時間魔法の特訓中に起きた、あの事故────。あれは本当にトラウマものだ。もう二度と、1人で時間魔法の特訓はしないと決めた程だ。
あれは、モルモーに基礎を習い浮かれていたから起きた事故だ。あの時の俺は、本当に愚かだった。
場所は魔界。魔法のメッカと呼ばれる魔界でなら魔法の特訓の効率も上がるという事で、1人魔界で特訓しようと飛び出したのだった。
◆
「よーしっ……いくぞぉ…………『ザ・ワールド』ッ!止まれい、時よ!!」
まだ実験段階ではあったが、モルモーの監督下で特訓していた際、何度か成功していた時間停止からやってみる。
時は無事止まり、魔界人達は動きを止め世界から音が消える。俺が咳払いをすれば咳払いの音だけ、雷を落とせば落雷の音だけが寂しく響き渡った。
魔界神である母さんも時止めの影響を受けるので今の魔界で動けているのは完全に俺だけだ。
スペル化する程の完成度ではないのでこの時には非スペル扱いをしている。まだ、消費魔力の無駄を削りきれていないからだ。
「へへっ、俺も時間停止が板に付いてきたじゃん」
俺の指導をしていたモルモーは、実は、俺に嫉妬していたらしい。何故なら時間停止が出来るようになるまでが早かったから……との事だ。そこは、俺がモルモーの血筋である事が起因しているのだろう。
やはり血筋というのはとてつもない力を発揮するものだ。彼女は神代の吸血鬼。一口に「吸血鬼」と言っても、色々と規格外な所がある。
そして「血筋が原因」という説はモルモー自身が提唱した説だ。その理屈で言うのなら、レミリアやフラン、果てはレイチェルや、その他の魔力持ちの俺の子供達も、時間魔法を使いこなす素質があると言える。尤も、ここあ&シガレットの姉妹は魔力の塊なので例外である。
そして、その事をスカーレット姉妹に伝えた所、レミリアは「興味無い」、フランは「ふーん……?」という、何とも淡白な答えしか返って来なかった。
レミリアは「強者は鍛えないわ」という、バキの花山薫にも近い思想を持っているので仕方ないが、フランは、魔法少女も自称する割に、そこまで時間魔法への興味が無いように見えた。
少し寂しかったが、俺は俺の探究心を満たす事に集中する方針に切り替えモルモーに基礎を習った。
そして
「俺は何秒止めてられるんだろ〜なぁ。モルモーは時間停止の消費魔力はほぼ0らしいけど、それは、効率化に効率化を重ねた結果だものなぁ……」
魔力はゴリゴリ削られてくる。肉体をミキサーに掛けているように。生命力を力に変換するように。
そして妖怪は魔力が完全な0になると気を失い、魔力の回復に努めるという防衛反応が起きる。俺にそれが起きるのも時間の問題だった。
俺の魔法は、魔力が切れかけたならオートで解除されるようにしている。だから俺は今回はそれを解除し、限界の限界まで耐える事にした。時間停止している時間を心の中で数えつつ、魔力切れによる気絶に身を任せ、そのまま深い深い眠りに落ちた。
「…………っ……あっ?………………え?」
目が覚めたのは数時間後。魔法の聖地なだけあり魔力は通常よりもずっと早くに完全回復していた。そして俺は異変に気が付いた。時間が、ずっと停止しているという異常事態に。
「え?えっ、ちょっ……マジ?」
俺が時間停止した当時のままなのは、魔界人達の様子を見れば一目瞭然だった。
つまりは、俺が時間停止→魔力切れによる気絶&魔法の強制解除→咲夜さん、弦月姫、モルモー等の時間停止──という流れではなく、俺が時間停止→魔法が暴走した、という絶望的な流れという事だ。
いやいや、まさか、と俺は首を振った。俺如きの未熟な魔法でこんな大規模な事が起きる筈がない。咲夜さんか誰かが、俺の時間停止に被せて時間停止しているに違いない。そう思っていたが、どうやらそうではない。
何分経っても解除されないからである。掃除だのその他の家事をしていたとしてもこんなに長い時間時間停止をするなんてこれまでに例がないからだ。
「マジでヤバいんじゃあねぇのこれっ、どーしよ、これどうすればっ……!?」
へカーティアに話し掛けるも、当然ながら返答は無い。当然だ、へカーティアの時間停止と魔法での時間停止ではその根本が違うのでへカーティアにも俺達の時間停止は有効なのだ。
焦りに焦った俺は、数分後に漸く「紅魔館へ行きモルモーに助けを求める」という答えに行き着く。しかしそこには完全に時間停止したモルモーの姿があった。暴走した結果、普段なら停止しない者まで停止したのである。
