「はあ……」
俺は調べ物をしていて、思わず泣きたくなった。
というのも、吸血鬼というのは弱点が豊富だからである。そんなのは前にも調べたが、それを何とか克服したいのだ。
こんな事があった。
「咲夜さん」
「はい?」
俺は咲夜さんに頼まれ、野菜炒めを作っていた。
そんな時に、ふと興味を持ったものがある。
「そのナイフ触ってみてもいいですか?」
太ももに装備している3本のナイフだ。
「はい…どうぞ。お気をつけ下さい」
「ありがとうございます」
咲夜さんからナイフを受け取ろうとするのだが…
「…?どうしたんです?」
「か、身体が動かないんです…」
「えっ?」
どうしても動かない。ナイフが受け取れない。
「すみません、手に置いてもらえますか?」
両の手を開いた状態で硬直しているのだ。
その姿はまるで、お盆を持った状態でメドューサに見られて石化したかのよう。
「は、はい…」
カチャン
手にナイフを置いてもらったその時──。
「ぎえええええええ!?!?」
ポロッ…
何故か叫んでしまった上、今度は身体が勝手に動いてナイフを落としてしまった。
ブスッザクッグサッ
!!!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「きゃああああ!!エスカルゴさん!?どうしたんですか!?」
「痛い痛い痛い…ナイフ抜いて下さいぃぃ…」
「は、はい、今すぐに…」
ズボッズボッズボッ
「はぁー…はぁー…」
な、何があった…?
座り込んで肩で息をする。
「すみません…まさかこんなことになるなんて…」
咲夜さんが頭を下げる。
「いえ…咲夜さんが謝ることじゃないです」
なんだ?体調不良か?
「しかし…」
「あーあ…そのナイフ触ってみたかったのに…」
「何故ダメなんでしょう…」
ドタドタドタドタ…
『!』
「エスカルゴ!?どうしたの!?」
「レミリア…お前こそどうした?」
「あんたの叫び声が聞こえたから駆けつけてあげたのに…どうしたとは酷いわね」
「ごめんごめん。ちょっと怪我してね」
「ちょっとって…その血の量でちょっとの怪我?」
床を指さす。
「あ」
ナイフが刺さった右足甲からは血が沢山出ていた。もう止まってはいるが、痛い。おかしいな。
「あれっ?」
次の瞬間には、その血溜まりは消えていた。
咲夜さんが片付けてくれたのだろう。
「それで?何があったの?」
「いや…咲夜さんのナイフ触ろうとしたら落としちまってな。それで怪我した」
「咲夜のナイフは銀よ、触ってはダメ」
「え〜…」
銀?確か……魔除効果があるんだっけ。
「あ…すっかり忘れてました、すみません…」
「あなたらしくないわね、咲夜?」
「申し訳ございません…」
「エスカルゴ!吸血鬼は弱点が多いの!不用意にものに触らないことよ!いいわねッ!」
「はい……」
あの時はほんと大変だった…。
傷の治りも凄く悪いから、跡残るかと思った。
今でこそ、完治してるがな…。
後日、手袋越しで再チャレンジしたのだがそれも上手くいかなかった。日光を遮る日傘のような感じで、遮ればいいと思ったのだがそうでも無いらしい。
その時も落としたが、刺さる前に咲夜さんがキャッチしてくれた。ホント申し訳ない。
また、こんなことがあった。
「いい天気ね〜」
「そだな〜」
フランと2人きりのデート中。
それは突然起こった。
ゴロゴロゴロ…
「おいフラン、喉鳴ってるぞ」
喉鳴るのは超絶デレてる時だけなのだが…。
「私じゃないわよ」
「え、マジか」
「ほら、空見て。曇ってきてるわ」
「うわマジか、傘持ってねぇぞ」
「大丈夫よ、きっと」
「いや、念の為に帰ろ?」
「もう少し一緒に…居させて?」
「お、おうっ!」
そう言われるともう従う他ないね♪
…と思っていたその時の俺を殴りたい。
ポツ…
『あ』
「…おい、まずいんじゃないのか?」
「あはは…そうかもね…」
ポツッ…ポツッ…ザアァァァァ…
「うええええ!?急に強くなるか!?」
「きゃああああ!!!」
雨の中駆け出す吸血鬼2人。
「まずい!どうする!?こんな開けた土地じゃあ雨宿り出来るところなんて…」
「神社よ!近くに博麗神社があるわ!」
「!そうか、行こう!」
「ええ!」
雨の中、動けないどころか逆に超速で移動した。
『はあ…はあ…』
神社の軒下で、俺とフランは肩で息をしていた。
