凍魔を発見し殺す算段が整った俺は、この計画を完璧に、1つのミスも無く進める為、外堀を完璧に埋めてから本番に臨むことにした。
まずは1つ目の外堀を……。
《へカーティア〜。ギリシャ語が理解できるような加護が欲しいんだけども》
《あー……ごめんなさいね、今はちょ〜っとゴタゴタしててねぇ……》
《え》
《ほら、ゼウスを倒す為に、他のギリシャ神をほぼ全員無力化したでしょ?でもそれだと神界が終わるのよね。神によって成り立ってるから。そうすると私も主神じゃなくなるから、時間掛けてアイツらを復活させたんだけど……『わからせ』るのに時間が……掛かっちゃってるのよねぇ》
《……マジか》
《あっ、男神相手でも別に身体は使ってないわよ?あなたと違う意味の『わからせ』だからね?》
《分かってるよ!?》
《そ、なら良かったわ。だからごめんなさいね、今あなたには力を割けないのよ。地獄の力は変わらず使えるから安心してね》
《ん、そういう事なら大丈夫。どうにかするよ》
《そう……それならいいけど。じゃ、また今度ね!》
《うん》
へカーティアがダメならば、最終手段しかない。だからまず、地下牢へ向かい────。
「シャロンは上で待っててくれ」
「分かりました!」
何があるか分からないという事で、念の為、牢に続く階段の上で従者を待たせておく。妖精なので、復活はするとしても……やはり心象が良くない。
「……あ。またエッチしに来たの?いいよ……綺麗にしてるからさ。でもそろそろ孕んじゃうかもよ?」
「来い」
「?……え?私に恋したって?」
「違ぇよ。……まァ、色々とあってな。俺1人じゃあ無理だと判断した。でもレミリアは巻き込めねーし力を借りるつもりもサラサラ無い。そんなら、後はお前だけだ。巻き込んでもいい吸血鬼はな」
「待ってよ、巻き込むって何に?それなら
「拒否権は無い。出な。さもなくば────」
「殺すって事ね。はいはい、分かったわよ」
「話が早くて助かるよ。……ごめんな」
「はァ?この私を脅しといて『ごめんな』なんて、意味わかんないんですけどー?」
「う……。いいから黙ってついてこい、紅茶くらいは用意してやるよ。俺の好きなアールグレイだ」
「あら親切ですこと。やっとモルモーちゃんの凄さ分かった?」
「オメーの凄さは元々知ってるよ。神話の頃から、ずっとな。ましてや神話の内容より凄いなんてな、お前が幻想郷に来なきゃ知る機会も無かった。だが俺は、そんなお前の力を借りたくなったんだ。色々虫のいい話だと思うが……手を貸してくれよ」
「────言われなくてもそーするってのに。私のご主人様♪」
「……いつからお前の主人になったんだよ俺は」
「え〜?モルモーちゃんを性奴隷にするんならぁ、ご主人様はご主人様でしょぉ?」
「……。もういいやそれで」
確かにコイツの言う事にも一理あるし、なんならもうそれでいい。何より問答する時間が勿体ない。
こうして俺は、何故か神代の吸血鬼・モルモーの主人とかいう新たな立場を手に入れた事になるが、これが俺の人生にどう影響するのか……。それが少し楽しみに思っている自分がいる事に驚いている。
「あれっ?モルモーさん釈放ですか?」
「あ、シャロンじゃない。ご主人様〜?この子の事待たせてたの?」
「……。シャロン、テラスで紅茶飲むから準備頼む。アールグレイがあればそれで。無ければ任せるよ」
「分かりました!」
地下牢からモルモーを出すという事で、一応手錠だけは付けているが、SMプレイ用のモノである。強度で言うなら外の世界の警察の手錠未満の筈だ。吸血鬼に使うには心許ないどころではなく、最早、気休めにもなっていない。
