白玉楼を制した彼女が次に向かうのは永遠亭だ。ある意味ではここが最難関の関門だと言える。何せ永遠亭は永琳とその他大勢の兎以外のメンバーが皆揃ってエスカルゴに堕とされているからである。
それだけ、反対する者が多そうだ。面倒だ、とは考えていたが、各家庭につき「1日だけ」の独占は
「家庭の数だけの日数分」の独占をも可能にする。だからこそフランは、各家庭に赴いて「1日だけ」という条件で戦っているのだから。
このまま順調にいくなら、合計で1週間の独占はカタい。
「こんにちはー」
「あれあれぇ……?これは珍しいお客様だね。でも、エスカルゴはここに居ないウサ、他を当たりな」
「居なくても大丈夫だよ、私が用があるのはここの住人だし」
「へぇ?……鈴仙、呼んで来よっか」
「うん、お願い。巫月ちゃん、あと……サグメもね。緋月ちゃんはまだ幼いからいいや」
「あー……やっぱりエスカルゴ関連なんだ?」
「うん」
「なら私も残ろうかな。面白そうだし。あと、姫も連れて来ようっと」
「え。待って。姫って……蓬莱山輝夜?……そんなの聞いてない」
「そうだよ?お目当てはエスカルゴと関係のある女でしょ?それなら私と姫も追加だね。あー、でも、エスカルゴとサグメはまだヤッてないはずだけど、まぁいいや連れて来るよ」
「……」
予想より多かった為、フランは少しばかり焦りが生じてきたのを隠せなかった。てゐはそんな彼女の顔色を伺うと、背を向け呼びに行きつつ、ニヒッとイタズラっぽく笑った。
◆
やがて、てゐに招集された永遠亭メンバーが集結した。鈴仙、てゐ、輝夜、サグメ、巫月。錚々たるメンバーだ。フランの予想では鈴仙、巫月、サグメだけだったので、5人というのはとにかく予想外で意外な結果だった。
「ささ、呼んできたよ〜。早速、本題に入ろっか」
「……うん。……えっとね、鈴仙。今度エスカルゴがここに泊まるでしょ?その日だけエスカルゴを独占してもいい?」
「「「────ッ!!」」」
瞬間、ザワリと場の空気が揺らいだ。殺気に近いモノを溢れ出させフランに明確な敵意を向ける者が数名……。
ファザコンの巫月は勿論、鈴仙、そしてサグメ。輝夜は、先程の幽々子のような飄々とした様子で、顔色ひとつ変えない。てゐはこんな空気を楽しんでいるらしく、頭の後ろで手を組みニヤニヤとしている。
今すぐに激しい戦いが始まりそうな空気の中で、鈴仙は感情をどうにか隠しつつ、静かに口を開く。
「ど……どうして、その日なの?」
「何となく。前以て『予約』したいから、少し先の日に予約しておきたいの」
「そう……確かに『予約』は大事よね。うん……まぁでも……そう…………その日だけ……つまり、1日よね?1日だけだったらいいかな……って、思うけど……」
チラリと娘を、サグメを見やる鈴仙。しかしその2人は、これまで誰も見た事が無いような鋭い目で鈴仙を睨んだ。
巫月だけならばともかく、まさかのサグメもだ。鈴仙は縮こまってしまい、彼女の耳がしわくちゃになってしまったのは言うまでもない。
「……ねぇ。どうしてもその日じゃなきゃダメなの?
「分かるよ。でも、私、昔みたいに四六時中一緒に居る日が欲しいの。彼が泊まるローテで、永遠亭は一巡の中で2日あるよね。だからその内の1日だけ私に譲って欲しいなって」
「………………独占、だよね?独り占めするんだよね。会いに行った所で、全く会わせてくれないパターンだよね?」
「そうだよ」
「……ヤダ。エスカルゴと過ごす日を、1日たりとも逃したくないし、私はヤダよ。鈴仙は?サグメは?姫様は?てゐはどう思ってるの?」
「私は……そうね、やっぱり嫌ね。それにお師匠様の実験のお手伝いもあるから、エスカルゴにも緋月の面倒を見ててほしいし」
「…………私も、嫌だ。彼が居た方が……楽しい……」
「アイツ居ないと色々と物足りないし、居てくれた方が良いかな〜。大体は巫月と同意見ウサ」
「私はどちらでも構わないわ。『1日』だなんて、永遠からすれば瞬きする間の出来事。たったの一度くらい、なんてことないわ」
「……ならしょうがないね。勝負だっ……♪」
輝夜以外は、総じてフランの企みに反対。そこは一応フランの予想通りだったので、今度は焦る事は無かった。
輝夜は、永遠亭の中でも指折りの実力者である。そんな彼女が反対派ではないのはフランにとってもちょっとした幸運だった。
「……私達は勝負しますけど……姫様はどうされるんです?」
「ん……面白そうだから参加するわ。永遠亭側で♪」
「ッ────!?」
「「「「!!」」」」
フランはまさかの展開に驚愕を隠せず、兎親子や他の2人も同様に驚いていた。フランに協力する、しかし戦いには参加する。輝夜らしいとは思うが、やはり驚かずには居られなかった。
人数で言うなら1vs5、フランが分身を使っても4vs5。これだけで見るなら永遠亭側が有利だが、果たしてどうなるか。
ピリピリとした空気が流れる中、サグメが挙手。
「どうしたんです?」
