博麗神社にて博麗親子にボコボコにされ、果ては命まで奪われたクローンは、誰の眼にも見えない魂だけの存在となり、木陰でその肉体を再構築した。
もう予備の日傘は無いのでそう長くは飛べない。次に飛ぶのは獲物を決めてからだ、と考えていた。
今回は、前回のオリジナルの襲来と違い、多少は面食らったもののすぐに気を落ち着かせ、すぐ別の標的を探す事にした。
何故なら、愛する者に攻撃されたショックより、クローンにとってはセックスできない方が辛かったからである。
紅魔館がダメなら博麗神社、博麗神社がダメなら次は──と思考を巡らせ、思い付いたのは永遠亭。オリジナルの童貞卒業の相手である鈴仙。そして、何故かセフレという関係になった輝夜。その2人と3Pをしようと、木陰を伝うようにして、やや時間をかけ永遠亭へ向かった。
そして、その道中。
「────あっ!エスカルゴ〜♡」
「……!おおっ、巫月!」
「ねぇねぇっ、そろそろエッチしよぉ?」
「ッ!?」
上空から現れたオリジナルの愛娘、長女の巫月。やけに扇情的な表情でフワリとクローンの目の前に降り立った。ドクンと胸が高鳴ったクローンだが、必死に抑え目の前のオリジナルの幼女に相対する。
「んー?どしたの?」
(……待てよ?さっき、霊魔とかいうガキは『家族を悲しませるような事は言わない』つったよな?ならそれは行動にも当てはまるな。もし巫月とパコれば鈴仙が悲しむ訳だから、それは、オリジナルの行動パターンに反する。……ははーん、成程なぁ。つまりここは我慢して、んでもって、永遠亭に帰ってから鈴仙とヤレばいいっつーコトだな。俺、天才か?)
「エスカルゴー?」
「あっ、ああ……あのな、巫月?俺達は親子だな?」
「うん!」
「親子でセックスは、その、ダメなんだよなぁ……。だからその、我慢して……?くれないか?俺、何度も言ってると思うけど……」
「……ふーん。やっぱりそーだったんだ」
「えっ────」
低いトーンで巫月がそう呟くと、次の瞬間には、クローンの首を見えない刀剣か何かが貫いていた。しかも角度が悪い。巫月はクローンから見て極めて背が低い。それ故、喉、延髄、果ては小脳の一部を貫かれてしまっている。
再生に不慣れなクローンは、それにより呆気なく絶命してしまった。混乱の為、逃走する事も忘れてその場で復活するクローン、けれども巫月はすぐに雷の能力で作ったらしい鎖で拘束する。
「イデデデッ、棘か!?クソ、離しやがれ!」
「クローンでしょ?エスカルゴの」
「は……はぁ!?何の事……」
「もう皆に知れ渡ってるよ?ご愁傷様」
「!?」
「……そうそう。殺す前にイイコト教えてあげる」
「あぁ……?イイコトだと?」
「私とエスカルゴ、もう数え切れないくらい、生でエッチしてるよ。中出しフィニッシュなんてのも、今じゃ日常茶飯事だし?」
「んなっ……近親相姦は三大タブーの1つだぜ!?」
「そんなの人間が勝手に言ってるだけの事じゃん。私達、妖怪なんですけど。人間の常識如きを私達に勝手に当て嵌めないでくれる?余計なお世話だし」
「な……そ、そんなの屁理屈じゃんかよ!?」
「へぇ、エスカルゴのクローンのクセに、全く違う意見なんだねぇ。……そんなんで『エスカルゴ』を、私達のお父さんを名乗らないでくれる?……死ね」
暗く、冷たく、低い声で最後の2文字を呟いた、長女の巫月。その有り得ない発言やテンションは、クローンの固定観念を粉々に打ち砕き、そして更に深い混乱の渦へと彼を叩き落とした。
彼を縛っていた鎖からは、皮膚に食い込む無数の棘が生えていた。エネルギーを与えそれを伸ばし、クローンを体内から焦がし、そして────。
「────ブギッ」
爆散した。体内に伸ばした棘を枝分かれさせて、そこから伸びた棘も更に枝分かれ……と、幾度となく枝分かれや延長、そして放電を繰り返すだけでも、クローンの肉体は全壊してしまった。
再生に特化している本人だったらこんな事は絶対起こり得ない。焦げる傍から再生するからである。なので、こうして死んだ事もまた、本人ではない、という一つの証明なのだ。
「……あっ、肉体消えた……。全部一気に…………あー、不老不死になってるのかなぁ、今の奴も。あーあ、いつになったらまたエッチできるんだろ……。今日は永遠亭の日なのに……今夜はお預けかもなー」
