※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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その子、魅玖

「それでは先生、魅玖をお願いしますね。いつもの時間に迎えに来ますので」

 

「分かりました、お任せ下さい」

 

「じゃあね魅玖、行ってくるわね」

 

「行ってらっしゃい、お母様っ!」

 

 私を保育園に預けたお母様は、仕事へ向かった。お父様はこの施設を初めて見た時に驚いてたっけ。天界にもこういう施設があるのかよ、と言ってた。

 私はこの天界の保育園で、日々勉強に運動に色々行っては、周囲の天人、竜宮の使いの子供と親交を深めている。……なんていうのは、お母様とお父様についているウソ。

 私には友達なんて1人も居ない。天人の子からは冷たく見下され、竜宮の使いの子からはヒソヒソと陰口を言われる日々。

 話し掛ける気にもならない。だから私は保育園に来たらずっと読書している。お父様も口癖みたいに

「読書はいいぞォ」と言ってるから、大丈夫。私は1人でも大丈夫。

 でも────この日は度が過ぎていた。

 

 

 ◆

 

 

 私は「竜宮の使い」の子がいる組、竜宮組に所属している。皆は外で遊んでいるけど、私は教室で、適当に本を読んでいた。

 そんな私の所にお隣の教室……天人の子が居る組、天人組の子が入ってきた。この時間、天人組が室内遊びか教室遊び、竜宮組が外遊びか教室遊びのはずだから、こんな所に来るのは変だ。

 

「あ、ここに居たんですのね、下賎な蝙蝠の子!!ふふ、ちょっと来て下さらない?」

 

「……ここ竜宮組だよ。天人組の子が、何で竜宮組(こっち)に来てるの?」

 

「いいから来なさいって言ってるの。分からない?あ、おバカな親から生まれたから、あなたもおバカなんですのね!おーっほっほっ!ごめんあそばせ!現実を突き付けてしまって申し訳ないですわー♪」

 

 天人組の教室に連れて行かれるんだろうなぁ……。前にも連れて行かれたけど天人の子供達から罵声を浴びせられて終わり。これにどんな意味があるのか分からない。中には蹴ってくるヤツも居た。強めに感電させたら、何故か私が先生に怒られたけど。

 保育園でも何でも、竜宮の使いよりも天人の方が立場が上なのは変わらないんだ。意味不明だけど。

 

「……で?」

 

「え?」

 

「そんなおバカな私に何の用なのって聞いてるの。私、本読んでるの。邪魔しないで」

 

「なっ……生意気ですわ!蝙蝠の子のクセに!」

 

「蝙蝠じゃなくて吸血鬼だよ」

 

「一緒ですわ!比那名居家の天人くずれを連れ去り優秀な竜宮の使いと言われた永江衣玖をも誑かし、あなたという根暗な子供を作った愚かな吸血鬼ッ!さぞかしまともな家庭環境ではないのでしょうね!なんて哀れな混血児でしょう!将来、この私の家であなたを雇ってあげてもよろしくてよ?勿論待遇はド・レ・イ……ですけどね!!おーっほっほっほ!」

 

「……。家が裕福だからって、親の威光に縋ってて、恥ずかしくないの?」

 

「!?」

 

「凄いのは……偉いのは親。あなたじゃないよ」

 

「間違ってますわ!私は偉いの!天人ですものっ!あなたは竜宮の使い!そして蝙蝠の子!私達天人の下僕となるべき血筋なんですのよ!」

 

「違うし。私は誰の手下にもならないし。というか天人だから偉いとか意味わからないし」

 

「それはあなたが混血児、しかも愚か者だからっ!やっぱり、おバカなんですのね!」

 

「もうそれでいいから教室から出てって。本っ当にうるさいよ。また感電したい?」

 

「ひっ!?……ま、また、そうやって脅す……!私を怒らせていいんですの?母上に報告して、あなたの母の仕事を解雇させますわよ!?」

 

「お母様、今は天帝様の直属だよ。だからあなたの母親より上の立場なんだけど、そういうのちゃんと分かってて言ってる?」

 

「…………え?そんなの……聞いてないですわ……?」

 

「だって自慢するみたいで気持ち悪いじゃん。私、親の威光に縋って威張ってるあなたみたいな奴らが大嫌いなの。だって、気持ち悪いもん」

 

「う、嘘ですわっ……天帝様が、地上の蝙蝠なんぞと交わった穢れた竜宮の使いを、手元に置いとく訳がないですわ……!竜宮の使いは、清らかでなければ!穢れた竜宮の使いは竜宮の使い失格!あなたの母は竜宮の使い失格ですわ!」