そう、あくまで手錠はポーズだ。安心して下さい拘束してますよ、というアピールをしているだけ。彼女もそれは分かっているので、文句は言わない。
「んでよー、俺の計画だと、俺達は敵陣に乗り込む事になるワケ」
「えぇそうね〜」
「でも、現地で普通に会話してたら、敵にその先を読まれて色々とやりづらいだろ?話さずとも動けるレベルのツーカーじゃあねぇし俺ら」
「でもご主人様とモルモーちゃんの強さなら、別にどうって事ないと思うけど?」
「用心に用心を重ねんだよ。分かんだろ?嫁の命が掛かってんだ」
「……はーい」
「……そ・ん・で……フツーならハンドシグナルとかそんなんで会話するんだろうが……2人だけの秘密の合図だなんて考えるのも覚えるの大変だろ?だから俺らに共通するアレを使おうと思う」
「
「ギリシャ語だ。ギリシャ出身なら分かるだろう?古代ギリシャ語と現代ギリシャ語、どっちもイけるよな、モルモー?」
「え、え〜……まぁ一応は現代のも分かるけどさー」
「良し!じゃあそれを教えてくれ、日常会話程度で構わない。へカーティアは忙しそうだし、書物だと覚えるのに時間が掛かる。だからモルモー、お前が教えてくれ。……まだ一文しか暗唱できねーんだよ」
創造した紙に、同じく創造した鉛筆をコツコツとぶつけ黒い点を量産する。ベキンと鉛筆そのものを折った所で、貧乏揺すり鉛筆バージョンをやめて、ニコリとモルモーに笑いかけてみる。
「……因みにソレはどういった文章なの?」
「『
「『我はアルパにしてオメガなり』??……逆に何故それだけ……?日常会話とは程遠い内容でしょ……」
「これは『ヨハネの黙示録』の文章らしい。『新約聖書』の一部だったか。神話や聖書とかそういうの興味あるから、そっちから言葉学ぼうとした結果……ムズくてろくに覚えられず、逆にこれだけ中途半端ながらも覚えてしまった、とね。いや、単語としてだったら幾つかは分かるぜ?でも会話なんかは無理だしな、『文』だとこれだけなんだ。だって…………ギリシャ語ムズいし……」
「……今回の目的って何だっけ?」
「だぁかぁらぁ、咲夜さんを無傷で助け、チルノも助けるんだってばさ」
「それなら時間を止めればいいだけじゃ?それなら合図も会話も要らないと思うけど」
「簡単に言うんじゃあねーよ、てか
「私……時間魔法を究めてるし、時間停止くらいなら余裕なんですけどー……?」
「そーいやそうだった!!」
「忘れてたの!?有り得なっ!!」
「ごめん!磁力操作とかいう俺がメタ張れる能力を持ってる事しか覚えてなかった!」
「能力じゃなくてそれも魔法〜!!」
キーッと悔しそうな顔をするモルモー。どうして囚われの身でこんなに豊かな表情を見せてくれるか俺には分からないが……可愛いので良しとしよう。
「……思ったんだけどさ、モルモーってどんな魔法が使えんの?」
「大抵の魔法は使えるわ。パチュリーよりも長生きしてるしー、パチュリーよりは魔法についての知識だけはあると思ってるわ。実力があるかは兎も角。究めてるのが時間魔法とかくらいってだけね」
「そこで謙遜すんのか。意外だな」
「……一度、パチュリーの事を目にした事があるわ。でもね、あの魔力含有量はヤバいの一言に尽きる。時間でも止めないと、モルモーちゃん負けるわね。魔法vs魔法で戦うなら正攻法じゃまず無理。絶対に負ける。あ〜、時間魔法を究めてて良かった♡」
「ふむ……。知識なら上でも、実力が伴ってないと。でもどうかなぁ、パチュリーの知識量エグいけど」
「それは、ご主人様の魔法の知識量がショボイからそう感じるだけじゃないの?」
「おめー、よく目を見て言えるなそんな事……。その図太さだけは心から尊敬するよ」
