フランは、目が覚めるなり外に飛び出す。早速、次の家庭へと赴く為だ。
フランは独占の為の障害は早めに取り除いておく事が得策だと気付き、それにより最も独占の邪魔になるであろう霊夢の元へ……博麗神社へと向かった。
「こんにちは霊麗ちゃん。霊夢、居る?」
「居るよ。お母さーん、お客さん来たよー」
「あー?エスカルゴ居ないのに何でよー」
今日、境内の掃き掃除をしていたのは、霊夢から見て次女の霊麗だった。彼女が社へ声を掛けると、ちょっぴりボサボサ頭の霊夢がのそりと出てきた。まるで今の今まで眠っていたかのような目をして、とても怠そうにしている。
「どしたの霊夢、凄く辛そう」
「ちょっと寝不足なだけだから大丈夫よ。それで、何の用?気配とかで分かると思うけどエスカルゴはここに居ないわよ」
「分かってる。霊夢に用があるの」
「へぇ、珍しい。それで用件は?」
「うん。今度、エスカルゴが博麗神社に泊まる日、私が彼の事を1日中独占したいから、その日だけは博麗神社をローテから外してほしいの」
「……ふぅん?1日中、ねぇ。半日じゃダメなの?」
「ダメ。半日なんて、意味無いわ。まるで付き合い始めた当時みたいに、四六時中、一緒に居たいの。本当に1日だけよ?霊夢がOKしてくれたら、彼もOKしてくれるはずだから……」
「……。そうよね、付き合い始めた当時は、それこそ常に一緒に居たんだものね……」
「そうよ。分かってくれる?」
「ん……そうね…………。じゃ……絶対に延長しないなら許してあげる。それでどう?もし延長すればすぐにあんたを倒しに行く。構わないわね?」
「う……うん、分かった」
延長するなと言われ、内心ドキリとしたフラン。しかし霊夢にしてはかなり譲歩してくれたんだなと感謝もしていた。
礼を言い踵を返そうとしたフランだったがそんな彼女を呼び止める者が2名────いや、3名。
「ちょっと待ってよ!そんなの許さない!」
「だから、いくらお母さんが許しても……」
「ぼ……僕達はっ、許さない……っ!」
子供達3人が飛び出して、フランの計画の妨害をする。霊夢は素知らぬ顔で引き下がり、後を3人に任せ、フランとのやり取りを縁側でお茶を飲みつつ見守る事にした。
対してフランは、予想外の刺客に驚きを隠せず、無言のままに口をポカ〜ンと開けてしまっている。数秒後、ハッとしたように正気に戻ると、子供達に優しく語りかけるように諭し始める。
「……霊夢は良いよって言ったよ?」
「そんなの、お母さんが勝手に言っただけじゃん!私達の意思はそこに関わってないし!」
「でも、子供達よりお母さんの言う事を優先させてほしいなぁ……」
「その日はね、お父さんとアレコレ遊ぶ予定あるんだよね。よりによってその日か〜って感じだから、別な日にしてくれないかなー……?」
「ヤダ。その日にする。嫌なら弾幕ごっこだよ」
「上等。そっちがその気ならこっちは3人がかりでヤラせてもらうよ。そうじゃないと、勝てっこないだろうからね」
「正直、3人でも勝てるか分からないけどね〜」
「……防御、僕やる。任せて」
「まぁた霊魔はA.T.フィールド展開するつもりなの?お父さんに泣きながら笑われるよ?」
「う……」
「まぁまぁお姉ちゃん……」
「べ、別に何でもいいじゃない……スフェリカルだと自分しか守れないしさ……」
「ま、そうだけどさ。それじゃあ霊魔は後方支援、私と霊麗で攻撃ね」
「「了解」」
3人がゴニョゴニョと作戦を話し合っている中、フランは大人しく待っている。あわよくば盗み聞きしようとするも、霊麗も霊魔も純粋な吸血鬼なのでその対策をしているようだ。フランに自分達の声が届かないようにと、努めて声を抑えている。
「OKお待たせ。お姉ちゃんみたいに指示とか得意じゃないから、手間取っちゃったよ」
「ふーん?まぁ巫月ちゃんは長女だもんね。じゃ、始めよっか。…………始めッ!」
「厚壁『
「な、に……これ……ッ!?」
霊魔がスペルを発動させると1枚の壁が現れた。透き通っている、黄色っぽくも赤にもオレンジにも見える謎の壁。しかも、その壁は綺麗な正八角形を象っている。
霊力とは違う、また異質な力。けれどその頑丈さだけは、誰もがただ見ただけで察する事ができた。フランも姉妹も、そして、遠くから見ているだけの霊夢でさえも。
