※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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融合、そして誘拐

「待っていろ、あたいの半身!すぐ見付けて本来の力を取り戻してくれる!あっはっはっはー!!」

 

 猛烈な寒波を生み出しながら上空を翔ける凍魔。目指すは霧の湖方面。そこに何があるのか、または誰が居るかなど全く考えていない。完全なる「勘」だった。

 まるで自分の半身に引き寄せられるように、頭で考えるよりも身体がその方角を示していたのだ。

 

「感じる……!あたいの半分、この近くに居るっ!」

 

 まさに運命。丁度その頃、凍魔の半身チルノは、いつものように大妖精と霧の湖にて遊んでいた。

 もう春だ。水遊びをするには少し早いか、または丁度いいかくらいかの温暖な気候。生命力に溢れる彼女ら妖精は、風が吹けば肌寒いくらいの気温でも構わずに水遊びをしていた。

 するとおもむろに、湖の水温が下がってきた。

 

「くちゅんっ!……うー、チルノちゃん寒いよー……春なんだから湖凍らせないでよぉ……。この寒さって凍らせてる時のでしょ?」

 

「えっ?あたいじゃないよ?」

 

「え……?」

 

 霧の湖という呼び名の由来は常に霧が立ち込めているからである。今日とて例外ではない。

 そんな霧の中で、チルノの背後に、何者かの影がヌゥッと現れた。水面に立っているように見える。大妖精の驚き様は言うまでもない。

 

「チルノちゃんっ、後ろ!!」

 

「────ッ!氷符『アイシクルフォール』!!」

 

「んっ!?何だこの粒っ……危なっ!危なぁっ!?」

 

(弾幕を知らない?……そんな事があるの?いや……幻想郷に住んでるならそんなのは有り得ない……)

 

「おらおらーっ!当たれ当たれー!!」

 

「……チルノ……チルノねぇ」

 

 その名を聞いて、凍魔は瞬時に思考を巡らせた。己の半身が以前と別の名で活動しているのは予想外だった。しかし、そこで「お前の名は凍魔だろう?目を覚ませ、あたいの半身」などとは言わない。

 凍魔がバカと言われるのは、後先考えない行動が原因なのではない。行動がワンパターン過ぎて先を読まれてしまい、それにより封印されたからこそのバカ呼ばわりなのである。

 つまり、決して頭が悪いという訳ではないのだ。そこで凍魔は、目の前の己の半身と融合する為に、できるだけ友好的な、優しい笑顔を見せた。

 

「チルノ!久しぶりっ!お姉ちゃんだぞっ♡」

 

「「………………え?」」

 

 チルノは弾幕発射を中断、大妖精も口をポカンと開けてチルノと凍魔とを何度も見比べる。確かに、2人の見た目はとてもよく似ている。目の前の女はチルノを成長させたような外見だ。

 しかし、チルノの姉というのは絶対におかしい。何故ならば彼女ら妖精は、自然の具現化。生命力の塊とも言える存在だからだ。

 故に、妖精であるチルノに肉親なんて存在しないはずである。

 

「お姉ちゃん……?あたいの?」

 

「そうとも!あたいはチルノのお姉ちゃん!少〜し近くを通り掛かったモンだから、久しぶりに会いに来たんだぞっ♪」

 

「……!チルノちゃん、離れて!その人の言ってる事何かおかしいよ!変だよッ!!」

 

「……ッ!」

 

「……チッ。チビ巨乳がこのあたいの邪魔するとか、生意気だね」

 

 大妖精が叫ぶとチルノも同じ事に気付き、一気に凍魔から距離をとる。策が破られたな、と気付いた凍魔はあからさまに舌打ちをすると、何とか抑えていた冷気を一気に放出させる。

 するとたちまち、彼女の足元からビキビキビキと湖面が凍っていき、ものの数秒で、天然のスケートリンクが完成してしまった。

 力を増したチルノでさえ相当の力を込めなければ数秒でなんて凍らせられないというのに、凍魔は、自身の冷気のみで凍らせた。

 圧倒的な格上。チルノは本能でそれを感じ取り、思わず口元を引き攣らせてしまう。

 逃げたい。けれど逃げればどうなるかは、やはりすぐに予想出来た。予想出来てしまうのだ。相手がここまでの格上だと、背中を向けた瞬間に終わる……逃走が間に合わないという事が。

