「……あーあ、何で俺がこんな事してんだか……」
千亦を撃退してから数日後、俺は酷く汚い空気の漂う狭苦しい炭鉱、虹龍洞の中を飛行している。
龍によると、この炭鉱の中で盗掘者とやらが出現したようなので俺にソイツを退治してほしいとの事だった。その褒美は勿論、龍との平日のアレコレ。龍が仕事をサボりたいだけじゃないかと思ったが、それはそれとして仕事中のセックスというのもまた面白そうなので、彼女の提案を大人しく受け入れる事にした。
しかしそんな俺の前に、まさかまさかで予想外の人物が立ちはだかる事に────。
「何かと都合がいいと思って甘やかしてきたが……」
「つ、典……?」
「坑道を荒らしに来るようならもう用無しだ。英雄らしく華々しく散れ!」
「…………結局、管狐は管狐って事……か」
「ま、そういう事になるかな♪……狐符『フォックスワインダー』!」
通常弾幕をほんの少し発展させたような苦無弾を発射。左右を挟むようにしてこちらの動きを制限、そして徐々にその囲いそのものを動かし、斜め方向からの発射に強制的に対応させられる。この程度は余裕で回避できる。
「流石、数々の修羅場を潜り抜けてきただけある!ならば……管狐『シリンダーフォックス』!!」
「!」
坑道の上下左右に当たり、綺麗に反射する黄色いレーザーを放つ。少々動きが読みにくいがそこまで苦労する程でもない。
ギリギリまで引き付け、回避。上、下、右、右、右、左、下…………ほぼリズムでイケそうだ。
「これならどうだ……!星狐『天狐龍星の舞』ッ!」
「……おっふ。デケェ弾だな」
金色に輝く巨大な弾幕、そこから放たれる緑色の星弾幕。まるで龍のような弾幕に思わず頬が緩む。幾ら管狐だのと言っても、実はコイツもしっかりと龍に懐いているんじゃないか、と……勝手ながらも、そう思えてならない。
「これで死ねえええっ!!私はッ……今ここで英雄を討ち取るッ!!」
凄まじい圧迫感だが、流石にこんな攻撃ではどう足掻いても俺は殺せまい。きっと気絶すら難しい。
確かに、龍が言っていた通りだ。典は、己の力を過信し過ぎる。全てが自分の思い通りになる、と……本気でそう思っているかのようだ。
「ざぁんねん、俺ァ死なねーよ。見てな?」
「私の手に掛かる前に自殺するとは…………そんなに私に殺されたくな………………えっ?」
パチンと折り畳みナイフを取り出し、真っ直ぐに胸を突き刺す。しかしナイフ一本程度の刺し傷ではすぐに穴は塞がり、痛みをも忘れる事ができる。
「ほらな、死なねェ」
「────ッ!?胸を刺しても死なない生物なんて存在するワケがっ……!妖怪だって最低でも瀕死にはなるはずっ……」
「ここに居るんだよなぁ。さぁて典?胸を刺しても死なないこの俺を…………どうするって?」
「はっ……あはははっ……!ま……まさか本当に……真の不死身だった、なんて……。流石にそれは、私でも、信じ難かったというのに…………」
「なっ?無理だったろ?ほら典ぁ……こういう時は、どうするんだ?」
「もっ……申し訳……」
「謝罪とか求めてないし。
「は…………はいっ……」
少々顔を青ざめさせると、典は俺の前に歩み寄り膝をつき、ズボンに手を伸ばす。何をするべきか、理解してくれたようだ。
しかしどうも彼女の目が気になる。
「……何も、そんな化け物を見るような目しなくてもいいじゃん……何回もヤッた仲だろ?」
「う、うるさいっ……お前なんてもう妖怪じゃない、ただの化け物だっ……!殺しても死なないだなんて、そんなの、そんなの……!」
「生意気な口はこれか?」
「んぶっっ……ん゙ーっ!んん゙〜〜ッ!」
