霊夢に霊麗との事を暴露してから、博麗神社での日常は変わった。……と言ってもほんの少しだけだ。別に大きく変わった訳ではないので、ここに住む者以外には「変化」を気取られたりはしないだろう。
表向きは──通常は普通の家族を演じているが、各人と2人きりになった時にそれは現れる。例えば博麗の巫女、霊夢────。
「……」
「……」
「……なぁ霊夢?」
「何?」
「弾幕ごっこ、やんね?」
「読書中」
「…………」
素っ気なくなった。夫婦仲が冷えきったのか、と問われると、そこだけはハッキリ「否」と答える。夜に関しては霊夢から誘ってくる事も結構多いので冷えるどころか逆に熱くなったと言ってもいい。
それなのに昼間は何故こんなにもドライなのか。娘達が起きているので、俺が娘達に欲情して襲いに行かないかと見張っているのである。チラチラッと頻繁に見てくるのが、それを証明している。
「弾幕ごっこなら良くないか?」
「……2人で静かに過ごすのも、いいでしょ」
「……まぁ」
「何よ、『まぁ』って。そんなに落ち着きのない男だったかしら、アンタは」
「いや……」
「なら静かに過ごしてなさいよ。どうせ、もうすぐ静かな時間も終わるんだから」
「はぁい……」
というのも昼間は子供達への指導があるからだ。その時間まで、もう少し。俺としては、準備運動の代わりとして軽く弾幕ごっこをしたかったが霊夢がそう言うなら仕方ない。
ああ言われたら分身との弾幕ごっこもできないし何より霊夢を気持ちを無下にした上、彼女を1人にしてしまう。
寝転んでうつ伏せで本を読んでいる霊夢の腋を、テーブルを挟んでの反対側から眺める。少しばかり空気が蒸し蒸ししているからか、一筋……いや二筋、汗が流れ落ちた。
「っ……」
「どこ見てんのよ。横乳?……腋か」
「バレたか」
「この変態」
「腋巫女霊夢、さっさとその腋を舐めさせろ」
「うっさい。変態」
テーブルを挟んで霊夢と向き合う。相変わらず、畳が良く似合う女だ。寝転がっているだけでも絵になるというか、そんな風情がある。
「ノーブラノーサラシの巫女に言われたくないよ。見せ付けてるよな?陰茎が苛立つ」
「見せ付けてない。谷間が蒸れるの。霊愛を産んでから、少しずつ胸も大きくなってきちゃって……」
「蒸れる?寧ろ蒸らしなよ、良い匂いしそう」
「汗臭いだけよ。……そういうの好きか、アンタは」
「おう。ライクじゃあねぇ、ラブだ」
「変態」
「お褒めの言葉、光栄ですね」
「どうしようもないわね」
「ふふ、相手が霊夢だしな、仕方ないさ。ここまで腋をエロく見せる事が出来る巫女も珍しいだろう。幻想郷イチの腋だよね。霊夢のお陰で腋は性器だと思うようになったよ」
「バカなの?あんまりそういう事ばっか言ってると今夜はセックス抜きにするわよ」
「それはご勘弁を」
「ふふっ……やっぱりセックスしたいんじゃない」
「そりゃあね。セックスは最高の娯楽にして最高の愛情表現だろ」
「愛情表現、ね。私には、ただ気持ち良くなりたいだけに見えるけどね?」
「霊夢
「あらそ。馬鹿正直にどうも」
「馬鹿正直が取り柄なもんで」
「どの口が言う」
「この口が言う」
「……」
「……。好き」
「何よ急に。アンタが私を好きなんて知ってるし……私も好きよ、アンタのことは」
「なら何で素っ気ないのかなぁ〜」
「……そっちから私に距離置いてるんじゃないの?」
「あん?何で俺がそんな事をする必要があんのさ?霊夢から避けてるんだろう?霊麗の事が発覚して、それからじゃあないか」
「そう、かしら。意図して避けた覚えはないけど……気のせいよ、大丈夫。いつも通りよ」
「そーか?……ならいいけどさ」
ふと目が合うと、ほんの僅かに口元を緩め、少し微笑んでくれた。その表情はまさに母。相変わらず少女の見た目なのは変わらないというのに、母性に溢れているように見えてしまう。
