「何じゃと?技を見たい、と?」
「うん。俺と熱盛とを分離させた技を見たい。見て盗む。教えてとは言わないから……お願いします」
「……救いたい者が、居るのだな」
「!」
「あいわかった、ならばついてこい。妖夢、妖舞、食事の支度は任せた。儂が戻るまでに全て済ませておきなさい。出来なければ素振り1万回追加じゃ」
「「は、はいっ!」」
割烹着を脱いだ妖忌は近くの椅子に掛けて、刀を取ってくると言い台所を出た。刀を取るのならと、3人がいつも修行している場所へ向かった。
「ほ。先に来ておったか。以前より気が利くようになったではないか」
「まぁね。てか────」
「構えろ。まずは受けてみぃ」
「えっ……あ、うんっ……。……でも、いいの?理由も聞かないでさ……。というか紫さんがスキマ空間用意してくれたんだけど……精神と時の
「数ある技術、技の中であの技を選ぶという事は……理由なら儂にも想像がつく。急を要するのだろう?話す時間も惜しいはずだと思ったが、違うのか?」
「ッ!……ありがとう……妖忌……。絶対悪用しない」
「そんな事はしないじゃろ。儂は信じておる」
「え。……あぁ……ありがとう」
「たわけが。儂が信じるのは貴様ではない。貴様を信じた妖夢を信じておるのだ」
「あ、はい……」
「全てが終わったら、話を聞かせてもらおうかの。それなら良かろう」
「了解。そうしよう」
「紫様には頼るな。己の力で掴め。会得しろ」
「……はい」
いつも通りで安心した。甘々ではないのはあまり変わらないが、態度が凄く軟化したように感じる。これは助かる。
後は、妖忌の技を盗む。……構えは普通に見える。しかし力の流れというか、妖気が刀に集約しているというか……そんな風に見える。
「いざ……参る。────『死者葬送』ッ!」
ガキィンと甲高い音を立てて刃を交える。しかしその瞬間に、全身を虫が這いまくるような、そして魂が少しずつ引き摺り出されるような気持ちの悪い感覚が駆け巡った。
「き、気持ち悪い……何、この感覚……目眩がする」
「今は手加減したが、魂を削られるような、まるであの世に引き込まれるような……気が抜けるような、そんな感覚がしたであろう」
「それだ」
「剣を介し、敵の魂に手を加える技術だ。分離まで習得するのは難しいだろう。だが…………お主ならば容易に会得できそうだぞ」
「え……?何で……そう思うの?センスとか?」
「剣術のセンスは並じゃ。そうではなく力の操作の基礎が出来ておる。筋力ではないぞ」
「じゃあ何の力?」
「魂の力ないしは生命力じゃ。覚えは無いか?」
「…………生命力を引き出して力に変えたりだったらたまにしてるけど」
「ならばそれだな。それが出来るのなら……。そしてお主の核は肉体ではなく魂。この技を会得する際の壁が尽く取り払われておる。これは都合が良いな」
表情は変えないが声は優しげな声になっている。妖忌らしくない、なんて言っては失礼にあたるが、ついついそう感じてしまう。
しかし、彼にそう言ってもらえると俄然やる気が出てくるというものだ。厳しい人とはかなり昔から聞いているので覚悟はしていたが……。
「白楼剣を使えるのは魂魄家の者のみ。しかしこの技を使えば、白楼剣で霊を斬るのと変わらぬ効力を得られる。分離は応用に過ぎぬ。お主は、生命力を力に変えるのを得意としておる。この技の根源も、生命力に手を加えるというモノだ。魂は、生命力の塊と大差無いからな」
「そう……なんだ?」
「あの技──『死者葬送』の本質は霊や、魂、更に生命力を絶つというものじゃ。この技を会得したのならば、文字通りの一撃必殺の技となる」
「……ふむ」
「生命力を力に変えていると、先程言ったな。己の生命力を操れるのなら基礎はすぐに習得可能じゃ。問題はそれを確かめる術が無い事にある」
「どうやって確かめるのさ?」
「ここは冥界。その辺の霊でも斬れば良いのだが……そうすると輪廻の理が狂う。白楼剣でも無闇に霊を斬ってはならぬのは、輪廻転生が不可能になるからなのじゃ。……閻魔様からこっぴどく叱られてのぅ。今の妖舞くらいの頃に地獄に連れて行かれた時は、流石に肝が冷えたわい」
「トラウマになるよ、そんなん……」
妖忌の少年時代が、何となく分かった気がする。きっと自分が強くなる事にしか、そして技の開発や強化などにしか興味が無かったのだろう。
