「────何か、大事なモノを失った気がする」
「何言ってんのお姉ちゃん」
凍魔、愉于奈がエスカルゴ、モルモーに殺された丁度その頃。人里の外れの人気の無い所で、死神の夢摘霊黄泉、そして地獄に潜伏していた彼女の妹、
「……気の所為か。尤も私に
「とにかくお姉ちゃんが復活して良かったよ。他の奴らは別にどうでもいいけど」
「これもお前のお陰だよ、冥……。地獄に潜伏なんてしていた事には驚いたけどね。一体どうやって潜伏していた?普通の方法では無理なはず……」
「何だっけ?賽鬼愉于奈、だっけ?そいつが地獄で暴れてた混乱の名残で、戸籍とか名簿とかの管理が杜撰だったんだよね。だから、念の為に苗字だけは変えてね、潜入できたんだ。お姉ちゃんと違って、あの頃の私は働き始める前だったからね……、管理も厳しくなかったからさ」
「それで?」
「何年も何年もフツーの死神としての仕事をしつつお姉ちゃんを復活させる方法を考えてた。どうせ、封印なんて経年劣化でも解けるけど……私としては、早く復活させたかったし。だから、働く中で知った鬼傑組って奴らの力を借りたんだ」
「鬼傑組?」
「ヤクザだってさ。頭領……あぁ組長か。組長の吉弔八千慧ってのが中々頭のキレる奴でさー。なんか、交換条件を持ち出してきたんだよ?死神相手にっ!凄い図太いヤツだよね〜!その気になればその場で即殺せるのにね」
「どんな条件だったの?」
「『私の組の者を地獄に潜入させて情報収集させるから、潜入の手伝いをしなさい。姉の封印場所等の情報も集めますよ』……ってさ」
「へー……で、吉弔八千慧って奴の手下が、私が無間地獄に封印されてるっていう情報を得たって?」
「そ。あれくらいの大騒動だったんだから、絶対に資料という形にして残してる筈だって、片っ端から地獄中の資料を閲覧したんだよ。たった2人でね」
「2人ってのは……吉弔八千慧の手下と冥?」
「そうそう!仕事の合間を縫ってのつもりだったんだけど、そんな事をしてちゃあ仕事なんて出来なくなるよね。だから、最近になってね、死神のサボり仲間が出来ました♡」
「へー、それは楽しそう」
「その死神も、一時期、とある男の記憶?の資料を探してたから、手伝ったりもしたんだよねー。ま、色々あって上司にバレたらしいけど────」
と、呑気に会話していた姉妹の元に、そのサボり仲間の死神こと小野塚小町が、体も魂も傷だらけの状態で2人の元にフラフラッとやってきた。大きな鎌を杖の代わりにしている。
「め……冥ぃぃっ……やっと見つけた…………!!」
「あ、やっほー小町!まだ生きてたんだねっ!もうくたばったかと思った♪」
「ふざけるなっ!お前……まさか、お前がそいつらの封印を解いたのかっ!?」
「……そーだよ?夢摘霊黄泉は、私にとっての唯一の肉親だもん。救いたいと思うのは当然でしょう?」
「その為に昔からっ……潜伏してた、なんて……」
「ほらほら大人しく休んでなよ?というか、地獄の英雄さんに伝令に行くんだよね?閻魔様からの任務放棄しちゃっていいの?」
そう言って、冥はクスクスと笑う。
小町が冥によってボロボロにされ、その上、魂に傷までつけられてしまっているのは、小町が地獄の英雄ことエスカルゴに助力を求めに行くのだ、と、冥が知ってしまったからだ。
故に小町がエスカルゴを呼びに行く事が叶わず、流れは四季映姫の予想とは違った方向へと変わり、小町はその流れに逆らわず、冥を探していたのだ。全ては、地獄を崩壊させた元凶である裏切り者を、殺す為に。
「別にいいさ……あたいはサボタージュ小町だ、今更サボろうがどうだっていいと思われてるだろうさ!けどね……冥……地獄を裏切ったお前の事は、決して許さない!!」
「んー……小町さぁ……一つ間違えてるよ?」
「!?」
「私は小町達を裏切ったんじゃないよ。最初から、お姉ちゃん側なの♪」
「……魂刈冥……いや、夢摘霊冥!…………お前は絶対に殺してやる……!次の朝日を拝めると思うなよ!!」
「えぇ〜?死にかけの死神に何ができるの?」
こうして会話していく内にも小町の生命力はガリガリと削られていく一方。段々と生気も抜け、少し気を抜いただけでも倒れ、死に至りそうな程だ。
「確かに……あたいは、死にかけてる……けどね……!まだ、無力じゃ……ないんだよッ……!!」
「?」
「八雲紫ぃぃぃっ……聞いているんだろっ?見てるんだろっ!?夢摘霊姉妹を見付けたぞおおおおっ……」
限界を迎えかけた小町は、血を吐きながら叫ぶ。すると紫は小町の傍に現れ、彼女の背に優しく手を添えた。摩るように数度撫でてやり、そしてそっと手を離した。
「────ご苦労様、小町。やはり死神同士、役目こそ違えど、同じ種族同士は引かれ合うもの……なのかもね。まるでスタンド使いのようだわ」
「ッ!!お姉ちゃんっ!!」
「きっ、貴様!紫ィィ!く、来るな!殺してやる!殺すぞ、人質を!!」
