守矢神社でクローンが死んだ頃、白玉楼では魂魄妖夢、妖忌、妖舞の3人が庭先で修行をしていた。
諏訪子を通して永琳の作戦を聞かされた後、その作戦通りに変身した上で白玉楼へスキマを繋いだ。すると目の前には剣士3人、そして永琳が居た。
「っ……え……永琳!?……先生、なんで、こんな早く来てんすか……!?瞬間移動の使い手でしたっけ?」
「建御雷に言ってスキマを開いてもらっただけよ。その方が効率的だもの」
「それにしたって何で目の前に……」
「あなたが移動してくるであろう位置を特定した。それだけよ。あぁ、幽々子さん含め、全員に説明は済んでるから安心して」
「サラッと言ってるけどめっちゃ怖いッスよそれ。場所の特定って……。いやでもまぁ……いっか別に。それより、説明ありがとうございます。説明義務は俺にありそうなもんなのに」
「ありそうっていうか、あるわよ。……ところでその頭上の輪っかは……」
「ああ、これ、擬似神化形態の特徴なんですよね。この変身ができるのは、5柱くらいの神様から力を受けている時だけ。つまり本物だけって事です」
「成程。……いや待って、そんな変身があるなら自己証明なんて簡単じゃないのよ。見た瞬間すぐ本物かどうかわかるじゃない」
「毎回、5柱程度の神様から力を借りるんですか?戦闘でもないのに?……そう思うと、どうしても力を借りるのを頼みにくいというか……」
「別に良いでしょう。強欲な悪魔に力を貸す神様達だもの、それくらいの事なら織り込み済みじゃないかしらね?あなた、変に遠慮し過ぎなのよ」
「えぇー……」
《そーそー!言ってくれればいつでも貸すし!》
《というより、我らで勝手に力を流して、強制的に変身させれば良かったのではないか?》
《それは無理だ建御雷。この『変身』はあくまでも流された力を
《というより、変身すれば自己証明可能だなんて、私も思い付きませんでしたっ!》
《それね》
因みに今回は諏訪子、神奈子様、建御雷、早苗の4柱からの力で変身している。配分的には建御雷の力の割合が大きいので、擬似神化雷神形態だ。
「エスカルゴ。八意殿から話は聞いた。くろ〜ん?だか何だか知らんが、貴様の分身なのだから貴様でカタをつけんかい。儂に頼るな。その為の技術なら先日教えたじゃろ。何の為に貴様に稽古をつけた?大切な者を守る為じゃろ」
「そうは言ってもよ……取り逃したらまた次の被害者が出るかもしんねーし……。もしヤケクソになったらその辺の妖怪の
「会得したか否かッ!?」
「……しました」
「ならば良し!貴様が戦え!!」
「……はい……」
「言い訳も口答えも許さん!己が恨みを持つ者なら己で始末をつけるのが道理というものッ!貴様とて理性ある妖怪だ、誰かに恨みを持つなとは言わぬ。だが他力本願は許さんッ!」
「わ、分かったよ……俺が殺るよ……」
「当然ッ!決して逃がさぬようにな!!」
「でも妖夢と幽々子さんと妖舞は避難しててほしいかもしれない……万が一にも……」
「たわけ!保険をかけるなッ!!己を追い込め!!そうしてこそ、真に貴様の実力が発揮されるというものじゃろうが!!」
「はひぃっ!?なんか今日めっちゃキレてない……?他力本願がダメだからか……」
「それだけあなたに期待してるって事よ♪」
「幽々子さん……」
妖忌は否定しない。妖夢は少し羨ましそうな目をしている。一方で、長男の妖舞は幽々子さんと俺を交互に見て……そして俺と目が合うなりプイッと目を逸らした。あからさま過ぎる。
「……じゃあ、クソクローンが来るまで隠れてます。アイツの狙いは妖夢や……幽々子さんだと思うので。囮にするみたいで何か気が進まないんですけど……」
「2人は俺が守るからいいよ。父上は敵を殺す事に集中してて大丈夫」
「妖舞……お前は『守られる側』だろ」
「大丈夫。敵が来たら父上だと思って斬るから」
「おう、そうしろ。……うん?」
難聴か幻聴だろうか。俺だと思って斬る……まぁ、やる気を持ってくれるのなら何よりだ。幽々子さん絡みなのだろうが、今はそんな事はどうでもいい。
そしてスキマ空間に永琳と共に身を隠し、3人は元通り修行に戻り、幽々子さんはそれを見守る為に縁側に腰を下ろしている。
すると案外、すぐにクローンが現れた。俺はすぐ飛び出して殺そうとスキマを広げかけるが、永琳が俺の襟首を掴んだ為に、我慢せざるを得ない。今は
「待て」の段階らしい。
「……来たぜ妖夢っ♪」
「エスカルゴ……!今日は……早いんだねっ……!」
「!?……ま、まぁなっ!早く妖夢に会いたくて……あー勿論、我が息子にも会いたくてなっ!」
「あら、いらっしゃいエスカルゴくん。早く来たのだから久しぶりにお茶の相手してくれないかしら?妖夢達はまだ修行中だから♪」
「は、はいっ!喜んで!」
まずい。演技だと分かっていても嫉妬しそうだ。演技なのに。演技なのに…………アイツが羨ましい。今すぐにアイツの《目》を握り潰して殺したいが、それだと魂を逃がすのでダメだろう。もどかしい。
「────後は任せるわよ」
「え」
