ある日、あの管狐こと典が、龍の使いとして俺の元にやってきた。その時俺は初めて典の飼い主が龍である事を知ったワケだが……ともかく典は、主人の前では初対面のフリをしてほしい、と懇願してきたので、1発済ませた上で、典に連れられ妖怪の山の頂上にて控えていた龍と集合した。
しかしそこには、七色のツギハギの布で構成したらしい衣服を纏った、青髪ショートヘアの何者かが龍の隣に居た。
気配から察するに神様らしいが……。
「お連れしました、飯綱丸様」
「ありがとう、典。……コホンッ。数日ぶりですね、エスカルゴさん。先日よりはお早い登場ありがとうございます」
「皮肉ですか?皮肉ですね」
「ええ、まぁそうですね。……全く……典?私が指示しているというのに、お前は何をしているの?」
「すみません、ですがこれには妖怪の山の火口より深い理由がありまして」
「どんな理由よ」
「彼に襲われたのです」
「うぉい典、オメーそれは言わねぇって言っ……」
「それはわかるけど」
「!?」
しれっとバラす典、それに対して典と同じようにしれっと答える龍。似てないように見えて、案外、この2人は似た者同士なのかもしれない。
……何を考えているのか読みにくい所も含めて。
「あら。ご存知でしたか♡」
「私と彼の初逢瀬の前には、とっくに身体の関係になっていたでしょう」
「ふはっ、バレてやんの!」
「彼のベッドの獣臭で分かったわ。慣れ親しんでる匂いだからね」
「それは迂闊でした、以後気を付けます」
「『以後』が無い事を祈るわ」
すると、会話が一段落した瞬間を狙って、虹色の派手女が口を開く。神らしい気配がするにはする。しかし、神奈子様や建御雷に比べるとそこまででもなさそうだ。正直、神としてはそこまで強くない。そんな感じがする。
「……で、飯綱丸?この男が私の協力者ね?」
「ああ
「え?……んん?聞き間違い……かしら」
「いえ本当です。ささっ、軽くでいいので自己紹介お願いします。2人共!」
「えーと、俺はエスカルゴ・スカーレット、吸血鬼です。主に山の妖怪からは『山の英雄』と呼ばれてますが、英雄でも何でもない。あくまで悪魔です。駄洒落じゃあないですよ?」
「ご丁寧にありがとう、神たらしの悪魔さん。私は
「市場の?……宜しくお願いします」
「それで、飯綱丸?ただ彼氏の紹介の為に呼んだ訳じゃないのでしょう?そろそろ本題に入りましょ。
「それがですね……まだ流通させるにはまだ心許ない量しか生産出来ておらず、本格始動はもう少しだけ先になりそうです。流通がスタートしたあたりで、もう一度こうして集まるのが良いかと」
「ふーむ、まぁあなたの事だしそこまで大幅に遅延するという事は無いのでしょうけど。なら、それはそれで構わないとします。……ところで、幾つか彼について聞きたい事があるのだけど」
「はい、何でしょう」
「彼が数多の神の器……なのは分かる。気配からして普通の妖怪、もとい悪魔とは違うからね。けれど……彼から感じられる『気配』の中に、飯綱丸の気配も感じられるのだけど。これは私の気の所為かしら」
「……彼には私の秘密を話しています」
「ッ……あなた、正気なの!?彼氏とは言っても……こう言っては悪いけれど、悪魔なのよ!?」
本人を前にしてよく言えるものだ。俺なら本人を前にしたらこんなストレートには言えないだろう。やはり神様とは、どこか普通ではない。
「さて。あの時は正気だったか定かじゃないです。正直、狂気に陥っていたかもしれない。でも後悔はしていません。
「…………一体、このセンス無し野郎の何がそんなにイイのかしら」
今、なんて言った。このゲーミング・ゴッドは。へカーティアのシャツに対して、今なんて言った。七色の布をスティッキィ・フィンガーズでアリアリアリアリアリーヴェデルチして繋げて、服みたいな形にしただけの変Tならぬ変服ゲーミング女神が。
へカーティアの服に向かって、センス無しだと?聞き捨てならない。あんたの言えた事かよと、少々腹が立って仕方がない。
「……センス無しって、その格好で言う?」
「「ぶふっ……」」
「なッ、何ですってぇ!?」
「俺からすれば……千亦さん、あんたの格好の方が、奇抜でセンス無しだよ。個性くらいさ、別にスルーしてくれればいいのに、何でわざわざそういう事を言うのかなぁ……?ねぇ、龍さん?」
「あ、あはは……それもそう、ですかね……?」
「俺だってさ、センス無しだと思ったよ、あんたの服は。でも、あんたが言わなけりゃ心の中に留めておいたけどね。……神様だからって、平民には何でも言っていいとか思ってません?もしそうならそれは大間違いですよ」
「飯綱丸!私、コイツ嫌い!!」
「奇遇ですね、俺もあんたが嫌いですよ」
「まぁまぁ千亦どの。彼の強さや名声は本物です、あなたとしても彼の顔の広さ等は惜しいのではないですか?彼の他となると、麓の巫女や、守矢神社の巫女くらいですよ?」
「……と言っても、そいつらは手伝ってくれそうにはないものね。……っ……わかったわよ、謝るわ!謝るから!当初の予定通り、手伝って!」
「だが断ります」
「はぁ!?」
「俺が手伝うのはあくまで龍さんの計画。あんたに手を貸すと言った覚えは無いですよ。龍さんの計画イコールあんたの計画だったとしても俺は龍さんの言う事しか聞きません。どうぞ、お1人で喚いててください」
「飯綱丸ー!あんたの彼、強情すぎるわよー!!」
「……エスカルゴさん、ここはひとつ、矛を収めてはくれませんか?後でお相手しますから……ね?」
「やれやれですね。でも、ムカつくのは変わらないですからね。俺、この服かなり気に入ってるんで」
「……」
「……何です?」
「何でもないわよ。言っとくけど私はあなたに力は貸さないからね」
「そうですか。ま、俺はもう多くの神様からお力を賜ってますので。これ以上を求めるというのは強欲ですし、罰当たりというものです」
(………………なんかムカつく、コイツ……!)