そして小説に目を戻すと、言葉を続ける。
「あの時……後で霊麗から聞いたけどさ……あの子、ちょっと拗らせてるわね」
「ちょっと……じゃあないだろ。かなりだ、かなり。俺が『霊愛の彼氏』を名乗っただけで秒殺してくるくらいには感情の切り替えも滅茶苦茶に早いしさ」
「そうね。霊愛にもその『切り替えの早さ』だけは見習ってもらいたいものね」
「まぁな」
「あと、アンタさ、パンツをあの子に提供するのは止めてくれない?アンタの体臭と、その……愛液が、混ざるとさ……結構臭うんだけど?」
「俺が提供してるんじゃあないよ、霊愛が洗濯前のパンツを持って行くんだ。つーか、パンツに愛液が付着するだなんて、どんなオナニーしてんだ霊愛。男がちんこにパンツを巻き付けるようなアレ?的なヤリ方してんのか」
「そんなの私が知る訳ないでしょう。アンタが前に私のでヤッてたみたいに、パンツそのものを股間に当ててたんじゃないの?」
「う、バレてたのか」
「バレバレ。息遣いも荒いし、精液の匂いって凄く独特だし……。ていうか寝てる女の下着を脱がすってどんな神経してんの?イカれてる?」
「寝たフリだったのかよ……アレ……」
「下着を脱がされたら嫌でも起きるわよ」
「……だよな……」
「寝顔ってエロいの?そういう時、よく私の寝顔で抜いてない?」
「エロいっつーよりは……可愛い?」
「ふーん?もう止めて、とは言わないから、せめて枕元では止めてよ。ゴソゴソうるさいし、もう少し音は抑えて。吸血鬼になったお陰で、音にも敏感になったんですけど?」
「えー、別にイイじゃんか、寝てる霊夢の口の中にブチ込んでるわけじゃあないんだしさ」
「もしも寝てる時に舐めさせたら噛みちぎるわよ。ご自慢のソレを失くしたくないならやめて」
「じゃあ寝てる時に犯すか」
「何の為に、寝る前にわざわざアンタの性欲の処理してやってると思ってんのよ……」
「え、おやすみエッチって俺の性処理目当てなの?そんな……愛の営みだと思ってた……」
「……そーだけどさっ……///」
「何照れてんだよぉ、ヤリ始めて何年経つんだー?カワイーなぁ、もうっ♪」
「うっさい!バーカ!」
霊夢の方に手を伸ばすと、バチンと手を振り払い耳まで顔を赤くさせる。まるで、慣れというものが存在しないかのようにいつまでも可愛らしい反応を見せてくれる。霊夢は本当に可愛い。
「ははは、照れ隠しぃ♡」
「照れ隠しじゃないっ!滅するわよ!」
「ヒィ〜、お助け〜♪」
「……ったく……」
◆
今日の子供達への指導は、いつもとは少し変えて行う事にした。
俺による弾幕・体術指導は1対1、霊夢が神学や勉強を教えるのは1対2として教える事になった。因みに、勉強に使う資料は、外の参考書を基にして創造した本だとか、俺が慧音から融通してもらった各教科のプリントのコピーを使っている。
「おーしっ、1人目は霊愛か!」
「うん。宜しく」
「おうよ。じゃあいつも通り結界からやろーか」
「オッケー」
最近の霊愛については、結界に関する内容が主なメニューとなっている。
彼女が結界を張り、俺が攻撃し彼女の結界を破るというもの。まさにWin-Winの特訓だと言える。
俺は霊力による結界を壊す特訓に。霊愛は、強い攻撃を防ぐ特訓になる。霊愛は、攻撃等については十分……に近いものの、防御はそこまででもない。
だからこその、このメニューだ。
「神鎚『ハンマー・ザ・ミョルニル』ッ!!」
「ゲッ……破壊力抜群のヤツじゃん!くっ……!」
真上から襲い掛かると、霊愛は天井を作るように自身の頭上に結界を張り、俺の攻撃を受け止める。打ち消したり止めるのではなく跳ね返せるタイプにしたらしく、少しでも気を抜けば、俺でさえ後ろに吹っ飛ばされそうだ。
