連続独占作戦もいよいよ大詰め。雲の中にあるとされる竜宮の使いの永江家に関しては、特定が困難なのでどうにかしなければとフランも思っていた。
フランとて無断で彼を独占する気は無い。もしもそんな気があるなら初めからそうしている。それがフランドールという少女だ。
「何処から行こ……文の家、どこだか分かんないんだよね〜……」
なら案内してもらえばいいじゃないか、と即座に思い付くフラン。ただし理由を伝えるのはダメだ、それでは案内してもらえなくなってしまうだろうし色々と面倒な事になるかもしれないからである。
そしてフランは守矢神社にやってきた。穹の姉妹ならば姉の家くらいは知っているはず。そう考えたフランは守矢神社に来るなり樹理愛に声を掛けて、射命丸家まで案内してもらった。
「ここだよっ!」
「誰も、居ないみたい……だけど?」
「うん。どっちも新聞記者だからね、ネタ集めとかしてるんだよ〜。どっちも帰ってくるのは夕方とかじゃないかな?」
「……ふーん、そっか。とりあえず場所は分かった。ありがとね」
「どういたしましてっ!じゃ、帰るね!」
「あ、待って待って。守矢神社にも用あるんだ」
「……?そーなの?」
「うん。だから、早苗と……諏訪子とも、お話させてくれるかな?」
「うんっ、いーよ!」
「……」
無邪気に了承する樹理愛。フランはそんな彼女を見て騙すような気がしてきて、少しばかりチクリと心が痛んでしまう。しかし即座に頭を振ってそんな弱気な考えを捨て、自分は間違っていないはず、と自己暗示の如く何度も何度も言い聞かせた。
「ただいまーっ!ママ〜、諏訪子様ーっ、なんか、フランちゃんが2人にお話があるんだってー!」
樹理愛のその呼び掛けに、早苗はすぐに境内まで出てきて、諏訪子は渋々と出てきた。早苗は、纏う匂いからして料理中だったらしい。
諏訪子は……いつも通りのんべんだらりと過ごしていたようで、神の威厳が欠片程も感じられない。
「単刀直入に言うね?次のローテで彼が守矢神社に泊まる日には、私がエスカルゴを独占させてもらうからね」
「あぁ、まぁ構わないですが……」
「そだねー、1日程度ならイイかな」
「…………えっ」
「「え?」」
「え……早苗も……諏訪子も、嫌がらないの?」
「いやぁ、1日なら別に……ねぇ、諏訪子様?」
「うん、だって神だし。ほぼ不老不死みたいなもんだからさ、君と違ってその辺の余裕はあるからね。1日くらいは別にスルーしてあげるよ。事前告知、ありがとさん」
「……ふーん、分かった。じゃ、遠慮なく」
不機嫌になったのは言うまでもない。フランは、この謎の感情の正体について自分でも何となくだが勘づき始めていた。
フランは、嫉妬してほしかった。自分が彼を独占すると宣言し、それに誰かしらが反対し、フランに反抗する。彼女は、彼を独占するのと同じくらいにそれを楽しんでいたのだった。
レミリアがアッサリと独占を許してくれたのに、妙にイラッときたのもそれだったのだ。
「じゃあさ。誰か魅玖ちゃんの家まで案内してよ。そっちにも用あるからさ」
「樹理愛、あなた確か茜ちゃん家以外は把握してるでしょ?案内してあげて」
「はぁ〜い」
再び樹理愛は先頭に立って飛び出した。フランも続くがすぐに雲に突入したので、フランは樹理愛を見失わないように服の裾を掴む事にした。
「……なんで雲の中なのに道が分かるの?目印なんて何も無いじゃない」
「それはね、飛ぶ時に数を数えてるからだよ」
「数?」
「例えば、東に200秒、南に256秒、西に63秒とか
東に200秒、南に363秒、東に722秒、西に18秒……みたいにね。だから、秒数が狂ったら辿り着くのが少し難しくなるんだよね〜。あと飛ぶ速さも一定にしなくちゃだから、結構疲れるの」
「へー……そうまでしないとダメなんだ……」
「巫月お姉ちゃんとか茜お姉ちゃんみたいにスキマ使えないからね〜。魅玖もスキマ使えるように特訓してるみたいだけど、肝心の電力が足りないみたいでさー」
「魅玖ちゃんって、まだ2歳になるかならないか……くらいだよね?」
「うんっ!私より4歳くらい年下だよ!」
「……皆、似たり寄ったりの身長だから、見た目じゃ分かりにくいな……」
「あはは、そだね、それは分かるかもー。なんか、吸血鬼の血を引いてると途中までは成長が早いってパパ言ってたけど、皆の身長、揃いすぎだよね〜」
「ね。身長の区分って、上の4姉妹と下の4兄妹、それ以外の3分割にできる感じだし」
