「暗くなってきたわね。これじゃカードを持ってる奴を見つけるのも大変そう。でもま、夜目が効くって便利で良いわね」
「雲が無ければ私も吸血鬼になれるんだけどなー。今夜、満月じゃん」
「そうみたいね。吸血鬼にとっては最高の戦い日和だわ────」
するとそんな会話をする母娘の前に鴉天狗特有の超スピードにて天狗が現れた。それは鴉天狗の大将である飯綱丸龍。千亦を打倒する為にエスカルゴと手を組んだ後、その協力者とする為に山にて霊夢が来るのを待っていたのである。
「待ち侘びましたよ博麗の巫女達。思っていたより遅かったですね」
「何か出てきた。何でキレイに足組んでるの?美脚アピール?」
「いえ、そんなつもりは無いですね」
「何かカード持ってそうな顔ね、とりあえず倒しておこうかしら」
「そだね」
目が合ったら即バトルだ、とでも言わんばかりに弾幕を展開する博麗母娘。こうなると、会話も何もあったものではない。
唐突に敵対心を剥き出しにする2人を見て、龍は少々慌てた様子で2人を諌めようとする。
「待ってください霊夢さん、霊愛さん、私は敵ではありません。一応、アビリティカードは私が作ったものですが、決して、悪意があって作ったものではものではありません」
「ほぼ黒幕じゃんそれ」
「あー?だったら何の目的があってあんなカードを作ったっての?」
「シンプルに金儲けです。シンプルに。私は大天狗ですから、山の為にのみ行動するのです。異変など我々としても望んではいないのですよ、あなた方を無闇に山に入れたくないですし……ここは天狗の領域ですからね」
「……でも大天狗ってアレだよね。天魔様?ってのに反旗を翻したり、河童とか山童に戦闘を強制したりしたんだよね。樹理愛と穹から聞いたんだからまず間違いないよ」
「そうなの?じゃあヤバい奴じゃない」
「それは私達の中でもクズ扱いされている奴です。大天狗にあるまじき行動……許せません。私は、このアビリティカードを通して、山の経済を発展させるのが目的なのですが……そろそろ……潮時、なのかもしれませんね……」
「潮時?どうしてよ」
「
千亦を裏切っている龍は、彼女を完膚無きまでに叩きのめそうと霊夢、霊愛を勧誘する。もう彼女は用無しだからと切り捨てるその様は、皮肉にも彼のエスカルゴが見たら酷く衝撃を受けそうなもので、龍も彼にこんな姿は見られたくないと、勧誘しつつ内心では苦しく思っていた。
「……んっ?ちょっと待って、アイツと合流?」
「私と彼にも、ちょっとした繋がりがありまして。以前から大変良くしてもらっています」
「あぁー……。繋がり
「そうね霊愛、多分そうだわ」
「と……とにかく、もうじき市場が開かれます。是非博麗の巫女と次代の巫女にも参戦して頂きたいので正直にお話ししました。場所はこの山の頂上です。我々と市場の神を打倒しましょう」
「んー、やだっ」
「私も嫌だわ」
「何故ですか?カードの製作者ではありますが私は黒幕ではないですし利害は一致しているはずです。何が不服なのでしょう?」
「ええ、確かに利害は一致してる。でも違うのよ」
「……?すみません霊夢さん、何を言っているのか、よく分からないのですが」
「あんたは、私達をプラスアルファ扱いした。でも違うの。『
「は……はぁ……それならそれでも構わないですから山頂に向かいましょう」
「そんな奴と手を組むつもりはサラサラ無いわよ。とにかく、あんたを倒してカードをゲットする!」
「フー……仕方ありません。協調性が皆無ならば応援など頼まない方が良いですね。それでは勝負です、麓の巫女達よ」
「「……ッ!」」
龍が弾幕を展開すると同時に、博麗母娘も弾幕を展開。霊夢の左右には勾玉が浮かんでいる。先程、魅須丸からカードを購入した事によりこうなった。