何と言うか、千亦とは反りが合わない気がする。服のセンスが合わないのはいいとしても、何故だか彼女にはゼウスやポセイドンなどに見られた驕りのようなものが見えてならない。……そこまで力が強いワケでもないというのに、何をそんなに驕っているのか。神の器と呼ばれる俺にも、理解不能だ。
《すみませんね。彼女、元々は消え入りそうな神様だったんです。それを、私が拾ったというか、力を貸すような形でこうなったのです》
《龍さん……俺はあなたに力を貸したい。なんなら、典でもいいです。でも千亦には貸したくないッ!!俺の時間を、いや俺達の時間を、アイツに使うのはなんか違う感あるんですけど!》
《た、耐えて下さい……私でしたらバタンキューするまではお相手しますから……何なら典も混ぜて3人で楽しむのもアリですし》
《うぅ、良い条件を提示しますね龍さんは……。交渉上手だって天魔様に言われません?》
《よく言われます♡》
《だよなぁ……》
語尾が何となく可愛らしくなっていて、やはり、計算高いのが何となく声だけで伝わってきた。俺もきっと彼女に良いように指示されるのだろう。だが別に、それで彼女達に不利益が生じないのなら俺はそれでも構わないと思っている。
「それにしても、飯綱丸?あなたとこの彼、一応、恋人同士?らしいけれど、お互いに敬語で妙に壁を感じないかしら?本当に恋人同士なの?」
「ええ、そうですけど?ねぇ、エスカルゴさん?」
「そうそう、そうですよ。俺と咲夜さんなんて結婚してから何年も経つのに互いに敬語のままだしー、カップルの在り方なんて、千差万別でいいと思うんですけどー?疑われる筋合い無くないWOWWOW」
「だってそう見えないんだも────ッ!?」
本当にうるさいヤツだ。依神女苑の方がまだ少しマシに思えてならない程度には、千亦に対して軽くイラついてしまっている。
だからそんな千亦を黙らせる為に、敢えて彼女の目の前で、更に無言のまま龍の唇を奪って見せる。
「わぁお♡……飯綱丸様のトロ顔、写真撮りたい♡」
「……これでどうです、千亦さん?」
「は、ははっ……ハレンチだわ!この男、サイコーにハレンチだわ!あーもう、やだやだ!よくもまあ、そんなイケナイ方法を執れるわねっ!」
「龍さんが抵抗しない事が恋人同士である何よりの証です。OK?」
「はいはい、オーケーオーケー!じゃ、今日は解散という事で!後日、招集かけるからまた集まる事!迅速にね!」
「だからあんたの言う事は聞かねェっての。ねー、龍さん?招集かける時は龍さんが呼んで下さいね、そうじゃないと俺、応じないんで」
「え〜?私はどうですかぁ?」
「典は……まぁ、うん」
「もー、濁さないでくださいよー♡」
「ちょ、龍さんの目の前なのにくっ付くなよっ……」
「いーんですよ、もう知られてるんですから♡」
助けを求めるように龍を見るも、ただ、苦笑いを返されるのみだった。典がこういうタイプなのは、飼い主としてキチンと把握してはいるらしい。
何やかんやで、俺も管狐に取り憑かれそうだ。
「はぁ……。ところで龍さん、千亦さん。さっきから
『流通』ってワードが出てるみたいですけど、一体何を流通させるんです?」
「それは……完成してからのお楽しみです♡」
…………何となく、じわりとシャツに汗が染み込むように、彼女の言葉が、声が頭に浸透する。そして何だか嫌な予感がしてきてしまった俺であった。
千亦、かなり可愛いよね……あんな派手な格好をしているだけに、普段着を見られたら酷く焦りそう。