「でも流石に、レイチェルとここあとシガレットとそれ以外でも区分した方が良さそう」
「それもそっか」
そんな話をしていると、フランの予想より早めに永江家へ到着する。守矢神社は平地と違いそこそこ高地にある為、ほんの少しばかり時間が短く感じたらしかった。
「ここだよー」
「フツーの家……だね。いや、彼の行き先に神社とか館とかそういうのが多いだけか」
「あははっ、そうかもね!じゃ、後は1人で大丈夫だよね?」
「うん。ありがとね」
「んーん、大丈夫!またね!」
にこやかに手を振ると樹理愛は再び雲の中に身を投じて神社へ帰っていく。
さて……、とフランは永江家に向き直り、早速独占宣言を出す為に扉を叩いた。すぐに扉は開くがこのアポ無しの客を警戒してなのか、扉にはチェーンをつけている。
「はーい…………あ、紅魔館に居たお姉ちゃん……?」
「うん。フランドールだよ。お母さん、居る?」
「んーん、今まだお仕事中……」
「……。連絡して、今すぐ帰ってきてもらえるかな?それかお母さんの職場を教えて」
「分かった、連絡するね。ちょっと待ってて」
「……?」
一度扉を閉めるとチェーンを外して外に出てくる魅玖。フランをスルーし、近くの重苦しい色の雲に向かって声を張り上げる。
「サンちゃーーーんっっ!!」
程なくして、暗い雲を掻き分け帯電した黄色くてトゲトゲしい外見の巨大な鳥がやってくる。ソレは魅玖の傍に着地すると、帯電しているのも気にせずスリスリと頬擦りする。
「んふふ、チクチクするよぉ♪」
「キュウウウン♪」
「サンダーバード…………もしかして……」
「うん!お父様が私にプレゼントしてくれたの!」
「……成程ね」
「サン、お母様を呼んできてくれる?」
「キェエエエエッ!!」
バサバサッと飛び出すと、数分後、衣玖を乗せたサンが帰ってきた。その間、フランも魅玖も、特に話題が見つからず無言だった。
元々、フランは魅玖も倒す対象として考えていたものの、魅玖の幼さが予想を上回っていた事により母が来る前にその話題を出すのは止めておこう、と考えたからであった。
「あらあら、フランさん……そういう事、ですか」
「?」
「流石だね衣玖
「ええ。あなたは原初の彼女。今の私が在るのは、そして幸せが在るのは……巡り巡ってあなたのお陰と言っても過言ではない。……了承しました、あなたの思う通りになさってください」
「!!……いいの?何も言ってないよ?」
「構いません。我が子の前でする話ではないような気もしますから……」
「……そうかもね。じゃ、そういう事で」
「ええ、お気を付けて」
「フランドールお姉ちゃん、バイバーイ!」
「バイバイ。また遊びに来てね」
「うんっ!」
少し堅い作り笑いを浮かべて手を振り、フランは地上に戻る。最後は射命丸家。そろそろ夕方なので戻ってきていてもおかしくはない。
◆
「……やっぱり流石に居るよね」
樹理愛に教えてもらったばかりの射命丸家へ到着したフラン。夕飯の支度をするには丁度いい時間、いや、少し遅いくらいのこの時間に、フランが到着するのとほぼ同時に文が帰宅した。
娘の穹は居ないものの、先程の衣玖の「我が子の前でする話ではない」といった言葉が脳裏で流れたフランは、穹が戻る前に終わらせようと考えた。
「おやフランさん、こんな夜にどうしました?」
「エスカルゴについて、ちょっと用件があって」
「……話を聞きましょう、どうぞ中へ」
「ううん、
「……ふむ。何やら訳アリのようですね?」
「訳なんて無いわ。ただ、昔のように一緒に居たいだけなの」
「……。そろそろそんな時期が来ると思ってました。初めて取材した時、あなたはあの人と一緒に居た。元々、曖昧な回答しかせず淡々としていたあなたと思えないくらい……明るかった」
「……」
「で、その『独占』とやらは何日間も、ですか?」
「ううん、その日だけ」
「嘘をつかない事です。『私の日』に独占するのは一度だけ────大方、博麗神社や永遠亭などの、他の家庭にも『1日だけ』、『その日だけ』などと宣って1日ずつ独占し……。トータルで永遠亭、博麗神社、ここ、紅魔館、白玉楼、守矢神社…………と、そんな感じですか」
「うん。あと紅魔館は咲夜の日と
「ええ、まぁ、そうですね。……別に構いませんよ、その日だけの独占は」
「そう……じゃあ遠慮なく──」
「ですが娘が許しますかねぇ」
「……っ」