巫月は、父本人の事はそこまで心配していない。それは彼女が誰よりエスカルゴの強さを知っているからであり、そしてこの逆境を乗り越えてくれると強く信じているからだった。
◆
「────という訳で、今幻想郷に居るエスカルゴみたいな吸血鬼は偽物よ。気配も似ているとは思うけれど、別人だと思って頂戴」
「ご忠告ありがとうございますっ!しかし、私達にその心配は無用!何せ神です、己が力を貸している者の真偽など見分けられて当然!もしも騙されるとするなら────」
「ママー!パパ来たよ〜!」
「……樹理愛くらいでしょうね」
早苗が額に手を乗せながら大きな溜め息をつく。守矢神社に危機を伝えに来た永琳と緋月だったが、永琳は当然の如く神社に接近する悪魔のような邪な気配、そう、クローンの気配を察していた。
守矢神社で騙されるなら樹理愛くらい。早苗は、そう言おうとした。その言葉途中で、その樹理愛が旦那の偽物の来訪を嬉々として告げてきたのだから早苗の溜め息も仕方ないものだった。
「あれ……えすかるごきた。なのに……えすかるご、じゃないの……?」
「ええ……そうよ緋月ちゃん。早苗、ここは私が相手するから、神社の保護をお願いしても?」
「いえっ!永琳さんは危機を伝えに来て下さったのですから、お休みになっていて下さい!ここは私と諏訪子様と神奈子様がッ!!」
「え゙っ、私もぉ!?」
「私は構わん。諏訪子、いい加減に自分の社くらい自分で守れ。早苗も神となって数年が経つが、まだ樹理愛を風祝とするには幼すぎる。それまで──」
「あーもー分かったよっ!永琳!あんたこそ、この神社を守ってな!」
「だからっ……諏訪子、お前って奴は……」
「分かった。神社は私に任せて。どうにかして奴を殺して。不老不死でない事を祈るしかないけれど、果たしてどうかしら……」
樹理愛と入れ違いに三柱が境内に出ると、永琳は守矢神社に結界を張り、樹理愛と緋月の保護に集中する事にする。
そして、何故こういう時に居ないのかと建御雷の不在を内心苦しく思っている。三柱は共に凄まじい力を持っている。しかし、戦闘特化なのかと言うとやはりそうではない。ならば戦闘に特化していて、且つエスカルゴの雷の技を殆どコピー&強化した、建御雷という雷神の方が余程こういう事態の対処に向いている。
「建御雷は何処に行ってるのかしら」
「────呼んだか思兼」
「!」
正円のスキマで神社の屋内に直接現れた建御雷。緋月は突然の事に驚きを隠せず口をパクパクさせ、そんな光景に見慣れている樹理愛は、いつも通りの登場の仕方故に平然としている。
「……永琳だってば」
「あぁそうだった、やはりクセは抜けんな」
「健忘症なんじゃない?トシでしょ」
「ケンボー?……フン、『トシ』と言うなら貴様の方が我より年上なのではないか?」
「否定はしないけれど。……それより、建御雷?」
こんな時にどこに居たの?……そう尋ねようとする永琳だったが、建御雷は皆まで言うなと目で訴え、何をしていたのか包み隠さず話す事にした。
「ああ、分かってる。我は奴を監視していたのだ。奴め、とんだ雑魚だぞ?博麗神社に赴くなり次男に暴言の数々……そして母と娘の一斉掃射で行動不能に追い込まれた挙句、次男に巨大なけん玉型の刀剣で首を刎ねられた」
「霊魔くんが?……本当?」
「こんな嘘をついても、なんの意味もあるまいて。まぁ、そういう事だ。あぁそれと、さっきは巫月と会っていたぞ」
「おねーちゃんっ!?」
「巫月ちゃん……どうだった?」
「お前も分かっているだろう?圧勝だった。いや、見てて少し焦りはしたのだがな、いざ勝負になれば瞬殺だったよ。勝負にすらなっていなかったな」
「『焦った』って……あなたが?どうして?」
「巫月が、偽物を性行為に誘ったからだ。すると、偽物は何を思ったか断ったんだな。しかも彼奴め、
『まだ一度も娘と交わっていない』という
「へぇ……性行為でないのなら、奴は何を求めて行動してるのかしら」
「鈴仙と性行為に至る為に娘とのソレは避けようとしたんじゃないのか?」
「あー……それなら最悪の事態も有り得たわね」
