※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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フランドール、関門へ向かう

 紅魔館、博麗神社ときて、次にフランが向かったのは冥界にある白玉楼である。

 1人で冥界に来るのは初めてだったが、彼と一緒ならば何度かは来ているので、最低限の地理は把握していた。迷う事なく最速で向かい、そして最速で帰ろうと考えていたフランは、とてつもない勢いの風を纏い、3人が修行中の白玉楼の庭先に、墜落のような勢いで着地した。

 

「うわぁっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「何奴……!?」

 

「特訓中だったのかな?外に居てくれて良かった、探す手間が省け────」

 

 フランの言葉は、そこで一時中断してしまった。彼女の首に、妖忌が刃をひたと当てていたからだ。

 妖忌は、フランでさえもこれまでに見た事がない程の鋭い眼光で彼女を睨み付け、妖夢や妖舞が口を開く前に彼が発言する。

 

「何者だ」

 

「え……わ、私は────」

 

「ちょちょちょ、お祖父ちゃんっ!!何やってるのダメだよそんな事しちゃ!!」

 

「侵入者じゃ」

 

「エスカルゴの彼女だよっ!しかも初めての!!」

 

「……ッ!これは失礼した。ふらんど〜る殿か」

 

「あ、う、うん……そうだけど…………」

 

「妖夢の祖父、魂魄妖忌と申す。……つい今しがたの非礼を詫びたい」

 

「いいっていいって……」

 

 妖忌の様子が突然変わったのには、理由がある。フランが許可しなければハーレムは実現しなかったという現実。つまり、フランも「妖夢の幸せの要」なのである。

 そんなフランの機嫌を損ねれば、妖夢の幸せをも失われてしまう。妖忌はそう考えたのだ。

 

「それより、妖夢」

 

「な、なぁに?」

 

「数日後、エスカルゴがここに来るよね?その日、私がエスカルゴを独占しても…………い〜い?」

 

「「「…………ッ!?」」」

 

 妖夢、妖忌、妖舞は、揃って顔を引き攣らせた。1人のほほんとしているのは、縁側にていつも通り3人を見守っていた白玉楼の主、幽々子のみだ。

 妖忌の態度から、フランは何となく察していた。白玉楼に限っては言葉だけで十分にオトせる、と。

 

「俺は別にいい!母上は!?」

 

「えっ!?あ、あー…………正直言うと1日だけでも居てくれた方が……色々と楽なんだけどな…………でもまぁ1日だけだったらまぁまぁ……うん…………」

 

「そっ!分かった、じゃあ次の白玉楼の日は、ここじゃなくて私と一緒にって事に────」

 

「ちょっと待ってくれる?」

 

 にこやかに話すフランの言葉を遮ったのは他でもない幽々子だ。彼女はいつの間にか扇子を広げつつ4人のそばに来ていて、口元を隠して、ほんの少しキツめの視線をフランに向けている。

 

「……なぁに?」

 

「エスカルゴくんを独占したい……と『思う』のは、良いけれど……行動に移しちゃダメよ」

 

「そうね。分かってるわよ、そんなの。でも、1日くらいならいいでしょう?」

 

「私は嫌ね。何気に彼、聞き上手でね。私の話を、飽きもせず聞いてくれるのよ。普段、紫と話すと、私が聞く側だから……そういう、聞いてくれる相手が定期的に来てくれるというのは私としてもできれば外せないイベントなのよね」

 

「……。分かるわ。エスカルゴって、『お兄ちゃん』だからね……。ああ見えて結構、聞き上手なのよね。私より幼いクセに、私が『妹』として甘えたくなるくらいには『お兄ちゃん』だし。でも、だからこそ1日くらい一緒に居たいの。そう願って……その為に動いて、何が悪いの?」

 

「悪くはないわ。あなたの願いは、当然のものよ。でも、私の願いも当然のもの。正義と悪じゃない。想いと想いのぶつかり合いよ」

 

「なら……ぶつかり合い(・・・・・・)ましょ?」

 

「ええ、喜んで」

 

 

 ◆

 

 

「……」

 

 ──幽々子様、そんなに父上に来てほしいのか。俺は、できるだけ父上に白玉楼に来てほしくない。母上……はともかくとして、幽々子様まで父上の傍に行くのが、見ていて辛いから。

 従者として、主人の幸せを願わなくてはいけないというのは分かる。理屈はそうだ。けれど「従者」ではない「俺」が、それを拒否している。

 さっきからそんな想いが溢れて止まらない。

 

「やっぱり、吸血鬼の力は段違いね。手を抜かれているのが嫌でも分かってしまう」

 

