勘に頼って飛び立った霊愛は、一先ず妖怪の山へ向かうことにした。しかしその道中、眼下に広がる魔法の森から、カードを数枚手に持って飛ぶ緑色を基調とした服の緑髪の少女がフワフワ飛んできた。
「見付けた。そこの山童の売人、動くな!」
「ふぇあっ!?次代の巫女!?ウソ、なんでこんな最悪のタイミングで来るのよぉっ!!」
「あんた……手に持ってるそれさ、アビリティカードだよね?売人でしょ?なら、お母さんに追い付くついでに、情報吐いてもらうよ!さもないと倒す!実力行使に出る!」
「今は疲れてるから休ませてよぉ〜っ!」
「問答無用!霊符────」
「うわあぁぁん!赤い通り魔の娘も通り魔だぁぁ!森符『真・木隠れの技術』!!」
「……!うわ、めっちゃヤラシイカーブじゃん……!お父さんならこれ発狂してたな……」
葉っぱのような形をした緑色の弾幕が五つ連なり左右からカーブを描きながら飛んでくる。しかし、そのカーブの角度たるや、そんじょそこらのカーブなんかとはどこか違う。
────そうだ、こちらに向かってくる時はまだ普通のカーブなのにこちらに届く頃には
更には、本体が移動する事により発射地点までも少しずつ変わっていき、カーブの度合いも逐一変化していく。……上等だ。
「霊符『二重結界』!」
「左右に結界をッ……!?」
「冷静に冷静に。ヒートアップしたら負けるよ私。
……よし、とりあえず攻めよ」
「『とりあえず』で攻めないで!?」
「うるさいよ山童、風呂上がりか何か知らないけどホカホカしてんじゃん。泥んこ塗れにしてやるッ!霊符『夢想封印』ッ!!」
「これならどうだ〜!森符『真・最奥の森域』!」
「っ……最奥?」
「……?」
「フヒッ♡……なんかエロい響きかも……♪」
「はああぁぁ〜〜〜〜っ!?」
そう思うと、何だか少し気持ち悪い笑いが漏れてきてしまった。
彼女から全方位に放たれた弾幕は、一度は彼女の周囲で網目状を描きそこからバラバラと放たれる。キチンと線を描いているワケではないのに、地味に連なっていて絶妙にやりにくい。
しかし先程の夢想封印が弾幕を掻き消し、彼女へ一撃、二撃と僅かにダメージを与えた。もう少しで倒せる。
「これは……さっきのと違って距離取った方が密度が薄くなって楽になるパターンだね。さっきの方が、私にとっちゃ難易度高かったかな」
「くっ……!幾ら次代の巫女だからって、そう簡単にこの私が負けてたまるもんですか!葉枝『グリーントルネード』ッ!!」
青白い弾幕を核にしているのか、その周囲をグルグル周回するように緑の弾幕が動いている。しかもそのトルネードは大きさを常に変えていて、大きくなったり小さくなったりを繰り返していて、とてもやりにくい。
「私のフツーの夢想封印じゃ相殺に限界があるか。ならいいよこれでキメてやる!素直に吐かなかったこと、後悔しな!これ以上、相殺なんてさせない!霊符『夢想封印 夢幻』!!」
「ふぎゃああぁぁあ〜〜〜っ!!」
それからこの山童……山城たかねに尋問。カードの出処は、妖怪の山において山童や河童などより上の立場である天狗なのだそう。
ただし、彼女は天狗から直接買ったのではなく、山の某所に居る山女郎から卸していたのだそう。
曰く、彼女は妖怪達の為の賭場を経営している。曰く、彼女は煙草を好みドラゴンを象ったキセルで常に煙を纏っている。曰く、煙草の煙で、その煙を吸った者の精神を操る。
名は、
「うー……良い気分だったのに最悪な気分……」
「へー、なんで良い気分だったの?」
「あなたのお父さんと『遊んだ』からよ!なのに、まさか直後に娘に邪魔されるなんて……」
「……!お父さんが居るの!?近くに!?確かに少しお父さんに近い気配は感じるけど……」
「居るよ、魔法の森の小屋にね」
「あそこか……!」
「あっ、ちょっとぉ!!そっち行く前にせめて何か買ってけー!!」
「お生憎様。私、買い物以外は財布を持ち歩かない主義なの♪」
「そ……そんな……バカな事が……」
知られざる霊愛の「主義」に、たかねはガックリ項垂れてしまう。彼女からすれば、まさにやられ損だろう。幸せな気持ちも雲散霧消してしまい、もう今日は店仕舞いして休む事にした。
◆
「……って事で、お父さんはお母さん見てないの?」
「見てない。気配なら……まぁ……感じたかもだが。でも、速すぎて気の所為に思えるくらいだったよ。ヤッてる時だったからそっちに集中したかったし。んで、霊魔は何のカードを買ったんだ?」
「言うより見てもらった方が早いね。これだよ」
ババ抜きする時のような持ち方をしていた霊愛は4枚まとめて、手札を開示するように見せる。その中には、先程ミケの商品の中にもあった、招き猫のカードがある。霊魔もミケから買ったのだろうか。