「……妊娠、か。危なかったな。いやそんな事もないのか。お前がこんな所に居るという事は……」
「そう。少なくとも、永遠亭に住む皆はこの事態を知っている。ウドンゲが騙されるなんて有り得ないから、大丈夫。……問題は、射命丸家なんだけど……樹理愛ちゃん、穹ちゃんの家にこの事を伝えてきてくれるかしら?」
「うん、分かった!今のパパは偽物だって伝えればいいんだよね?」
「ええ、それでお願いね。建御雷、樹理愛ちゃんのボディガードして。というかクローンを守矢神社に足止めしてる間に向こうに行ってすぐ帰ってきて」
「我を使うか。構わんが……。樹理愛、大体の場所を言え。スキマで行こうぞ」
「はーいっ!」
「────さて、私達は次、どこに行こうかしら。ね、緋月ちゃん?」
「んー……」
「心配なお家とかあるかしら?」
「……よーまおにーちゃんの……」
「白玉楼か……幽々子さんが居るし、かなりの達人で様々な事に精通している妖忌さんが帰ってきているらしいから、あまり心配は要らないと思うけれど……そうね、次はそちらに行ってみましょうか」
「うんっ!」
一方、クローンと早苗達の戦いは────。
「早苗、俺だよっ!エスカルゴだ、本物だよ!」
「いいえ嘘です!もし本物ならッ!私の力を使って雨を降らせてみなさい!!」
「ッ……!!」
「さぁ、神奈子様のお力を使って台風の如き暴風を吹かせてみなさい!諏訪子様のお力でここに木々を生やして見せなさい!!」
「く……くっ、そ……!ンなの無理に決まってんだろクソがっ……!」
「……確定だね」
「ああ。私達は今、『本物のエスカルゴ』に、力を流している。それなのに貴様からは私達の力を全く感じないぞ」
3人から、完全に対策されていた。そんな事とは知らなかったクローンは逃げようと、陽光に晒され消え掛けている翼を広げるのを諦め、背を向けて、脚で逃げようとする。
「何故逃げるんですか?そんな所で逃げるようならやはりあなたはあの人にはなれない!!」
「ッ……ンなの当たり前だろォが!俺はアイツだけどアイツじゃねぇ!いっくら同じ細胞だろうと結局は別人なんだよ!俺とアイツを比べるんじゃねぇ!!このクソカス共がァッ!!」
「笑止!あなたからあの人を名乗っておきながら、その発言はおかしいのでは?誇りも何もないッ!!終わらせましょう、あなたの生命を!!」
「こんなとこで終わってたまるかッ!俺はアイツのハーレムを乗っ取ってやるんだ!!ハメれば女共は俺に靡くはずなんだッ!!黙ってヤラせろ俺に従え幻想郷の女共ォォッ!!」
「────思った以上にゲスでしたね」
「……ああ。コイツは殺さないとダメだな」
「エスカルゴの顔でキャンキャン喚かないでよ……。お陰でプッツンとキたわ、私」
既にヂリヂリと翼は蒸発していっているクローンだったが、早苗は、祈祷をする事で更に雲を退かし太陽光を強め、消滅の速度を早めていく。
神奈子は彼の周りに風のバリアを張る。触れれば石すら切れてしまう程の、超局所的な暴風である。
諏訪子はただひたすらに力を溜めて、次の攻撃の準備をしている。
「なっ……うわ何だこれ、指がミンチに……ッ!?」
「これでトドメ!秘法『九字刺し』ッ!」
「神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』ッ!!……今だ諏訪子、殺れっ!!」
「合掌『だいだらぼっちの参拝・集』」
普段使うスペルをほんの少しだけ改良したものを発動させる諏訪子。巨大な手が迫ってくるのは同じだが、その頻度は普段のとはまるで違う。
早苗、神奈子がクローンの動きを極限まで封じ、諏訪子で確実に殺す為に。
(ヘッ、諏訪子がその攻撃をするにゃ風のバリアを解除しなきゃならねー……!つまりその瞬間が狙い目だな……!)
「よし、バリアを解除するぞ!逃がすなよ、早苗!奴を殺しきるまで耐えろっ!」
「逃がすものですか!憎らしい敵を!」
クローンのあのクズのような発言は、別人だとは分かっていても、彼または旦那を貶められたようなものだと諏訪子、早苗は感じていた。
その怒りを土塊で生み出した手、弾幕に込めて、ひたすら憎きクローンを囲い、押し潰していく。
(……よし、チャンス……!)