そのカードは「太古の勾玉」、左右の勾玉が真横から来る敵弾を消してくれる便利なものだ。ただし本当に真横からのしか防げないので、斜めからだと残念ながらほぼ防げない。
そして、今回の霊夢の弾幕は、いつものとは一味違っていた。
カエルのショットは爆発するし、敵に喰らい付くように進む蛇のショットが混ざっている。それらはそれぞれ「無事かえるお守り」と「蛇の抜け殻入りお守り」。早苗の能力の1つ……というより諏訪子と神奈子の能力である。
霊夢が持つ4枚のカードのうち、この3枚は装備カードである。
「禍星『星火燎原乱舞』!!」
弾幕の連なりが彼女から五本、五方向に伸びる。その連なりは大量の赤色の星弾幕からできており、ある程度伸びるとバラバラに散らばって、おおよそではあるが2人を狙い始める。霊愛の方は薄めで、特に弾が向かうのは霊夢の方だった。
「……主にこっちを狙ってきているわね?まずは力のある者から倒すってわけね!」
細かな弾で囲まれた霊夢は、使用カードを使う。
「重低音バスドラム」、それは堀川雷鼓の能力で、近距離の敵弾を音波で消し去るものだ。
「あッ!お母さん、カード使って……!」
「霊魔にカード代を払ってきなさい、それで使えるようになるから」
「……私は自分の力でやるし!カード使わないしッ!霊符『夢想封印 夢幻』!」
「ッ!……広範囲を一気に掻き消し、あまつさえ私に一撃を入れるなんて……狙う方を間違えたかも……。星風『虹彩陸離乱舞』!!」
「「ッッ!?」」
龍は全方位に細いレーザーを放ち始める。予告線から本線発射までのスパンがそこそこ短く、霊愛はタイミングを見誤ったせいで一度被弾、軽く体勢を崩してしまう。
「あぐっ……細いマスパじゃん、何この威力っ……」
「貫通力に優れていますのでご注意下さい♪」
「あーはいはい、夢想封印夢想封印!連発してでも突破してやる!霊符『夢想封印 夢幻』!!」
「……ふーむ……?通常の夢想封印との違いは……私はよく分かりませんが、術者本人からすれば、何かが違うのでしょうね。面白いです」
「────ッ!!」
違いがよく分からない。霊夢もそう思っていたが敢えて言わないでいた。何故なら、霊愛からすれば必死に自分なりに改良した必殺技であり、拡張性も威力や技の振り幅も通常の夢想封印の倍以上に高くなっている。
霊夢は技の仕組み程度しか知らないが既存の技を開発する苦労などは知っているつもりだ。ましてや娘がそれを行ったのだから言う方が無粋というものである。
巫月や穹、弦月姫と違い、親と違うオリジナルの能力を持たない霊愛だからこその苦労であった。
そんな苦労の結果を傷付けられ、無自覚ながらも煽られたと感じたら、キレ症の霊愛がどうなるか。そう、もはや霊夢の出る幕は無いのである。
「う……」
「?」
「うがあああああッ!!言ったねあんた!言っちゃいけないこと言ったね!お父さんの関係者だろーともう関係ないよ、それを言った奴は全員、この私がぶっ飛ばしてやるッ!!」
「!!」
速度を上げて龍に突進する霊愛。当然だがそれを正面から受けてやる龍でもないので、回避するなり更に弾幕を放ち霊愛の動きを牽制する。
しかし霊愛はお祓い棒を振り回し追い縋る。
「確かに速いのかもしんないけどねェ!妹の方が、圧倒的に速いんだよ!そんな眠くなっちゃうよーなスピードのくせにスピード自慢してんじゃないよ!バーカバーカ!」
「妹……あぁ、射命丸穹さんですね。彼女の速さは、もはや異常とも言える。一体どうしてあそこまでの速度を身に付けたのか、気になりますね」
「そンな事ほざいてる場合じゃないでしょーがッ!ドタマカチ割ってやる!!」
「ふむ……ならば!光馬『天馬行空乱舞』!!」