他は小槌、こいしの帽子、紫さんのスキマという3枚のカードだった。
「ほー……見た事ねェカードが多い……。でも、金を払ってないんならこのカードは使えないな」
「なんで?」
「そういうルールがあるんだ。金を払えば、これを流通させた神の能力……的な感じで魔力が補充されて時間経過で繰り返し使える。種類によるけどな」
「ふーん……って、待ってよ。
「ああ……まぁ、知ってる。だからすぐにでも倒しに行きたいんだが……そいつが出てくるには条件があるお陰で、それを満たすまでここでまったり休憩するつもりだ。咲夜さんもそろそろ来るよ」
「あ、咲夜も来るんだ。……じゃあ、私はテキトーに売人襲って情報集めてるよ」
「お金は?」
「必要無い。買うつもりも無いし。情報が聞ければそれでいいよ。黒幕のとこでまた会お」
「……言ってくれるじゃあねぇか。ならどっちが先にボスまで辿り着けるか勝負かな?」
「それは無理でしょ。お父さんはそいつの事を一応知ってるワケだし」
「ははっ、それもそーか」
「探るアテはあるから、もう行くよ。また後でね」
「おう。気を付けてな」
「はーい。…………いってきますのチューしてよ」
「え?……甘えん坊さんめ♡」
「……♡」
霊愛が飛び出したまさに直後、咲夜さんが時間を止めずに現れた。ある意味新鮮に思える。森の中にあるこの小屋だが、気配を隠さなければ初めてでも真っ直ぐここに来れるらしい。
「こんな所に小屋があるなんて知らなかったです。ところで、霊愛ちゃん来てたんですか?今、彼女が飛び立ったのが見えましたよ?」
「山童から俺がここに居るのを聞いたみたいで……。ホント、可愛い娘です。霊愛は推せるな……」
「思春期も終わったんでしたっけ。元の優しい子に戻ってくれたなら良かったです」
「ええ、本当ですよ。でも、思い返してみればあのツンツンした霊愛も可愛いもんです」
「えぇ……。『霊愛が冷たい、弦月姫もそうなったら俺は辛い、耐えられないです』……って、泣きついて来たじゃないですか」
「まぁあそこまでツンツンされるのは初めてでしたから。初体験はそんなモンですよ。あの頃は確かに辛かった。その言葉を撤回する気にもならない程、辛かったし、耐えられなかったし、泣きたかった。でもま、終わった事です」
「……旦那様のそういうスッパリしている所、本当に尊敬しますよ。私なら何年かは引きずりそうです」
「あはは、それくらいが普通じゃないですか?俺、割り切るの得意なんで。色んな意味で」
「?……それはともかく、霊愛ちゃんも巫月ちゃんのように旦那様にデレデレになったんですね」
「へっ!?」
「見てましたよ?ふふっ、キスするほど仲睦まじいなんて、流石に予想外でしたが……無邪気な子供って感じがして、こちらまで癒されました♪」
「見られてたかー……。まぁそんな気はしましたよ、直後に来るんですもん……」
「それもそうですね。……ところで、話は変わりますけど、黒幕の現れる『条件』までどれくらい掛かりそうですか?」
「俺の知ってる条件は夜、それと虹なんですが……。虹は科学的に再現できる現象ですから気にしなくていいんですけど、時間ばかりはどうにもならない。なので夜まで待機です」
「真っ暗になるまでは……あと5時間前後ですかね。お夕飯はどうなさいます?キャンプ道具でしたら、一式揃えていますよ」
「キャンプ!?でも魔法の森でキャンプはちょっと危険かと……綺麗な空気とは言いにくいですし……」
「でしたら、森を出ますか?旦那様でしたら空気の創造なんてお手の物でしょうに……」
「空気の割合再現するのめっちゃムズいんですよ?酸素中毒とか危ないですから。水中呼吸の為に空気作る練習しといてよかったですよ、全くもう……」
とりあえず、この小屋の近くにあるちょっとした開けた土地に円筒状に結界を張り、中の瘴気塗れの空気を上に押し出すように新たに結界の中で空気を創造する。自然の空気と違いどうしても俺の魔力が異物混入の如く空気に混じってしまうが……この程度だったらセーフだろう。
「ふふ、旦那様に包まれている感じがしますね」
「えぇ……」
キャンプに続いて、これまたあまりにトンチキな事を言うので、思わず苦笑いが零れてしまう。
樹理愛や早苗と違い天候を操れない俺は、科学、化学の力で虹を作り出してみよう考えたワケだが……とにかく今は、咲夜さんと共に、夜を待ち続けるのであった。
霊愛
装備:商売上手な招き猫、打ち出の小槌、小石ころ帽子、画面の境界
小槌は一度だけ、境界は本来は何度も使えるものの正式な手順を踏んでいないので、使用カードなのに一度しか使えなくなっている。
招き猫、小石は能力カードなので、金を払ってないお陰で効果を発揮しない。所持しても装備してない状態である。勿体ない。