「チャンス到来!……なーんて思ってんじゃないの?そんな訳ないから潰れな」
「うぎゃぁぁぁぁああああっっ!!……あ゙っ……ぐ、がぁああっ……」
普段は断続的に相手を潰すのに対し今回は殺意が含まれているので、拍手するような頻度で手が生成され、クローンを潰していく。
耐久力も再生力も本人より数段劣るクローンは、諏訪子の殺意、早苗と神奈子の敵意の前に呆気なく挽肉となり、陽光に照らされ消え去ってしまった。
「よっ、よしっ……倒しましたっ!」
「手応えがあまり無かった事を除けば、これで安心だと言いたいが……。そんな事はないのだろう?」
神社……縁側の方を振り返る神奈子。視線の先には永琳がいた。永琳は神奈子のその言葉にゆっくりと頷いて見せ、それを見た早苗の表情は先程と一転、曇ってしまった。
「そうね。太陽光で死体が消えたように見えるけどクローンも不老不死。またどこかで復活するわね。どうにかして、封じ込めるしかないのかしら」
「エスカルゴに聞いてみたよー。エスカルゴ曰く、魂の状態でどこかに移動して、その移動先で肉体を再構築しているらしいね。だけどさ、それなら魂を結界とかで囲んで、絶対に逃げらんないように……はできないのかな?」
「私には無理だ。早苗にも。……そちらは?」
「私もそれは無理よ。そういう術は私も知らない。他に方法があれば…………」
「あ、待って。今エスカルゴが言ってたんだけど、
『妖夢の祖父、妖忌なら確実に殺せる』……ってさ。魂を斬れる……らしいよ?エスカルゴも、できる事はできるけど、ってさ」
「……幻想郷に来てそれをしないのは、私達の誰かと鉢合わせる事で混乱を与えるのを防ぐ為……よね?」
「…………ん、そうみたいだね」
「じゃあエスカルゴにこう伝えて。『大丈夫』と。もうほぼ全家庭に伝えてある。建御雷が言うには、既に博麗神社にも襲撃していたらしいからね」
「『大丈夫と言われても……』だってさ?どーするの賢者さん、エスカルゴ完全に参ってるよ?アレコレ自問自答しては迷って、その繰り返しだよ」
「はぁ……やれやれね。じゃあ『こちらで白玉楼まで追い込むからそちらで合流。本物だと分かりやすいように、目印に変身でもして来なさい』でどう?」
「………………あはっ!『その発想はなかった』って!んもー、灯台下暗しなんだからー、もー!全くさ、エスカルゴってばぁ〜!」
「じゃあ、それで行きましょう。建御雷?あなたもついてくる?」
「フンッ、行く訳が無いだろう?クローンとかいう器の劣化版など見る価値も無い。思兼こそわざわざ白玉楼に行く必要は無いんじゃないのか?」
「魂を閉じ込める事はできずとも……誘導する事ならできるわよ。私も不老不死。魂や生命に関しては、その辺の奴より頭一つ……いいえ、全身抜けてるわ」
「思い上がりが過ぎるぞ。……とは言えないものな、お前が相手では。……タチが悪い」
「ふふっ……それじゃあ建御雷、強さも機動力もあるあなたにお願いがあるのだけど」
「ん?」
「彼の各家庭に、問題が解決した旨を伝えてくれるかしら?」
「まだ解決してないだろう」
「この私が直接動くのよ?解決したも同然だわ」
「……。それでは我が偽物だと疑われたらどうする?器の奴、分身を作ったりできるからな。クローンの分身を疑われたらどうする?」
「霊夢相手なら祈祷してもらえばいいわ。他の者に関しては……一時的に『加護』すれば?」
「面倒だな。だが、まぁ、いいか。戦闘するよりも面白味に欠けるが、奴の家族に手を出せば、奴からギャーギャー言われそうだものな……はぁ。ところでどうやって奴を白玉楼へ誘導するんだ?」
「それは……ヒ・ミ・ツ♡」
「気色悪いから片目だけを閉じるな」
「ウインクっていうのよ」
「ういんく……。フンッ、そんなのはどうでもいい。まぁ…………せいぜい気を付けるんだな」
「ふっ……言われなくとも」
こうして、永琳は建御雷に諸々の雑用を任せて、自身はクローンの追い込みへ取り掛かる事にした。建御雷がここまで大人しく彼女に従うなんて……と、周囲に畏怖のような尊敬のような念を抱かれているなど気付く由もなかった。
原作ですら「私の言う事を聞いておけばいいのよ」みたいな事を言っちゃう永琳なら、頭一つじゃなく全身抜けてるとか言っちゃいそう。
実際、頭一つどころじゃないくらい抜けてるし。