ガララッ
「あら、エスカルゴじゃない。どうしたの?」
「よぉ霊夢…。雨宿りさせてくれ…」
「それは良いけど…バカねぇ、吸血鬼って雨もダメなんでしょ?傘くらい持ち歩いたら?」
「う…耳が痛いぜ…」
「というか、雷を操るあんたなら天気を良く出来るんじゃないの?」
「天候は操れねぇさ」
「ほら、雲晴らすとか…(守矢神社行くとか…)」
「どーやっt……そうか!」
「?もう思いついたの?」
「ああ、やってみる!フラン、これ終わったらデートの続きだ!」
「ホント!?」
「ああ!」
「(やっぱりデート中だったんだ…私とはしてくれないくせに…。今度誘ってみようかしら?)…でも、どうやるの?」
「見てればわかるッ!」
バシュッ
「エスカルゴ!?飛び出しちゃダメ!!」
フランが止めるが気にしないで飛び出す。
ここからは気合いと根性さ。
「絶技『天翔雷霆零槍』!!!!」
超巨大な槍を出す。
「俺らの邪魔すんじゃねええええええええ!!!うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ブオッ…
叫ぶと同時に、天空目掛けて投擲。
ブワッ……
「っしゃあ…!」
予想通り、槍が貫いた周辺の雲は晴れ、そこから正円の青空が顔を覗く。台風の目直下の地点はこうなんだろうな。…これ、半径何キロ程晴れたんだ?
スタッ…
「驚いたわね、まさかほんとに晴らすなんて…」
「流石エスカルゴ♪ギューッ♪」
「ははは…」
少し痛い…。
そんで疲れたな……くそ、でも…!
「さ、続きだ!」
「うんっ!」
「またな霊夢、また来るぜ」
「…そんなビショビショな服でデートするの?」
『あ……』
あの時は結局、フランに引っ張って貰いながら紅魔館に帰ったんだよなぁ。って、あれからもう4日か。
やれやれ、時の流れというものは実に早いね。
「はあ…」
「どうしたんですか?大きな溜息…」
「!…ああ、小悪魔…」
そーいやここ図書館だったな。
「何かあったんですか?」
「いや…。こうして調べてみても、弱点を克服する方法は載ってないなーってね…」
「流石に、個人としてではなく種としての弱点の克服は厳しいのではないでしょうか…」
種として…か。
「そうかもな…。でもやりたい事あるし…」
「やりたい事?」
「咲夜さんのナイフ、あれに触りたいんだよ」
「え、ええ…?」
「あれ、銀で出来てるらしくてね…俺ら吸血鬼は触れないんだ。物凄く綺麗なんだぜ。ホント触りたい…」
「???」
何がいいのかまるで理解不能といった感じで首を傾げる小悪魔。
「そんなに触りたいですか?」
「そうだねぇ…」
とびきり切れ味が良さそうだし。
何しろ綺麗だしな。
「@☆§⇔#&〒〆△µ¤%*∵£$¥▦……」
「!?!?」
小悪魔!?急になに!?
目を瞑って理解不能な言語を発する小悪魔。
ポンッ!
「うおっ!?」
空中爆発!?
「よしっ!はい、どうぞ!」
何かを差し出してくる小悪魔。
「お…これって…」
咲夜さんのナイフだ。
「あ、咲夜さんのナイフに似せて作っただけなので触っても大丈夫ですよっ!」
「おお、そうなのか。ありがとう」
例を言って受け取る。
「えっへへ〜」
「あ、ホントだ。触れる」
「あくまでも、見た目だけなんですがね…。…小悪魔だけにっ!」
「ぷふっ…なんだそれ…」
「ふふっ♪」
さて…ナイフをもっと触るか。
「フンフン…スベスベしてるな」
「私の肌もスベスベしてますよ♪」
「ほぇ!?…あ、あぁ…」
ど、どうした?
「触ってみます?/////」
!?
「い、いや…良いよ…」
「ほらほら、遠慮なさらず♪」
「!?」
俺の右手を掴み、自分の頬へ当てがう。
「おっきい手ですね…」
「はは、まぁね…」
柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい…。
「どうですか?ナイフくらいスベスベしてるでしょう?」
「…ナイフ以上にスベスベしてるかな」
「フフ…♪」
妖美に笑いながら腰に手を回す小悪魔。
不意に2人の身体は密着する。
「あ、あの…小悪魔?」
胸当たってるんですが…。吐息も熱いし…。
顎に小悪魔の頭の羽が当たり少しこそばゆい。
「エスカルゴさん…」
「ん…?」
「あの…ですね…」
「??」
「その…」
そんなに口ごもって…何を言おうとしてる?
