ある日またまた紫さんが目の前に現れ、あの件についての話を振られた。流石に嫌になってきたが、約束してしまった以上はやり切るしかない。また、妖怪が復活だのどうのという話だ。やれやれだ。
「そろそろ次の妖怪が復活するわ」
「今度はどんな奴ですか……」
「鬼神よ。神通力を操る……ね」
「鬼神!?」
「鈴鹿山の大嶽丸……の娘よ。名前は無いらしいわ」
「おおたけまる……?誰ですかそれ」
「え。……あなたでも知らない?」
「流石に知らないですよ。酒呑童子くらい創作物で取り上げられるような妖怪でもないですし。でも、その反応的にそれなりに有名らしいですね」
「ゆ、有名も何も、酒呑童子、金毛白面九尾に続く日本の三大妖怪よ……?」
「ええ……そんな奴の娘が復活するんですか…………。何か気ィ重いですわー……」
「あなたなら大丈夫。すぐに倒せるわよ」
「ならいいんですけど……。因みにそいつはどんな奴なんです?」
「とにかく力を奮うのを好む戦闘狂……かしら。あと大嶽丸の扱っていたと言われる大戦斧を武器としているわ。破壊も大好きよ」
「ひえっ。おっかねぇおっかねぇ」
大きな戦斧を使うと聞いて、まず思い出したのはレイチェルだ。あの子は、レミリアがグングニルを生成し扱うのと同じように、
レミリアと違い体術メインではないものの、少々暴力的な戦い方だ。
神通力を使う鬼神ならば、大嶽丸の娘とやらは、レイチェルのように斧を振り回しながら何かしらの能力を使用してくるに違いない。
とりあえず、レイチェルのような能力でなければそれに越したことはない。我が娘こそが強能力者、という想いを胸に────大嶽丸の娘の復活の日を迎えた。
◆
妖怪の山の麓に広がる魔法の森の某所。ある日、そこで爆発が起きた。まるで、地下に埋まっていた爆弾が爆発したような爆発の仕方で、その場所には円錐状で深めのクレーターができた。
木々は消し飛ばされ、近くにいた動物も土や木と一緒に吹き飛ばされた。
「復かぁぁぁつッッ!!あの紅白巫女め、この私に説教垂れやがって……!殺してやる、殺してやるぞ、博麗の巫女!もう死んでるだろうが、貴様の子孫を根絶やしにしてこの鬱憤を晴らしてやる!!」
「おーおー、何だこりゃ。爆発があったと思ったら変なヤツが居るじゃないか。おい、そこの鬼っ子。どーしたぁ?よからぬ企みをしているようだが」
「む?何だ、白黒。箒は乗るものじゃない、掃除に使うものらしいぞ。貸せ、使い方を教えてやる!」
そこに現れた、箒に跨った白黒衣装の金髪女子。魔法の森に住まう自称普通の魔法使い、霧雨魔理沙である。彼女は爆発音を聞きつけるなり、近くだと知るや否やすぐさま箒を掴み、窓から飛び出した。
爆風は魔理沙宅にも届き、窓は割れたが、彼女にとってそんな事はどうでもよかった。
「んなこた〜分かっとるっ!そうじゃなくてだな!博麗の巫女をどうするって言った、お前!」
「私は、かつて博麗の巫女という紅白に封印された鬼神、大嶽丸の娘である!その恨みを、奴の子孫にぶつけてやるだけだ!」
「なッ……!?子孫かも分からないのにか!?」
「そこかッ!?ツッコむべきなのはそこなのか!?とにかく、私の邪魔をするのなら貴様も殺すぞッ!ぬぉぉあああッ!!」
「!!」
大きく振りかぶり、戦斧を投げる。すると彼女の手を離れた瞬間、戦斧はバチバチと黄金色の電撃を纏い、スパークを放ちながら、真っ直ぐに魔理沙を目指して飛んでいった。
「な、にィ……!?くっ、イキナリかよ!」
「!」
魔理沙はバリアを展開し、回転しながら迫る斧を受け止める。斧はバリアを削って、ギャリギャリと耳障りな音を出すが、魔理沙は耳も塞がずに全力で防御していた。
もし手を抜けば、バリア諸共身体を両断される。そんな予感がしていたからだ。
やがて、バリアを壊せぬと見たか、鬼神は斧へと手を翳し、ヒュッと斧を手元に戻す。まるで鎖でも繋げてあるかのような正確無比な操り方だった。
「電気だと……?コイツもそういう能力なのか?」
「
「……!あ、ああ、そうだ!この世界には、お前より優れた能力を持ったヤツがわんさと居るぜ!もしもお前が博麗の巫女に復讐したいなら、まずそいつを倒さないと博麗の巫女にはまず勝てないだろうな!そいつ、巫女に近いくらい強いから!」
こう言っておけば、いざ奴が雷の能力者、つまりエスカルゴを狙った時、エスカルゴが彼女を完全に殺すだろうと、魔理沙は読んでいた。
なんせエスカルゴは、妖怪でありながら現博麗の巫女である霊夢にゾッコンで、ましてや夫婦関係にあるからである。