フランの背後には、いつの間にやら穹が居た。今帰ってきたのだ。そして、フランが穹に気が付いた直後、ゴオッと猛烈な風が吹いてきた。穹の移動に伴った風圧らしく、風の時間差、強さが穹の速さを物語っていた。
「────独占、という言葉が聞こえましたが?」
「……そーだよ?」
「父上を独占するつもりですか?フランさん?」
「そうだよ?1日くらい、いいでしょ?」
「イヤですね。あなたに独占されては父上の記事が書けないではありませんか」
「フフッ……そうだね。ストックが無いなら、新聞を休むしか無くなるね?」
「ッッ…………それは御免蒙りたいものですね」
「じゃあどうする?」
「……力ずくでも」
天狗に配布されるあの団扇を構える穹。そして、能力の発動の準備を整える。彼女は文の《風を操る程度の能力》に加え誰から受け継いだものでもない
《加速を操る程度の能力》を有している。彼女の、異常なまでの速度は2つの能力の掛け合わせによるものである。フランは、これが何よりも厄介だなと考えている。
「いいよ?やっぱりあなたはエスカルゴの娘だね。そういう、自分の思い通りにしようとする所……、娘らしさを感じられるね」
「果たしてそうでしょうか?娘として、父と過ごす時間を大切にしたいと願うのは普通では?そして、記者としても追跡対象をみすみす誰かに横取りされネタ集め不能となるのも避けたいですしねェ」
「ふふっ。そう思う事は普通だと思うよ。でも、私みたいな圧倒的強者を前にしてそう言えるのはね、ハッキリ言って異常。エスカルゴのような無謀さ、霊夢のような自信、魔理沙のような
「では私は4つ目のパターンになりましょうッ!!私は勇気を以て、フランさん!あなたに挑む!」
「勇気……それは違うよ、穹ちゃん。あなたのそれは勇気じゃない。無謀だよ。勇気と無謀は似て非なるもの。寧ろ、勇気があるのはエスカルゴかもね?」
「ッ!?……では勝負です。私はあなたに勝ち、私を突き動かすこの想いが勇気によるものだと証明してみせましょうッ!」
「イイよ。私が勝てばただの無謀って事になるけどそれで構わないんだよね?」
「無論ッ!」
「……」
キラキラ輝く虹色の弾幕を展開するフラン。穹もそれを見て弾幕を展開し、フランの攻撃に備える。しかしまず初めに動いたのは、吸血鬼よりも遥かに速度に優れている穹だった。
穹は、時間制限があるとはいえ無敵となれるある技術を会得している。それを、発動させた。
「初っ端から出し惜しみ無しで戦わせて頂きます!
『絶対の
「ッ……これは確か……」
「父上の彼女さんだろうと、遠慮はしませんッ!!あなたのその願望をッ……殴ってでも止める!!」
「!!」
穹は、その技を使う事によってタイムリミットを設けた。加速の能力を使っているとは言ってもその殆どは穹の頭脳譲り。全ての事象を処理してしまうという、母譲りの超人的頭脳をフル稼働させる。
しかしそれも無限には無理なので、活動時間は、余裕をもって3分、最長で5分前後だ。けれども、5分前後ともなると頭がオーバーヒートしてしまい
「いつ気絶するか分からない」状態になる。
頭がそんな危険な状態で満足に弾幕を回避できるはずもなく、被弾数は増え必然的に活動最長限界は5分前後に固定されてしまっているのだ。
しかもこの技の連発は不可能な上に、なんなら、少なくともその日と次の日はゆっくり休まなければ活動不可能になってしまう程のリスクがある。
やはり親子と言うべきか、そういった「軽くないリスク」を軽々と背負ってしまう無謀さは、父親に似ているらしい。
「なっ……速い────」
穹は、あろう事か肉体的に優れる吸血鬼に対して体術で挑んだ。風を操る能力と加速を操る能力とを併用し、音速を超える速度でフランに迫り、父親の彼女を相手に顔面を殴り飛ばした。
そして今の穹はベクトル反射状態にある。故に、フランに与えられるダメージは単純計算で2倍だ。
例えば、穹が1の力でフランを殴ればフランには1のダメージが入る。しかし世には作用・反作用の法則というものがある。それによってフランの顔を通して穹の手にも1のダメージが入るのだが、今の穹は反射状態であるが故に、そのダメージを反射し追加で1のダメージを与えた。だから、ダメージは少なくとも2倍になるのだ。
「ぐっっ……!?」
「……体勢を崩しもしませんか、その体幹は父上より断然上ですね……っ!ですがッ!」
(消えた……いや!)