 

「逃げて大ちゃん!コイツの狙いはあたいだ!!」

 

「そーそー!流石あたい、利口だねぇ。てことで、そこの緑はどっか行きな。殺すよ?」

 

「ひっ…………い、嫌ですっ……!!」

 

「嫌ぁ?違う違う、何を言ってんの?あのねぇ……。あんたがどうしたいのか聞いてるんじゃないんだ。あたいは、あんたに命令してんのよ。どっか行け(・・・・・)。ここから消えろ(・・・・・・・)って」

 

「そ、それでもっ…………」

 

「お前ええええっ!!大ちゃんにそんな事言うな!お前なんて……お前なんてあたいが退治してやるッ!覚悟ッ!氷剣『アイシクルソード』!!」

 

「ふふん、ホントに流石だね。じゃっ、お望み通りこの緑ちゃんは殺してあげるね♪」

 

 ニコッと微笑みながらそう言うと、凍魔は両手に氷の爪を生成する。氷の剣を持ったチルノは急いで凍魔に切り掛かるが瞬時に標的を切り替えた凍魔は大妖精を襲おうとした勢いのまま、チルノの胴体を穿いた。

 

「おげっ……」

 

「チルノちゃ────」

 

 チルノを貫いても凍魔の攻撃は止まらない。腕にチルノをハメたまま、動けずにいた大妖精をもその鋭い氷の爪にて攻撃。腕で焼き鳥でも作るが如く、2人連続で貫通させたのだった。

 

「ぐぉぇっ…………!?」

 

「う………そ……………………チル…………ノ、ちゃ…………」

 

「大ちゃ…………ぐうううっ……」

 

 チルノの背後では、大妖精の気配が消えていく。死んだ妖精は、ただ消えるのみ。どこかで力を蓄え復活するまで「一回休み」するのである。

 

「大ちゃんっ……大ぢゃああ゙あ゙ぁんっっ!!」

 

「もう消えたよ」

 

「────ッ」

 

「半分くらいの力かなーと思ったけど、もしかして半分以下かなぁ。雑魚すぎる。……ま、仕方ないか。別の名前で活動してんだもん、あたいとしての力はほぼ失われたも同然、か……。でも、あたいは優しいからさ。雑魚でも何でも受け入れたげるよ。あたいだしね」

 

(何これっ……力が……吸い取られる────)

 

「あたいは凍魔。万物を凍結させ破壊する、氷上の破壊者。可愛いだけの『チルノ』なんてお名前は、今ここで捨てな」

 

(意識が……。もしかして…………あたいも一回休み、しちゃうのかな……?痛い、痛いよ……苦しいよ…………助けて……エスカルゴ………………)

 

 数秒で凍魔に吸収されたチルノは、意識を喪失。やがては気配も何もかもを失い、遂に凍魔と一つになってしまうのだろう。

 これは「一回休み」ではない。完全なる吸収だ。よって、もうチルノは、前回と同じ手段を踏まない限りは、二度とこの世に現れなくなってしまった。

 

 

 ◆

 

 

「……あっと。そろそろ約束の時間だ。悪ィな霊魔、今日はもう行くぜ」

 

「あ、うん。わかった。……チルノ?」

 

「おう。この後、待ち合わせしてんだ。そんじゃ、特訓の続きはまた今度だな。次までにまた、新しいけん玉モチーフの技ぁ考えとくんだな」

 

「はーい」

 

 霊魔との特訓を切り上げた俺は、今日は珍しく、待ち合わせの時間のほんの少し前に霧の湖へ行く。いつもならもっと早く行くが、息子たってのお願いだったので、チルノの特訓ギリギリまで彼の特訓を引き受けたのだった。

 そしてスキマにて霧の湖まで来たのだが、どうも様子が変だ。もう春も終盤なのに、鳥肌が立つ程に寒い。しかも湖面は完全に凍りついている。

 