「生命力を力に変えるというのはな、できるようで中々できないものじゃ。何せ、生命力は他のどんな力よりも回復が遅い。次の事を思えば己の生命力を鰹節の如く削るような真似はできぬものだ。だが、お主は不死身……不老不死じゃ。復活込みで考えれば無限の鰹節じゃの」
「俺の魂を鰹節扱いしないで!?」
「ほっほっほ。……ほれ、その辺の霊を斬ってみい。閻魔様には儂から上手いコト言っておいてやるわ」
「妖忌から言わなくてもいいよ、俺が自分で言う。地獄の英雄なんて呼ばれてるからね俺」
「ほう。ならば英雄たる実力を見せてもらおうか」
「ぶっつけ本番なんだけど……。えと、相手の魂を?斬るんだよね」
「そう。己の生命力を操るのと同じように、相手の生命力の流れを視るのだ。川を絶つように、そして巨木を絶つように、魂を絶つのだ」
巨木なんて簡単に斬れないんだが……、と言いたいところをグッと堪えて、近くを浮遊していた幽霊に剣を向ける。無害な幽霊には申し訳ないが俺の為、そして咲夜さんとチルノの為、この幽霊には犠牲になってもらう。
「フーッ…………ハァッ!」
「────なっとらんなぁ……少し傷付けただけではないか。すまんの、今、楽に逝かせてやる」
俺が斬った幽霊を妖忌が更に斬ると、霊は瞬時に成仏してしまった。あまりにあっという間、しかし綺麗な太刀筋で、目が離せなかった。
「お主には川が視えぬのか?命の川を視よ」
「…………思ったより難しい」
「では言い方を変えよう。敵の『力』を斬るのだ。命の川、それ即ち生命力の流れ。生命力は、お主も自覚しておる通り『力』に変える事が可能だ。故に命や生命力ではなく『力』という概念を斬るのだ」
「マジで言い方変えただけじゃん…………ってまさかこれって……待てよ……?」
「?」
「前に妖忌……俺の重力の能力を斬ったよな。空間に掛けたはずの能力を……」
「気付いたか。……そうだ。魂、力、空間、時間……概念という括りで見れば全て同じ。魂を斬れたなら生命力を斬れる。生命力を斬れたなら力を斬れる。力を斬れたなら能力を斬れる。基礎は全てに通ずるという良い例じゃな。だから儂はあの時、空間ごと能力を斬ったのだ」
「じゃあ俺は今んとこ……」
「生命力を傷付ける事は、できた。『流れ』を意識すれば、能力をも絶つ事ができるであろう」
重力の能力を斬られた時は真横に斬られたはず。重力と言えば、視覚的に見ればやっぱり縦の力だ。それを絶つというなら、横に斬ったというのは理に適っている。
「もっかいだ」
「うむ。……いや待て、この気配────!」
「!」
妖忌が慌てた理由は数秒遅れて俺にも分かった。縁側で茶を飲んでいた映姫がこちらに来たからだ。幽霊が1つ消えた事がバレたのだろうか。流石に、それは無いとは思うが……。
「おや……修行中でしたか」
「四季様……如何なさいましたかな?」
「いえ。少々、嫌な予感がしましたので……」
「っ……映姫、俺……チルノも無事に助ける為に特訓してるんだけど……その────」
「続けなさい」
「へ?」
「あなたが力を高める事は幻想郷、ひいては地獄を救う事にも繋がります。無闇に斬り過ぎぬように、気を付けるように。必要最低限になさい。尊い犠牲というものです。……世界と輪廻、どちらが重いか。私には判断しかねます。どちらも等しく重いと私は思っていますので……」
「映姫……」
「犠牲になる者達には、後ほど私が弔いをします。あなたは戦う事、敵を殺す事……愛する者達を救う事だけに集中してください。それが世界を救う事にも繋がるのですから……」
「……分かった。頑張るよ」
「ええ、頑張ってください。世界の命運はあなたの双肩に掛かっているのです」
「
それからも特訓を続け、遂に分離を会得する一歩手前まで来た……らしい。何体もの霊を成仏させて、遂にそこに関しては妖忌のお墨付きを得た。
「フン、付け焼き刃にしてはよく出来たもんじゃ」
「付け焼き刃かぁ」
「阿呆が。力の根幹に触れようとする技術なのだ、本来なら一朝一夕に得られるモノではない。お主がたまたまそういった力に元々触れていたからこそ、こんなにも早く会得できただけに過ぎぬ」
「じゃあ付け焼き刃になった所で次の段階かな」
「……形にはなった。次は分離じゃの」
「と言っても、融合してるものなんて何も……」
「私が居るわ」
「「ッ!!」」