「完全に詰んだ……のか?」
しかしそこは、やはり外の世界出身の俺である。よくあるパターンとして、「術者の死亡による術の解除」というものがある。
それに最後の希望を託し、モルモーの地下牢前で自死。復活した時には、時間は動き出していた。
「わっ!?どしたのエスカルゴくん、なんでここで復活!?」
「よっ…………よかったぁ…………!モルモー……時間も動いてる……っ」
「……ははーん、成程ぉ?時間停止が暴走したんだ?それで死んだら復活したってとこ?カワイソー♡」
「……そのメスガキムーブすら今は愛おしいよ……。俺の時間停止の成功率、絶望的じゃん……」
「エスカルゴくん、アレでしょ。何分止められるか実験したんでしょ?」
「うっ」
「ダメよー、気絶前に解除しないと。支配下にあるうちに対処しないと暴走しちゃうもん」
「うぐ……」
「しかもエスカルゴくんの時間停止は無駄ありすぎだからねぇ〜、まだまだ荒削りにも程があるわぁ。削る前が原石だとしても、削り出した今もほぼ原石みたいなものだしね。時間停止も程々にね〜」
「はい……」
なので魔力の無駄を削って、ある程度使いこなすまでは時間停止は実戦で、そして1人の時は決して使わない事にした。
そしてその後また魔界へ向かい、比較的完成度の高い時間スキップの特訓に移行した。こちらなら、俺1人でも問題ないと判断した。
「────『キング・クリムゾン』ッ!!」
こちらも「ザ・ワールド」と同様、無駄を省けるようになるまでは非スペル扱いとしている。なのでこうして非スペルのキンクリを発動させた。
因みにジョジョのボスの時間系能力の中で、俺はディアボロのスタンドの「キング・クリムゾン」を特に推している。なのでこれを尤も極めたいな、と個人的に思っている。
咲夜さんがDIOの「ザ・ワールド」という事もありそういう意味でも「キング・クリムゾン」を極め、そして使いこなしたい所である。
今回は流石に「魔力が尽きるまで」という無謀な行為は止めておく。
魔界の街に赴き、魔界人達を見下ろしキンクリを発動。10秒スキップにすると、途端に視界がスローモーションになる。
試しに近くの建物に触れようとするが触れない。キチンとキンクリが発動した事により俺は「世界の観測者」になれたようだ。
ディアボロがそうであるように、キンクリには、発動中は物質には触れられないという性質がある。ただし発動時に身に付けていた物や触れていた物は例外らしい。そうでないと素っ裸になるという少しメタ的な理由もあるだろうが。
やがて10秒が経過して、時の流れは正常になる。街の皆はいつも通りに見える。ただし少し違和感はあるらしい。
精算中の客は、いつの間にやら精算を終えて店を離れて、それを見た店主は万引きされたと勘違いし客を追い縋る。
客も「買った」記憶が無い為に慌て、無実を証明しようとするが己の手にある「商品」が万引きしたという事実を裏付けていた。
しかしその時、客はある事に気が付いた。商品の中にレシートが紛れ込んでいた事に。偽物ではなく本物である事は店主自身がよく分かったらしく少し疑問を覚えつつも引き下がり、店に戻った。
少し恐ろしい影響もあるが、時間スキップは無事成功した。俺はそれから時間スキップの練習に励み無事スペル化まで行き着いた。
「安定はしてる、かな。じゃあ次は……神父かな」
魔力回復薬を飲み術式を整える。そして3つ目の時間魔法を発動させ────軽く絶望した。
「『メイド・イン・ヘブン』ッ!!」
セカセカと動き出す魔界人達。あちこちで爆発が起こり、悲鳴が上がる。時が加速した事によって、加速した世界についてくる事ができない者は何かにぶつかるなりして何かしら酷い目に遭っている。
俺の体感時間で5秒が経った頃に、解除しようと試みるが────。
「あれ?……え?マ……マジ?」
暴走してしまったらしく、魔法は解除されない。試しに死んでみるが、ダメだった。
しかも、加速度は増していくばかり。少し速めに歩いていた老人の動きも、時間経過と共にジワジワ速くなっていく。
完全に制御不能だと悟った俺は復活と同時にまた地下牢前へと出向き、モルモーに解除を依頼した。
「モルモーっ!また時間がっ……!」
「もー!ヤバい事になってるんじゃないのこれ!?ほら、解除したげるから、これからは苦手なヤツは私の前でだけ練習してっ!」
「は、はい……」
「時間魔法、もしかして適正が無いのかもねぇ?」
「そんな……まぁそうだよな、俺には過ぎた力か……うーんどうしよう……」