 

「天帝様、本当に聡明なお方だよね。仕事の実績で判断するんだし。……で?天人組のとある子が、私の読書の邪魔をしてくるって、天帝様に言ったら……。虐めてくるって言ったらあなたの家庭は完全に崩壊するかもね。地上に堕とされてただの人間になる。そうなったらおめでたいね、お赤飯も炊かないと」

 

「う、嘘よ……そんなバカな事は有り得ないですわ!あなたが私より上ですって……!?そんなの嘘よ!」

 

「あくまで親の立場(・・・・)が、ね。私達の立場なんて全然変わんないよ。どんぐりの背比べってヤツ?」

 

「うわああああん!!」

 

 天人組の子は、緋想の剣モドキを取り出すと顔を真っ赤にさせ、涙を滲ませて襲いかかってきた。

 剣術の基本も出来ていない、お遊戯以下の動き。地底の大会や巫月お姉様を見ている私からすれば、目を瞑ってても避けられる。でも、教室で戦うのは得策じゃない。

 

「せんせー!天人組の子が暴れてるー!」

 

 そう叫んでみるが、先生は来ない。皆は外なのでそちらの面倒を見てるんだろう。仕方ない。

 無力化させるには感電させるのが一番。だけど、また私が怒られるのは気持ち悪いしイライラする。ここは逃げるが勝ちかもしれない。

 

「サンちゃ〜〜〜ん!!」

 

 雷のバリアで身を守りつつ窓の外へ向けて叫び、サンダーバードのサンを呼ぶ。

 いつも通りすぐに現れるが、外で遊んでいた皆、先生、更に天人組の子供達は慌てふためき、まるで災害が起きたかのような混乱に陥った。

 

「ひ、ひぃっ!?ら、雷鳥ッ!?ななっ、なんで、どうしてぇっ!?」

 

「へー、流石は教養ある天人様、サンダーバードは知ってるんだ?」

 

「そ、そんなのっ、知らない方がおかしいですわ!雷雲の中に住むと言われる伝説の怪鳥……ッ!!」

 

「伝説?私のペットだよ?」

 

「ペッ…………!?」

 

「ねっ、サン♪」

 

「クキュルルルッ♪」

 

「じゃあね天人様、怪我したくないからバイバイ!二度と会わない事を祈るね!」

 

「ま、待ちなさ────」

 

「サンちゃん!サンダーブレス!!」

 

「クキャアアアアアア!!」

 

「きゃああああああああああああああああっ!!」

 

 窓から飛び出てサンの背中に飛び乗る。そして、教室を破壊する勢いでブレスを浴びせると、私達は地上に降りていく。

 きっと、園からお母様に連絡が行くだろう。でも私はもう絶対にあんな所には行かない。あんな所に行くくらいなら無学なまま、バカでいいから地上で平和に、静かに過ごした方がずっといい。

 

 

 ◆

 

 

「あーあ、脱走しちゃった。何だか今になってドキドキしてきたよ、どうしよ……」

 

 魔法の森が見えてきた。行った事はないがこれも良い機会だと思って、森の中にポツンとある広場の近くにある白い家を訊ねてみる事にした。

 

「ごめんくださーい」

 

「はーい……あら、あなたは……」

 

「?……えっと……?」

 

 中から出てきたのは、綺麗なお姉さん。ショートカットの金髪で人形を何体か近くに浮かべている。私の事を知ってるみたいだけど私は知らない。見た覚えはあるような気はするけれど、それ以外は全く覚えがない。

 

「ああ、直接話すのは初めてだったかしら。私は、アリス・マーガトロイド。あなたのお父さんの、お姉ちゃんよ」

 

「えっ!?アリス伯母さん!?」

 

「……お姉さんって呼んで♪」

 

「お、お姉さんっ……」

 

「えぇと確か……永江魅玖ちゃん、よね?衣玖さんとエスカルゴの娘の」

 

「は、はいっ!」

 

「そう、良かった、記憶は正しかったみたい。さ、入って入って。外は空気が悪いからね」

 

「お邪魔しますっ……サンは待っててね!」

 

「キュルルッ!」

 

 バッサバッサと羽ばたいて見せると、門番の如く玄関の前に立つサン。周囲をギロリと睨むと、早速警戒を始める。

 雷のブレスが吐けて、放電も出来るこの子なら、門番とするには十分だ。その辺の雑魚妖怪には絶対負けないだろう。

 

「まさか、サンダーバード……?もしかしてあの子、エスカルゴのペットの?」

 

「今は私のです!お父様が譲ってくれたので……!」

 

