「はーいどちら様……うおっ、霊夢っ!?えっ、急にどうした……!?」
「今、時間ある?相談したい事があるんだけど」
「あ、ああ……ちょっと床とか汚いけど大丈夫か?」
「いつもの事でしょ。構わないわ」
「一言多いんだよっ!」
博麗神社を出た霊夢は、魔理沙宅へやってきた。先程目にしたばかりの霊麗と旦那の情事、そして、霊愛と旦那の関係について、親友の魔理沙に相談をしたいと思っていた。
本当であれば絶対に秘密にすべき事だ。しかし、霊愛のみならず霊麗ともなれば話はまた別である。それに加えて、博麗神社にはもう1人子供がいる。末っ子の霊魔だ。
霊魔がいずれ性に目覚めたとき、母である自分が標的になるのではないか。姉2人の例から察するに霊魔が霊夢を狙う可能性は、否定できなかった。
「────で、相談ってなんだよ?」
「うん…………。あ、紅茶のおかわりもらっていい?何だか喉が乾いちゃったわ」
「それなら麦茶がいいんじゃないか?冷やしてるし丁度いいだろ」
「……うん。ありがと」
出された紅茶を飲み終わり、次に出された麦茶に口をつけて喉を潤しても、霊夢の表情は優れない。普段は能天気に近い暢気な性格をしている霊夢だ、表情が曇ったままの彼女を見て魔理沙が怪しんだ、というのは言うまでもない。
「……何があった?えらく落ち込んでるじゃないか」
「落ち込んでる……というより、これからどうすればいいのか分からなくて…………相談しに来たのよ」
「何について?」
「親子関係」
「それ勘当された私に相談する
「ダメ。というより、魔理沙しかまともそうなのが知り合いに居ないのよ。霖之助さんになんて、絶対話せないわ。内容的にも霖之助さんとは合わない」
「……霊夢が納得いくような返事が、私に出来るかは正直分からん。それでも尚……私でいいってんなら、話してみな。まずは聞くだけ聞いてやるさ」
「それは助かるわ」
残りの麦茶を全て飲み干した霊夢は、できるだけ言葉を選び、遂に魔理沙に話すことにした。霊愛、そして霊麗の事……。その流れからして霊魔も自分を狙うようになるかもしれない、という可能性。
それらを聞いた魔理沙は愕然としていた。そして我が身に置き換えて考えてみると……何故だか悪寒が止まらなかった。
「霊愛と霊麗が、実の父親に欲情してるなんて……!そんなまさか…………見間違えたんじゃないよな?」
「仮に霊麗のは見間違えたとしても……霊愛は確実。まぁ、吸血鬼になって眼が良くなったしさ……耳も、かなり良くなった。見間違える事も、聞き間違える事も、絶対に有り得ないわよ」
「……」
「霊麗の血の匂いもした。エスカルゴの雄の匂いもした。パンツ脱いだ時の……あの独特の匂い」
「そ、そうか……」
霊夢は、魔理沙とエスカルゴとの関係を彼女から聞かされている。故にそんなワードを出したのだが魔理沙は霊夢が思った以上に顔を赤らめた。思わずクスッとしてしまうが、真面目な話をしてるのだと思い直し急いで真面目な顔を作る。
「というか見たわよ、娘と旦那のセックス現場」
「Oh……」
「ほんっとにさ……どうすればいいのかしら……」
「言いにくいが……いっそ離婚するとか?」
「それは嫌」
「だろうな。だがエスカルゴの奴、押しに弱いのもそこまでくると病気だぜ?」
「違うのよ。そもそもね、霊愛と霊麗が私の教えた妖怪退治の技能を悪用してるのが悪いのよ。別に、娘と交わるようなあのバカを庇いたい訳じゃない。でも、霊愛の時も霊麗の時も、あのバカには封印の御札が貼られてたの。たった1枚だけであのバカを封じられるくらいの強さになった事は嬉しいわよ。素直に嬉しいわ。身内自慢じゃないけどエスカルゴだって雑魚じゃないんだしさ。……でも……でもさ……こんな流れで娘達の成長を知りたくなかった……」
