※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

883 / 1140
復活のO②

「う……うーん……?こ、ここ……は………………あっ!!あの山の中だっ……!あれ……私…………そうだ、紫髪の紅白巫女に封印されて……それでえっと、それからはどうしたんだっけ…………」

 

 博麗神社の山の中で、1人の少女が目を覚ます。それは、過去の……霊夢から見て先々代の巫女に封印された、オレンジ髪の妖怪の少女。

 目覚めてから暫くは、うーんうーんと頭を抱え、悩んでいた彼女だったが……ポンと手を打ち、極めて簡潔な答えを導き出した。

 

「……そっか、封印が解けたのか!やったぁ、これで自由の身だ〜!あはははっ!やったやった〜!!」

 

 巫女の封印から復活を遂げた少女……オレンジは、晴れて自由の身となった事を素直に喜んだ。また、竜宮城から地上に戻った浦島太郎の如く、己の知る時代よりも時間が進んでいる事を、すぐ察知した。そして彼女は、未来の幻想郷の見学に、喜び勇んで下山していったのである。

 

 

 ◆

 

 

「……っ!」

 

「来たわよエスカルゴ」

 

「はい。なんか1つ、唐突に気配が現れましたね。アレですか」

 

「ええ。私は敵がどんな妖怪かは知らないけれど……当時の博麗の巫女が封印したのなら、きっと危険な能力だとか危険な思想を持っているはず。今の内に滅しておいて」

 

「危険な思想、ねぇ。俺よりもですか?」

 

「『楽園を作る』だけでしょ?私は、あなたのその言葉を信じてるわ」

 

「……そりゃどーも。じゃ、行ってきます」

 

 大嶽丸の娘を倒した後は、紫さんと博麗神社にて待機していた。まさか、ここまで立て続けに封印が解けるなんて思わなかったが、早く解けてくれればそれに越したことはない。さっさと俺のやることを終わらせられるのなら、多少忙しくてもいい。

 対象はどうやら徒歩で移動しているらしい。飛行ではなさそうなので気配のする箇所に直接スキマを開き、そいつの目の前に躍り出る。

 

「う、うわわっ!なになに!?」

 

「どうも、封印された妖怪さん。早速で悪いけど、このまま誰も死なせずに死んでくれるか?」

 

「えええぇぇっ!?そんなぁ!やっと封印が解けて自由の身になれたっていうのに!」

 

「何で封印されたんだ、お前?暴れたからだろ?」

 

「暴れたなんて心外だよっ!山でお散歩してたら、紫髪の紅白巫女が来て通りすがりに封印してったんだよ、私の事!私、何にもしてないのに!」

 

「…………俺には他人の心が読めないからな、お前が嘘をついてるか本当の事を言ってるのか分からん。もし嘘なら殺す。本当なら……逃がしてもいいかな」

 

「ほんとっ!?じゃあどうやって証明しようかな……私、自分で言うのも恥ずかしい事だけどさ、そんな強くないんだよ?問答無用で封印されちゃったからアレなんだけどさ」

 

「封印が解けたばっかりで力が出ないよぉ〜……とかじゃあねぇの?」

 

「何それ?今、普通に全力出せるよ?」

 

「……ほーん。じゃあ勝負だ。弾幕でな」

 

「い、いいよ!」

 

「言っとくが手は抜くんじゃあないぞ。それと俺の弾幕には常に即死効果がある。死ぬ気で避けてな。でないと死ぬよ」

 

「そ、即死効果っ!?……せっ……折角復活したのにこんなのってないよ……」

 

「悪いな。復活した妖怪達は殺さないと災いの元になる。幻想郷の偉い人の見解なんだよ。ま〜、俺もそう思ってるけどね」

 

「そんな……酷いよ……」

 

 泣きそうな顔になる──というより、最早泣いてしまった少女。嘘に嘘を重ねて本当に申し訳ないがこうでもしないと彼女の真意が俺には見えない。

 さとりを呼ぼうにも、その隙に逃げられれば……。かと言って連れて行くのも面倒臭い。それなら少し手間は掛かっても俺自らが暴くのが良さそうだ。

 勿論、即死効果があるとかいう話も嘘だ。そんな効果があったら今頃俺はお尋ね者だろうし幻想郷はとっくに滅んでいるだろう。

 

「今すぐここで俺に殺されるか、イチかバチか命を懸けて俺と戦い、自分の全力を示すのか────。君を殺しに来た俺に譲歩できるのはここまでだよ。後は君が決めてくれると助かる」

 