「よーし準備完了ッ!攻めるよ!!」
壁の後ろに隠れ、霊魔と霊愛は弾幕を放つ。当然フランも攻撃するものの、A.T.フィールドに阻まれ、全く攻撃が通らないでいた。
しかし手加減をしていたとしてもフランの攻撃はかなり強力だ。故に、壁の強さがあまりにおかしいだろうと不審に思った霊夢は、戦闘が激化する前に次女を呼び寄せ話を聞く事にした。
「ちょっと!ちょっと霊麗!来て!早くッ!」
「えー……もー、早くしてね」
「何なのよあの壁!?新種の結界?私でもあんなの見た事ないし……何なのっ!?」
「Absolute Terror Field、日本語で絶対不可侵領域。お父さん曰く、『霊魔の心の壁が具現化したもの……かもしれないな』だってさ。霊力でも電力でもない謎の壁だから、そう仮定するしかないみたい」
「え、えぇ……?」
「お父さんは心の闇を具現化するでしょ?それが、霊魔は『心の壁』っていう形で具現化できるんだ。お父さんと私と特訓してる時に発現したんだよね。お母さんはその時、お姉ちゃんに神学を教えてたんだったっけ」
「私が知らないって事はそうなんでしょうけど……。あんなの発現したとか、聞いてないんだけど?」
「そーだっけ。……とにかくね、お父さんの子供達の中で、これまで『心の
「……『心の壁』、ね。人見知りだからかしら?」
「それは分からないけど、お父さん、泣いて笑って喜んでたよ。あの技名は、外の世界の超有名漫画に出てくるのが由来だって霊魔に教えてたよ。何故か正八角形に拘ってたね」
「ふーん……?」
「エバン何とか?だっけ。あれは確か、何週間か前なんだけど────」
◆
「よーっし!今日も張り切ってヤッてくぞお前ら!まずはいつも通り回避と防御からだな!」
「はーい」
「霊魔ぁ、聞いてっか〜?」
「う、うん……」
「何だ?俺相手にも人見知り発動しちまったか?」
「ちっ、違うよっ……。そ、その……この前…………凄く痛かったから……」
「そりゃ、飛行中に痺れて落下したらなぁ……」
「あうぅ……」
先日の特訓で、霊魔はお父さんの雷の弾幕を飛翔して回避していた。けれどその中の1つに被弾して地面に落ちてしまった。
幸いそれは打撲程度の軽い怪我で済んだけれど、霊魔はそれきり飛んで回避するのを避けるように……果てはお父さんの弾幕すら嫌がるようになった。
「大丈夫だ霊魔、お前ならできる。霊麗、ちょっとサポート頼む」
「うん、分かった」
「……ごめんね……お姉ちゃん……僕が弱いから……」
「いーのいーの、誰だって最初はそうだよ?私も、最初はお姉ちゃんに助けてもらったし?」
「ん……」
目線を下に落として小さく頷く弟。愛くるしくてどこか庇護欲を掻き立てられるような、そんな妙な感じがしてならない。
サポートというのはきっと手を繋いで誘導する、という事だろう。そう思った私は霊魔の手を取り、それを見て取ったお父さんの放った弾幕を回避──しようとした。
「いくぞー。雷雨『地を濡らす天照雨』っ!!」
「…………」
「霊魔っ。えっ?ちょっと……りょ────」
霊魔が動かない。逃げようとしていない。一体、何を考えているのか。結界を張る気配も無い。彼の霊力は波風立っていない。風が無い日の静かな湖、または水溜まりの水面ように、揺らめく事も無く、平静な状態だった。
だからこそ尚更わからない。何故、イヤなはずの被弾を受け入れるような行動をしているのかが。
「オイ霊魔、避け────」
被弾する。結界を張るのも間に合わないと思ったその瞬間、お父さんの雷の弾幕が、私達の目の前でバチィンッと弾かれた。
お父さんが新たに弾幕を放って相殺した……なんて事は無いらしい。もしそうならお父さんがあんなに驚いた顔をするはずがない。
気が付くと、私達の目の前には、薄黄色にも橙色にも、または赤色にも見えなくもない、向こう側が透けて見える謎の壁が構築されていた。
「……えっ?霊魔……何、これ?」
「何か……できそうだって、思って……」
「結界……じゃあなさそうだな。何だ?……あ、俺は通れるのか。なぁ霊魔?これは?」
「弾幕は嫌だ、弾幕は嫌だ……って思ってたら出た」