「八雲紫……な……何を言ってるのかは、相変わらずよく分からないけど……コイツらを……夢摘霊姉妹を何とかしてくれるんだろう……?」
「ええ。助っ人が、彼女達を殺してくれるわ」
そう言って紫は扇子で口元を隠しながらスキマを開く。そこから出てきたのは異形の翼をした金髪の幼き吸血鬼────。
「!お前は────フランドール・スカーレット!どうしてここにっ…………って、まさか……!助っ人、とは……この子か…………ははっ、助かった…………」
「そのまさかよ。アイツらを確実に殺すには、もうこの子が頼みの綱なの」
「あんたの助っ人ならエスカルゴが来るかと思ったけど……こりゃ意外な人物だね……」
「八雲紫ィ!私は、里に2人の人質を設けている!私を殺せばそいつらも道連れだぞ!!」
「さっさと消えないと、あんた達の魂も傷だらけにしてやるっ!!お姉ちゃんは殺させないし傷付けもさせないから!!」
「……ああ言ってるけどどうするの、紫?」
「大丈夫よフラン。私が知る限り、人質なんてのは確認できないわ。魂が傷付けられた人間は2人──これを人質と言っているなら話は別だけれど」
「そう…………なら殺すよ?道連れになったとしても私は知らないよ?」
「構わないわよ。大を守る為に小を殺すのも時には必要だわ。私では救えない命よ」
「ッッ…………確かに、それは理に適ってるよな……。もしも死んでしまったら……すまないその2人……。あたいには何も出来なかった……ッ」
「う、嘘だ……八雲紫が人間を見捨てるだと……!?そんなバカな!」
「そうしないと死神の災厄は防げない。
「────ッ!お姉ちゃん!」
「ああ!死ねェい、八雲紫ッ!!」
姉妹は鎌を振り上げて、黄泉は紫、冥はフランの魂を一撃で壊そうと本気で能力を使用する。しかし2人の先をゆく圧倒的速さで、フランが冥の肉体をボチュンッと破壊した。
「────なっ!?何が起き……」
続いて黄泉の肉体も内側から爆発四散。焦る前に紫の魂を傷付ければ良かったものを、妹の方に目を向けてしまった。だからその隙を突かれて「目」を握り潰され、遂に夢摘霊姉妹は滅びたのであった。
「はぁ……少しは気が楽になったよ…………。あたいが三途の川を渡る時はどうなるのか、なーんて考えてしまったよ、ははは……」
紫はどこかに小型のスキマを繋げ、そこに視線を向けている。そして何故か悲しげな目をした後に、そっとスキマを閉じた。
「……黄泉と冥では、冥はまだまだ未熟だったのね。良かったわね小町、命拾いして」
「?……どういう事だ?」
「そのままの意味よ。『命拾いしたわね』、と」
「ッ……そう、か……人質とやらが……」
2人の人質こと小鈴の両親は心臓麻痺で人里内で命を落としてしまっていた。黄泉の道連れとなり、彼女の死と同時に命を落としたのである。
しかし冥はまだまだ未熟だった。姉ほど「苦しむ者を見て喜ぶ」事も無かったので、能力を鍛えずに過ごしていた事がここにきて意味を持ったのだ。
「必要な犠牲だった、と割り切るしかないわ。もう仕方無かったの……1日で何人も死ぬようなら2人の犠牲は見て見ぬふりをするしかなかった……」
「…………そうだな。せめて、安らかに眠れるよう、あたいが2人の魂を運んでやるか……」
「身体は大丈夫?」
「ああ、楽にはなった。回復には時間がかかるけど仕方ないね……。はぁ……、結局、あたいに伝令役は務まらなかったな。残念だよ、また四季様の期待に答えられなくて」
「奴らを殺せたなら結果オーライよ。ところで何故私が見てたと気付いたの?気配は隠していたはず。こう言っては申し訳ないけど、あなたが隠れた私の気配を察知できるとは思えないのだけど?」
「ああ……その事か」
頬を指でポリポリと掻いて、少々照れくさそうにしながら小町は言う。
「四季様は白玉楼に居る。それなら、西行寺幽々子経由であんたに連絡が行くだろうし、四季様なら、あたいの事を見守る……いいや、見張るように言ってくれるような気がしてたんでね……。へへっ……♪」
「……信頼、ね。……美しい関係だわ」
「そ、そうかい?もしそうなら嬉しいよ。……っと、そろそろ四季様に報告に行こうかな。なぁ、白玉楼までスキマで連れて行っておくれよ、体力の消耗が著しいんだ」
「ええ?……今回だけよ。今回の功労者だから許してあげる」
「あ、私ももう紅魔館に帰りたーい」
「そうね。ありがとうフラン、助かったわ」
「私の能力が役に立ったなら良かったわ」
「あなたは人里を……いいえ、幻想郷を救ったのよ。誇っていいわ」
「……♪」
こうして、秘密裏に処理された夢摘霊姉妹はその肉片を火口に放り込まれ、跡形もなく溶け去った。そして、人里に一時の平穏が訪れたのである。
阿求に続いて両親が死んでしまった小鈴、近い内に闇堕ちしそう。
冥については、黄泉の設定の所に書いておいた姉妹設定を持ってきました。唐突でもないです。多分。