五方向に白い弾幕を放ったかと思うとその軌跡に七つセットの弾幕を残し、カクッと角度を変えて、再び霊夢、もしくは霊愛を狙って飛んでいく。
その軌跡にもまた、七つがセットになった弾幕を残して密度を増やした事で2人を苦しめる。
「さっきより薄くなってんじゃん、当たんないよ!」
「ッッ!?」
ギュオッと、角度を鋭角的に変えながら龍に迫る霊愛。霊夢はバスドラムや勾玉で周囲の弾幕を消しながら、弾幕にて霊愛のサポートに回っている。
全く手の掛かる子供だ、と思ってはいるものの、誇りを傷付けられたのならたとえ痛い目に遭おうと誇りを取り戻す手伝いをしてあげたいと……霊夢は、そう思っていた。
「もらった!霊符『二重結界』ッ!」
「なッ……囲まれたっ……!」
「どーやら、鴉天狗の移動速度よりも私の結界生成速度の方が上みたいだね!」
「ッ……」
脱出しようと弾幕を放つ龍、しかし彼女を囲んだ二重結界は無慈悲にもその弾幕を掻き消し、または弾き返すばかりだった。
霊愛は龍の弾幕を完璧にシャットアウトした上、お祓い棒には雑魚妖怪なら致死量とも言える膨大な霊力を込め、まるで剣のように構える。
意図してか意図せずか、その構えは彼女の父親に重なっているように、霊夢には見えた。
「お願い、お父さん……!私に力を貸して…………ッ!霊撃『
霊力を込めたお祓い棒にて五芒星を描くと、その軌跡に虹色の弾幕が現れる。エスカルゴが使うと、彼の霊力は白なので白だけといった無機質な弾幕になってしまう。しかし夢想封印に見られるように、彼女らの霊力は様々な色を発しているので、自然と元の術者であるエスカルゴよりも美しい技となったのである。
そして霊愛の『弾・五芒星斬』は同質の霊力故に結界を透過し、龍の動きを封じたままで滅多打ちにする。この流れは俗に言う即死コンボに近い威力を誇っていた。
「馬鹿な!結界を透過するなんて聞いた事が……!」
「別な能力が無い分、基本技を鍛えてるんだよっ!霊力の操作はお母さんに近いかもね!」
「な……舐めてた……子供、だからと……っ!成、程……天魔、様が……彼の子を…………優遇、する理由……が、やっとわかった……!」
「これが英雄の子!これが博麗の巫女の子!!もし私を舐めてたら死ぬより痛い目に遭うよッ!これでトドメ──」
「──虹光『光風霽月』!!」
「「ッ!?」」
二つ前のスペルのような縦のレーザーに加えて、横からもレーザーが飛んでくる。しかも、それだけではなく、レーザーが一旦止んだかと思えば大きな星弾幕が。それがこちらに届き切る前に、またまたレーザーの嵐。
その息をつかせぬ猛攻は、大天狗としての威厳や誇りなどを見せ付けるようで、それに見合う実力を備えている事を2人に示しているようでもあった。
「……危なかった……。意識が飛びかけましたよ」
「チッ……。流石にマスパレベルの貫通力は……まだ防げないよね……」
「もっと霊力を集中させんのよ。それだけでいい。密度を上げれば、防御くらいどうにかできんのよ。覚えときなさい」
「はーい。……さて、最後の最後にヤバいのがきたねお母さん?」
「大方、これがラストだわ。凄まじい圧を感じる。けど…………」
「私達ほどじゃない。ってね?」
「フン、私のセリフを取るなんて1000年早いのよ」
「1000年……って、私半妖だし、その頃は生きてるか分かんないんですけどー?」
「なら、1000年分成長しなさい。今すぐね」
「ったく……無茶苦茶言うよね、うちのお母さんは!お父さんの方がまだマシだよ!」
「ゴタゴタ言ってないで、キビキビ動けっ!相手は大天狗、山の中でも上位の存在よ!」
「はいはい分かってるッ!」
2人は揃って、予告線が出た箇所に小型の結界を張っていく。敢えて小型にしたのは小型だと自然と密度が高めやすくなるのと、霊力の消費を少しでも抑える意味がある。