「生意気な口はイラマで塞ぐに限るね。ちっちゃなお口、喉を良い具合に拡げて……気持ちい〜……♡」
「んぐぶぶっ……ゔぅ゙〜っ……ぶっ……ぐ、ぐぐっ……んぐぐぐぅ…………」
「あー可愛い……可愛いな……典にこんな事をしてるってメグちゃんに知られたら嫌われちゃうかなぁ。まぁ、大丈夫だよね。俺が傍若無人に振舞ってるのなんて、メグちゃんのみならず山の妖怪なら誰もが
知ってる事だしな。……ん……イイよ典、そろそろ……喉奥に
「〜〜〜〜〜〜ッッ……」
◆
「はぁ〜、スッキリスッキリ……。典ってば、ホント可愛いよなぁ……管狐じゃなきゃハーレムに入れたいとこだ、全くもう……差別したくねーのに平和の為に差別をしなくちゃならないって……つれェなぁ……」
それにしてもこの坑道、とても奥に続いている。しかも横穴があちこちに空いている。マイクラのブラマイ*1みたいに見えてしまう。人間だった頃に実況動画をそれなりに見てきたマイクラだが、まさかこんな所でそれを思い出すとは────。
「ッ!」
1つの気配を感じ取った俺は飛行を中断。奥に、誰か居る。……大きな気配だ。大妖怪レベルの強さを持つ者、または極めて凶悪な妖怪だろう。
すると、採掘後の盛り上がった土の影の中から、モソッと1人の少女が出てきた。
濃いめの水色のロングヘアーに、スカートの裾や襟元などには大量の輪っかをつけていて、四肢には大量のオレンジ色のリボン……手には金のピッケルとシャベルを持っている。オシャレな野生児、という印象を受けた。
「典……じゃないな。誰だ、おめーは」
「俺ァフリーランスの吸血鬼、エスカルゴ・スカーレットだ。俺の事を知らねぇ奴がまだ居たとはな、ある意味驚くよ」
「エスカルゴだと?ああ、その間抜け面は、確かにそうだ」
「あ゙ん?喧嘩なら買うぞ?」
「くっくっく、失礼。俺は百々世。
「────俺っ娘!!」
「あん?」
「俺っ娘、リアルで初めて見た!ヤベェ……うはっ、興奮する!」
「何かニヤニヤして気持ち悪いぞお前」
「んなっ!?……そ、それにしてもだな、アレだな!お前が監督なのか?俺はてっきり、霊夢が言ってた魅須丸ってヤツが監督なのかと思ってたよ」
「みすまる、だと?誰だそいつ。……はっ、まさか、典が言ってた盗掘者ってヤツか?」
「──盗掘とは皮肉ね。妖怪の山を掘りまくって、伊弉諾物質を盗み出しているのはお前達、大蜈蚣の率いる妖怪集団じゃないか」
また「盗掘者」というワードが出た。すると俺と百々世との会話に、1人の少女が割り込む。霊夢や霊愛から聞いていた「玉造魅須丸」の特徴に合致。俺は今現れたアイツを、玉造魅須丸と断定した。
「今度は誰だッ!?」
「私は玉造魅須丸。龍珠の正当な所有者です。お前達の行為はとても許せるものではありません」
「なん、だと?所有者だ?」
するとそこに更に割り込む者が。口元を拭って、少しフラフラとした様子でこちらに飛んでくると、百々世の隣に立つ。
「また誰か来た!盗掘者共め大勢で来やがったな」
「百々世殿、賊ではありません。典でございます」
「なっ……どーしてお前まで!典ァ!」
「ふ……先回りをされてしまいましたか。それとも、ただの偶然でしょうか」
「何だ典、エスカルゴとやらと知り合いか。まぁ、お前だものな。悪いヤツだな、くっくっく……」
くっくっく、ふっふっふと百々世と典はこちらをチラチラ見ながら笑っている。嘲笑のような視線を向けられ、ジワジワとムカついてきた。ブン殴ってスッキリしたいくらいだ。
「えーっと……魅須丸、だったっけ。うちの嫁と娘が世話になってるようで。娘に至っては加護までしてくれてるとか?……どうもありがとう」