「えへへ〜♪」
「……。可愛い顔しやがって……。使うのはフツーにエグい魔法なんだよなぁ……」
「そーね、ご主人様だから攻略できるんだろうけどフツーなら無理よ?」
「んじゃもう、シンプルで良いかぁ。合図もクソも無いわ」
「どんな作戦でイく?」
きゅるん、と丸い眼でこちらを見てくる。まるで
すぐ側に従者も居るのだからこれ以上ダサい様は見せられない。もう既に泣き顔まで見られたのだ、これ以上シャロンの中で俺の株を落とさないように最大限に気を付けなければ。
「モルモーが時間を止める!咲夜さんを取り戻す!俺が敵を斬る!本体を斬る!以上ッ!!」
「ンフッ、シンプルで分かりやすい♡」
「魔法だしフリーハンドじゃなきゃ使えないっつー制約は無いよな。……まぁ、手錠は取ってやる。手が動かせないせいで怪我した……なんて、胸糞だし」
「え、いいの?逃げるかもしれないよ?」
「フン、なら連れ戻すさ。敵の場所に向かう方法と同じ方法を使ってな」
「……どんな方法よ」
「俺ァ、異世界に行ける能力を持ってる。ま、一度行けばスキマで行けるんであまり使わない能力では
あるんだけども……この能力を使う上で重要なのが、
『定義』する事なんだよ」
「定義?」
「例えば、幻想郷と地獄は異世界同士だろ?けど、世界と世界を別モンだって見るのは、結局は、俺の主観による無意識の定義なんだよな」
「なーるほど。つまり、ご主人様の『探してる人のそば』を『異世界』と定義すれば、異世界に行ける能力ですぐにソイツの傍に行ける……と。定義の問題なら、定義自体を変えてしまえば自由度は可変……。そういう事でしょ?」
「そういう事。流石じゃんモルモー」
「伊達に長生きしてないわ♪」
「うんうん。ヨシヨシ」
「ムフッ♡…………って、なんで頭撫でんのよ!子供扱いしないで!」
「『ムフッ♡』なんて声漏らしたクセに」
「わー、わー!!聞き間違い!いや、溜め息だからそれは!」
「はいはい、そーですか」
やっぱりまずい。モルモーがとても可愛く見えてならない。知らない内に魅了を使われているのか、それとも俺までただモルモーの美貌に心を奪われてしまったのか……。
「フー……美味しかったよシャロン。じゃ、早速敵のアジトに向かいますかぁ」
「えー?心の準備がまだできてないんですけどー」
「ご主人様って言うなら俺に従いな、モルモー」
「はぁ〜い。横暴ねぇ、ヘカテー様と大違いよ」
「嫌なら死ぬかい?それとも暗い牢獄で永い一生を終えるか?」
「フフッ……脅すのがヘ・タ・よ♡」
「あ?」
「実際にそんな事するつもりなんて、サラサラ無いクセに♡……でも従ってあげる♡」
「そーかい、ありがとよ」
(ご主人様とモルモーさんって、何だかんだで良いコンビに見えてしまうのは何故でしょう……?何度も何度も交わるとこうなるものなのでしょうか……?)
「よしっ、行ってくる。シャロン、すぐ帰ってくるから、熱湯風呂と風呂の準備を頼めるか?」
「はいっ!……熱湯風呂、ですか?」
「氷漬けになってる咲夜さんを溶かすには、多分、熱湯が必要だと思う。まぁそれは、敵の能力によるものだし、敵を倒したら解除されます!のパターンだったら楽なんだけどさ。でも、恐らく必要になるかもしれない。風呂っつーのは、戦闘後はちゃんと汗を流したいからだな」
「承知しました、すぐ準備に取り掛かります!」
「頼む。じゃ、行ってくる」
「行ってきまーす♡」
「行ってらっしゃいませっ!!」
眩しい太陽光の降り注ぐテラスにて、モルモーの手を取り異世界に行く能力を発動。当然だが定義は
『凍魔の目の前』である。
凍魔が「寒い所」に居るのは予想ができていた。しかしまさかここまで