そう呟くと、永琳は監視用の小さなスキマから、紙のような物を結び付けている1本の矢を放った。カツンと砂利に刺さるとそこを起点に水色で球体の結界が広がる。広くも狭くもないだろうか。凡そ、半径5m程度だ。
「物理的に触れられない結界よ。……魂を閉じ込めてしまうの。魂を囲むから完全には抜け出せないわ」
「そりゃあいいっすね。ならアイツを嬲ってやる!苦しめてやらァ!!」
「彼女やお嫁、息子の前でそんな事ができるなら、そうすればいいわ」
「……止めるつもりですか」
「そりゃあねぇ。子供の教育に悪いからね」
「だッ……だってアイツ、フランを……ッ!!タダで死なせてたまるか!オラッ、死ねクソ野郎っ!」
「なッ!?なんでオメーがここにッ……」
永琳の制止の言葉も大して聞かず、スキマを広げ白玉楼の庭先に躍り出る。そして永琳の結界の中に入り、一つの剣技を披露する。
「霊魔『
妖魔雷霊剣を取り出して、逆五芒星を描くように斬撃を放つ。四肢は切断、はらわたも肉の隙間からボロリと零れ落ちてきている。
「ぐぎゃあぁあぁぁああっ!?いぎっ……ぎぃっ……ぐおおあああぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!!ぐ、ぞぉ、がっ……があ゙あ゙あ゙ぁぁあああっっっ!!」
「おっとォ、ちゃあんと翼も斬んぞゴラァ!!逃げるんじゃあないぞ!『
右肩に妖魔雷霊剣、左肩に暗黒斬月剣、首元にはあの折り畳みナイフを刺し、地面に磔にしてやる。血を吐き涙を流し、嘔吐物と共に苦悶の声を漏らす自分の顔を見るのは、どうにも複雑な気分だ。
「無様だなぁ、オイ!?俺の女に手ェ出しといて、戦闘の実力はその程度かこのクソ雑魚野郎ッ!!」
こんな雑魚にフランを犯されたのか。そう思うと無性に腹が立ってきてしまう。クローンに……そして何より自分に。情けなくて仕方ない。
「はぁ……マジムカつくんだよなぁ」
「……!ッ……」
「なぁオイクソ野郎、喋りたくても喋れねぇだろ?喉を潰されてるもんなぁ?」
やはり、嬲る時は四肢切断するに限る。それよりコイツ、俺を名乗るクセに、再生が遅いのが何とも面白い。これくらいの基本的な情報も知らないで、俺を名乗っていたのかと思うと笑えてしまう。
「────ん?あれ?そういえば永琳先生、これ、魂を閉じ込める結界……なんですよね?」
「そうよ」
「えっ、でも、魂を閉じ込めるとか『そういう術は私も知らない』……って諏訪子に言ったんじゃ……?諏訪子から聞きましたよ?」
「ああ、あれ?嘘よ」
あっけらかんと言ってのける永琳。彼女が一体、何を考えてそんな事を言ったのか……なんというか、少し察せるようになった気がしないでもない。
「私のスペルカードを見た事があるなら、何となく分かると思うけれど……私、『囲む』の得意なのよ。それに加えて相手も同じ『不老不死』なら────相性は抜群ってワケなの。私も
「なら何で嘘なんて……」
「あの場所に魂状態のクローンが居たから。何か、そういう気配を感じたからね」
「やっぱり居たんすかッ!?じゃあ、どーして皆で待ち構えてる白玉楼に来たんだよコイツ…………」
「私達の会話を、挑発だと受け取ったんでしょう。ま、私は挑発のつもりで言ったんだけど」
「ひえっ」
「で、挑発にノッたクローンは見事このザマ、と。ふふ、愚か者もここまでくるとただの道化ね」
モガモガと磔から逃げようとするクローン。腕や足は少しずつ再生している。四肢&両翼欠損など、俺なら数秒で完全に再生できる。やはり下位互換、封印されていたとはいえ、やはりゴミクズだ。
「俺のツラしといてこんな醜態晒すんじゃあねぇ。情けなくなっちまうだろーがよ。ええ?……へへッ、まだ腕の1本も完全に治んねぇのかよ?」
「んんっ!んぐぐぅぅあああううがぁぁああ!!」
「……あーそうか。お前が一番苦しむ方法が分かった気がするよ。再生阻害の魔法でも掛けて────」
「────ッッ……!?」
「永琳先生。……すみません、解除してOKです」
「ええ?………………分かったわ」
剣やナイフを抜いてやり、喉に穴が空いたままのクローンの首元を掴んでやり、つい先日も来た暗く寂しい、広い世界へと瞬間移動した。
「気付いたんだよ。今のお前にとっちゃ、死こそが救済だってな。だけど、それじゃあダメだ。だからお前は死ぬな。でも死ね」
「はぐぅぁあっ!?んぐぁぁああ……ッ」
「へへっ、宇宙空間でもないと全力では地獄の力を使えなくてなぁ!『
使える限り全力で紅蓮地獄の力を引き出し、憎きクローンを凍らせてやる。四肢両翼欠損状態で顔も何もかも氷に覆われていく。しかしコイツも妖怪、窒息死はしないのだろう。
俺は氷の塊となったそいつを、サッカーボールを蹴るようにガツンと力強く蹴飛ばしてやり、宇宙の塵とした。
クローンは地球へは戻れなかった。氷塊と生物の中間の生命体となり宇宙空間を彷徨うのだ。そして死にたいと思っても死ねないので────そのうちクローンは、考えるのをやめた。
「くろ〜ん」って書くと急に可愛くなるのウケる。厳格な妖忌がこう言ってるのかと思うと、書いてて思わず笑ってしまった。