「ッ……分かったよ……イチかバチか戦う!」

 

「前以て言っておく。俺の能力は《雷を操る程度の能力》だ。雷、バンバントバすよ」

 

「分かった!」

 

「よし。じゃあ始め」

 

「よ、よーしっ……」

 

「────いくぜ。一閃『Mishap of Thunder』」

 

「……っ!?上かっ……」

 

「勘はイイね。いや、魔法陣なんて出りゃあそりゃ分かるか……なッ!!」

 

「うひゃあぁっ!?」

 

「……惜しむらくは、落雷というものがどんなものか知っておくべきだった。そしてこの『山の中』って地形をな」

 

「っ……!!」

 

 上から何かが降ってくると察知した少女はすぐに魔法陣の真下から退避。その直後に雷は降ってくるものの、直撃はせず。

 しかしこの世には側撃雷というものがある。よく世間では「雷の鳴っている時に木のそばに居るのは危ない」と囁かれているが、その理由が側撃雷(コレ)だ。少女は感電し、地面に転がってしまった。

 

「う、そ……一撃、で……っ」

 

「直撃は免れたか。でももう、動けないだろ?」

 

「あ、し、が……何この、痛みッ……あぐぅっ……う、うううっ……」

 

「次の一撃で死ぬね。避けられないだろ?」

 

「ヤダッ……やだよぉっ……!折角、封印から、復活したのにっ……その末路が、コレなんて……そんなのイヤだよ……誰か助けてっ…………お願いっ……」

 

「大丈夫、苦しまないように一瞬で殺してあげる。心臓に穴でもあけてね」

 

「ひィッ……やだよぉぉ……。なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないの…………うぇぇぇんっ……」

 

 言葉では全力で嫌がっているものの、身体はまだ動かせないようで、全く逃げる素振りを見せない。手を伸ばし心臓をそのまま抉り取らんばかりに直接胸に刺した────フリをしてやった。

 

「……へ?」

 

「何で逃げない?死ぬぞ」

 

「まだ……動けない、から……」

 

「……。そっか」

 

 死を目前にしても、あれやこれやと手を尽くして逃げなかった。つまり、もう全力は出し尽くしたと考えて、ほぼ間違いないだろう。

 

「……君、名前は?」

 

「…………へ?」

 

「生きてく上で必要っしょ、名前ってのは。有る?無い?」

 

「え、と……オレンジ、って名乗ってる……けど……」

 

「オレンジ……オレンジね。美味しそうな名前だな。んじゃとりあえず殺すのは無しね。お偉いさんにもそう言っとくから、もう狙われる事はないだろう。でも、くれぐれも注意してな。色んな事に」

 

「う……うん…………」

 

「何だ?納得いってないみたいだけど」

 

「まーね……。だってほら、あなたって、私を殺しに来たんだよね?」

 

「ん?ああ、そうだけど?」

 

「なのに……どうして私の事、信じてくれたの?」

 

 上目遣いでそう言うオレンジ。どこか可愛らしく感じてしまうから本当にチョロい奴だ、俺は。

 殆どの少女は俺より背が低いのだからどうしても上目遣いになってしまうんだろう。それにいちいち胸を高鳴らせていてはキリがない。この変なクセも早々に直さなければ。

 

「どうしてってそりゃ……。俺は、封印されてた他の妖怪達に会ってきてんだ。そいつらからは、揃いも揃って大妖怪レベルの強さを感じたよ。それなのにお前ときたら、その辺の妖怪レベルだったからさ。正直に言うと、信じたというよりは危険が無いって判断したんだ。紫髪の紅白巫女ってのは……きっと、先々代の巫女だと思うんだけど、なんでお前を封印したんだろうなぁ」

 

「そ、その辺のって……」

 

「いやマジで。その辺のと大差は無いよ」

 

「うーん……。一応、そのお陰であなたに殺されずに済んだんだもんね……今は褒め言葉として受け取っておくね」

 

「素直だな」

 

「それがウリだもん」

 

「そっか」

 

 一瞬でカタがついたので彼女の戦いというものをほぼ見れなかったが、あのバトンのようなものは、どう使うのだろうか。まさか鈍器のようにして戦うなんてことはないだろうが…………。

 

「そうだ。あなたのお名前は?」

 

「あっ、こっちまだ名乗ってなかったっけか。俺はエスカルゴ・スカーレット、吸血鬼だ。宜しくな」

 

「うん!ところで私達、初めましてじゃないよね?昨日……かな?さっきかな?私が目覚める前、近くに来てたよね?」

 

