彼をたったの1日でも独占するには、ある程度の作戦が不可欠。一番のネックは彼の「家族」。毎晩様々な家庭に泊まっている根無し草の彼だからこそこんな悩みが生まれてしまう。
そのお陰で彼には「一日暇な日」が無い。有るとするならバレンタインデーの前日。けれどその日はフランが暇ではないし、第一、独占まで半年以上も待つ事になるのは嫌だと考えた。
できる事ならなるべく早く彼を一日独占したいのだから。
「えーっと……一番の難関はお姉様…………じゃなくて霊夢か鈴仙だよねー。どうしよ……う〜〜〜ん……」
彼が泊まる家は決まっていて、ローテーションで日々交代している。だから、「1日だけ」独占するならばその家庭に行き交渉するのが得策。……しかしもしもそこがダメだったら?
他の家庭に回るしかない。だったらもう最初からまどろっこしい事は抜きにして、全家庭に攻め入り交渉すれば、1ローテの中で複数回独占可能……に、なるかもしれない。
少々物騒だがフランはそう考え始めていた。
ローテの順番は、
全員の子供の所に泊まっているワケではないのが唯一の救いだ。この前の「表の神様」の家庭には、通っていないらしい。きっとワケありなんだろう。
「近場から済ませよっかな。……お姉様から潰そ」
遂に動き出すフラン。目的は実の姉、レミリア。
しかしその道中に、この紅魔館に客人として居候しているペガサス、驪駒早鬼が現れた。
「やぁ、これはこれはフラン嬢、数日ぶりだなっ!どこかにお出かけかな?」
「うん。……ねぇ、早鬼。あなたにちょっと聞きたい事があるんだけど」
「んん?なんだなんだ?」
「あなた……その子が生まれたらどうするの?」
「どうする……って?そりゃ勿論、約束通り紅魔館を出て自分の場所に帰るさ」
「そうじゃなくてっ……お姉様とか咲夜みたいにさ、エスカルゴと一夜を過ごしたい、とか思ってる?」
「あー……うーん、それは別にいいかなぁ」
「…………え?」
「だって私からすれば、強い男と関係を持てた上、その男との子ができた。それだけで十分なんだよ。奴が霊長園との橋渡し役まで
「ヤクザの組長としてじゃなくて、1人の女としてどう思ってるのか聞きたいな……?」
「……ん……そう来たか。………………まっ、大丈夫だ!会いたくなったら、また幻想郷に来ればいいだけ!恩人である奴の負担を増やす訳には行かないしな。数日おきでもいいだろうし、頻繁に会いに来るさ。大丈夫だ、私は……いや、私達は、フラン嬢の恋路の邪魔はしないからなっ!!」
「!」
「とにかく、ここはお互いに頑張ろうじゃないか!はっはっはっはっはっ!」
「……ん。そだね、早鬼……っ♪」
ポンポンッと強めに肩を叩くと、早鬼はルンルンしているような様子で歩いて行った。
組の為にここまで己を殺せるだなんて、全く真似できないし、真似しようとも到底思えない。早鬼のあの心持ちはどうやって育まれたものか……それすら全く図り知れない。
◆
「……お姉様」
「どうしたの?」
「私……今度、1日だけでいいから……エスカルゴを独占したいの」
「……。わざわざそれを私に言う意図は?」
「エスカルゴの宿泊ローテの内、お姉様の日に彼を独占したいから。いつもは、レーテも含めて4人で寝てるけどさ。たまには2人で寝たい」
「あら、私への当て付けかしら。……ま、いいわよ、それでも」
「えっ……?」
かつて、館が壊れそうになる程に彼を巡って喧嘩したからこその事前交渉。なのに、その姉は彼女の申し出を二つ返事でOKしてしまった。
フランは拍子抜けした様子で姉の顔を見つめると少々バツが悪そうに顔を背けた。
「つい先日……咲夜が攫われた事があったでしょう?その時、私、冷静さを欠いててね……。彼に、キツく当たってしまったの。だから、今の私が彼と一緒に夜を過ごすのは難しいわ。バツが悪いっていうか、居心地が悪く感じてしまう。……少しだけでいいわ。私も1人で過ごす夜が欲しいの」
「……何よ、それ。エスカルゴがそんなの気にする奴じゃないなんて事、お姉様だって、よく知ってる事じゃないの」
「ええ。彼はそうでしょう、でも私は違うの。例えこんな小さな事でも悩んでしまうの。もう少しだけ猶予が欲しい、とね。分かってくれる?」
「ッ……もういい!ともかく、次の『お姉様の日』は完璧に独占するんだからっ!顔も見せないし、声も聞かせないくらい完璧に私が独占するから!」
「分かったわ。その日だけ、ね」
自分もあんなに熱くなってたクセに今更何だ、とフランは姉への妙な苛立ちを隠さず、わざとらしく足音を立てて姉の部屋を離れる。
独占への大きな障害が1つ減ったのだから、寧ろ喜ぶべき事なのに、それでも彼女は、何故か素直に喜べないで居た。