「え、何これチルノか?…………あ、大人チルノか」

 

「え……え?な、何……何なの…………?」

 

「?」

 

 何故か胸が平らな大人チルノは、カチンコチンに凍った湖面に尻もちをついている。俺を見て何やら驚いているようだ。

 

「く、空間に穴が開いた…………っ!?」

 

「あぁ……?何度も見てんだろ、スキマ。初見かよ、その反応。ところで……大ちゃんが居ないみたいだが大ちゃんはどこだ?」

 

「大ちゃん?……あぁ、あの緑か。殺したよ」

 

「…………あ?」

 

「だから、あたいが殺したって言ってんの」

 

「悪ィなチルノ……俺、疲れてんのかな。お前が何を言ってんのか、まるで理解できねーンだわ」

 

「バカなんじゃない?」

 

「バッ…………え、チルノどうした?ご機嫌斜めなら今日の特訓はやめとくか?」

 

「チルノなんて奴は、もう存在しないよ。あたいが吸収して、完全に融合したし」

 

「あ?……フザケるのもその辺にしとこうな?ほら、早く『絶対氷帝チルノ様』解除してさ、元のロリに戻ってくれよ」

 

「何だその壊滅的なネーミング!いいか?アイツと勘違いしてるみたいだから自己紹介しとくけどね、あたいはチルノじゃない!チルノの本体と言うべき絶対的な存在、凍魔(トウマ)様だ!!覚えとけバカ!」

 

「チルノの本体?凍魔?…………どういう事だ……?」

 

「あんた鈍感だね。気配、よぉ〜く感じ取りなよ。混ざってるでしょ(・・・・・・・・)?融合したてだからね。でももうあいつの意識は無い。完全なる『無』だよ」

 

「……………………ッ!?」

 

 気配探知能力を最大限にして、やっと気付いた。チルノの透き通った氷のような気配を、少し濁った人工の氷のような気配が覆っている。そして少し、ほんの少しずつそれは溶け合わさっていく…………。

 

「ち……チルノ……は……?」

 

「言ったろ?あたいが吸収して、融合したのさ」

 

「…………テメェ……何モンだよ……!?」

 

「さっきも言ったろー、鳥頭か?あたいは凍魔様!かなり昔に封印されてチルノと分離したけど、復活するなりすぐ元通り融合できた、幸運な妖怪さ!」

 

「────大ちゃんに何しやがった!?」

 

「殺したってば。何度同じ事を言わすのさ?」

 

「ブッ殺す!!!」

 

「!」

 

 全力で拳を握り、大人チルノもとい凍魔とやらの顔面を吹き飛ばそうと肉薄する。すると奴は、何と汚いことに、こんな事を言ってのけた。

 

「あたいを殺したらチルノを殺す事になるぞ!!」

 

「────ッ!?」

 

「さっきも言ったけど、あたいは封印されて凍魔とチルノに分離した!つまり今が完全体なワケだけどあんたはチルノを助けたいんだよね?それならまずあたいを殺すっていう選択肢は選んじゃいけない!あたいが死ねばチルノも死ぬ!」

 

「殺ってみなきゃ分かんねェだろうがァ!!この、クソ野郎…………!チルノを……大妖精を返しやがれ、チクショオオオオ!!!」

 

「あっはっはははは!あたいに勝てたら、元通りに封印されてあげなくもないよ?ま、無理だけどね!万物を凍結させるこのあたいに勝つなんて、巫女と八雲紫が手を組まなきゃ実現不可能なんだよ〜っ!あはははははははははは!!」

 

「こ、の、や、ろぉぉぉ…………!!」

 