「封印?……娘が父をか?それでどうやってその……性行為に及んだんだ?」
「封印とは言っても、かなり軽微なバージョンよ。アレを見るに、さっきの霊麗も身体の自由や能力を封じる封印を使ったわね」
「そうかぁ……。妖怪退治に特化しているからこそ、そして相手が実の父親だからこそ、御札1枚を貼るくらいの隙は余裕で突ける訳か」
「そういう事。結果的にアイツを庇っちゃう形にはなってるけど、不意討ちならエスカルゴに対しては情状酌量の余地はあるでしょ?」
「そうだなー……大体、霊夢がそれを教えるのが少し早すぎたんじゃないか?」
「霊愛は自他共に認める次代の巫女。これくらいの技術、習うより慣れろじゃないけど、自分で開発し使いこなすくらいはしなくちゃダメなのよ。私のは使い易くする為に改良に改良を重ねたから、子供もすぐに覚えられたんだろうけどさ、まさか、こんな用法でそれを使うとは……」
何と言葉を返せばいいか分からず、魔理沙は黙り込む。技術の悪用もそうだが、自分が教えた技術を悪用された霊夢の心情を思いやると、簡単に言葉は見付からなかった。
「うーーーーーむ…………じゃあどうするんだ?」
「霊愛に関しては、もう諦めてるわ。霊愛の口から
『お父さんが好き』って聞いちゃったからさ。合意ならOKって事にしとくわよ」
「え」
「性行為も許したわ。私の目につかない所でって。あと、私の前では普通の親子を演じてほしい、とも伝えた。霊麗を通してだけどね」
「……マズくないか?近親相姦はタブー中のタブー、もし見付かれば逮捕や処刑は免れないだろ」
「それは人間。私達は妖怪だから人間に逮捕される謂れは無いし、エスカルゴなら追手を殺すくらいの事はしちゃうでしょうしね。……幸い、生理が来たら言うように躾てあるから、まだ子供はできない、と思うんだけど……」
「おいおいおいおい……不安だぞ、おい…………」
「でもいいの。説教した時に、ガツンと言ったし。責任は全部私が負う、とも言ってたわ。お父さんは責めないで、私が悪い、の一点張りよ」
「霊夢が『ガツンと』言ったんなら本当にガツンと言ったんだろうな。……泣いたろ、霊愛」
「あー、なんか泣いてたわね」
「…………少しだけ霊愛に同情するぜ」
「は?」
「あいや、なんでも。でもさ、霊愛を認めたんなら霊麗も認めなきゃ不公平なんじゃないか?ちゃんと血の繋がりのある姉妹だし、そこで区別……いいや、差別するのは違うと思うんだ」
「ム。……言われてみればそうね。ならまたガツンと言ってやりますかね。あいつから言ってきたらね」
「霊麗は平然としてそうだよな、姉と違って」
「ホントそれよね。感情の起伏が霊愛ほどじゃないみたいなのよね。霊愛にも霊麗くらいの落ち着きが欲しいけど……」
「んで、霊麗については、エスカルゴからの申告は無いのか?それならエスカルゴも罰するべきだぞ。
『夢想天生』の刑にでも処してやれ」
「目撃してすぐここに来たから、もしも私に言うとしたら……そう、私の帰宅直後かしら。すぐに言ってこなかったらブチギレてシバキ回して本気で瀕死にしてやるわ」
「へへ、結果報告も楽しみにしてるよ」
「悪い女ね……。まぁ、霊麗に関しては、痛がってるような節もあったし、意外とドライな所もあるからすぐ性行為に飽きると思うんだけどね」
「あー確かに、あいつはドライだな、姉と違って」