次に彼女が向かったのは咲夜の所だ。彼女は普段何食わぬ顔をしているが実はそこそこ独占欲が強い節がある。そして現在は、2人目を妊娠している。男の子なら執事にしよう、などと旦那……フランから見て彼であるエスカルゴと計画しているという話をパチュリーやレミリアから聞いている。
現在、咲夜は厨房に居た。いつも通りに、料理の仕込みをしているらしい。
「ねぇ、咲夜」
「あら妹様、どうされました?」
「相談があるの」
「相談……ですか?パチュリー様ではなく私に?」
「うん。次のね、エスカルゴの宿泊ローテが咲夜の日に、エスカルゴのこと、独占しちゃいたい。1日だけだよ?その日だけ、顔も見せないし、声も全く聞かせないくらいに独占したいの。……ダメ、かな」
「次、ですか。それでしたら大丈夫だと思います。まだ妊娠期間にも余裕はありますので、特に問題はありませんよ?」
「……なんで?なんで、咲夜も、エスカルゴと一緒に居たくないの……?」
「一緒に居たくないワケではありませんわ。ただ、妹様が旦那様を独占した翌日、または前日にでも、2人で過ごせる時間が取れれば、私はそれで一時は満足します。それに、宿泊ローテでしたら一週間とちょっと待つだけでまたすぐに夜を過ごせますし、それでなくとも、会うだけでしたら頻繁に会えますからね♪」
「そっ……か。そういう考え方もアリね」
その日は会えなくとも別な日に────。確かに当然ではある考え方ではあるが、決まった日に絶対会いたいという考えを持っていたフランからすれば意外な考えであって、思い付くはずの無かった考えだった。
自身とは違い、その柔軟な所は素直に羨ましいと感じている。
「ええ。別日に、ほんのちょっぴりだけでも、独占できる……。そう思えば、1日くらいはなんて事ないというものですから」
「フフッ、もしかして咲夜もエスカルゴの事、独占しちゃいたいんだ?」
「勿論ですわ。早苗のように『足る事を知っている者』以外は、皆そう思っているはずです。……早鬼は何を考えているのか、まだよく分かりませんが」
「早鬼は『会えればいい』みたいな事を言ってた。それから、『フラン嬢の邪魔はしない』、『互いに頑張ろう』……ってさ」
「あらあら。ヤクザを名乗る割に凄く平和ですね。ですが良かったではありませんか、またライバルが減りましたね」
「うん。じゃあ、咲夜の日は独占していいのね?」
「ええ、構いません。ですが……」
「……?」
「娘が
「だね。……ねー弦月姫ちゃん、入口の所に隠れてるでしょ?出てきてお話しましょう?」
ぐりんと首を厨房の入口に向けると、気配を少々ザワつかせ、更に身体をピクピクプルプルと震わせながら弦月姫が入室する。
フランは、そんなにビビらなくても……と、ほんの少しだけショックを受けるものの、そんな事は全くおくびにも出さずに話を続ける事にした。
「やっぱり居た」
「ッ……いつから……私が近くに居ると、お気付きになっていたのでしょうか……?」
「咲夜に『独占しちゃいたいんだ?』って言った……そこら辺かな?」
「私がお母様と妹様の会話を聞き始めたのもその辺です。……最初から気付かれていたのですね」
「まぁね〜。で?どうする?」
「阻止……したいです!」
「コラ、弦月姫。妹様に────」
「いいのよ咲夜。誰かがこうして逆らうのなんて、元より織り込み済みだもん。それに、こういうのが無ければ、ただ独占したって100%楽しめないし」
「……」
「そう心配しないで咲夜、手加減はするから。さ、弦月姫ちゃん、外に行きましょ?」
「ッ……手加減なんて、要りません!」
「……?」
「お父様の独占なんて、我ら『お父様の娘』が許すはずがありません!絶対に、あなたをここで止めてみせます!妹達にあなたのお相手は務まらないし、お姉様達の所に行かせてしまえば……。そんな事は、私がさせません!」
「外、行こ。手加減無用……その言葉、忘れないで」
「ッ……!?」
「言っとくけど本気だから。この前、パチェがエスカルゴを独占してたのを見て……皆を倒せばちゃんと独占できるんだって知った。それを私が実行する。ただ、それだけよ。────いいわね、咲夜?」
「半殺し手前……でお願い致します。愚女はそこまで再生力に優れておりませんので」
「わかった、半々殺しね。それか降参するまでね」
「意地でも手加減なさるおつもりですか。では私は命懸けで戦わせて頂きます!」
こうして、紅魔館で初めての、フランの彼氏独占阻止の戦いが始まる事になった。しかし、この時の弦月姫は知らなかった。普段のフランが、どれだけ手を抜いていたのか…………そして、戦う気になったフランがどれだけの力を発揮するのかを…………。
フランから「根無し草」と思われてるエスカルゴ、お前さぁ……。実際そうなんだけども。
そしてフラン、気付いてないんですよね。
まさか、過去に霊夢にやられた「力で制圧して独占する」を自分がやってしまっているなんて。歴史は繰り返すというヤツです。