、に近い動機があるとか……?」

 

「未熟な頃の自分……って……同一視の定義から少しズレてるわよ?あくまでも同一人物じゃないのよ?同一視ってのは」

 

「うん。分かってる。でも、定義の仕方によっては同一人物であり同一人物ではないっていう、矛盾を有した状態にできるよ」

 

「……へぇ?」

 

「コピーみたいなもんだと俺は思ってる。例えば、ヘケト神が1のデータを保持したままで中国神話の嫦娥と成れば、ヘケト神の1と嫦娥の2といった、2つのデータを持つ事になる。そんな嫦娥、またはヘケト神が今度はギリシャ神話のヘカテーと成れば1と2に加えてヘカテーの3というデータを得る。神とはあくまで信仰される事により存在するから、本体が他所に移動してもその地の民が信仰する限りずっとヘケト神、または嫦娥は本体が居なくても、その地に存在できるんだ。ヘカテーも同様にね……。幸いにして、ヘケト神も嫦娥もヘカテーも、母さんみたいな唯一神じゃあないみたいだし、この仮説は十分成り立つだろうさ」

 

「……」

 

「そのせいで別人なのに同一人物でもあるとかいう特異な存在が完成しちまうんだ。本質は違うけど、例えるなら日本で言う分霊に近いかな?本体が他のデータを得てその地を移動したとしても、データを得る前の本体同等の力を持った分霊が居たのなら……その地でその神が消える事は無いしね」

 

「……」

 

「そして、さっきも言った通り『3』とは安定した数字。安定したせいでこれ以上は神話を……データを増やせないんだ。だからへカーティアは、ギリシャ神話の中でも飛び抜けて神徳や神格が多くて、司るモノも多いんだ。そして、ゼウスに叛逆するのは、そんな成長できない自分をもっと成長させる為……。ゼウスが認めてくれないってのも、動機の一つではあるんだろうけどさ」

 

「成程。これ以上神徳を、神格を増やせないから、ゼウス様を倒し本格的に成り上がろうとしてると。そういう事?」

 

「うん。ゼウスを倒せば世界を手に入れるのと同義なら、今より神徳とかも増えるに違いない。それに伴い、やれる事も増える。……本物の嫦娥を消して、偽物の嫦娥を据え置く事も可能になるんじゃない?そうすれば実質的に月はへカーティアのモノだし、復讐を果たした上で、純狐の存在も保たれる……!」

 

「フフ……妄想もそこまでいくと一つの神話みたい。でも残念、中国神話は経由してないわ。だから私と嫦娥は同一人物ではないし、同一視も不可能なの。そもそも嫦娥は月の女神、私は月の地獄の女神よ。管轄が別だからねぇ……」

 

「アルテミスはどう?月の女神でしょアルテミス。セレネもね」

 

「アルテミス?セレネ?彼女達がどうかした?」

 

「さっきも言ったマイナーな説だけどさ。月の女神であるアルテミスとヘカテーを同一視する説も一応ある。連想ゲームじみてるが、嫦娥とアルテミスを同一視するならヘカテーとも自然と繋がってくる。セレネともね」

 

「なら尚更、私=嫦娥説は外れだわね。ヘケト神は多産や出産等を司るけれど、ヘカテーとしての私はそれに類する助産をも象徴としている。ヘケト神の私としての名残があるからね。けれど嫦娥には出産だとか助産だとか、そういった神格などは無いの。それが、私と嫦娥が全く別である証拠と言えるわ」

 

「なッ…………!」

 

「その同一視・分霊説は面白いわねぇ。でも惜しいわね、私の『3』は3界の『3』、三相の『3』で三神話の『3』というのはちょ〜っと違うわ〜」

 

「じゃあ……俺の説は間違ってるんだね」

 

「そうね。残念だけど」

 

「そっか。……良かったよ、外れてて。これでもし、へカーティアが嫦娥や嫦娥要素を持つ神だったら、俺、どんな反応すりゃいいのかわかんねーもん」

 

「茫然自失……って感じになっていたかもね。これで私への疑念は晴れたかしら?」

 