「いえいえ。彼女達にはこの私の道具を受け継いでもらっていましてね。私としても嬉しいのですよ、使ってもらうというのは。加護するのもせめてもの恩返しのつもりなので、お気になさらず」
「そうだな。自分の道具を使ってもらうってのは、何か嬉しいよな」
「おや、イける口ですね。分かりますか」
「分かる。うちの子に玩具とか創ってやってんだが使われてんの見ると嬉しくなるよ。服とかもな」
「あー良いですねぇ!実に良い!こういう喜びは、クリエイターならではのモノでしょう!…………と、そんな事を言っている場合ではありませんでした」
「?……あぁ、龍珠?とやらの盗掘者の件か……?」
「ええ。アイツは大蜈蚣。龍をも喰らうと言われるドラゴンイーターです。極めて醜悪な妖怪ですね」
「ソイツは違うな魅須丸、醜悪ってぇのは見た目も中身も最悪なヤツを指すんだ。俺が見た限りじゃ、少なくとも見た目は……良いな。つーか、俺は数多の女の子を喰らって来たし、俺はさしずめ、ガールズイーターになるのかな?」
「そうやっておちゃらけている余裕は無いですよ、エスカルゴ・スカーレットくん。私が所持しているカードの内、強いモノを安く融通してあげますので奴を撃退して下さい」
「必要無いね。俺にカードは不要だ。自力で倒し……あの子も喰ってやる。ヘヘッ、ガールズイーターの血が騒ぐぜ」
「……知りませんよ、己が食われる事になっても」
「それはそれで構わない、食われる事には慣れてるからね」
「そう……ですか。警告はしましたよ?」
「うん。ありがとう。……これからも娘を頼む」
「ええ、任せて下さい。博麗霊夢くんとの約束でもありますから。それでは私は、この場を離れる事にしましょう。その方があなたとしても思い切り力を奮う事ができるはずだ」
「配慮に感謝するよ」
スゥーッと離れていく魅須丸。すると典はそれを目敏く見付け、笑い合っていた百々世に、強制的に話を戻すかのように何事か囁く。
「逃げて行きますよ、あのカラフル。アレが、その男と結託して、根こそぎここの龍珠を奪おうとした盗掘者です。このままでは、虹龍洞を封鎖せざるを得なくなるでしょう。……ここは、一旦、飯綱丸様の判断を仰ぎましょう」
「テメェ典ァ!俺が盗掘者だと!?フカシこいてんじゃあねぇぞ!?俺を犯罪者に仕立て上げるたァ、いい度胸してんじゃあねぇかッ!!」
ブヂンッとこめかみの血管が切れた気がする。
アイツはダメだ、典型的な管狐だ。分からせる、分からせない……という次元じゃない。少し前までのエリスのように、とにかく争いを引き起こし災厄を振り撒く、害にしかならない存在だ。
龍のペットじゃなければ、捕らえていたかまたは殺していたかもしれない。百々世が典に流されて、面倒な事にならなければいいのだが…………。俺が、百々世が確固たる「自分」を持っているコトに期待するしかないなんて、情けない話だ。
「ふっふっふ、待て。こいつらがここにいることは飯綱丸はまだ知らないんだな?」
「……ええ」
「大暴れできるチャンスじゃないか。盗掘者相手に天狗の判断など要らぬ、現場判断で十分だ。この場で徹底的に叩きのめしてやろう!」
……流されているようで、地味に流されていない。それならそれで構わないが、まさかこんな事になるなんて。全くの予想外だ。典は龍のペットなのだし俺が盗掘者ではないのはよく分かっているはずだ。つまり、百々世vs俺という構図を成り立たせる為にわざとそう吹き込んだに違いない。
それに加え、俺にボロ負けした典が俺を倒す為に百々世を頼った、という事は…………この姫虫百々世という妖怪、かなり強いはずだ。
気を引き締めて戦わなければ─────。