「────準備、してくる」
「へ?……は、はぁ……」
鈴仙、他の全員が困惑する中、堂々とした様子で永遠亭の中に戻り……程なくして戻ってくる。手には弓を持っている。
輝夜、そして鈴仙も見覚えのあるあの弓。永琳の所持するあの弓だった。
「サグメ様が武器をっ!?」
「……私は、弓も使う。…………八意様が使っていて、彼も使っているから……真似したくなった。八意様にご教授して頂いた私の弓……とくと味わうがいい」
「ふふっ、私に当たるかな?」
「当てるつもりは無い。あなたに怪我をさせたら、彼が悲しんでしまうから────」
遂に1vs5の戦いが始まった。
近接戦は巫月、鈴仙が弾幕格闘で応戦、中距離でてゐがトラップを仕掛けたり、輝夜が弾幕を放つ。遠距離を担当するのはサグメだ。自身の矢のような弾幕を永琳の弓から放ち巫月や鈴仙の方へフランが回避するように的確にアシストしている。
「いっくよ〜……!雷武器『雷刀』ッ!からの〜……
『双刀乱舞』ッ!!」
「くっ……流石だね巫月ちゃん、エスカルゴが手塩にかけて育ててるだけあるよ……んぐっ……」
「当たり前!私、最強の娘を狙ってるからっ!」
「イイね。明確な目標があるっていうのは、自分を強くしてくれるからね……っ」
「悪いけど……独占はさせないっ!たとえ、あなたがハーレムの要だとしてもっ!『幻朧月睨』ッ!!」
「波状のッ……んぅうあああぁぁっ……!!」
鈴仙の波状攻撃を喰らってしまい頭がグラグラと揺さぶられたフラン。動きの精度が明らかに落ち、輝夜の弾幕も喰らう。巫月が双刀でフランを斬り、痺れさせる。ここでフランの動きはほぼ停止したがサグメが手足スレスレに矢を射った事で、フランは確実に動きを停止した。
「あれあれ、私の出番は無しウサ?つ〜まんない」
「うぎ……手が、足がっ…………かなり強気だね、巫月ちゃん…………これはキツイな〜……」
「これが私の気持ち。エスカルゴは独占させない。もう、誰にも独占させないから……っ」
「……別にイイじゃない。巫月ちゃんはエスカルゴの子なんだから、私よりも強い繋がりがあるんだよ?なのにどうして?」
「それは…………あなたと一緒。エスカルゴと一緒に居たいから。……大好き、だから」
「…………巫月ちゃん…………」
「だからお願い。独占なんて────」
「ごめんね。禁忌『フォーオブアカインド』」
「「「「「っっ─────!!」」」」」
本体らしきフランは矢に磔にされたまま動かないものの、3人の分身が暴れ始めた。それぞれがただバラバラに動くならまだしも、今回は違っていた。
統率の取れた動きで、3人が……否、様々な方法で動きを封じられた本体も含めて、同時に、フランの十八番である超高密度弾幕のアレを発動させた。
「「「「禁弾『スターボウブレイク』」」」」
「ウソォッ!?や、ヤバッ……何この密度はぁ!?」
「……」
「だ、誰かバリアをッ……あ、ひ、姫様っ!!」
「そういうのは永琳の役割だわ〜」
「うわぁぁぁん、もう終わりだぁぁっ!」
てゐは逃げ惑い、サグメは諦観、鈴仙は戸惑う。冷静なのは輝夜、そして最年少である巫月だった。
「……お願いエスカルゴ、力貸して……!雷壁『雷纏反撃壁』ッ!!」
「……ッ!巫月ぃ!!」
「…………助かった。ありがとう、巫月」
「いやいやどう見ても耐えられてないでしょそれ!もうヒビ入ってるしっ!」
「てゐも何か活躍しなさいよっ!」
「鈴仙こそ!私は地上戦が得意なの、空中戦じゃあ支援もできないよ!そもそも、こんな不可能弾幕に近い密度なんて回避できっこない!」
「ならせめて相殺くらいして!!」
「全然相殺が追い付かないから!」
事実、てゐの言う通りである。ただでさえ密度がとてつもないあのスペルなのに今回はその4倍だ。てゐが逃げに徹するのも致し方ないのだ。かつて、フランの「禁忌『フォーオブアカインド』」というスペルは、分身を3人作り弾幕を放つだけだった。しかし、鍛え上げる事によって分身にちょっとした自我を与える事に成功した。
その結果、4人がバラバラのスペルを使う事も、またはこうして同時に同じスペルを使う事も可能になってしまっているのだ。
最初の紅霧異変後にこの技術を確立して凡そ20年近く。フランは、エスカルゴと違って分身の統率も取れるようになっていた。
そんな4人の攻撃は、さながら絨毯爆撃のよう。さしもの鈴仙、輝夜も相殺は無理だと悟り、果ては巫月の壁も破壊され、全員が散り散りになって逃走するも、執拗に追い討ちを掛けられて、5人全員がダウンさせられてしまった。
「ふふっ……あははっ♪……良かった、勝てて……少し危なかったけど、私の勝ちだね……♪」
こうしてフランは永遠亭メンバーをも撃破した。これで、残す家庭は僅か3つだ。永江家、それから射命丸家、守矢神社だ。前者は娘が厄介だろうが、そこまで問題ではない。最後の障害は射命丸家……特に文となるだろう。
フランはそう確信し、ニタリと口元を歪めた。