「モルモーちゃんみたいに『時間魔法』は究められなくても、その中の1つでも究めればいいじゃん?それでこそモルモーちゃんの子孫よ。子孫のクセに先祖と同じ力を持とうだなんて思い上がりすぎ!」
「でも俺、総合力でならお前より強い自信はある」
「キィィィ〜〜〜ッ!そういうトコが生意気なの!教えてあげた上に特訓の監督もしてあげるんだから感謝しなさいよねっ!」
「そこは感謝してる。それはそれとして、時間魔法究めたいとは思ってる。できればなるべく早く」
「無理でしょ〜、魔法にも適正はあるもん」
「属性魔法なら俺は雷属性、月、闇しか使えない。それがモルモーの言う適正ってのだろ。でも無属性魔法だったら俺だって何でもかんでも使えるようになりたい。ただそれだけなんだ」
だから俺が火属性で攻撃したい時は、雷を応用し火花を発生させ、プラズマの球体を生成している。水属性なら、創造魔法で水を。風属性なら無理だ。だからパチュリーのようにちゃんとした属性魔法は俺には絶対に無理なのだ。
「強欲もここまで来ると病気よ?身を滅ぼすだけ。分相応って言葉を覚えときなさいよね」
「……まーね」
「分かってるの?」
「おう」
「……なら、いーけどさ」
すると、カツカツと軽快な足音を響かせ地下牢に咲夜さんがやってきた。険しい顔付きをしている。ヤバい、ヤバい。本当にヤバい。
「旦那様ッ!!」
「ひゃいっ!?」
「先程の時間の加速は、旦那様によるものですね!今すぐ上に来て下さい!私と弦月姫以外の全員が、壁に衝突するなり門を突き破るなりして、大怪我をしてしまっています!治癒魔法を行使してください今すぐにッ!!」
「は、はいぃぃぃっ!!」
「……ほーら、やっぱり大変な事になった」
その後、2日以上を掛けて治癒魔法を幻想郷中、魔界中、地獄中に掛けまくった。そしてモルモーの監視下以外では「メイド・イン・ヘブン」を封印。これを完全に使いこなすまでは世界の命運を分けるレベルの大災害の時以外は絶対に戦闘等で使わない事に決めた。
◆
「さてさてぇ、4つ目は一番難しい巻き戻しねっ!大丈夫?」
「もし恐竜の時代まで巻き戻ったらどうしよう……。大丈夫なのかな……」
「ただ巻き戻すんじゃなくて、○時間、○分、○秒みたいに制約を付ければ問題ないわ。大して魔力も無いくせに○年って制約を付けると、暴走するかもしれないけどね♪」
「モルモーは何日まで巻き戻した事あるんだ?」
「怖いから、1日だけしか巻き戻した事は無いわ。それも1回だけ、ね。成功したのが1回だけって訳じゃないわよ、24時間もの時間を巻き戻した回数が1回だけってこと。そもそも巻き戻し自体あんまり使わないもの」
「……そう、なんだ」
「その点、時間停止は何度も使ったわ。ほら、私、吸血鬼狩りしてたからさ?」
「ああ、そういえば……」
「止めては殺し、止めては殺し……何度も何度も使う内に私の時間停止は研ぎ澄まされ、今となっては、消費魔力はほぼ0だからさ〜。咲夜の《時間を操る程度の能力》みたいなモンだわ」
「……練度が上がるって事だな」
「そっ!そーゆーこと♪」
「ありがとうモルモー、相変わらずモルモーの話は参考になるよ。じゃあ俺は……時間スキップを究めることにするよ。時間停止は咲夜さん、弦月姫、あとモルモーに任せっきり……って訳でもないんだけど、どれか1つ究めるとしたなら、スキップにするよ」
「オーケーオーケー!頑張って!そっちはもう完成自体はしてるみたいだし、後は練度を上げるだけ!使いまくれば問題は無いわね♪────でも無闇に長い時間をスキップしようとすると、また暴走するかもしれないから、そこは気を付けてね?」
「ああ、勿論」
こうして俺は、正体の露見を恐れるディアボロの如く、時間スキップこと「キング・クリムゾン」を究める方向性にシフトしたのである。
試しに死んでみるってコイツ、命の
咲夜、弦月姫:能力による時間停止
へカーティア:凍結による時間停止
モルモー、エスカルゴ:魔法による時間停止
能力、魔法による時間停止は吸血鬼勢へは効かず、へカーティアには効く。
凍結による時間停止は全員に効く(エスカルゴは、へカーティアによる大紅蓮地獄の加護は無い為)。
なので上位互換でもないんですね。相互互換です。
また、モルモーの子孫なのでレミリア、フランにも時間魔法の適正もあります。そしてエスカルゴより魔力が多いので、その気になればエスカルゴよりも規模の大きい時間魔法が使えます。