しかしやはり美味しい所は持っていきたい、とも考えている魔理沙は、その後に続く鬼神のセリフに思わず口角を釣り上げてしまった。
「ほう……そいつは面白い事を聞いた。私が居た頃の幻想郷より面白い事になっていそうだ。ならまずは貴様を殺し、そいつを探しに行く事にしようッ!!この私より強い者など、この私を倒したあの博麗の巫女を除いては存在しないのだから!」
「ははっ、殺る気か!いいぜ、なら相手してやる!昔の幻想郷よりも強者揃いだぜっ、
「小娘が、強者気取りかッ!生意気な!」
「私と大して変わらんだろ、見た目は!」
「ほざけッ!」
ミニ八卦炉を向け魔力を充填する魔理沙。対して神通力を使う準備を整え、すぐに火の雨を降らせる鬼神。この場は森。火を使えば魔理沙がどう動くかなど、初対面だろうが鬼神にはよく分かっていた。
「うわわっ!?な、なんだこりゃ本物の火か!?」
「あっははははは!そうだよなぁ、森が大事ならば森を守るよなぁ!」
ほれほれ、と更に火の雨の密度を増やして、森をドンドン燃やして、枯らしていく。その炎たるや、かつて、超大型巨人郡が魔法の森へ進撃してきた時よりも激しく燃え盛っていた。
「ふざけるなっ!森を消し飛ばすつもりか!?」
「当たり前だッ!博麗の巫女への復讐、即ち幻想郷そのものへの復讐であるッ!!妖怪と人が共存するなど、そんな世界は有り得ない!私が認めない!!もしもそんな世界が存在するというなら、この私が木っ端微塵に壊して見せよう!この世界をッ!!」
「……成程、コイツはヤバいな……弾幕ごっこなんて通用しなさそうなヤバさを感じるぜ!」
「弾幕ごっこ?何だそれは?私が望むのは一方的な殺戮!そして世界の破壊のみだ!!」
「コノヤロー、私の家にまで火を!?くっそぉっ、この場は退いてやる!消火が優せ────」
「隙ありィ!!」
「なッ────また得物をっ!!」
空を切り裂き、円盤にも見紛う程に回転しながら戦斧が魔理沙の背中に迫る。慌てて瞬間移動で回避するも、戦斧は魔理沙の居た位置を通り、そのまま地上へ向かう。その先はまさに魔理沙が向かおうとしていた、魔理沙宅。
轟音を上げて屋根に落ちた戦斧は、彼女の家の約半分程度を吹き飛ばし、その時の衝撃や風で更に一部を吹き飛ばしてしまった。
「おいおいおいおい……何て事をしてくれたんだ!」
「ハッハッハ、何をそんなに驚いている?私は鬼神だぞ?この程度の破壊、本来は得物を使わなくとも可能だ。まだ目覚めたばかりで力を取り戻しきれていないからな、たまたま近くに居たお前、そして、お前の家を犠牲にしてやっただけの事さ」
「むぅ……許せん!この破壊魔が!そっちがルールを無視してくるのならこちらもそれ相応の対応をするだけだ!喰らえッ!超絶パワーアップしてやった、魔砲『ファイナルマスタースパーク』ッッ!!!」
「何だこの攻撃はッッ────うっ、うわああぁぁあああああああああっっ…………」
斧が手元に無い故にガードもできず、そして盾に出来そうな木々は自分で吹き飛ばしたせいで、極太光線をまともに喰らってしまい、何処かへ吹き飛ばされてしまった────。
◆
「はいどうも、数日ぶりね」
「また来たんですか。大嶽丸の娘とやらはもう復活したんですか?それなら討伐に行きますけど」
「ついさっき復活したみたいよ。でもこれも伝えておきたいの。次に復活するのは、博麗神社の裏山に封じられた妖怪よ。漏れ出る気配がほんの少しずつ強まってきているわ」
「えっ。妖怪の山じゃないんだ……ってか、大嶽丸の娘ってのと、どっちを優先すればいいんです?」
「そうねぇ……既に復活してる方の……大嶽丸の娘を優先して。魔理沙が交戦したみたい。今、終わったところよ」
「ッ!?」
「次に復活する奴に関しては……先々代が封印したのだけど、私は彼女から『山で封印してやった』しか聞かされていなかったの。だから妖怪の山の事だと思っていたのだけど……まさか裏山だとはね」
「でも、一応妖怪の山にも、複数は封印されてるんでしたよね?」
「大嶽丸の娘が復活したから残り1人だけみたい。良かったわ、封印された妖怪も残りは合計3人だけみたいよ」
「いつの間にか地獄から復活した方も全員死んでるみたいだし……大嶽丸の娘ってのを殺してやったら、夢摘霊姉妹についても色々説明してもらいますよ!じゃ〜行ってきます!」
「もう決着はついてるのに?」
「魔理沙は優しい。多分殺してはいないはずです。何処かに吹っ飛ばしたんだ……。魔理沙は負けない。俺と霊夢以外には負けないっすよ、魔理沙はね」
「あらあら♪」
