「ライブお疲れ様。見ていたわ、大活躍じゃない」
「紫さん!来てたんですね!俺が大活躍だなんて、へへっ、そんなまたまたぁ」
「本当よ。……愛してほしいのね、あなた……。愛に飢えているのね」
「いやー……改めて言われると照れますけど、多分、俺は誰かに愛されたいんじゃないかなって何となく思うんですよね。だって嫁や彼女達なんかは、俺が彼女達を愛せば、彼女達も愛してくれるんだもの。だから俺は、愛する人を増やしちゃうのかなって。その分だけ愛してほしいから……みたいな……?」
「そう……成程ね。理論としては納得できるかもね。でも、残念だけれどあなたはいつまでもそうやって真っ直ぐでは居られないのよ」
「……どういう事ですか」
「もう、曲がってしまっているから」
「……?」
「自分の行いを鑑みてそれを全て受け入れている、あなたはそう思っているわね?でもそれは違うの。あなたは一つ……たった一つだけ、大きな過ちから、目を背けてしまっているのよ」
「?」
「頭を。……そう、撫でてもらうように差し出して」
「汗臭いかもっすよ?ライブ後だし」
「別にどうでもいいから。ほら、早く。メンバーと打ち上げするんでしょう?」
「ま……そっすね」
主にするように跪き、彼女が向ける手のひらに、そっと頭を触れさせてみる。すると、紫色の怪しい光が俺の頭に触れる彼女の手から溢れてくる。
それと同時に、ずっと昔の思い出……いや記憶が、真っ白な壁に真っ黒のペンキをぶちまけるが如く、塗り替えられていくのを感じていた。
光が収まるのと共に塗り替えられる感覚も消え、後に残ったのは「一つのガッカリ感」だった。
「そんな……フラン達と外に遊びに行ったのが…………嘘、だったなんて…………」
「そこ?……でも、まぁ……それが現実よ」
「それじゃあッ……母さんにフランを、レミリアを、咲夜さんを会わせたのはッ…………」
「嘘よ。私が作った……ね」
「っっ…………」
「今まで何年も隠しててごめんなさいね。だけど、これはあなたが望んだ事なの。ストレスを、怒りをコントロールできず、己の思うがままに外の世界を滅茶苦茶にして、罪悪感に押し潰されそうになったあなたが────」
「ま、いっかぁ。別に、
「っっ!?」
「なんです?」
「『思い込む』って……あなた、何を……」
「いや……だって『何年も』前の事でしょう、これ?今更感ハンパねぇ……。当時の俺は罪の意識?とか、感じてたから逃げたんでしょうがね。ザコかよって思いますけど」
「あなた……あなたは罪の意識を全く感じないとでも言うの?あなたがわざと誘導しながら逃げたことによって、美しい自然も破壊されたし遺跡も何もかも完全に喪失してしまった地域だってある!」
「……で、外の世界の自然や遺跡の破壊等が幻想郷の平和と関係があったりしますかね?」
「っ……もう一度、聞くわ。罪の意識は?」
「ありま……すかねぇ。俺もよく分かんないですよ。でも、これだけは言えますね。俺が言えた事じゃあないかもしれないけど……『悔やんでも無意味』だ。俺が罪悪感に押し潰されたり……消えない罪とやらを背負う事により、外界の美しい自然だの遺跡だのが復活しますか?失われた命が、回帰するとでも?」
「……」
「ね、紫さん?失われた命は帰ってこないでしょ?死人は生き返らないし、自然は復活しても、完全な元通りにはならない。死んだらそれまで。失ったらそれまで。だからこそ、『どうにもならない事』に頭を使ってる暇なんて無いんです。俺、こう見えて忙しいので」
「………………」
「あぁ、でも…………一つ気になる事があるんです」
「それは……何?」
「……母さんに霊夢と霊愛を会わせたのは……それは真実、なんですよね?外の世界……しかもガチの実家関連だから、気になって……」
「ええ。真実よ。嘘でもなんでもないわ」
それを聞いた瞬間足の力が抜け、思わずその場に座り込んでしまった。立ち上がろうにも膝が震えて上手く力が入ってくれない。疲れもあるだろうが、精神的に僅かに揺さぶられていたからなのだろう。
「…………良かった。それが……本当で……。可愛い嫁と娘を見せられたんなら……外界がどんだけ滅茶苦茶になろーと、もういい……どうでも……」