「んぬぅぅぉぉおおおおおおおおっっ!!」
「────ッ」
霊愛は飛び退いて回避した。直後、霊力の供給が途切れた事により結界は呆気なく割れてしまった。まだまだ本気ではないのに、どうしたものやら。
少しは弟の防御力を見習ってほしいものである。
「ちょっ……少しは手ェ抜いてよ、殺すつもり!?」
「まさか壊れるとは思わなかったからな。とりま、もっかいだ」
「……何かもう疲れた……ちょっと力んだだけなのに疲れるとか、自分でも意味分かんない……」
「じゃあ攻めてみるか?」
「……!そうする!はあぁっ!!」
「おっ」
手足に霊力を込め、石畳を蹴って肉薄してくる。人間の血が強い半妖だとは思えない程の拳の速度、鋭さだ。霊愛はトコトン攻撃タイプらしい。
霊愛の拳を、胸の前で受け止めてやると、そこを起点にして母譲りと思われるサマーソルトキックを仕掛けてくる。アレは顎に喰らうとかなり痛いし、グワングワンと脳が震える。
顔を背ける事で霊愛の短い足を回避。着地直後のほんの僅かな隙を逃さずに、足払いをしてやる。
「うォらッ!」
「んぐッ……あっぶな……ッ」
ふわりと身体が浮き上がってしまうも、側転するようにして身体を受け止め鮮やかに距離をとった。その動きは霊夢というよりは俺に似ていて、やはりこの子も俺の娘なんだなと思わされる。自然と俺の動きと似た動きをしてしまうらしい。
「まだまだぁッ!」
「!」
お祓い棒を取り出すと、それに霊力を込めて剣を構えるようにして突撃してきた。確か霊愛は、一部俺と同じ技も使えるのだそう。そういうトレース力なんかも俺に似たのだろうか。
「来い霊愛、俺の技ァ使ってみろッ!」
「言われなくとも!霊撃『
「────封印の方かッ!!」
斬撃でも弾幕でもないので封印タイプだと判断。ならばあのお祓い棒に少しでも触れたらアウトだ。妖力などが抑えられ一方的に攻撃されてしまう。
しかし霊愛は身体強化を一層強くしていたらしく相当の速度で立ち向かってくる。お祓い棒はとうに俺の目の前。結界、いや回避すら間に合わない。
また、娘に封印されるのか──そう思った刹那、最近モルモーに言われた言葉が脳裏に過ぎった。
────時間なんて、あなたが考えているよりもずっと軽いモンよ。一個人の魔法なんかでどうにかなっちゃうんだからさぁ。チョロいチョロい♪
「そっか、そうだよなモルモー……やっと分かったよその言葉の意味が……!」
「はあああぁぁぁッ!!」
「時符『キング・クリムゾン』ッ!俺以外の全ての時間は消し飛ぶッ────!」
瞬間、霊愛の動きがスローモーションになった。俺は消し飛ばされた時間の中を容易に、普段通りに移動して、霊愛の攻撃を回避。
今回俺が消した時間は2秒。少し余裕を持って、時間を消した。これを感知できるのは、全世界でも咲夜さん、弦月姫、モルモーくらいだろう。何なら輝夜も感知できそうだが。
「魔力ほぼ枯渇……危ね、これ以上は意識失うか?」
「ッ!?お父さんが瞬間移動……いや……」
霊愛は技を放った。けれども、本人は放った事に気付いていない。彼女からすれば「俺に迫っていたはずなのにいつの間にか技が終わっていた」という状態なのである。
「どういう事……?」
「隙ありッ!!」
「あうっ……」
霊愛が、時間がスキップされた事に気付く前に、雷を纏った手刀にて彼女を打ち据え、決着とした。この子も勘が良い。どこから、そしてどんな要素で察するか分からないので、俺が時間魔法を特訓中である事はバレないように努めなければ……。
「起きろ霊愛、大丈夫か?」
「っ……イテテ……。バチッと来たなぁ……」
「隙だらけだったぜ?」
「……お父さん、何したの?どう考えても普通の状況じゃなかったと思うんだけど?」