「あははははっ!それでも足掻くんだから、本当に流石だねっ!でもね……ッ、ここは私が勝つのよ!!そうしないと頭がどうにかなりそうだからっ!」

 

「それは困るわ。でも話し相手が来ないのも困る。困ったわね。────再迷『幻想郷の黄泉還り』」

 

「────ッ!!」

 

 フランの足元に「門」が開かれた。冥界の門だ。それが開かれると大量の幽霊が飛び出し、フランを攻撃した。足元からという奇襲によりフランですら回避が遅れ、上空に吹き飛ばされた。

 幽々子の猛攻は止まらない。

 

「まだよ。蝶符『鳳蝶紋の死槍』」

 

「!?」

 

 彼女は背面に扇を展開し、大量のビーム、蝶弾をフランへ乱射しまくる。綺麗ではあるが、幽々子の弾幕にしてはそこそこ攻撃的だ。

 見る者を震え上がらせるような、冷たい殺気すら感じさせる。

 

「ど、どうしてっ……?どうして、あなたがここまで彼に執着するの……っ!?」

 

「さぁね。分からないわ」

 

「……っ」

 

「でも────独占は許さないわ。妖夢の為に……、そして何より、私自身の為に」

 

「予想外よ……あなたがそこまで、エスカルゴに執着するなんて……っ」

 

「ええ……そうね。私もよ」

 

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

 

 炎の大剣を手元に作ると、フランは急降下し息をつかせぬ猛攻を開始する。振り下ろし、振り上げ、武芸者でなければ即座に斬られ焼かれるような酷く激しい攻撃だった。

 しかし長巻使いとはいえ幽々子も武芸者である。フランの足や翼の動きから先を読んで、自身は更にその先を行っている。

 故にフランの攻撃は当たらない。

 

「っ……なんでっ、当たらないのっ…………!もうっ、こうなったら……」

 

「!」

 

 より一層高く飛び上がると、更に速度を上げて、一直線に向かってくる。幽々子の動く速度を遥かに超えている動きだ。

 直線、しかも自分に向かって飛んでくる。そんな動きは単調だ、読むまでもない。簡単に処理できるなどと思ってしまう者も居ることだろう。現にこの2人の戦いを離れた所で見ている妖舞はそのように油断してしまっている。

 だがそれは違う。

 例え単純なモノ、コトでも研ぎ澄ませれば立派な武器と成り得るのである。

 

「──桜符『センスオブチェリーブロッサム』」

 

「遅いッ!!」

 

 幽々子は油断せず真下から待ち受けるように迎撃準備を整える。螺旋状に妖力を練り上げ、全て空へ解き放つ。

 しかしここで幽々子の誤算が一つ。

 フランの攻撃の速度に間に合わせる為に、準備が満足に出来なかったのだった。その為、練り上げたはずの妖力はフランの妖力に掻き消されて、彼女の炎の大剣にて幽々子は吹き飛ばされてしまった。

 

「きゃっ…………!」

 

「幽々子様ァッ!!」

 

「待て妖舞っ、お前の敵(かな)う相手ではないっ!」

 

「構うかそんなの、奴が父上の女だろーと俺の刀で一刀両断して────」

 

「……弦月姫ちゃんが愚痴るのも分かるなぁ」

 

「ッ!?……うわっ何すん、ぎゃあっ……」

 

 妖忌の制止を振り切りフランを斬ろうとする妖舞だったが、その初動を抑える為フランは妖舞を一発殴り飛ばし……妖忌は刀に手をかけるが理性でグッと曾孫を殴られた怒りを抑え、妖夢は何も出来ずに、ただ震えていた。

 

「私の勝ち。────で、いいよね?」

 

「え……ええ…………そう、ね……勝てそうに、ない……わね……、ふふ、ふ…………。妖、忌……妖舞くん……の手当て……おね、が…………い…………」

 

「幽々子様ッ!……ぐっ…………くっ………………」

 

「抑えてお祖父ちゃん!……勝負はこちらの負けよ、分かったからもう勘弁してっ!」

 

「うん、分かった。じゃあね」

 

 確かに西行寺幽々子は手練だ。それでも圧倒的な身体能力の差ばっかりはどうにもならないものだ。吸血鬼に迫る身体能力など、それこそ鬼や天狗などという種族でなければ。

 亡霊である幽々子に、それは不可能なのである。

 フランは幽々子、妖舞を倒すと幻想郷に舞い戻り次なる目的地へ向かう。急ぐ必要の無い用事だが、フランを駆り立てる「ある言葉」が、彼女をずっと突き動かしてならない。

 彼がよく言う「善は急げ」という言葉。フランもまた、この言葉に感化され、「善」を急ごうとすぐ行動に移しているのだった。

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