「え」

 

「封印が解ける前に私を消そうとしてたの?」

 

「待て待て、一体何の話をしてんだ?俺は、お前が目覚める直前まで博麗神社で待機してたんだ。もし目覚めたらすぐに殺しに行けるようにな」

 

「あー……だからすぐに来たんだ。でも……」

 

「てか、封印されてたのに記憶はあるのか?」

 

「んっとね〜……なんて言うんだろ?目覚める少し前までは、ジワジワ意識が戻ってきた、みたいな感じだったんだよね。ウトウトしてる感じかな。それが体感で丸1日か2日くらい続いて〜……やっと意識がハッキリしたの!それがさっき!」

 

「……成程。でもどうして俺だと思ったんだ?」

 

「そのウトウトしてた時に、気配を感じてたから。あなたの気配……普通の妖怪と少し違うんだけどね、あなたに凄く近い気配だった!ただ、あなたよりも純粋な妖怪って感じがしたけどね」

 

「どゆこと?」

 

「だーかーらー、えっと、あなたの気配は大きくて悪い感じがするんだけど、さっき感じた方は、より悪い方に純粋な感じがしたっていうか〜……」

 

「似てるけど、少し違うんだ?俺の方は混ざってる感じだけど、そっくりさんの方はより純粋な感じ?みたいな感じか」

 

「そそ!そんな感じ!」

 

「へぇ。俺に似た気配、しかし悪い方に純粋……か。何か嫌な予感がしてきた。頭の片隅に入れとくよ。情報提供ありがとな」

 

「えへへ、役に立てたなら光栄だよ!」

 

 俺の気配が「混ざってる」というのは、きっと、俺に神の加護があるからだ。悪魔だからか、普段の気配も「普通の妖怪」とは違うし、悪い感じもするだろう。つまりその「俺に似た気配の持ち主」は、神の加護が無い悪魔……と推測できる。

 

「……どうしたの?そんなに考え込んで」

 

「あぁ、その悪い方に純粋な奴について、ちょっと考えてた。心当たりはねェんだけどな……どうにも、胸騒ぎがするよ。とりあえず、オレンジは帰りな。道中、気を付けるんだぞ」

 

「分かってるよ。じゃ、またね!」

 

「おーよ」

 

 手を振り、オレンジは下山して行った。一先ず、殺そうとした事は不問にしてくれた……らしい。

 一方俺は、とりあえず仕事は終えたのでこのまま博麗神社に戻り、紫さんに事の次第を報告する事にした。

 

「────というワケで、彼女の封印については、先々代のイタズラという結論に至りました。気配を隠蔽している感じもしなかったですし」

 

「そんな事だろうと思ったわ」

 

「え?」

 

「気配が小さすぎだものすぐに分かったわ、靈夢のイタズラだったんだって事はね」

 

「靈夢……あー先々代ですか」

 

「そうね。……そういえばあなた……どうして靈夢を知っているんだったかしら?」

 

「えっと……夢幻世界に攻め入ろうとした時、霊夢に手伝ってもらって、先々代の手記を調べたんです。確かその時かな」

 

「あぁ……書物ね。成程。……それとその『あなたに似た奴』だったら……正体は分かってるわよ」

 

「えっ」

 

「妖怪の山に封印されていた妖怪は、大嶽丸の娘とそいつの2人だったのは分かるわね?そいつはある邪仙によって生み出され、でも制御出来ずに本人の手によって封印された妖怪……。外の世界風に言うと

『クローン妖怪』なの」

 

「えー。邪仙っつーと娘々しか覚えがないですね」

 

「正解。なら誰のクローンかも分かるわね?」

 

「いやー、そんなの知ら…………」

 

 青娥、クローン……この2つが結び付いた瞬間に、脳裏に最悪なイメージが流れ始めた。

 そういえば俺は、数年前青娥に誘惑され、たった一度だけ交わっている。とすると「クローン妖怪」というのは、十中八九────。

 

「俺の……クローン?」

 

「その……正解よ。最後の敵はあなた自身。あなたのクローン。実は少し前に復活してた。オレンジって子や大嶽丸の娘が復活する少し前よ」

 

「なッ!?話が違うじゃあないですか!」

 

「でもすぐに消えたし、行き先は冥界でも地獄でも無さそうだったから放置したの」

 

「なんでそんなッ……」

 

「『なんで』?そんなの分かるでしょう?」

 

「……大嶽丸の娘とかいう、目の前の問題の方が重要だったから、ですか」

 