しかし、これで合点がいった。慧音と外の世界を観光した時、何故だか俺の通っていた高専の建物が綺麗になっていたあの件だ。
言っては悪いが、故郷とはいえあまり未練の無い世界だ。思い入れも大して無いので、壊れたって、侵略されたって、幻想郷が壊れなければそこまでは気にならなくなってしまっている。
そして、俺の通っていた中学には、俺が半グレを決め込んでいたあの時代のモノが残っていたので、母校の周辺は無事だったのだろう。よく分からない事実だが一応そうなる。
日本のほぼ全国を破壊した?とは言っても、主要都市しか破壊できていないのではなかろうか……。
当時の俺の記憶を掘り起こしてみても、無心で、それこそ無我夢中で飛んでいたのだろう。見下ろす景色はどれもこれも全く同じに見えてしまう。
「……お墓なんかも滅茶苦茶よ。先祖の生きた証が、完全に消えてしまった人々はかなり多いわ」
「人間みたいな事を言いますね。他の人は兎も角、俺は、別にいい。きっと弟も同じ事を言いますよ。アイツも幻想郷に来てから幸福を感じてるヤツだ」
俺の家族はもう、外の世界には誰一人として存在しない。俺の家族が居る場所が俺の故郷。だから、幻想郷や魔界が故郷だ。
すると、紫さんは小さく溜め息をつき……悲しげな目で言った。
「…………あなた、何だか変わっちゃったわね。私……昔の人間臭いあなたの方が、好きだったわ」
「え……」
「じゃあね。これからもハーレムにライブに、色々頑張ってね。また、会いましょう」
「ちょっ、紫さんッ!?……チッ……好き勝手言って消えてんじゃあねぇよッ、胸糞悪ィ……!!」
言い終わるなり逃げるようにスキマに身を投じて消える紫さん。そのあまりの勝手さに、思わず拳を握り締めてしまう。
折角楽しいライブの後だったのに、余韻を完全にぶち壊された。最悪だ。……一矢報いてやる。
◆
「……急に呼び出して、どうしたの?」
「
「…………分かった。こうなればもう、あなたの気の済むまで話しましょう」
「そーそー、そうこなくっちゃあ……。俺の腹の虫が収まんねぇってモンですよ」
「何か……言いたい事があるようね?」
「ええ。あの後、よく考えて、よく思い返して……。色々とイラついてきたんですよ」
「……」
「まず1つ。俺の記憶じゃあ、何日間も外の世界で暴れてました。……どうしてですか?どうして、外で暴れているってのに、俺を殺そうともせず、または捕獲しようともせず、ただ傍観してたんですか?」
「ッ……!」
「紫さんの能力ならすぐにでも連れ戻せたはずだ。まさか制約があるワケじゃああるまいし。ねぇ……?別次元の幻想郷にさえ繋げられる紫さんが、まさか博麗大結界くらいの結界にさえ穴を空けられない、とか言うつもりじゃないですよね?それができないなら、俺を外に送り出す事すら不可能ですからね」
「……」
「日本ほぼ全国が滅茶苦茶になったのは俺のせい。まァここは理解します、受け入れますよ。だけど、その原因になったのって何なんです?元はと言やぁ紫さんが俺を外の世界に放り出したのがそもそもの始まりだったんじゃあないんですかねッ!?ねぇ、紫さん!?どーしてアンタは俺にそんな事をしたんですか!俺を責める前にそもそもの原因ってモンを考えたんですか?考えた上でスルーしたってんなら最低だよアンタは!全ての罪を俺になすり付けてるだけなんだろう!?なぁ!?俺がそこに気付かねぇバカだと本気で思ったかッ!?だとしたら、本当に舐められたモンだなぁ!?言っとくが、昨日のあのやり取りで、アンタへの信頼度は地に落ちたぜ!?賢者サマの言う事を聞いてさ、子供まで作ったのにこのザマだよ、どうしてくれるんだ!?」
「………………ごめんなさい。もう……それしか、言葉が見つからないわ。謝って済む問題じゃないのは私も分かっている。でも…………それしか……」
「……もう過去の事です。外も復興してるんだし俺が悪いのは事実ですし、謝罪なんて求めてないです。ただ、俺を外に放り出して、連れ戻さなかった理由だけを知りたいだけなんですよ。何か理由が無きゃ外界が壊れていくサマを見てるだけのはずがない。そうでしょ?」
「理由、は……。…………ごめんなさい……。ただの……八つ当たりのつもりだったの……」
「………………………は?」