「そう……大事にしてあげてね」

 

「はい!」

 

 

 ◆

 

 

「へぇ……天界では混血は異端なのね」

 

「そうなんです。今日はいつもより酷かったので……逃げてきちゃいました」

 

「いいんじゃない?時には逃げるのも1つの手よ。誰もあなたを責めやしないわ」

 

「そう、でしょうか……。お母様は、多分私を怒ると思います。園を一部、壊しましたし……」

 

「あらら……。破壊したのは怒られるかもだけれど、そこに至った経緯を思えば仕方ないと思ってくれるはずよ。大丈夫。少なくともエスカルゴはあなたの味方になってくれるはずだから。ね?」

 

「……はい……。お父様なら……」

 

「そう、エスカルゴなら。大丈夫、あの子なら絶対娘の味方をするからね」

 

「……」

 

 

 ◆

 

 

「うわっちゃ〜……めっちゃ壊れてるじゃあないか。これ、魅玖がやったのか?……サンかな?」

 

 衣玖さんから連絡を貰った俺は、天界の保育園へ急遽やってきた。先生は衣玖さんに連絡をしたが、衣玖さんは仕事が忙しいとの事なので、俺が彼女の代わりに来たという次第だ。

 

「あぁ、お父様ですね?」

 

「あーどうも先生。これは一体……?」

 

「連絡した通りです、魅玖ちゃんが園で暴れて園を破壊したのです。賠償金などの話をしたいですし、どうぞ中へ」

 

「あの大人しい魅玖ちゃんが、自分から暴れるはずないんだけど。先生は暴れた経緯をご存じで?」

 

「いえ。私は外の子供達の面倒を見ていましたから園の中の事は当事者達しか知り得ません」

 

「監督不行届すぎて草も涸れますわな。当事者達(・)、なんて言ってますけど、他には誰が?」

 

「天人の子が1人。魅玖ちゃんに話し掛けていた、との目撃情報があります」

 

「そいつがうちの魅玖ちゃんにちょっかい掛けて、そんでブチギレたって所か。じゃあ引き金を引いたそのガキが悪いね、はい終わり、閉廷!」

 

「はい!?経緯はどうあれ魅玖ちゃんが園を壊した事実は変わりません!」

 

「まぁそうかもな。でもまぁとりあえず相手の親と話をさせてくんないかな、賠償でも修理でも何でもするから────」

 

「ちょっと!もしかしてあなたですか、うちの娘に手を出した混血児の父親って男は!!」

 

「あ?」

 

 ザマス系の女が居た。子供を抱き上げて、目尻を釣り上げては俺を睨み付けてくる。先生はペコペコしていて、頼りない。

 気配的に分かる。天子と同じ、天人だ。とするとあの子供が魅玖と争った当事者だという事だろう。全く、こういう親はどの世界にも…………。

 

「その子が俺ん娘にちょっかい掛けたっぽいですが何か?」

 

「うちの子はそんな事しませんっ!!」

 

「じゃあ何でその子は竜宮組に居たんだよ、うちの娘がその子を自分の教室に呼び付けたってのか?」

 

「有り得ない話ではありませんッ!」

 

「話になんねぇな。じゃあもういいよ、はいはい、すみませんでした、うちの子がすみません、はい、これでいいか?」

 

「なっ……舐めてるんですの!?」

 

「じゃあ、金か?金が欲しいのか?ほらよ、スーツケースに1億入ってるからこれで引き下がってよ」

 

「っ!?か、か、金で釣られる妾(わらわ)だと……っ」

 

 妾。一人称がまさかの「妾」ときたものだ。

 現実でその一人称は初めて聞いた。こんなの漫画だけの一人称だと思っていたのだが。

 

「うるせぇ黙れ逆らうなら殺す。1億を受け取って口を噤むか受け取らず口を噤むか俺に殺されるか?この3択だ今すぐ選べクソ親が」

 

「な、なななっ……妾になんて口を……この、下賎な蝙蝠め……!!」

 

「馬鹿阿呆ドジ間抜け塵(チリ)埃(ホコリ)屑(クズ)。それ以上言うなら、お前の血筋を皆殺しにしてやる。女子供も関係なく皆殺し。鏖殺だ。さぁどうする。2秒以内に答えろさもなくばこの場でまずお前を殺す」

 

「なんて横暴な!所詮、天人くずれを娶るような男なんてその程度なんですのね!」

 

「別に娶ってないけど……天人くずれっつーんなら、お前の方が立派な天人くずれだよ。天子の方がより天人らしいぜ」

 