うーんと悩む俺と妖忌の所に来たのは、白玉楼の主、幽々子さんだった。一体何を言っているのかと困惑していると、ニコリと微笑み言葉を続ける。
「私が妖忌に取り憑くから、私と妖忌を分離させてみなさい」
「なっ……!?」
「成程、流石は幽々子様。そのような方法、儂には思い付きませなんだ」
「いやいやいやいやいやいや待ってくださいよ!!それ、下手したら幽々子さんが成仏しますよね!?妖忌だってタダで済むはずがない!そもそも、練習なのにイキナリ本番だなんて……!」
「本番はチルノと凍魔の分離。それ以外は全て練習だから大丈夫よ♪」
「っ……俺の手で幽々子さんと妖忌を殺せと……!?そんなん無理に決まってますよ……!!」
「お主に殺されるつもりは毛頭ない。幽々子様とて同じこと。……融合と憑依は全く違うものだが、まぁ憑依を強制解除させる事など容易だ。憑依ならば、難易度は格段に低くなるからな」
逆に言えば、融合したチルノと凍魔を分離させるのは妖忌から幽々子さんを引き剥がすより難易度が格段に高くなるという事ではないか。
しかも、融合の方は「練習」などしようがない。つまり、一発勝負に慣れておけと。そういう事か。
「じゃあ、始めるわよ」
「……お願い、します」
「……案ずるな、失敗しそうなら回避するまでの事。集中せよ。2人の境界を斬るのだ」
ダメそうなら俺の剣を回避する、という宣言までされてしまった。俺の剣はかなり軽量だ。だから、重さはともかく一撃の速さにはかなり自信がある。それなのに、これまで俺の剣を見てきた妖忌がそう言えるという事は……そういう事なのだろう。
幽々子さんは溶け込むように妖忌の中に消えて、やがてわざとらしく気配を漏らし始めた。これならイケる。あからさまに気配が二分しているのなら、俺にも出来る。
「────いきます!」
「来るがいい」
2人の「境界」を見切る。妖忌を唐竹割りにせん勢いで剣を振り下ろす。妖忌は回避しない。そんな素振りは見せない。しかし構え無しで突然動き出す彼なので、そこまで気にしなくても良さそうだ。
やがて剣は2人の境界へ。物理的に剣先が妖忌に触れられる距離なのに何故斬れないか、俺はそれが謎に思えたが、そんな事は気にせず振り切った。
「────うむ、合格」
「妖忌が『合格』を口にするなんて、滅多にない事なのよ〜」
「え、そうなんですか」
「そんな事は無いですぞ幽々子様。妖夢も妖舞も、技の『合格』の域に達せぬものですから、そもそも言う機会が無いというものですじゃ」
「あらあら。……エスカルゴくん、憑依は無理矢理に解除できるようになったのね。それなら融合だって難しくないはずよ、頑張ってね♪」
「はい。……でも、融合と憑依は違いますし……妖忌としてはどう思う?」
「できなくもないじゃろ今のお主なら。今の攻撃が合格か不合格かのギリギリだったならば、無理だと判断するが……ある程度の余裕はあった。融合でも、失敗はせぬはず。今のように落ち着いて斬ればな」
「……落ち着いて……か。分かったよ。ありがとう」
「分かったのならば、疾く向かうがいい。融合は、時間が経つ毎に分離させる難易度も上がるぞ」
「うん。とりあえず、幻想郷に戻って敵のアジトに向かう方法考えるよ。妖夢達に宜しく」
「またね〜」
手を振る幽々子さん、目を細める妖忌の見送りを背中で受け止め、現場の霧の湖へとスキマを開く。一先ず、凍魔の居場所を早急に割り出さなくては。
鴉天狗が飛ぶより速く消えたのだから、そこまで離れていないのだろうが……敵の居場所をあれこれと考えていく程、嫌な予感しかしてこなかった。
見た目も中身も凄く厳格な妖忌が(忍たま乱太郎に出てくるような)割烹着を着てると思うとニヤニヤ止まらなくなる。マジで。
俺が思う割烹着は、忍たま乱太郎に出てくるアレ。幼い頃から刷り込まれてるから、何かそのイメージしかないですね。
時系列(おおよそ)
地獄にて3人が復活
ほぼ同時に地獄から脱出を図り、暴れながら地獄の入口(出口)へ向かう
鬼神長や十王等が止めに来るが、これを突破
黄泉がいち早く人里に到着し、人を殺し始める
愉于奈も里に到着するが、黄泉が少しずつ人を殺し始めているのを見て、自分は後で暴れようと凍魔のアジトのある○○○○(○○○)へ、幻想郷を観光しながら向かう
脱出した次の日、凍魔は霧の湖にて大妖精を殺害、チルノと融合、エスカルゴと初戦闘
通り掛かった咲夜を凍らせアジトへ持ち帰る