幸いな事に、龍のレーザーはマスパと違い細い。威力こそマスパ並だが太さが細いのならこういった対策が可能だ。
尤も、レーザー発射と同時に壊されてしまうが、回避するだけの僅かな隙くらいは作れる。
「相手はトコトン真っ直ぐだね!なら────」
「こちらはイヤらしく、ね」
「うっわ……娘のセリフ取る母親が居る!?ホント、この母親はさぁっ……!」
「ほら、
「〜〜〜〜〜ッ……後でブン殴ってやる……」
霊力を高める霊夢。その高まり様は、お祓い棒で殴ればどんな妖怪でも滅せそうな程で、これまでの弾幕など文字通りのお遊びに思えた。
霊愛はそんな母の霊力を感じ取り、父を巡るその対抗心なども糧に己の霊力を限界近く──否、限界以上に引き出したった一つのスペルカードに
「「愛憎『二人の結末は何処へ』!!」」
2人は霊力を合わせ、虹色のへにょりレーザー……ではなく、蛇のように連なりロープのように細かく絡み合った小さい弾幕が、へにょりレーザーの如くグネグネと曲線を描きながら全方位に散っていく。
「何この囲むような……いや、私を閉じ込めるようなカーブは……!まるで……これはまるで…………」
「DNAの二重螺旋構造!……って言うんだよね、このカタチ!」
「らしいわね。私は知らないわよ?」
「お父さんが読んでた本に書いてあったから、多分間違いないね!」
「……ッ!こ、これはっ……」
二重螺旋が描かれた後は、DNAの横の棒の部分が個々の弾幕としてバラバラに散開していく。それが更に、螺旋に囲まれた龍を苦しめる事になる。
「ぐっ……力が、抑えられる……ッ!?」
「
「ましてやそれを何度も喰らっちゃえば……ね♪」
「……参った…………。エスカ、ルゴさん……合流、できそうに…………なくて……すみ、ませ………………」
そう呟いた龍は、ヒュルルルと音を立てて地面に落下していく。下は何やら豪勢な屋敷があったが、2人は見て見ぬふりをして、先を急ぐ事にした。
◆
「……前から思ってたんだけど何で『愛憎』なのよ。ネーミングセンスが……こう……エスカルゴ並だわ」
「あー、あー、聞こえませーん」
「……。にしても……陰陽玉、使えなくなった、か。何だか寂しいものね」
「……」
「ずっと一緒だったし……それなりに思い入れがある道具だったんだけど」
「……」
「まさかその道具に、継承者から除外されるなんて思わなかったわ。全く……今度からは、お祓い棒しか頼りにできそうにないわね」
「……お母さんより、陰陽玉、大事にするから。別に気にしなくていいよ」
「あ?気にしてないけど?」
「……」
「…………そろそろ、博麗の巫女もお終いかしらね」
「そーなったら私が博麗の巫女だね。やりィ♪」
「そうかもね」
「……私に務まるかなぁ……」
「まず無理ね」
「んなっ……!?そこはさぁ、娘を激励するとか何かあるでしょー!?」
「無理無理。その為の
「……はぁ……色んな意味で憂鬱だなぁ……」
「ま……『博麗の巫女』は、まだあんたには早いかもしれないわね。肩書きだけあんたに移して、実質上私が博麗の巫女ってのも、悪くは無い……かもね」
「えー、何その『2人で1人』感……気持ち悪っ」
「なっ……言うじゃないの、生意気な小娘ねェ……」
「生意気な巫女に育てられたから生意気に育ったんでーす。多分ね」
「フン……ホント、アイツそっくり────!」
気付くと、月に虹が掛かっていた。それを見ると何やら2人の中でザワめくものがあり……どうしても現場に急ぎたくなった。
するとそこには────七色の布を無造作に繋ぎ合わせたような妙な服を着てマントを羽織った神、紅魔館のメイド長、親友である魔理沙、更に霊夢の旦那……霊愛にとっての父が居た。