「冴えてるわね。その通りよ」

 

「…………じゃあ行きます。早く殺さないと」

 

「殺せたらいいわね」

 

「……?」

 

「行く宛てはあるの?」

 

「オレンジの封印されていた箇所を通ったなら敵が向かう先は2択。夢幻館ないしは夢幻世界、または魔界。そしてわざわざ登山するという事はスキマは使えない。そりゃあそうだ、俺が使うスキマは長い時間を掛けて開発したんだから。クローン野郎には使えるはずがない。……秒(ブッ)殺してやりますよ」

 

 紫さんの返事を待たずスキマを開き、夢幻館前に移動する。くるみは────居る。いつも通り赤い湖の前でボーッとしているようだ。

 俺らしい気配は無い。それなら向かうべきは魔界だったか。もし魔界に行かれていたなら、探すのは骨が折れそうだが……。

 

《母さん、アリスは?夢子は?》

 

《2人共、ちゃんとパンデモニウムに居るわよ》

 

《了解。俺みたいな気配を感じても────》

 

《中に入れない事、ね。分かったわ。それと暫くはアリスちゃんも夢子ちゃんも家の外に出さないわ。そうしないと……危ないんでしょ?》

 

《ああ。……ありがとう》

 

 妹と実家のメンバーを守れればそれでいい。だが後はエリスだ。エリスはまだ魔界にて滞在しているはずなので、もし見付かれば…………。

 

 

◆

 

 

「エリスッッ!!」

 

「え?……なんで……」

 

 ヴィナの廃墟にある教会に瞬間移動する。急いで中に突撃すると、そこには「俺」が居た。気さくな様子でエリスと話していて、彼女もまた心を許しているかのような、そんな感じがした。

 すると「俺」は、俺を見るなり舌打ちをした。

 

「あーあ、オリジナルの登場かよ。残念だ、今からこの悪魔っ娘とパコろうと思ったのによ」

 

「え?え?なんで……」

 

「エリス、今喋ってるソイツは偽モンだ!」

 

「そーゆー事だな。じゃあ、俺はトンズラするぜ。じゃあな、いつか俺が本物になってやるよ」

 

「死ねクソ野郎ッ!」

 

 エリスを奪うようにして連れ戻すと、クローンは意外にも簡単に手を引き、連れ戻すのと同時に俺が放った弾幕を回避して教会を飛び出した。

 やはりスキマも瞬間移動も使えない雑魚らしい。所詮はクローン、俺の劣化版という事か。

 

「あ、あの、私……」

 

「エリス……。大丈夫だ、何もしてないだろ?」

 

「うん、まだキスもしてない……。アレ偽物なの?」

 

「ああ。神の加護の有無しか見分ける術が無いけどアレは偽物だ」

 

「危なかった……私、もう少しで…………」

 

「……また今度な」

 

「うんっ……♪」

 

 青娥と交わった頃の俺はオッドアイだったので、クローン野郎もオッドアイだと思ったのだが、違うらしい。それもそうだ、黄色の目は建御雷の加護の表れなのだから、加護が無いのなら従来の吸血鬼のお決まり通り、紅色の目なのだ。そして今の俺は、へカーティアの加護が建御雷の加護に上書きされているお陰で、両眼共に紅色である。

 だから見分ける方法は殆ど無い。パッと思いつく中だと、神の加護の有無、つまり気配の探知。更に記憶の差異。能力の違い。……何故だろうか、どれも簡単には探りにくい見分け方ばかりだ。

 

「さて、と……」

 

 教会を出た俺はクローンを探す為に能力を行使。凍魔を探したあの方法を使えば、俺が探せない敵は存在しない。

 しかしその移動先で、俺は気が狂いそうな思いをする事になってしまうのである────。




463話にて、封印されたオレンジの存在は示唆していましたね。400話以上過ぎてやっと登場です。

本物:セックスしたい、ヤリたい
クローン:パコパコしたい
みたいな感じで、ストレートなのが本物で、何かと隠語を使うのがクソクローン野郎です。
幻想郷生まれ幻想郷育ちなのになんでパコパコとか知ってんの?ってのはおいといて。

本物とクローンを見分ける方法は、地の文で示した通りかなり少ないです。加護の有無を探る(気配の探知)、記憶の差異、能力の違い。それから古明地姉妹に読心してもらう、四季映姫の浄玻璃鏡、などです。
こういった極めて限られた方法でしか本物と偽物が見分けられません。DNA鑑定したって同一人物判定ですしね。
(もっと簡単な方法があるんだけど)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。