始まり
「こんにちはー」
「……誰?」
ある日の紅魔館、フランの自室にて。図書館から持ってきた本を、ベッドでゴロゴロしながら読んでいると、スゥッと木製のような緑の扉が出現して、読書中のフランの傍に一人の幼女が現れる。
「私は表の神様。あなたは?」
「表の……神様?どう見ても子供じゃない」
「まー……ね。この前生まれたみたいだし。あなたがフランドール・スカーレット……で合ってるよね?」
「合ってるけど。誰?」
「エスカルゴ・スカーレットの娘だよ。ちょっと、あなたに用があって。時間あるよね?」
「時間ならあるけど……エスカルゴの娘って、本当?あなたみたいな子、私、知らないんだけど」
エスカルゴの娘を名乗る謎の少女……否、幼女に、フランは警戒心を隠そうともしない。どこか、彼の子供だとわかる確固たる証拠は無いか。目を凝らしそれを探そうとするが、紅い瞳しか、パッと見ではそれらしいものが見付からない。
すると、表の神様こと阿弥もフランのそんな目に気付いたか、口内に指を入れ、イーッと牙を見せてやる。
「催し物にはあんまり顔を出さないからね。あまり認知はされてないのかも。でも本当だよ、この紅い眼と牙が証拠。神様には似つかわしくないけどね」
子作りしまくる吸血鬼なんてエスカルゴくらい。牙はどう見ても吸血鬼のものだったので、フランも疑いの目を向けるのを止めた。
「……信じるよ。それで、用って?」
「単刀直入に言うね。あなた、本心を押し隠してるよね?それもかなり溜まってる」
「────ッ」
「スッキリしよ?その方が楽しく生きれるよ」
そう言って阿弥はフランに有無を言わさず能力を使用する。本音を更に隠そうとするフランの口を、無理矢理にこじ開けて本音を吐き出させる為に。
「それで?あなたは何を考えているの?」
「……お姉様が羨ましいの」
「お姉様……あぁ、レミリア・スカーレットだね」
「うん。だってお姉様は……私の知らない『幸せ』を知ってる。子供、作ってさ……私も欲しいけど、今はまだダメ。身体が未成熟だもん。だから代わりに……エスカルゴを独占してみたい…………!お姉様ですら達成した事のない、完全な独占をしてみたい……」
初対面であるにも関わらず、フランは阿弥に心の内を吐露する。どうしてこんな事を話せているのかフラン自身少々困惑していたが、話すだけでも心が少しずつ軽くなっていくのを感じていた。
そして阿弥は、エスカルゴのハーレムの要であるフランに、まさに悪魔のような囁きをする。
「独占したいなら、ハーレムを壊さなきゃね?」
「ダメ。エスカルゴの幸せが私の幸せでもあるの。だからそれだけは絶対にしちゃダメなの。それに、私もそんな事はしたくないからさ……」
「……へぇ。ならどうするの?」
フランのその発言に阿弥は驚きを隠せなかった。
しかしフランの本音は、先程のセリフの通りだ。感情の起伏が殆ど無い阿弥とて予想を大きく外れる結果を目の当たりにすれば驚くというものだろう。
ならばと、阿弥はアプローチの仕方を変えてみる事にした。こちらから提案するのではなく、彼女に喋らせるのである。どうせ本音しか話せないのならこの方が良い、とも思っていた。
「────1日だけでもいいの。それだけでいい。その日だけは完全に、完璧に、この世の誰の目にも触れさせない程に……エスカルゴを独占したい……」
「フランちゃんなら出来るよ。本音を隠さないで、本音で皆を倒してやれば……」
「……倒す?」
何気なく出てきた唐突で危険なワードにフランは思わず目を丸くする。考えもしなかったというワケでもないが、いざそう言われてみると突飛な発想に思えてしまうからだ。
「そう。例えば、『これからずっと独占する』なら皆から反感を買うよね?でも『1日だけ独占する』だったら、大抵の人はOKするはずだよ」
「……どーだろ、エスカルゴって結構1日で何人もの女とデートしたりしてるし……不審がる女もそこそこ出てくるかもしれない。……なら……倒せばいっか、
「そーそー。そうすれば1日くらいは完璧な独占ができるんじゃない?」
「フフ……あなた、悪魔だね。あなたの提案はまるで悪魔の甘言……エスカルゴみたいよ。幼いとはいえ、神様とは思えない発言だよ?」
「え……そうかな。ま、似てても似てなくても、別にどっちでもいいけどさ。特に、これといった拘りは無いし。……それで、いつ頃に『独占』するの?」
「知らない。とりあえず身近な奴から倒そっかな」
「ふーん……幸運を祈ってるよ」
「ありがと、表の神様。……あなた、お名前は?」
「摩多羅阿弥。賢者隠岐奈と英雄エスカルゴの娘」
「摩多羅……あー……。覚えておくね」
「ありがと。じゃ、またね」
「次に会う時はきっとエスカルゴを独占してるよ」
「だといいね」
阿弥は扉を出現させ、後戸の国へ帰る。すると、阿弥のお世話役兼隠岐奈の部下の丁礼田舞、爾子田里乃の2人が慌てた様子で阿弥の方へ寄ってくる。
「も〜っ、どこ行ってたの!?」
「探したんですよ〜……」
「ちょっとくらいイイじゃない、こんな暗い世界にいたら肩が凝っちゃうよ」
「おばあちゃんじゃないんだから大丈夫だよ……」
「君が勝手に抜け出したら僕達が怒られるのっ!」
「ごめんごめーん」
「あはっ!反省の色、無しって感じだね!」
「もー……せめてどこ行くか私達に言って、その上ですぐに帰ってきてね……。それだったら私達も怒りはしないから……」
「そーそー!」
「はぁい」
里乃の譲歩を素直に受け入れ、今度からは2人に報告してから行動しようと阿弥は思い直した。
どうせ自分の用事なんて数分で終わる。行き先を2人に伝えたところで、少なくとも今後数年間は、自分の行動を抑えられるとは思えないからだ。
(
故に阿弥はフランを選んだ。「少しだけ」よりも
「沢山」または「大きな」本音を隠している方が、より大きく結末が変わり、本人もより大きな動きを見せてくれるだろうと、一つの期待を抱いて。
(もし独占の味を知ったら、1日で済ませられるか試してみたいしね……。お父さんにはまず無理だね、甘い味はクセになるし、欲望に忠実だし。……さて、フランちゃんは理性と欲望、どっちが勝つのかな?お父さんとは違う結末を見せてね……♪)
阿弥の興味はキケンな方向へ────!!