八つ当たりと言ったのか、紫さんは。…………俺にストレスを与え、あまつさえ日本という国をも壊滅まで追いやった元凶を作ったとも言える紫さんが、俺に「八つ当たり」か。
「……あの時……私は忙しく働いていたのよ。同時に何体もの古の妖怪達が復活して……だけど当時の霊夢では討伐は無理だと判断した私は……私自らが、敵を再封印する事にした……」
「……」
「それで……力を殆ど使い果たしてしまったの……。極限まで疲弊しきったその時……。目の前にあなたが現れたのよ」
「……」
「私はね、
「……で……嫌いな俺を見て……
「……ええ」
当時の俺はそこまでハーレムを広げてなかったし何ならスカーレット姉妹と鈴仙だけだったような。少しあやふやだが、せいぜい3、4人か4、5人程だったような気もするが……。
「そんで、俺を外の世界へ送ったはいいが、すぐにヤバい事をしでかしたと気付き、連れ戻そうと力を使うが、先の戦闘で力を失っていたおかげでそれは叶わず、俺は急激なストレスにヤラれ従兄弟を殺し学校を壊し暴れまくった。…………はぁ、成程、よく分かんないけど分かりましたよ」
「…………ごめんなさい」
「謝罪は要らないって言ってますよね。もういいんですよ。元凶はともかく結果的に壊滅に追いやったのは俺なんですから。その理由を聞けたし、もう、それでいいんです」
「……」
「……取り返しのつかねー事をしたってのはバカでも理解できました。でも日本壊滅くらいじゃあ、もう罪の意識?なんてモンには苛まれないんですよ」
「何故……何故なの……?何故あなたはこんな事でも何も感じないの……?」
「決まっているでしょう?俺は日本壊滅以上の罪を犯したから。または、これから犯すから……です」
「何ですって……?」
「紫さん。……俺はね、地獄の罪状コンプリートした男です。そして神殺しも完遂したし、もう1つだけ
「何を考えてッ…………」
俺の頭の中を覗こうとしたらしく、母さんによるガードで、俺に害を与える意図で使用された能力が弾かれてしまう。
昨日のように改変した記憶を元に戻すというのは
「害」という判定ではないらしいが、こうして悉く弾いたという事は、覗いた上で、悪意のある改変をしようとでもしたのだろう。
「俺の『計画』を覗こうったって、無駄ですよ〜。サトリ妖怪と神様しか、俺の思考は読めないです。もしも覗こうとすれば……そんな風に、弾かれます」
「ッ……」
「心配しないで下さい。俺の目的は、幻想郷の支配とか統治とか、そんな下らない事じゃあないです。本当に、『楽園』を築くだけなんですよ。未来永劫壊れないハーレムの完成……過程は教えませんけど、これが俺の『計画』です。その時を楽しみにしていてください、
「待ちなさい!!」
「……何ですか?」
昨日の紫さんみたいに話の途中で帰ろうと思った俺だったが……それをすると、俺まで紫さんみたいになりそうなので、敢えて話を聞く事にした。
俺と紫さんは違うのだから。
「っ……いえ……その…………」
「用も無いのに呼び止めるなんて、人間ですか?」
「用は、あるわ。でも……この状況でそれを言うのは図々しい……と思い直して……。だから
「良いじゃないですか、図々しくて。もうあの話は終わったし……少なくとも俺の中では完全に終わった話題です、もう元に戻りましょうよ?昨日の紫さんみたいに即帰ろうとした俺の言う事じゃあないとは思いますけどね」
「…………。分かった。図々しいと自覚しつつ正直に言わせてもらうわ。……お願いがあるの」
「おっ。久しぶりじゃあないですか
「あなたにしか頼めない事よ。……このやり取りも、少し久しぶりね」
少し弱々しく微笑んだ紫さん。俺の頭の中では、もう完全に話題が切り替わっているのだが、きっとそれは、俺がバカだからなんだろう。
紫さんの中では、日本ほぼ全国壊滅という問題をそう簡単に割り切れるものではないらしい。俺にはよく分からないが、お偉いさんからすればきっと、そういうものなのだ。
「ははっ、そーですね。最近の紫さん、謎に音沙汰無いもんだから、御役御免かと思いましたよ?」
「ふふっ、そんな事はしないわ。本当に……本当に、あなたにしか頼めない事は意外とあるものだから……御役御免になんて出来ないわ」
「今度は何ですか?」
「…………私のストレスの原因を、消してほしいの」