「な……んだそりゃ……?にしてもこの色……まるで、かの有名なA.T.フィールドみたいだな」
「えーてぃー……え?何?」
「なぁ、これさ、正八角形の形にできねぇ?こんな形だよ、ちょっと試しにやってみて」
「う、うん」
地面にガリガリと図形を書いて、正八角形の形を霊魔に教えるお父さん。そして霊魔が念じ始めると目の前の不思議な壁は少しずつ輪郭を歪めて、その形をみるみる内に変えていった。
「うはっ、マジでA.T.フィールドじゃん!大体は……うん、こんな感じだし。よし、じゃあぶん殴るから拳を止めてみてくれ」
「う……うん……」
「オラァッ!!」
ギュッと拳を握り力強く振り抜くと、バチバチバチィッと音を立てて拳を弾き始める。お父さんは壁をどうにかして拳で破壊しようとしているのに、どうやっても破壊できないでいた。
いつものお父さんならギリギリと歯を食い縛って意地になって破壊しようとするはずだが、この時のお父さんは少し変だった。
ニマニマと緩む口元が抑えきれていないようで、目も爛々と輝いてきているように見える。
「あはっ、やべぇ、A.T.フィールドじゃんこれ!俺の息子はとんでもない才能を持ってるようだな!俺のA.T.フィールドで霊魔のを中和して………………クソ、出せねー!って、うごぁっ!」
「「お父さんっ!?」」
壁に拳を阻まれたお父さんは、抗いきれず、遂に勢い良く吹き飛ばされた。
納屋にドカンと叩き付けられ、壁にヒビが入る。頭が割れて血が出たのか、血の跡までくっきり壁に残ってしまっている。
「ぐぁーイテェ!強すぎるぞ『心の壁』……!」
「『心の壁』?」
「ああ。多分だが、アレは、霊魔の心の壁が具現化したもの……かもしれないな!ほら、俺は闇を具現化するだろ?霊魔は……元ネタとは違うけど『拒否する心』からきてるのかもなぁ」
「元ネタって?」
「エヴァ。エヴァンゲリオンだ。外の世界では超絶有名で大人気の漫画……アニメ、そんで映画だ」
「「……?」」
「まぁ、人気なモノって事だ!じゃあ霊麗、今日はちょっとメニュー変えて、俺と霊麗で霊魔を鍛えるようにしよう!」
「えっ……まぁいいけど」
「ええっ!?お姉ちゃんとお父さん2人だなんて、そんな……!できっこないよ!やれるわけないよ!」
「大丈夫だよ霊魔、優しくするからさ。お父さんもそんなに最初から厳しくはしないでしょ?」
「まぁな」
「ほら。……ダメだよ、逃げちゃ。お父さんから……そして何より自分の弱さから、さ。強くなりたいんでしょ?」
「分かってるよ、でもできるわけないよ!」
「……霊魔は、『初めての事』を恐れる傾向にある。クセになってきてるぜそれ。治すように努力して、どうにかしよう」
(……逃げちゃダメだ、 逃げちゃダメだ、 逃げちゃダメだ、 逃げちゃダメだ、 逃げちゃダメだ……!)
「「霊魔っ!
「────やります!僕を強くしてください!!」
◆
「……って事があったの」
「ふーん……そんな事があったのね。まあ、詳しくは後で霊魔に聞いてみる事にするわね」
「最初からそうしてほしかったけど、ま、いいや」
霊麗は駆け足で戦いに戻る。フランは霊麗が少し場を離れている内に、お得意のスペルの一つである
「禁弾『スターボウブレイク』」を発動させていたらしく、霊魔のA.T.フィールドにとてつもない密度の弾幕を浴びせていた。
「あー、こりゃあヤバい強さだね〜……流石……」
「そりゃ、あのフランドールだし弱いはずないよ。弾幕だけで攻めてくれてるのが何よりの救いだね、これは。遊ばれてるに等しいかも」
「……だね。というか、お姉ちゃんの割に冷静だね、どうしたの?」
「冷静に冷静に……って何度も言い聞かせてるから。ここで負けたら、折角────」
「お姉ちゃん。……それは置いといて、一先ず戦いに集中しよ?」
「……そだね。霊魔、まだ大丈夫?勝ち筋見えるまで保てそう?」
「た、多分……っ!」
相手がフラン……そこまで霊魔と関わりの無い人物だからこそ、ここまで保てているのかもしれない。もしガッツリと関わりがあったら、こんなにも強く拒否する事が出来なさそうだからだ。
霊愛はそう思い、密かに安堵していた。
「鬱陶しいなぁそのバリア……!物理で壊してやる!これでどーだ!禁忌『フォーオブアカインド』!」