「うん。でもやっぱチート級に司るモノが多すぎる気がするけどね。同一視された神の多さ、繋がりを考えりゃあ自然な事か」

 

「ええ。そういう事よ。スッキリした?」

 

「まーね。疑ってごめん、へカーティアを疑うとかちょっとどうかしてた」

 

「ゼウスが相手だけに、思い詰めすぎたのかしら。仕方のない事だわ。だけどそれも、勝ってしまえば終わりよ。約束通り、『ご褒美』あげるからねっ♡頑張ってね、応援してるわ♡」

 

「うん。神様達から力借りて、ガチるよ。ま、俺の主な目的はヘラなんだけどさ……」

 

「そっち終わったら手ェ貸しなさいよねー?」

 

「分かってる。オリンポス山のどこか……に、居るんだよね?」

 

「ええそうよ。十二神は主にそこで活動している。さ、行くわよ!」

 

「ウッス」

 

 へカーティアが魔法を使うと、次の瞬間には俺は雲の上に居て……ここが現実のオリンポス山ではなくギリシャ神界のオリンポス山に居るのが、目で見て肌で感じ取った。

 まるで天子の実家のある天界のような美しさで、妙な華やかさもある。だが山頂にある神殿のような豪華絢爛な建物からは、建物の華やかさを掻き消す凄まじい殺気を感じられた。

 

「へカーティア……宣戦布告って、何を言ったの?」

 

「え?決まってるでしょう?宣戦布告は宣戦布告、それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

「だから、なんて言ったの?……ただならぬ気配だよアレは。どう焚き付けたらこうなるんだか、俺には理解できねー」

 

「んもう、実に普通だってば〜。『私、近いうちにギリシャ神界乗っ取るから楽しみにしてて♡』って意味の事をゼウスに言っただけよ」

 

「主神に言ったの!?ねぇ主神に言ったの!?」

 

「そりゃあ宣戦布告だもの、標的に直接届けないと何にも意味無いわ」

 

「……そんで、ゼウスを慕う者達が待ち構えてると。あーあ、ヘラ殺しに行けねぇじゃんこれじゃあ……。マジで神と全面戦争とかゴメンなんですけど!?」

 

「でもでも、山に建ってるってことは諏訪子さんの地面の能力も使えるわ?」

 

「はぁ〜っ……他の神様達(みんな)には『クソ強い奴と戦う』としか言ってないんだけど……」

 

「間違ってないし、気を重くする必要は無いわよ。それに、来てしまったモンは仕方ないよねって皆も腹を括ってくれるわ」

 

「それもそうだけど。いや、もう俺も腹を括るわ。気を付けて戦う事にするよ」

 

「……良い目ね」

 

 そう言ってニッコリ微笑むと、俺が普段子供達にやるようにポンポンと頭を撫でてくれた。やる側の俺がそうされるのはやはりどこか慣れなくて、少しむず痒さを感じる。

 それでも、戦闘前であるにも関わらず勝手に頬が緩んでしまうのを自分でも感じ取っていた。

 

「────ヘラは神々の女王よ。貴婦人姿で王冠を頭に、王笏を手に持ってる。雑魚とゼウス様は私が引きつけるから、あなたは光学迷彩で忍び込んで、さっさとヘラを無力化してやりなさい」

 

「了解、ご主人様」

 

「よろしい。それじゃ、叛逆戦争スタートよっ♡」

 

 月の球体を頭に乗せたかと思うとへカーティアは神殿へ向かって急加速した。すると神殿からは目に優しくないギラギラとした甲冑などを着けた神々が飛び出してきて、へカーティアを迎え撃つ。

 不可能弾幕のような凶悪な弾幕を放ち神の軍勢を斥けつつあるが、俺は自分のやる事を思い出して、光学迷彩スーツを取り出しスイッチオン。そして、スキマを開き神殿の傍に移動し、侵入した。

 神々の王がゼウスなら、妻のヘラは神々の女王。成程確かにそうだ。けれども、そう呼ばれるのなら玉座の間のような部屋があるはず。

 まずはそこを目指す事にした。

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