「……そうか?俺の動きが早すぎて追い付けなかったとかじゃない?」
「だってッ……技を使った記憶はないのに、お父さん消えた時には技を使った感触があった!」
「集中しすぎて時間を忘れたとかそういうのだろ。ほら、セックスしてるといつの間にやら1時間とか2時間とか過ぎてるじゃん。それと同じだよ」
「……もしその理屈で言うなら、集中力が超短時間で切れたって事になるけどね」
「一時的に、心と体が分離してたんじゃん?武道で言う『体が勝手に防御してくれる』的なヤツ」
「ほうほう……私、武道の才能あるのかな?」
「さぁ?無さそうだけどな」
「んなっ……全く、この父親はさぁっ!!」
「はいはい、交代だ交代。霊愛は勉強タイムだぞ」
「うげぇ〜…………勉強とかやんなっちゃうよ……」
「せめて巫月レベルの頭脳にはなってほしいね」
「賢者直々に教わってるお姉ちゃんと同レベルとか絶対無理だから。お父さんだって賢者には程遠いしお母さんは以ての外。無理無理」
「雷ぶつけんぞ」
「きゃーお助けー♪」
「ったく……。まっ、ツンデレの頃よりかは可愛げも増したし、別にいっか」
子供のようにわざとらしく騒いで、神社の中へと戻っていく。こういう「おふざけ」ができるようになったのもつい最近だ。
見えなくなった娘の背中を目で追おうとしてるとひょっこりと霊愛が顔を出して、聞こえるかどうかギリギリの声量で言った。
「お父さーんっ。後で保健体育の実技やろーねっ!なんちって……えへへっ♡」
「コラ霊愛ァッ!私の前では普通の親子で居ろって何度言えば!!」
「ぶげっ!いったぁ!拳骨する事ないじゃん!!」
「うっさい!私の前でそういう話をするのは禁止!アンタもよ!娘に誘われて鼻の下伸ばさないで!」
「は、はい……。つーか、何度も言われてたのかよ、霊愛のヤツ……」
霊夢が霊愛の背後に現れると、拳骨しての一喝。酷い光景を見た。しかも俺にとばっちりまで。少しニヤけたくらいで何を言うのか。酷いものだ。
霊愛が次の誰かとバトンタッチしている間、俺は魔力回復薬を飲んで次に備える。
「じゃ、宜しくね、お父さん」
「次は霊麗か。何やりたい?」
「お姉ちゃんは何をやったの?」
「結界での防御、後は俺への攻撃しかしてないよ。ローテするの早すぎたかな?」
「勉強への集中力も切れてきてたし、丁度良かったけどね。霊魔は休憩中だよ〜」
「……霊麗、優等生タイプに見えて集中力はその……アレだもんな……ゴミだよな……」
「集中力ゴミで悪かったね。だって勉強とかあまり興味無いしさ、本を読む時くらい集中できる訳ないじゃん。お父さんはできるの?」
「高専には100分授業がある。休憩も無しのな。体育以外の100分授業は地獄としか言いようがなかった。でも霊麗よりは集中できてたさ」
「私、子供だもーん」
「こういう時ば〜っかり子供を名乗ってからに……。子供はセックスしません!」
「子供でもセックスしまーす」
「なんて世界だ。……いや俺がセックス相手だよな。まぁ……とりあえずやるか。霊愛の勉強への集中力は霊麗の比じゃないからな」
「そーそー。私がゴミなら、お姉ちゃんはダニとか蛆虫レベルじゃないかな?大差は無いね」
「好きって言ってた割には、姉に向かって滅茶苦茶ディスるじゃあないか。女って怖いなぁ」
「怖くないよー。……じゃ、まずは結界での防御からやろっかな。攻撃、お願いしまーっす」
「はいよ」
霊麗とは以前までよりも踏み入った会話ができるようになった。ヤる前まではどこか薄い壁のようなモノを感じていたが、身体を重ねた事で腹を割って話せるようになった気がする。
「……結界、張らないのか?」
「うん。お父さんこそ、いつでもいいよ。瞬間的に防御できるようにしたいからさ。壊れなかったら、普通に耐える特訓に移行だね」