でしょでしょ、と霊夢は苦笑い混じりに魔理沙に同意を示す。霊愛は激情家。しかし、そんな彼女のそばで育った霊麗は反対にクールだ。
姉を反面教師にしているのだろうか。そんな節も無いように思える。反面教師とするなら寧ろ、父のエスカルゴの方だろうか、と霊夢達は考えていた。
「……問題は霊魔なのよね」
「大問題すぎる。霊魔にも封印技を教えたのか?」
「ううん、まだよ。霊魔は、殆どエスカルゴが指導してる。でも、姉達から教わってないとも限らないからね。霊愛は私と同じく感覚派……天才肌だし」
「そこ言い直すの逆だろ」
「……霊愛は天才肌な上、教えるのは壊滅的だけど、見た感じ霊麗は教えるの上手いのよね。私、最近は霊愛に個別指導する事が多いんだけど、その時にはエスカルゴに霊麗と霊魔の指導をしてもらってる。霊愛にはそろそろ本格的な指導をしたいからね」
「ほーん……魅須丸とやらとの関係も良好そうか?」
「ええ、今の所はね。この前も魅須丸に話を聞きに会いに行ったけど……やっぱこう、神様連中って色々感覚が私達と違うのよね。……近親相姦についても、色々注意されるかと思ったけど、スルーだったし。伊邪那美命と伊邪那岐命がそもそも近親相姦シたしそこはどうでもいいみたいね」
「あー……神様の倫理観はアテにならんな。……話はズレたが、霊魔は大丈夫そう……なのか?」
「そうね、私に好意を持ってる節は無いし」
「6、7年後が楽しみだな。霊麗もそれくらいの歳だろう?もし襲われるならそれくらい未来の話さ」
「息子に襲われるのは勘弁よ……エスカルゴと違って身内をそういう目で見れないし」
「それが普通だ。エスカルゴがバカなだけだしな。もはや、異常だと思うよ」
「そうねー……はぁ……帰ったらシバこ……」
「帰ったらお茶飲もう、みたいな感覚でシバかれるエスカルゴが可哀想だな。同情はしない」
「同情されてたまるもんですか」
「……というかさ、情状酌量の余地がどーのって話はしたけど……セックスしたなら、その……アレだろ?その……なんていうか……」
「アレ?」
「ち……ち、ち……ちん……ちん…………おっきくなきゃダメ、なんだろ?娘相手に……おっきくしたんじゃ、エスカルゴに情状酌量の余地は無いんじゃ……?」
「それは……そうなんだけど、仕方ない所もあるの」
「エスカルゴの肩ばっかり持ってないか?」
「魔理沙はお子様だから分からないと思うけどさ」
「あぁ!?」
「ちんこってエロい事を考えてなくても勃つのよ」
「……だがロリコンのアイツだぞ」
「アレは生理現象なのよ。触れば反射的に勃起とかするもんなの」
「そう、なのか……?でも私の時は……」
「触り方が下手なのよ、そんなの。上手く触れば、寝てる時にイジッても勃つわよ」
「んなっ!?たっ、確かにさ、私は霊夢に比べたらまだ経験が浅いけどっ……」
「そうそう。私達みたいな女達の事、なんて言うか分かる?竿姉妹って言うみたいよ。本で見た」
「正妻と側室じゃないのかよっ!」
「同じ男と関係を持ったでしょ?そういう事よね。正妻と側室だなんて、貴族じゃあるまいしさ」
「真面目に考えた私がバカだったよ」
「ふふふっ……」
◆
やがて時は過ぎ、夕飯時が近付いてきた。霊夢はさっさと帰って夫が料理の準備を始めるよりも前にシバこうと考え、急いで帰る事にした。しかし、そんな霊夢を魔理沙は玄関口で引き止めた。
「霊夢さ……帰り際に言うのもなんだが、悪い意味であいつに染まってないか?『合意ならOK』って……まさにあいつの発想だろう。こう言っては悪いが、幾ら夫婦でも少し客観的に見た方が良いと思うぞ」