そして俺は魔理沙の傍に瞬間移動。目の前には、炎上し今にも倒壊しそうな魔理沙の家があった。
どうも魔理沙は悪い意味で炎と縁があるらしい。
魔理沙は、水系の魔法を行使して少しずつ消火をしているようだったが、どう見ても、消化器以下の効果しか発揮していない。きっと魔導書や研究資料なんかがビショ濡れになるのが嫌なのだろう。その気持ちは何となく推し図る事ができるが、今はそう考えている場合ではない。
「おい魔理沙!ちゃんと消さねェと全焼すんぞ!?なァにチマチマやってんだ!」
「だ、だって色々と濡れたらマズイ物がっ……」
「気持ちは分かるけどよォッ!……分かったよ、俺が消してやるよ!大人しく見てなッ!」
「バカッ、やめ────」
「いくぜ!!」
燃えている部分を、遮断力に優れた結界で覆う。こうする事で気体……酸素が供給されなくなり勝手に鎮火される。消える前に解除してしまうと、急激に酸素を得て爆発的に燃える。所謂、バックドラフト現象を引き起こしてしまうので、結界で囲んだ後はじっくり待つのが吉である。
「……あ……何だ、そういう事か……大量の水でも創造するのかと思ったぜ」
「濡れるのは嫌なんだろ?ならこうするしかない。というか、なんでこんなに燃えてんだ?紫さんなら聞いたけど、大嶽丸の娘と戦って勝ったんだろ?」
「あー、戦ったよ。電撃を武器に纏わせたり、火の雨を降らせたりする、ヤバイ奴と戦った。そいつに破壊されたよ、私の家が……クソッ……」
「大きな戦斧を得物としてるってマジなんだ?」
「ああ。でも確か、アイツ、それをブン投げて私の家を壊したんだ。その後に吹っ飛ばしたから、まだあの斧は私の家にあるはずだ」
「マジ!?バカじゃん、武器投げるなんて!もしも自分が吹っ飛ばされたら武器とオサラバじゃん!」
「それもそうなんだが……どうも変なんだよ」
「どこがだ?……まーいーや、燃え切る前にそいつをゲットしてやるぜ♪」
そう思い、家に空けられた大穴から中に入りその戦斧を探してみるが、一向に見つからない。妙だと思いつつもう少し探し続けるが、やはりどうしても見付からない。
「斧なんてねーぞ?ホントにブン投げて家を壊したのか?もしそうなら残ってると思うんだけど……」
「……!まさかアイツ……
「アレって?」
「アイツ、よく分からんがサイコキネシスみたいな能力もあるみたいなんだ。鎖がついてた訳でもないというのに、投げた武器に手を翳すだけで、手元に取り戻したりしてた!」
「え……じゃあ、まさか……」
「私はアイツをあっちに吹き飛ばした。ファイナルマスタースパークで。だが奴は死んでないだろう。もし、武器を取り戻していたなら…………」
「十中八九また暴れるじゃんか……。しかも魔理沙、その方角、まさか……」
「……」
魔理沙が奴を吹き飛ばしたとされるその方向は、最悪な事に、人里がある方角だ。その事に気付くと同時に走馬灯の如く最悪の展開が脳裏に映像として映し出される俺達。しかしその「最悪の展開」は、こうして話している間に既に起きていたのである。
夢摘霊黄泉により人間の不審死が相次いだ人里に、更なる魔の手が忍び寄る────。
大嶽丸の娘
種族:鬼神
武器:大戦斧
大嶽丸の死後に生まれた。母親から自身が大嶽丸の娘である事を聞かされ、それに誇りを持っている。故に母親に付けられた名前は捨てた。新たな名前を自称もしない。
しかし世に広まっているのは「大嶽丸」の名だけ。名を持たない「大嶽丸の娘」は人々から忘れられ、やがて長い時を経て幻想入りを果たす。
妖怪は人間を襲うもの。大嶽丸や自身の過去から、強くそう思っていた大嶽丸の娘は、妖怪と人間とが共存する世界を許せず大暴れするも、博麗の巫女に無事半殺しにされ、もし彼女が反省して人と妖怪が共存する世界を受け入れてくれたなら────と、願いを込めて封印される。
殺すつもりなら殺せたらしいが、妖怪としてはまだ幼い方であるが故に情けをかけてしまったという。
大嶽丸の娘である事を誇りに思っているのと同時に他の種族を見下す。故に誰からも好かれない。
当時の巫女曰く、斧を使うだけあって接近戦メインなので、動きが予測できればそこまで苦戦はしない相手で大嶽丸より圧倒的に弱い……らしい。しかし、実際は近距離も遠距離も得意。
復活したものの、当時の巫女が願ったような反省をしているはずもなく────。
勇儀のように額の辺りから伸びる、立派な一本角。返り血で染まったかのように真っ赤である。
本作でいう「鬼神」は、鬼と鬼神長の間くらいだと思って下さい。つまりそこそこ強いです。