「そっか、そういう事なら……火金符『セントエルモピラー』!」
「ッ!?」
青白いプラズマのような静電気を放つ。着弾するのと同時に柱状に展開、しかし霊麗は綺麗に防御をしてみせる。連続してぶつけるも結界は破れない。強度もまずまず。
霊麗は、攻撃的な霊愛と防御的な霊魔の、まさに中間のような戦闘スタイルだ。もしもこの3姉弟がしっかりと連携を取れるようになったらそれなりに厄介な存在になりそうだ。雷3姉妹を倒せるようになるかもしれない。俺としては複雑な気持ちだが。
「中々破れないな。火力足りないか」
「そーだね、これくらいならまだ耐えられるよ」
「なら……短絡『破滅の空中配線』」
「回転する……輪?」
極めて小粒の弾幕で円環を作って、チャクラムのように回転させながら結界へ向けて放つ。すると、結界に触れた弾幕が爆ぜ、円環を成す他の弾幕も、連続して爆発する。
短絡とは、電気用語でショートを指す。たったの100Vでも場合によっては爆発して、火災事故になる可能性もある。
因みに、短絡部分を通じて流れる大きな電流を、
「きゃっ!?」
ババババンッと凄まじい火花を散らして爆発したので、霊麗は思わず悲鳴を上げ、結界へ注ぐ霊力を切らしてしまい結界はバキンと砕け散った。
「な、何、今の……っ」
「へっへへへ、今のはビビったろ。爆竹より激しく音が鳴り、爆弾より威力のある、連続炸裂弾さ」
「ビックリしたぁ〜……今のは心臓に悪いよ?」
「霊麗とて俺の子だ、心臓は強いだろうさ」
「うーん、あんまり説得力が無いなぁ〜……」
「なぬっ!?と、とにかくもう一度やるぞっ!」
「うん、お願い」
「次は速さ重視の……極光『裁きの刃』!!」
「ッッ────!?」
鈍く光る赤い棘を次々に降らして、爆発させる。霊麗は結界を張り防御するも、棘の勢いと度重なる爆発に耐えられずに、すぐにヒビが入ってしまう。しかし今回はそれ以上壊れてくれない。頑丈だ。
「くっ……やっぱお父さんは流石だね、破壊力が……凄いよ……っ」
「何発か被弾したようだな。怪我は大丈夫か?」
「ん、まぁね……痛いけどどうせすぐ治るよ、こんな傷。ほらもう治った」
「おぉ。まるで時間を巻き戻したかのような早さで治るな。我ながら素晴らしい血だよ」
「時間、ねぇ。そういえばさっきさ、音読しようと思ったら音読し終わってたんだよねー。お母さんにやり直しさせられたけど」
「ありゃまぁ」
因みにだが現在俺は4つの時間魔法を勉強中だ。スペル名はそれぞれ時間停止を『ザ・ワールド』、巻き戻しを『バイツァ・ダスト』、更にスキップを
『キング・クリムゾン』、加速を『メイド・イン・ヘブン』と名付ける予定なのだが、使えるのは1つだけ。先程霊愛に使った、『キング・クリムゾン』ただ1つだけである。
時間停止は思っている以上に難しい。時間停止は流れる川を一瞬で塞き止めるが如き所業。ハッキリ言わせてもらうが、一朝一夕には
その点、スキップは比較的簡単だ。これも流れる川で例えるのなら、川の水を手で掻いてやるような感じだ。同じ理屈で、巻き戻しも容易ではあった。まだ不完全なのでおいそれと使いはしないだけだ。
加速は、停止と同じくらいに難易度が高い。川で例えると、「全体的に速度を上げる」からである。
流れに沿って水を掻いてやるなら、スキップでも巻き戻しでも可能。流れに沿うか逆行するかの違いこそあれど、手や板で水を掻けばいい。
つまるところ、DIO&プッチのコンビの再現は骨が折れるという事だ。
先程、巻き戻しは不完全だと言ったが少し語弊がある。発動させる事ができても、ほんの僅かなものだったのである。
だから、こちらにも名前を付けてやるとしたら、
「バイツァ・ダスト」ではなく「マンダム」になるだろう。ジョジョに則るならそうなる。