「ハァッ!!」
「ぎゃっ!?」
瞬間移動とも言える速さでフランの背後に移動。腕をクロスさせた状態でフランの翼を掴むとそれを引き千切らんとミシミシ引っ張り始めた。
そして、反射状態であるが為にダメージは倍増。フランへのダメージは「痛烈」の一言だった。
「ぐぎゃっ……あぐぐぐぐっ…………」
「千切るより潰しちゃいますね、この状態だと……。どうしたものか……」
「は、な、せぇぇええええっっ!!」
「ッ!!」
翼が千切れるのも厭わずに、振り返りざまに腕を振り穹に肘鉄を喰らわせる。けれどもまだ反射状態だったので、肘鉄も反射されて、掛けた力の分だけフランの肘にダメージが入り、作用反作用によって倍増させる。それによりフランの肘は砕けてしまい開放骨折に至る。
「ぎぃぃぃっ…………ぐ、くぅぅっ……何、この痛み……こんなの初めてだよ……っ」
「でしょうね。父上はこんな事しないでしょうし、普段のあなたはこんな状況に陥らない────」
──あと2分と少し。穹は勝負を急ぐ事にした。
翼を千切った穹は距離を置いて先程の弾幕を発射するが、フランの弾幕の方が密度が濃い為に弾幕の勝負は無理だと早々に判断。
フランの弾幕を回避した後、空気を操作するなりフランに手を向け攻撃準備を整える。
「風符『圧縮砲 酸素』ッ!!」
因みにこの技は、ジョジョに再ハマりした父から
「ストレイキャットみたいだぁ」と言われてしまい内心ムッとした過去がある。そういうデリカシーの無さは昔から相変わらずである。
空気を操作した穹は酸素のみを圧縮して、それをフランに向けて放つ。高濃度の酸素は、毒である。穹の思惑通り、フランはそれを吸うが────。
「……」
「……あれ!?」
妖怪に酸素は必要無い。故に有っても無くても、有り過ぎても無さ過ぎても問題は無いのである。
穹は父と違って真空空間に到達した事も無いし、父や霊夢と違い虹龍洞の奥深くにも入っていない。お陰で、酸素と妖怪の関係について知らなかった。
(息を止めて……いや、それは無いか、肩で息もしているしどう見ても呼吸
「どうしたの?こんなじゃ私は倒せないよ」
(っ……確かに。しかし、どうしてそんなにも平然としていられるのか……。高濃度の酸素は猛毒のはず。少なくとも狼や狐などの動物は死亡した────。流石の吸血鬼でも倒れはするはず……)
「それじゃ今度は私から……!」
「……ッ!!まだまだぁっ!!」
穹は能力方面以外に頭を使う事になってしまい、知らず知らずの内に、無敵であるはずの反射状態の時間を減らしてしまっていた。
「あぐっ……頭がっ……ですがまだ……耐え…………ッ」
「残念だったね。体力とか再生力の差を考えるべきだったね」
「────ッ」
反射状態が解除された直後、穹は鳩尾を殴られてしまい、呆気なく意識を手放してしまった。
穹の「絶対の加速装置」は、全ての物理的攻撃を反射してしまう。どんな強者のどんな物理的攻撃も反射してしまう反面、敵が強者であればある程に、頭では別な事を考えなくてはならなくなる。
つまり無敵時間が減る事に繋がるので、この技は本来、雑魚処理や盾役に向いているのである。
「あやや〜……負けてしまいましたか。それならば、これは仕方ないですかねぇ……。とはいえ、たったの一度だけですし、ここまでムキになる必要は無いと思うのですがねぇ。ねぇ、フランさん?」
「そうだね。たった1回、だしね。アイツも衣玖も早苗達も、戦わずしてOKしてくれたのにね」
「おや、やはりそうなんですね。では楽しい時間をお過ごし下さい」
「うん。そうさせてもらうね」
◆
「う……イタタタ…………あれ、ここは……?」
「あ、起きました?少し遅いですが夕飯ですよー」
「…………負けたんですね、私は」
「そりゃそうだ、としか言えませんがね。あなたであの子に勝てる道理はありません。不可能ですよ。あなたがあの子に勝る部分なんて、回避能力だけ。それすらも、
「……」
「それはそれとして何故あの方を追跡する事に固執していたのです?」
「……ネタが尽きたもので……ネタを考えている途中なんです……。なので考えるより父上を追跡する方が楽だと思ったので……」
「ネタを
「はい……」
こうしてフランは独占の為の下地を完璧に整え、遂に彼女の計画は最終段階の「彼を捕える」だけになったのである。
秒数の例えに出したあれらの数字は、ダークライ、シェイミのアレです。ダイパ世代なので……((
父親の彼女を殴る……これだけ見たら「きっと複雑な家庭なんだろうな」ってなりますね。なんだろう、シングルファーザーと娘という生活をしてたけど、父親が結婚するべく彼女を連れてきて娘に紹介したけど、その女が気に入らなくてつい殴ったのかな。