「ヘヘッ、どーもヘカテーさん。あん時ゃどーも」
「あらヘルメス、久しぶりねぇ。私の前で隠れ兜を脱ぐなんてどうかしてるんじゃない?命知らずね。それとも私はギガース以下の
「いやいやそうは思ってないですよ。ま、ギガントマキアじゃトップクラスに活躍した仲っしょ俺達?喋ってる間なら手は出さないって思ってるしね」
「どんな仲よ。言っとくけどあんたみたいな──」
「軽い男は嫌い、でしょ?」
「分かってるじゃない。
「ヒュ〜、辛辣ゥ。ところでその『彼』ってのは、神殿に潜り込んだ蝙蝠の事ですかね?さっき、朧気ながらも気配感じましたよ?」
「!」
「目を掛けてるとこ申し訳ないですけど、今頃もう跡形もなく消し飛んでると思いますよ〜。なんせ、神殿には我らがゼウス様が控えていますからね」
「ッ……!?」
「ヘヘヘヘッ、流石に誤算っしょ?これまでどんな戦いでもあの方は前線に出てきていましたからね。大方、今回も俺らの背後で指揮を執っているとか、そう思ってたでしょ。でも今回は違う。……アンタが相手だからだ」
「……立案はあんた?狡知の神でもあるしねぇ……」
「ヘッヘヘ……。他でもないアンタだからな、今回は本気なんだ、
「あんたには分からないでしょうよ。オリュンポス十二神であるあんたにはね」
「……それっすか。やっぱそれですか。だからって、本当に裏切っちまったんですか、ヘカテーさん……?俺達ギリシャ神を……ギリシャ神界を……ッ!」
「ええ」
「ッッッ……」
「ごめんね、ヘリオス。悪かったとは思うわ。でも私、昔からこうなの。自分の好奇心を満たす事しか興味無い……いや、興味を持てないの。自分以外殆ど全てがどうでもいいの。認めてくれさえすればね。なのにそれが無いから……もう、どうでもいいのよ」
「そう、ですか。それがアンタの決意ってんなら、倒してやり────」
ヘリオスが隠れ兜を再び装備しようとした瞬間、へカーティアの月の球体が、無慈悲にも彼の胴体を貫いた。隠れ兜は冥界の王であるハデスのものだ。王が使うというだけでその効力には確かな説得力がある。故に、へカーティアでも対応ができなくなる前に、早々に決着をつけたのだった。
「ゴブッ…………ウソ、だ……ろ…………!?」
「ついでにこの隠れ兜は私が頂いてくわ。後で彼に渡しちゃお♡」
「俺への……当てつけ、かよ…………ク、ソォ……」
球体にヘリオスの身体を引っ掛けて引き寄せる。そして彼が手に持ったままの兜を強奪すると、彼を放り投げるように鎖を操り、その遠心力で鎖を抜きヘリオスを彼方へ吹き飛ばした。
「アフロディーテを口説き切れずに、鷲に盗ませた黄金のサンダルとの交換条件を出さないとヤレない男に用は無いわ。自分の力でどうにかしなさいよ。何よ、ゼウスに鷲を借りるって。情けないわ。一瞬でもあんたを好きになりかけた当時の自分を殺してやりたいくらいよ」
「ッッ…………!?」
「そんなダサい手を使うなら
ギリシャ神は、その不死性故に決して死なない。だから胴体を貫かれたヘリオスとて死にはしない。それでも、もう二度と会いたくないという、自分の過去と決別する為にも、へカーティアはそのように呟くのだった。
◆
「あなた……本当に大変な事になったわね……」
「うむ……よもや、ヘカテーがな……。だが、流石の奴も余には敵わぬ。油断はせぬが、そこまで問題は無かろう。……ウーラニア、アポロンによれば、この神殿に1人の悪魔が侵入すると言っていたが……危惧すべきはそちらかもしれぬな」
「ッッ……!?なんて事……神々の包囲網を突破し、あまつさえ侵入するですって!?悪魔が!?嫌だわ穢らわしいッ!!」