成功率は3分の1。成功しても失敗しても魔力は失われる。まだまだ、巻き戻しは割の悪い技術だ。
「……お父さん?」
「っ!あぁすまん、考え事してた。なら次は霊麗が攻めて────」
「霊符『夢想封印』!!」
「おいおいッ……霊符『二重結界』!!」
攻撃力はともかく、密度だけなら霊夢と遜色ないレベルに達している。幾ら俺の結界でも耐えられる強さではあるが果たして霊麗は────。
「この流れはお父さんから学んだよ」
「!!」
弾幕を囮に、霊麗は背後に回り込んでいた。手に霊力を込め、背骨の真上に掌底を叩き込んできた。ボキボキと骨が折れ、折れた骨の尖った部分が少々内臓に刺さった。
脳から足への信号が途絶え、そのまま前へと崩れ落ちそうになるが────。
「まっ……『マンダム』ッッ!!」
「?────霊符『夢想封印』!!」
時間をほんの数秒……6秒程度だけ、巻き戻した。まだ消費魔力に無駄が多い。スペル化させる際にはそういった無駄も省いていかなければ。
そして霊麗は前と同様に夢想封印を発動させた。しかし、俺には「前回」の記憶があるという事で、弾幕を一先ず結界で受け止め、背後から襲ってくる霊麗に備えて身構えておく。
やがて土煙の中から霊麗が飛び出してくるものの俺が振り返っていたという事で、霊麗は足を止めて恐怖交じりの目を向けてくる。
「な……なんで、後ろから来るって…………ッ」
「……俺ならそうするから。弾幕を囮にするってのはリスクがあるものの、当たればデカい。ハイリスクハイリターンだからな」
「うん。そうだけど……読まれてたの悔しいなぁ」
「まだまだ俺の裏はかけないさ」
「みたいだね。ざーんねんっ……。あー、勉強だー、嫌だなぁ……」
一度裏をかかれたからこその展開だが、どうにか3分の1の成功を引き当てる事が出来てよかった。もっと成功率を上げなければ。消費魔力の割に成功確率だけは低いなんて、そんなのは酷すぎる。
先日の大失敗を思い出し、思わず身震いがする。もうあんな目に遭うのはごめんだ。モルモーと特訓する時以外は巻き戻しとスキップ以外、使わないでおこう。
「来たよ」
「おう霊魔、勉強はどうだった?何をやった?」
「算数。九九をやったよ」
「九九はどこまで暗記した?」
「1から4の段」
「……ふむ。思ってたより進んだみたいだな。霊夢、意外と先生が合ってんじゃ……?よし、それじゃあ頭切り替えてこうか」
「うん」
「じゃあ……霊魔は何をすればい・い・か・な〜……っと……うーん……」
「……攻撃?僕、攻撃はそこまでだし……」
「うん、それも良い。足りない技術を補うのも大事だろうな。だがそんなのは今はどうでもいい」
「え?」
「まずは得意を伸ばす。バランスタイプになんざ、後からでも成れるんだからな」
「防御の特訓って事?」
「ああ。攻める練習がしたいんならそっちでもいいけど、どうする?」
「……防御!」
ほんの少し考えつつも、元気に手を上げる霊魔。防御が得意なら、得意な部分を伸ばしてやりたい。苦手な事をやろうとしても、心のどこかでは特訓を拒否する心が芽生えるから、というのもある。
その点、得意を伸ばすようにすれば、本人もその特訓をあまり拒否したりはしない。「好きこそ物の上手なれ」という言葉の通りだ。
しかし「下手の横好き」も否定はしない。結局は本人が心から望むかどうかだ。
「なら歯ァ食いしばれ。ガンガン攻めてやる」
「うん。──厚壁『
「スフェリカルじゃあないのか。なら……一点突破のこの攻撃、受けてみなッ!!」
元ネタのエヴァのA.T.フィールドは、超高火力なら貫通できる。そして霊魔のこのA.T.フィールドもそうなので、これを鍛えるとしたらその「超高火力」を出すしかない。
「絶技『天翔雷霆零槍』ッッッ!!」
(槍の技か……!)
