────総括。本音を露出させたとしても面白い結果になるとは限らない。
天弓千亦に続き、フランドール・スカーレットの本音を露出させた犯人の摩多羅阿弥は、そのように結論付けた。
というのも単に「つまらなかった」からである。
「はぁ……つまんな」
天弓千亦────発言の度に己の言動を振り返りいちいち口を噤む動作が見受けられた。それに加え本音の露出により異変解決組の戦闘意欲を煽る事になってしまい神とは思えない程の早さで倒される。
人数の差は考慮されるべきではあるものの、力を取り戻したのなら、5人が相手だとしても善戦してほしかったものである。仮に母、摩多羅隠岐奈ならどうしたかと考えると、やはり、天弓千亦では私の実験体とするには少し力不足だった。
フランドール・スカーレット────次の実験の対象は、天弓千亦の反省を活かし、神にも匹敵する力を持ち、尚且つ、幻想郷を揺るがしかねない程の大きな本音を隠しているフランドールを選択した。
この者は予想通り各家庭に赴き独占の意を伝え、反対する者には弾幕ごっこを通して力押しを実行。結局、願望を貫き通した。
問題はその後。「独占」を更に延長させるはずと確信を持って予想していたものの、フランドールは結局各家庭で結んだ「独占の約束」を完璧に守り、普段通りの生活に戻った。
当の父、エスカルゴ・スカーレットは、精神的に少し傷を負ったものの、持ち前の自己暗示にも似た
「自分への言い聞かせ」により、少しは立ち直った様子。それでもショックまでは忘れられないようで以前にも増して肉欲に忠実になったそう。その姿はまるで、あの凄惨な行為を、楽しい性行為で上書きしたいと躍起になっているかのよう。
「……こんなもんかぁ」
記録用のレポートを書き終えた阿弥は次に考察に入る。どうして、完璧に思えた二度目の企みすらも失敗したのか。その鍵はフランドールの種族か、と阿弥は考えた。
吸血鬼、それは悪魔の一種。悪魔とは元来、人間などの種族と契約を結ぶ種族である。契約、つまり約束事。だからこそ彼女は「1日だけ」という約束もとい契約を破る事無く完璧に遵守したのだろう。
それをレポートに書き加えようとしたまさにその瞬間。彼女の背後に立つ大きな影が1つ。
「あ〜〜〜み〜~~ッッ!!!」
「……何?お母さん?」
彼女の母、摩多羅隠岐奈である。
八雲紫の使うスキマの如く、大抵どこにでも扉を作れてしまう摩多羅母娘の間に、プライベートなど有って無いようなものだ。
「二童子からの報告で聞いたぞ、幻想郷にてお前の能力の残滓を感じ取ったと!!」
「へ?」
「先の異変の黒幕である天弓千亦、それに続いて、エスカルゴの原初の彼女であるフランドールにまで手を出したそうだなッ!?」
「……だったら?」
「タダでは済まさんっ!この馬鹿者め、少しは痛い目に遭うといい!天弓千亦はまだともかくとして、フランドールの方はやり過ぎだろう!お前って奴はエスカルゴのハーレムを壊すつもりか!?」
「……別に。壊れたらそれまでってだけじゃん」
「お前の能力は世界の理をも根底から覆しかねない能力なんだッ!それを遊びに使いおってこの馬鹿、一度こっぴどく叱られてこいッ!!」
「誰に?」
「行けば分かるッ!」
「うっ」
隠岐奈に突き飛ばされ、阿弥は扉に落とされた。彼女が落とされたその場所は、彼女もよく見慣れたあの場所────。
◆
「ここは……博麗神社……?」
「あら、阿弥ちゃん?」
「ッ……どーも」
平気な顔をしているが、阿弥は異様な気配をその肌で感じ取っていた。霊夢────ではない、その背後に控えている中肉中背の、蝙蝠の翼を持つ男。阿弥の父親、この俺だった。
「……来たか、阿弥。待ち侘びたよ。隠岐奈ってば、約束の時間もろくに守らねーし……」
「お父さん……?」
気配がいつもの俺ではない事は、阿弥も俺を一目見るなり察しただろう。娘を前にして指をポキポキ鳴らしている。それの意味する所────。
「阿弥。おイタが過ぎたな?」
「な……んの事、かな……?」
「しらばっくれるな。里乃と舞から聞いたよ。あと隠岐奈からもな。……千亦が妙だったのと、フランが俺を独占しようとした……いや、独占したあの事件。阿弥、お前が裏で糸を引いていたんだな」
「…………うん。だったらどうするの?」
「お仕置きだ」
「娘を……殺すのかな」
「フッ。フフ、それはまぁ無いわな。だが痛いのは覚悟してもらう。鉄拳制裁……だな」
「……」
「来い」
「ヤダ」
「催眠『惑星麻酔』」
「ッッ……う、ウソ、でしょ…………ノーモーションで攻撃なんて、そんなの……反則でしょ……っ」
「何をビビる事がある?悟空が足からかめはめ波を出すのと同じように……俺も足から電気を流すのさ。さぁ、もう逃げられないな?能力は使えないしな」
「えっ」
扉を開こうとするが開けず、試しに俺の「表」を操ろうとしたが何も起きなかった。隠岐奈により、一時的に能力を封じられていたからである。