「……」
「ウーラニアとアポロンは何と言ったのっ!?」
「『悪魔と神々が手を取り合う時、世界は一変す。吾が世には、大いなる災いが襲い掛かるであろう。主神は挿げ替えられ悪魔は付き従う』────だ。2人の予言はピタリと一致しておった。疑う余地は無いと考えていいだろう」
「何ですって……!?」
「事前に予言を得ておればこんな事にはッ……これも天の定めか。運の尽きか。アテナに叛逆されぬよう運命を変えても……何れはこうなる……のか……」
「どうすればいいの……私はっ……!あなたがもしも封印なんてされたら、私はッ……ああぁぁっ……」
「ヘラよ。元から、余はこうなる運命だったのだ。なまじ悪足掻きをしたばかりに、今の生活が惜しくなってしまったがな」
「あなたッ……」
「だが余はゼウス。全知全能であり神々の父であるゼウスだ。我が世の滅びの運命、再び逆転してやるのみだ。ヘラ、お前も気を強く持て」
「……はいっ……」
◆
俺は、だだっ広い神殿の中を反響定位を使いつつ歩き、遂に2人……いや、2柱を発見した。ヘラが、何故かゼウスに泣きついている所だ。
どうせ、ギリシャ神の事だ。アポロンから神託を受け取りそれに対抗すべく作戦を練ったのだろう。俺達はゼウスも前線に出ていると予想していたが、この玉座の間らしき大広間に居る事にもそこまでは驚いていない。
そもそもの話だが、主神が表に立って戦争に顔を出す方がおかしかったのだ。寧ろこれこそが普通と言えるだろう。問題はへカーティアが無事かどうかだけだが……へカーティアの事だ、問題ないだろう。
それにしても、ヘラのあのセリフには腹が立つ。まるで自分は何もされずゼウスだけが酷い目に遭うとでも思っているかのような、あのセリフだ。
先程の「あなたがもしも封印なんてされたら……」というセリフ。実は俺としては内心ブチギレそうなセリフだった。「お前だよ標的はッ!!俺の標的はお前だ!!」みたいに、叫びたかった。
「……よし、殺すか」
きちんと存在しているのであれば、《目》を潰すだけで壊せる。問答無用でだ。仮に殺せなくても、誰かに肉片を組み立ててもらわなければ復活は絶対不可能。何ともまぁ、不便な不死性だ。思わず鼻で笑ってしまいそうだ。
《エスカルゴくん、そっちはどう?》
《見つけた。ヘラとゼウスは玉座の間で2人揃って玉座に座ってる。でも、ゼウスは甲冑みたいなのを装備してて、何か……独鈷みたいなのを持ってるな。アレがキュクロープスの作ったと言われる雷霆か》
《甲冑……成程、『恐怖』ね。ならエスカルゴくん、分かってると思うけど……》
《正面から見ること
《確かそうよ。直視しても大丈夫ならそうなるわ。悪いけど、私もアレについてはよく分からないわ》
《そっか。……殺っていいよね、ご主人様?》
《ヘラはね。ゼウスは私の獲物よ》
《分かってる。とはいえ、ヘラを無力化したらすぐゼウスも動き出すよね》
《そうね。こっちはまだ片付きそうにないし、少し足止めしてて。『待て』なんてできないでしょ?》
《『待て』は無理だわ。でも足止めは…………うん……できるかな……》
《あなたならできるわよん。じゃ、切るわね。10分以内にそっちに行くわ》
《了解。……待ってるから》
《女の子みたいなこと言わないの。じゃあねん♡》
ブツン、と通信は途切れた。それから、深呼吸を数回繰り返して心を落ち着かせて、愛する彼女から受け継いだあの能力を発動させる。
「個人的な恨みはねーが……娘の頼みだ。娘の為なら神だって殺してやる。ラミアを呪った自分を恨め。破壊符『
瞬間、ヘラは木っ端微塵に弾けてしまった。