「うおおおおぉぉぉぁぁああああああっっ!!!」
高密度、高電力、高電圧、高威力の槍を生成し、霊魔のA.T.フィールドへ向けて全力投擲。神社は俺の後ろにあるので、もしも仮に霊魔のA.T.フィールドが壊れても特に問題は無い。
霊魔に当たらないようにも気を付けて投げたし、問題は無い、はずだ。
「んぎぎぎっ……こ、壊れるっ…………!!」
「壊れたとしても逃げるなよォ、動いたら当たるぞ霊魔ァ!わざと反らして投げたんだからな!!」
「……!じゃあお父さんは、これが壊れるって……」
「おう壊れると思ってるぜ!何故なら俺の攻撃力が上回るからだッ!」
「……耐えてやるっ……頑張って……耐える……!!」
「その意気だ!だが……やっぱり甘いな!」
「!!」
追加で電力を送ってやり遠隔で槍を変形させる。更に鋭くなった槍は、霊魔のA.T.フィールドに亀裂を走らせた。そこを起点に、鋭く長くなった槍は橙色のA.T.フィールドを豆腐に爪楊枝を刺すかのように軽く貫通し、空の彼方へと吸い込まれていった。
「うぅ……こんな簡単に破られた…………」
「んっふっふっふっふ……まだまだだな、霊魔!次はスフェリカルやってみようか?」
「分かった。自己『スフェリカルバリア』ッ!」
自分だけを球体の硬い結界で包み込んだ。見事な球体だ。こんなに綺麗な球体の結界はあんまり見た覚えがない。そもそも、「自分だけを完璧に守る」結界自体を見た事がないのだが。
球体の直径は、目測で1.1mも無いくらいだ。球の彼の頭頂部の、スレスレを通っている。
霊魔の身長は人間の3歳児と同程度……1m前後のはずだ。とするとあの結界はとてつもなく強固だ。霊魔のあの結界は、サイズが小さければ小さい程に強度が倍々に増す。1m程度ともなると、きっと、霊愛や霊麗をも凌ぐ
本当にこの博麗姉弟は、恐ろしい程にバランスが取れている……。いずれ3人と俺が戦う事になったら俺が負けそうだ。
「見るからに霊力の密度がエグいな……。霊力操作の基礎は霊夢から教わったんだろ?」
「うん。これならお父さんの攻撃でも……!」
表面が丸いので、槍の投擲では逸らされる。雷を振らせても雷は表面を走るだけ。球状というだけでここまで攻撃の有用性が消されてしまうとは。
偶然の産物だとしてもそこそこ脅威だ。そこが、霊魔のA.T.フィールドとの最大の違いである。強度は両者共にそこまで大きく変わらないはずだが、もし強い攻撃を「受け流す」なら、こちらが上だろう。
「……俺に壊されない自信、あるか?」
「あるよ」
即答である。およそ霊魔らしくないが自信があるというのは素晴らしい。だが、俺にも考えがある。
これほど幼く、未熟な内に自信を持つというのはあまり良くないと俺は考える。過剰に自信があると慢心してしまうからだ。妖舞がそのパターンだ。
だから俺は、
「転移『
「えっ────」
ある事を思い付いた俺は霊魔に転移魔法を掛け、幻想郷の西部に瞬間移動させる。続いてスキマにて俺もその場へ行くと、戸惑った様子の霊魔が結界の中でキョロキョロとしていた。
「おとっ、お父さんっ、何ここっ……」
「幻想郷の西端……に限りなく近い所。幻想郷西部といえばこの辺を指すのさ」
「ここが幻想郷の西部かぁ……お母さんに『人妖共に近付かない土地』って習ってたけど…………。まさかこんな何も無くて……寂しいとこなんて……。ここ、本当に幻想郷なの?」
「おう。殺風景な荒野だろ。ここなら、多少過剰に暴れても平気さ。さぁ、気合い入れろ霊魔、本気でその結界を壊しにかかるからな?」
「大丈夫。僕のこの結界は……物理攻撃には強いし」
「なら敢えて物理攻撃を仕掛ける。死ぬなよ」
「えっ。……だ、大丈夫、だよ」
「心を落ち着けろ。ま、いざとなりゃ助けるから、安心して
「うんっ……!」
《お願い、袿姫》
《実の息子よ?殺す気?》
《可愛い子には修行させよ。そういう事だよ。もしヤバくなったら助けられるからね》
《……あなたの技量なら大丈夫だと思うけれど……。分かったわ、何が起きても責任取らないからね?》
《袿姫に責任を
《……。分かったわ》
「いくぜ……巨人『殲滅兵器・地鳴らし』!!」
袿姫の力を借りた俺は、魄だけとはいえ擬似的な生命をも生み出せる。魔法で生み出す巨人の肉体に袿姫が埴輪兵士同様に魄を吹き込む。それだけで、世界を揺るがす巨人の軍団が完成する────!!