「……魔理沙。どうして近親相姦はタブーなの?」
「な、なんだよ急に。……そりゃあ、倫理に
「本人達はそれを理解した上で承知してる。なら、幾ら血縁とか親だからって、止めさせるのは、少し気が引けなくもないのよね」
「……!?」
「娘だろうと1人の人間……というか個人だからね。それを親のエゴで個人を潰すような事はしたくないというか、何というか……」
「近親相姦は度が過ぎてる。止めてやるのが親だと思うぞ」
「そうだと私も思ってたわ。でも、本人が全責任を負うなら話は別。『私は忠告した。なのにその道を選んだのはあんたよ』ってなるだけだからね」
「ああ、つまり『ザマァ』とか『ほれ見た事か』になるって事だな」
「端的に言えばね。……こういうのを放任主義、とか言うのかしらね?娘だろうと1人の個人だから必要最低限の助言しかしない、それを受け入れるも拒否するも個人の自由。その結果として何が起きても、私はノータッチ」
「完全なノータッチを貫けるか?」
「……どういう意味?」
「何だかんだ言って霊夢は優しい。いざと言う時に手を差し伸べそうでな」
2人こそ知らないものの、里を壊滅状態にさせたエスカルゴに救いの手を差し伸べた神綺は、まさに魔理沙の言うパターンだった。
本来、子供の自由意志に任せるのであればそれに伴う責任も本人に取らせるべきである。けれども、神綺は甘かった。溢れて余りある母性が彼女にそうさせたのだろう。
しかし霊夢はそんな魔理沙の憂いを鼻で笑った。
「フン、そんな事はしないわよ。私は、娘の成長を見届けたいだけ。……元より、その為に人間をやめたのよ、私は」
「……ああ、そうだったな」
「でもまさか、あれから2人も子供が増えるとは、夢にも思わなかったけどね。よりによって、純血の吸血鬼が2人とか……見届けるのに骨が折れそうね。私が先に死にそうだわ」
「こりゃ不老不死になるしかないよなぁ?」
「絶対に嫌」
「私もだ。知り合いが尽く死ぬなんて辛すぎるぜ」
「エスカルゴはその悩みに対する答えを出したわ。不老不死問題に終止符を打つ為のね」
「えっ?この問題に答えなんてあるのか?妹紅は、ずっと悩んで考えて、それでも尚、答えが出せないくらいの問題なんだろ?」
「まず1つ、知り合いを作らない。2つ、知り合い全員を不老不死化させる」
「……プッ。あっははははっ、なんだそりゃ!あいつらしい滅茶苦茶な理屈じゃないか!しかもガキか!子供みたいなワガママさじゃないか!」
「ふふっ、そうよね。あまりにもガキじみてるわ。でも確かに、その方が皆で楽しく過ごせそうよね。私達は妖怪……いつかは小鈴ちゃんみたいな人間とはお別れの時が来るんだから…………」
「……ま……まぁ、そう…………だよなぁ……。分かっていたとはいっても辛い現実だな。必ず訪れる未来、だもんな」
「後悔はしないけど、それはそれとして、寂しい。仕方ないし、私はそれでも自分の子供を優先する。寂しさも乗り越えてね」
「……ああ。私も気を付けるよ」
「じゃ、またね」
「おうっ、またな!何かあったらまた相談に来な。聞くだけ聞いてやるよ」
「そうする」
気が軽くなった霊夢はそのまま帰宅した。そして自分を見るなりすぐさま謝ってきた旦那をシバき、霊麗にもキツイ説教をした後は、普段通りの日常に戻った。
母の対応が思ったより軽かった事に、霊麗は妙な違和感を抱きつつ、一方クズのエスカルゴは霊愛と霊麗の姉妹丼が実現する可能性を思い付き、密かに胸と股間を膨らませていた。本当にクズである。