「「「────ッッ!!」」」
4人に増えたフランは、それぞれがドカドカッと物理的にA.T.フィールドを殴り始めた。するとすぐ亀裂が走り、パキパキと甲高い音を出していく。
「避けながら殴んの上手くないッ!?あんな動き、お父さんでさえしないよ!」
「……壁を出すのはお父さんの十八番。だからかな?お父さんとフランって結構頻繁に弾幕ごっこしてるらしいからね」
「……ッ、ならもうキメよう霊麗!これ以上は私達が不利だ!」
「「姉妹符『緋想封印』ッッ!!」」
「僕もっ……権化『けん玉の化身』!」
紅白のホーミング弾が荒れ狂う中、霊魔が巨大なけん玉を生成。霊魔が玩具のけん玉で遊ぶとそれに同調して巨大なけん玉も玉を、けんを振り回して、フランに攻撃を仕掛ける。
しかし、3人の抵抗も虚しく────。
「禁弾『スターボウブレイク』!」
「禁忌『恋の迷路』!」
「禁忌『クランベリートラップ』!」
「禁忌『レーヴァテイン』!!」
「……ッ!?あっ、あぁあっ!おね、お姉ちゃんっ!ま、まずいよっ、もう壁、壊れ────」
バキィィィン、と鼓膜が震えるような音を出して霊魔のA.T.フィールドは破壊された。同時にフランの雪崩のような大量の弾幕が溢れてきて、3人はすぐ滅多打ちにされてしまった。
如何に姉妹が力を合わせても、そして巨大な玉で直接攻撃を狙っても、フランの圧倒的な力の前に、3人はただただ膝をつくしかなかったのである。
◆
「うーん……幾らあんたが強いからってうちの子達がここまで歯が立たないなんて……ホーミング弾なのに回避も予想よりスムーズだったし」
「お姉様と違ってそこまで手加減はしてないから。それにしても……霊魔くんは防御タイプなの?私でも突破に苦労したよ」
「そうなのかもね。あの壁……A.T.フィールド?ってヤツは初めて見たけど、霊魔は防御タイプなのかもしれないわね。霊愛と霊麗は攻撃に特化していて、防御はそこまでだけど……霊魔はその反対みたいね。その両方を兼ね備えてほしいけど」
「でも……私も何回かは被弾した。……強かったよ、3人共。少なくとも、能力が発現したばかりの頃のエスカルゴよりは、ずっとずっと強いよ」
「そう?それなら良かったわ。鍛えるべき点も一応見付けられたし……私としても良い収穫になったわ。ありがとう、フラン。また来て、あの3人の相手になってくれる?」
「んー、どーしよっかな?……考えとく♪」
ルンルンした上機嫌な様子で帰っていくフランを見送る霊夢。1日だけとはいえ、愛する夫との夜を楽しめなくなった霊夢だったが、それと同等……いやそれ以上かもしれない程の収穫を得た。
普段ならばフランに一矢報いようとするのだが、今日ばかりは、真に子供達の事を想い、3人の特訓メニューを考え始めたのだった。
◆
博麗神社にてフランと子供達の戦いが勃発した、その頃。独占される対象であるエスカルゴは珍しく守矢神社にてゴロゴロとのんびり過ごしていた。
「あれ?エスカルゴさんが
「あーこれ?ふふ、幻想郷縁起のコピーだよ。俺のページのなッ!!」
「うわぁ
「違わないけど違うんだよなぁ……。俺が見てるのはここ。皆のコメント欄だよ」
「ああ……」
「だってよ、ほら、霊夢とかがさぁ?阿求を通してとはいえ『結婚してくれてありがとう』なんて事を言ってるんだぜ?んふふふっ、定期的に見返したくなるんだよなぁ、ここだけ!照れるよなぁ、へへ、えへへへへ……可愛いよな皆……ホントにさ……」
「私が恥ずかしくなるので、それを見るのはあなた1人の時にして下さると有難いです……」
「んぇーそれはどーかなー。あーもう可愛いよー、へっへへへへっ……」
「エスカルゴキモイよ」
「うぇっ!?諏訪子にしちゃ辛辣だな!?」
「だってニヤケながらゴロゴロ転がってるんだし」
「あうう……」
自分の嫁や彼女のコメントに繰り返し目を通し、ニヤニヤと頬を緩め、ゴロゴロと部屋中を転がり、悶絶していたのだった。
A.T.フィールドは物理攻撃でも壊れます。
サキエルとイスラフェルのA.T.フィールドはN2で、ラミエルのはポジトロンライフルで壊れて本体にもダメージが入りましたね。
心の壁なのに物理で壊れるってどういう事?ご尤もですが、それを深く考えたら負けです。