「う……嘘…………!?」
「嘘じゃあないさ、現実だ……!さぁ耐えろ霊魔ァ、巨人の踏み付け攻撃から身を守れッ!!」
「うわわわわわわっっ…………死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっっ!!」
幾千万ならぬ数十体の超大型巨人群が列をなして霊魔の結界に襲い掛かる。凄まじい物理攻撃だが、霊魔のあの結界には、果たしてどれほど通じるか。壊せる自信があるような発言をした俺だが、これは俺としても実験だ。
とはいっても実験で息子を死なせる俺ではない。有事の際、霊魔を救えるというのは嘘ではない。
「……ふむ、4体目は耐えた……さて5体目」
「ううっ、うわぁぁっ……」
「耐えるねェ、思ってたよりも強度があるらしい。ヒビもまだか。……ふむ。じゃあ……もういいかな」
「……へ?」
俺の持つ攻撃手段の中で何よりも強い物理攻撃は何だろうか。高威力の落雷?否。ハンマーか?否。自爆による超威力の爆発?否、否、否。──強化に強化を重ねた、己の拳だ。
「紅眼『吸血鬼の本質』……覚醒『生命の輝き』」
「えっ……!?」
「霊魔の前でこれらは使った事なかったよなぁ……。強化した俺の拳、喰らってみろ」
「────ッ!!」
土煙を上げて突撃。初動時には親指を上に向ける握り方をして、結界表面への到達時には親指が下に来るように、腕を回転させ結界を抉るように、拳を捻り結界をブン殴る。
「っ……えっ……!?」
巨人の踏み付けより、拳の方が強かったらしい。霊魔の結界は、一瞬で消し飛んでしまった。
というよりは、巨人の踏み付けは面の、俺の拳は点の攻撃になっていたと思うので、面と点の違いも一応あるにはあるのだろう。
面の攻撃だろうとも、巨人の踏み付けは最強格の物理攻撃だと思うが……少なくとも霊魔の結界強度は巨人の重さや暑さなんかを、完全にシャットアウトするらしい。
「ふむ、まだまだだな」
「むぅ…………お父さん、強すぎ……」
「ガッハッハッハ!こんな俺でも霊夢には勝てん!お前はまだまだ伸び代がある、もっともっと色んな意味で頑張れ!なんたってこの俺と霊夢の子だぞ?強くなれないハズがないじゃあねぇか?ん?」
「……うん!頑張る……っ!」
俺はモルモーと違い血統主義ではないので、血を重視しているというワケではない。しかし霊魔は、俺と霊夢の子だ。霊愛と霊麗も霊魔も、強くなるに決まっている。ポテンシャルも凄まじい。
「よし、壊れたし、帰るか」
「うん」
「今度は3人一緒に勉強かな。次は俺が教えよう」
「え゙……」
「音楽の授業だ。楽しみにしてろ」
「!」
その後、夕方までの数時間、博麗神社には4人のリコーダーの綺麗な音が高らかに響き渡った──。
ちょっと長かったですね。12376文字でした。