つまり今の阿弥は、体が少し丈夫なだけの普通の幼女だ。
「嘘、なんで、こんな事が……」
「逃げられないようにする為だよ。分かるだろう」
「嫌っ……やめてお父さんっ…………」
「嫌?おかしな事を言うね……。巫月や鈴仙、霊愛も霊夢も、俺と過ごす時間を楽しみにしてくれていたのに、阿弥がフランを唆した事で『楽しみ』が1つ減ったんだ」
「そっ……そんなの、フランドールが勝手に、色んな家庭に行って独占宣言しただけじゃんっ……」
「お前の能力はほぼ不可避、防御不可のものだよ。何せ、物理的な能力じゃあなくて概念系だからな。だから『〇〇が勝手に〇〇したんじゃん』なーんて理論は通じねェ」
「でも、早苗とか諏訪子とかは『1日くらい』ってスルーしてた。衣玖も、霊夢もだったし。それと、レミリアだってそうだった。いちいち反抗する方が変なんじゃないの?」
「いいやそれは違うね。これはレミリアの受け売りだが『日常のどうでもいい事が重要になってくる』ものだよ。スルーできるのは心に余裕があるから。反抗するのは、日常の楽しみを逃したくないから。これの何処が変だってんだ」
「……」
「そんな楽しみを奪った阿弥にはお仕置きだよな。ほら、大人しく頭ァ、出せ」
「……」
拳をグッと握り締め、ハァーッと息を吐き掛け、ゴチンとゲンコツしてやる。勿論、怪我はさせないくらいに力を抑えているがかなり痛くしてやった。
「いったぁ〜っ……お、おとっ……おとーさっ……う、うう、うううぅ〜っ…………」
「阿弥、おイタはここまでにしておけ」
「ひぐぅうぅぅぅ〜〜〜っ……うう、痛いよぉ……」
「分かったのか?」
「痛いよぉ〜……」
「分かったのかって聞いてんだよっ!」
「いだっ!!」
もう1発のゲンコツを喰らい、阿弥は頭を押さえ境内に蹲る。何も言わず彼女の首根っこを掴んで、母猫が子猫にやるようにプランとぶら下げてやり、隠岐奈が鼓を肩に乗せて演奏するように阿弥を肩に乗っけてやる。
「な、にを……するつもり、なの……っ」
「お尻ペンペンの刑だ、巫月と妖舞以外にやるのは初めてだな」
「へっ……や、やめてぇっ!あうっ……イヤッ、や、やめてぇっ!あぐっ……痛いってば!やめてよっ!んうっ……や、やめっ…………あ゙っ!」
「『ごめんなさい』は?」
「なんで私がっ……!私はただ気になったから調べただけなのにっ……」
「……うん。その気持ちは分かるけどな。その研究者気質なとこはイイと思う。けど……なぁ霊夢、阿弥は謝る気がサラサラ無いらしい。残念ながら、俺らの夜の落とし前は付けられそうに無いな」
「ま、アンタも、やり過ぎには注意しなさいよね。なんか体罰?虐待?ってのが里で話題になっているみたいだしさ。子供への接し方も気を付ければ?」
「人間が勝手に言ってるだけだろ?」
「そうだけどね」
「人の営みについては人に任せるさ。だけど、俺ら妖怪の営みは妖怪に任せてもらおう。な、阿弥?」
「いだっ……んぐぅっ…………やめて、お尻痛いっ……!痛いよぉっ!」
「それでも謝らないんだからお前のその我の強さは大したモンだよ」
「それ以上叩かないでっ!おね、お願い、だから!本当にっ、お願い!お願いしますっ!お父さんっ!離してえっ!!」
「もう、猿の如く赤くなってるんだろうなぁ。俺のお尻ペンペンにここまで耐えたのはお前が初めてだ阿弥、誇っていいぞ」
「い、たいっ……よっ……やめて、おとーさんっ……!やめてってばぁ……っ!ううっ、うっ、うう〜っ……ふえぇぇ〜ん……」
「……あ、泣いちゃった……。ちょっとエスカルゴ、やり過ぎじゃない?」
「ん……そうかも……かなぁ……?」
「うぇぇぇん……ごめんなさいぃ〜…………もう……もうしないからぁ、ひぐっ、う、うう、んぅ、許して、お父さぁん……」
「よしよし。じゃあ挨拶回り行こうなー。皆にも、ちゃあんとごめんなさいするんだぞ?」
「ゔん゙……わ゙かっだ……っ」
こうして俺は阿弥を各家庭に連れ回し阿弥本人に謝罪させた。勿論1日独占を許したらしい家庭へも謝りに行き、阿弥は泣きながら謝罪した。
皆、泣いた阿弥を見て「余程の事があった」のを悟り、苦笑を浮かべつつ許してくれた。
ただ1人、フランだけは、阿弥に感謝の気持ちを述べた。阿弥のお陰で、モヤモヤしていた気持ちをスッキリ晴らす事が出来た……と。
そう言われた阿弥は照れに照れていた。そして、また能力を悪用しないか、と心配した俺だったが、フランと楽しげに話す阿弥を見て、もう大丈夫だと密かに確信した。
それにしても、フランが溜め込んでいた気持ちがあのような……トラウマを残すようなやり方にて発散されるとは、やはり、心とは分からないものだ。
俺に自己暗示の特技が無ければ、フランに対して一生畏怖し続けていただろう。そういう意味でも、本音を露出させる阿弥の能力は恐ろしい……。
何気に阿弥が「!」を付けたの初めてです。そして父の叱責により、阿弥にある感情が芽生える事に。好意じゃないナニカ。