「あっ。俺を外に放り出した元凶になったっていうアレですか?」
「耳が痛いわ」
「てか、ストレスの原因を消してって……いや、別にイイんですけど、個人的なお願いってレアですね」
「個人的なお願いでもないわ。幻想郷に関わる事。でも……」
「霊夢には出来ないから俺に……と。お決まりの流れですね、これも。……内容を聞かせて下さい」
「……古の妖怪が、もうすぐ復活する。過去の博麗の巫女と私が手を組んだり、私でも存在を消せずに、封印という形にしか落とし込めなかったような奴が復活してしまうの」
「成程…………あれ、でも紫さんが封印したのでは?だから力を消耗して、回復するまで外の世界に俺を迎えに来れなかったんですよね?」
「そう。でも、20年たらずで私の封印が破られる。ダメなのよ、殺戮に特化している巫女との合わせ技じゃないと。また再封印してもいいけれど、どうせまたすぐに封印が緩むわ。堂々巡りよ」
「ずっと同じ量の薬を使ってると効きにくくなる……アレみたいなモンですか?」
「それに近いかもね。だから霊夢には無理なの……。あの子は弾幕ごっこに特化しすぎている」
だが霊愛は俺の妖力を完全に抑えられる。しかもあの技術は霊夢譲りなのだから、それでも無理ならとんでもなくヤバい連中という事になる。
何だか嫌な予感がする。
「故に弾幕ごっこでは最強でも殺し合いになると……みたいな感じですか。だから不老不死且つ殺し合いバッチコイな俺じゃないと、と?」
「そうよ。何体いるかは大体の数しか分からない。相手は一人一人が強すぎる能力の持ち主よ。けれどこれだけは言えるわ。もし本気を出せば、幻想郷を滅ぼせる程の連中……よ」
「……。OKです、引き受けました。敵はどこに?」
「……妖怪の山の力をも借りて地下に封印してるの。だから土中にある。しかもあなたが山で暴れて更に埋まったりしたから……私でも位置の特定は難しい。復活まで手立ては無いわ」
「ゲッ……。そうか、裏以外にもクレーターだらけにしたもんな俺……その勢いで地下の様子が変わるとか当たり前ですよね…………うわ、大変な事になった、マジでどうしよう……」
「受け身になるのは少々キツいとは思うわ。でも、あなたなら大丈夫よ」
「……」
「あなたを信じて任せるわ。奴らを皆殺しにして」
「了解」
「間違っても性奴隷にしようとしないでね」
「もう大丈夫ですよ。十分です。それに、幻想郷をどうこうしようとするような奴が俺に絆されるとは思えないし、魅了も効かなそうだし、試す気も無いですから。因みに男は居るんですかね?」
「……。居なかったと思うわ」
「ふむ。……良かった。男が居たら……」
「嫁や彼女達、子供達が……って?」
「ええ。相手が女なら妖舞も霊魔も大丈夫そうだし何とかなるとは思うんで。妖舞は巨乳好きだから、ワンチャンダメかもですけど……とりあえず嫁カノが大丈夫そうなら安心ですよ。不意討ちとかされたら流石の皆も危ないですからね」
「不死身、不老不死でもなければ安心は無理だし、その不安も仕方ないわね。……じゃ、私はできるだけ封印した奴らを探ってみるわ。見付けたらその時は適宜あなたに知らせるわね」
「了解」
そうして、和解して別れた俺達。しかし紫さんの封印が解かれる日は、案外すぐに訪れたのである。
元来エスカルゴは自己中で、そういう「思い込む」力が人並外れて強いです。なので自己暗示も朝飯前ですから、外の世界にて蓮子と「破壊者」について話していた茜が彼の頭を覗いても、レミフラ咲夜のメンバーで外に居た事になっています。
美宵編で彼が漏らした通り、言葉で自分と彼女達を縛っているのと同じ事ですね。
エスカルゴにとって、当時の出来事は「ついさっき知った」みたいなもので、半ば夢心地ですから罪の意識なんてものは、実は微塵もありません。
紫がそれを強調するのは紫が何年も抱え続けていたからですね。賢者さんなのに耐えられなかったの?という疑問はあるでしょうが、そこは一応「西行寺幽々子は愛国者である」という、原作からの設定を拾っています。
親友が愛国者なのに、自分のせいで外が滅茶苦茶になったら、紫がその罪の意識に耐えられるのか?
まぁ、耐えられないと思います。少なくとも本作の紫さんでは。原作以上に情に流されやすいので。