「あのっ…」
胸に埋めていた顔をほんの少し離し、まっすぐ目を見つめてくる。
「好き……です。付き合って下さいっ…」
「!?」
えー…小悪魔も…?流石に5人目はなぁ…。
「でもっ…パチュリー様やレミリア様、フラン様には絶対に言わないで下さい…」
「な、なんで…?」
「私はただの従者…いえ、使い魔である身…。そんな私がエスカルゴさんにそう言うだけで殺されてもおかしくありません…」
それ、殺られる覚悟で言ってきてるってこと?
「お、おう…でも俺全く凄くないんだが…」
「レミリア様やフラン様とお付き合いなさってるだけでも凄いのに…今やエスカルゴさんは幻想郷でもそこそこの実力者…」
そこそこかよ…。
ま、そうだな。俺にはそれくらいで丁度いい。
変な気は起こさない方がいいのさ。
「なので今言ったことは誰にも口外しないで下さい…お願いします…」
「わ、わかった…」
「それで…その…お返事の方は………」
「うう…」
流石に5人目はダメよ…。今までと違ってフランらに話せないって事は、付き合うとしたら隠れてって事になる。つまりダメだ。
「悪いんだが…」
「うっ…ひっく…」
「!?」
泣いてる!?
「な、泣かないでくれよ…」
俺が悪者みたいじゃないか…。
「だって…っ、ダメなんて言われたら私っ…」
「あわわわわわ……」
どうするこの状況?
もし泣き叫ばれたりしたらパチュリーも気付く。
タダでさえ、このクソ静かな図書館内ではヒソヒソ声すら響くってのにそんな…。
パチュリーに処刑されんぞ??
「私だって…」グスン
「?」
「私だって、使い魔である前に1人の女です…。断られたりしたら…」
ちょ、追い討ちかけんなっての…。
「お願いしますっ!」
深々と頭を下げる小悪魔。
「だからさ…それだと浮気になるんだよ。それはダメだ。だから…友達じゃダメか?」
「ダメですっ!」
即答かよ…。
「私もエスカルゴさんの彼女の1人になりたいんです!」
「…………」
断る口実はいくつか思いつく。
でもそれは、結果的にではなくその言葉自体で小悪魔を傷つけてしまうものばかりだ。
「使い魔の分際で───」
「使い魔如きがこの俺と?片腹痛いわ」
「使い魔は使い魔らしく大人しく───」
……そんなのダメだ。
イチ吸血鬼として…いや、1人の男として、女性を悲しませる訳には…だがしかし、全員を幸せになんて…出来る訳が無い。
「くっそ…」
悩むじゃねぇかよ…!
「………」
小悪魔は黙って目を見てくる。
俺も小悪魔の目を真っ直ぐに見つめる。
その目は涙で濡れている。
しばらく見つめあい、口をついて出てきた言葉は自分でも信じられない言葉だった。
「良いよ、付き合おう」
……!?俺は何を…!?
「ほ、本当ですか!?」
目を輝かせ食いついてくる小悪魔。
あ……言っちゃった…。
ここは男らしく、腹をキメるか。
「ああ。…とは言っても、今までとあまり変わらないんだろ?」
というかこれ以上やる事が増えたら重圧に負けて自殺しそうですハイ。
「…今までより多く図書館に来てくれますか?」
「それくらいならな」
「やったぁ♪」
こうして、“俺個人の”弱点の中に“女の涙”が加わったのだった…。
涙は女の武器…。
真っ直ぐな気持ちを無礙にする訳にも行かないし…ああ、なんてタチが悪い…カタ:( ;´꒳`;):カタ
エス「おいコラ」
筆者「ひぃっ!?なんでしょう!?」
エス「やる事増やしてんじゃねぇよ」
筆者「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
エス「謝るなら霊夢は要らねぇんだよ」
筆者「…幻想郷に染まってるねぇキミ…」
エス「あ゙ぁ゙!?」
筆者「ひぃっ!!」
エス「もう、誰も泣かせたくねぇんだよ」
筆者「………(真っ直ぐですねぇ…)」
エス「つー訳で、お仕置きな」
筆者「はぁ!?」
エス「そうだなぁ…文にやったみたいに…」
筆者「…ドッカーン?」
エス「ああ、それだと生温いな」
筆者「!?」
エス「QED『葛藤の波紋』」
筆者「ひぃっ!?避けられ」ピチューン
エス「これでよし、と。……みんな、これからも俺の自伝、よろしくなっ☆」