「なんですってぇ!?」

 

「金切り声がうるせぇからさぁ、マジで黙ってよ。慰謝料を払うって言ってんだから受け取れば?何?金が目的じゃあなくてイビるのが目的だから、金は受け取らないって?」

 

「誰もそんな事は申しておりません!分かりました受け取りますよ!これで手打ちにしてさしあげます感謝しなさい!!」

 

「へいへい、あざま〜す。じゃあ先生、園の方すぐ直すんでそれで許してくれません?」

 

「すぐって、何日ですか?その間の園の運営費用もあなた方に請求させて頂きますが」

 

「3秒で直る」

 

 錬金魔法を行使。崩れた瓦礫があるのならすぐに修復が可能だ。元の状態を見た事があるので俺でも元通りの修復ができた。

 因みにあの天人に渡した「1億」は、紙屑として有名な「ジンバブエドル」だ。ある時のレートでは1億ジンバブエドルは日本円で600円。……ザマァ、としか言い様がない。

 誰も「1億円(・)」なんて言っていないのだから。

 さて、ヤツは円ではない事にいつ気付くだろう。どうせ気付いた頃には親子共々トンズラこいているだろうし、問題は無いが。

 

「え…………え、えぇ…………」

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

 

 ◆

 

 

「……お迎えが来たわよ、魅玖ちゃん」

 

「えっ?」

 

「外、行きましょう」

 

 アリスさんに連れられて外に行くと、そこには、サンを撫でるお父様の姿があった。アリスさんは、気配か何かでお父様が来たのを察知したらしい。

 

「あ、姉ちゃん。面倒見ててくれたのな。サンキュ」

 

「いいのよ、あなたの子だし。静かにしてたから、手も掛からなかったわ」

 

「そっか。やっぱ魅玖ちゃんは自分からは暴れたりしないよな。静かにできるんだもんな」

 

「っ……!お父様ぁっ……」

 

「よしよし。衣玖さんにも事情は話した。また別な保育園に行こう。……寺子屋はどうだ?魅玖ちゃんの送迎は巫月に任せるとして。上白沢慧音って人が、先生をやってる。魅玖ちゃんさえ良ければ、すぐに先生に話を通す。どうする?」

 

「そこにする!お姉様と一緒のとこ!」

 

「そっか、分かった。……サンキュな、姉ちゃん」

 

「ええ。あなたもたまには遊びに来てよね」

 

「ハハッ、そーするよ。また来るね」

 

 お父様はアリスさんに手を振り、能力で瞬間移動する。真っ白の視界が元に戻ると、和風の一軒家の目の前に来ていた。

 行くぞ、と手を引いてお父様はその中に入る。

 

「慧音ー、居るよなー?」

 

「ああ、居るよー。入ってくるといい」

 

「お邪魔しま〜すっと。ほれ、魅玖ちゃんも」

 

「は、はいっ……」

 

 ギシギシと軋む床を歩き一つの部屋に到着する。そこでは青と白の髪をした四角の帽子を頭に乗せた女性が、机の上に広がる紙の整理をしていた。

 

「どうしたエスカルゴ、アポ無しなんて珍し……ん?その子は?」

 

「あ、えっと……」

 

「俺の子で永江魅玖ってんだ。事情があって天界の施設に居れなくなった。まぁ、混血だからってのが主な理由かな。そんな訳で、慧音の寺子屋で魅玖の面倒を見てほしいんだ。登校は巫月と一緒にさせる予定だよ。巫月もスキマ使えるからな」

 

「混血だから……成程。事情は把握したよ。魅玖、と言ったか。私の授業は厳しいぞ?大丈夫かな?」

 

「はいっ……頑張ります!」

 

「良し。ならば早速、明日から来てもらおう」

 

「はいっ!」

 

「オッケー、巫月にも話通しとくよ。よし、じゃあとりあえず帰るか、魅玖。家も引越そう。変な奴が永江家に来ないとも限らないからな」

 

「はい……」

 

 その後、巫月に事情を話して、これからは巫月が魅玖を迎えに行ってから登校、送り届けてから帰宅という流れになった。

 そして永江家は、かつて萃香が天子から奪ったとされている天界の一部に建てさせてもらった。鬼の住まう土地という事で天界の誰も永江家に手出しが出来なくなったのである。

 こうして永江家に温かな平和が訪れたのだった。




本当の魅玖は漫画版エヴァのシンジくんに近いかもですね。
「じゃ、どうしてほしいの?土下座しろってのならするけど」とか、「そんなにいちいちカッカしてて疲れない?」とか真顔で言えそう。
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