 殺してやりたい。殺してやりたい。だが奴の中でほんの僅かに光るチルノの気配が……彼女の存在を、俺に教えてくれる。

 コイツは嘘を言っていない。チルノは奴の中に、そして、大妖精は死んだ。大妖精の気配はピッタリここで途切れているし、彼女らの血の匂いもする。

 大妖精は妖精だ。「一回休み」になっているだけだとは思うが……腹が立つ事に変わりはない。

 凍魔を殺したらチルノの部分だけ「一回休み」になってくれないだろうか。恐らくならなさそうだ。融合しているという事は、チルノは奴の一部。ならもう妖精としての特性を備えているとは思えない。妖精部分(・・)も何も、その「部分」が飲み込まれているのだ、チルノだけが蘇るなどそんな都合のいい事が起きるはずがない。

 

「おっ?美女はっけ〜ん♡」

 

「!?……さッ……」

 

 凍魔は紅魔館の方を見るなりそう言い、こちらが目眩を起こしてしまいそうな程の冷気を撒き散らしながら、ゴオッと飛んで行った。

 

「────あらチルノ、また派手に凍らせたのね。春なのに元気ですこと」

 

「♬」

 

「逃げろ咲夜あああああああああああああああっっっ!!!!」

 

「え……」

 

「遅いよ♡」

 

 時間停止でも回避でも、咲夜さんが無事ならもう何でもいい。ただ間に合ってくれ。そう願ったが、現実は非情で、無常で…………凍魔が咲夜さんの手を取ると、パキパキパキッと音を立てて、咲夜さんは瞬時に氷像になってしまった。

 

「ッッ…………あああああああああああああっっ!!うわあああああああっっ…………ああっ……なんで……あああ゙ぁぁあ゙ぁぁっっ……!!」

 

「ふふんっ♪……何でも凍結させちゃうあたいの力、思い知ってくれた?」

 

「てめぇ……てめぇぇぇっ……!!チルノ……大妖精、のみならず!!……てめええええあああぁぁぁっ!!返せっ、返せ、返しやがれええええっ!!」

 

「おっと、それ以上あたいに近付くと氷像(コレ)割るよ?そうなったらこの子、死ぬよ?」

 

「ッッ────人質かよチクショオッ!!」

 

「そゆことだね!大丈夫、この子は殺さないから。こんな美人さんなんだし、あたいのコレクションにピッタリ♡……懐かしの我が家に持ち帰って早く観賞したいなぁ〜♡」

 

「返せ……返せ!!」

 

「割って返そうか?それが嫌ってんなら黙りなよ。この子を助けられなかったのはあんたのせいだし。ダッサ。いちいち叫んで、バカみたい」

 

「っっ…………」

 

「あっ、そうだ。忠告しとこ」

 

「!?」

 

 氷像と化した咲夜さんを腋に抱え持ち上げると、クルリと振り返り、満面の笑みでとんでもない事を言ってのける。

 

「もしもさっきの空間に穴を開けるヤツであたいの拠点に来ようとしたら、その時はこの子を殺すよ。割って殺してもいいし、何なら絶対に再生できないように魂を狩ってもいい。あたいの知り合いの中に夢摘霊(むつみたま)黄泉(よみ)っていう死神が居てね。コイツは、魂を傷付けたり、魂を奪うのに特化してるんだ。それが嫌なら…………分かるね?」

 

「…………」

 

「じゃ、この子は持って帰るね(・・・・・・)。じゃあねぇ〜♡」

 

 真っ白な霧と共に、咲夜さんを抱えた凍魔は姿を消した。

 なまじチルノに似た姿をしているから……、そしてチルノが奴の中に居るから簡単に殺せない。非常にもどかしい。

 あんなの、俺にどうしろと言うんだ。そもそも、あまりにも急だったので、瞬間移動を使うとかいう発想に至らなかったし、口と頭以外働かずに、全く動けなかった。

 

「……クソッ……クソがッ…………チルノ……咲夜さん……待ってて……すぐに助けに行くから…………」

 

 紫さんの言っていた「古の妖怪」が、復活した。俺はそう思っていた。

 しかし、俺はまだ気付いていなかった。凍魔が、そしてその夢摘霊黄泉とやらが、つい先日紫さんの言っていた「山の地下に封印した妖怪達」ではないという事に────。




凍魔達は地獄から復活したので、紫さんが言ってる妖怪達とは全くの別人なんですよね。
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