人気投票……マジですか?なんで……なんで……。
WRYYYYYYYYYYYY────ッ!!
赤蛮奇の持つ破片の件があった次の日。早速だが私達は宿を出る前にお父さんを呼んで、前日の件を伝えてお父さんの考えを聞かせてもらう事にした。
それを聞いたお父さんは、どこか微妙な顔をして考え込んでいた。何か、言葉を選んでいるようにも見える。
「……ふむ、血の匂いがしたと。で、氷が溶けると、中の赤黒い?黒っぽい?鉱石みたいなものは蒸発。それの消える様は俺が消えるのにそっくりだった。そういう事か」
「そう!エスカルゴは何か心当たりとかある?」
「心当たりは無くとも、何か考えとか……ある?」
「……メリーよ。紫さんからは何か聞いてねぇか?」
「この件について?」
「ん……そう、だな。あと封印に関する事とか」
「何も聞いてないよ。少し前まで外に居たしさ」
「……だよな。丁度、時期が被ってたもんな」
「何なの?何かあったの?」
「まァ……実はさ────」
そこでお父さんが話した事は、とても信じられる内容ではなかった。だけど、
「そんな……お父さんのクローンだなんて……」
「実は俺もさ……信じらんねーんだけど、追い出したはずのクローンが戻ってきたっぽいんだよなぁ……。蛮奇ちゃんが拾ったらしいその破片も、クローンの肉片だと思う」
「成程〜、吸血鬼のクローンか……。それなら日光に当たって消えるのは妥当だね。ならあの氷は……」
「奴本体の水分が氷として表に出てきたんだろう。知らんけど」
「それにしてもさ、不老不死で殺せないから宇宙に追い出すって……ジョジョの丸パクリかーいっ!」
「仕方なかったんだ、封印したって経年劣化で復活するのは目に見えてるんだからよ。そしたらまさか帰ってくるなんてなぁ……。クソッタレ、奴がどこに潜んでるのか俺にも分からん。ま、その気になれば一瞬で探し出す方法はあるんだが」
「じゃあ、何でそうしないの?」
「俺が行くのはダメだと判断した。俺は絶対に奴を殺さない。生かして苦しめたいからだ」
「でもそれじゃ同じ事の繰り返しじゃんっ……!何でお父さんはそんなに苦しめる事に拘るの!?」
「苦しめねェと気が済まない事情があるからだよ。だから、蓮子、メリー。2人で奴を封印してくれ」
「「えええええええっ!?」」
「封印は経年劣化で復活するんじゃないの!?」
「何考えてるのお父さんっ、そんなの……」
「2人が封印したら俺がまた奴を宇宙に追い出す。今度は絶対に落ちてこないようにする。宇宙追放も1つの封印。二重に封印するなら今後は安泰な筈。そういう事だよ。太陽方面は……ダメかもな。ダメな事情があるから、別な方にしよう」
「そんなのって……」
「俺は絶対にアイツを許せない事情がある。だから殺さない。生きて苦しめる必要がある。その理由を話しはしない。察しろ。……つーワケで、メリーは、蓮子を守りながら2人で奴をどうにかしてくれ」
「そんな!蓮子はまだ戦う術がないのにっ……」
「戦う必要は無い。アイツは、女の子には手出しはしないよ。それに、あの隕石騒動の後に俺の偽物が出たとかそういう情報は無い。潜伏してるんだよ。アイツ、死ぬのを怖がってるからな。彼女や娘達に殺され、俺に宇宙に追い出されたのが、結構デカいトラウマになったんだろうなぁ」
「でも潜伏してそうな場所なんて……」
蓮子は、幻想郷の地形やそういうスポットを把握していないので、うーんうーんと首を傾げては軽く唸っている。しかし私はなんとなく察した。
「あるじゃないか。人が大して寄り付かない、且つ色んなものが落ちていて退屈が凌げそうな場所が」
「……!まさか……」
「ああ。俺ならきっと、あの場所に行くだろうよ。封印とかそういうのはメリー、お前なら分かるな?紫さんから習ってるよな」
「うんっ……分かるけど……」
「俺が確認した限り、人里に奴の破片はもう無い。蒸発させたか博麗姉妹が集めた。里以外の場所のは俺と子供達が集めたみたいだ。特に巫月と弦月姫、博麗三姉弟がな」
「へー、その5人が……どうして?」
「5人共、奴を憎んでるらしいぞ。理由は、なんか教えてくれなかったんだけどな」
(……あー……お父さんの事が好きな2人……成程ね。霊愛お姉ちゃん、霊麗お姉ちゃん、霊魔に限ってはよく分からないけど)
「へー、凄いねその5人!どうしてそこまでするんだろう?」
「……さぁね。子供達が集めた破片は俺が処分した。あ、これは昨日の話な」
「お父さんが隕石を破壊したのが一昨日だから……。じゃあ昨日には全部集めてたんだ?」
「そーゆー事だな。あの子達の行動力には脱帽だ。弦月姫なんて仕事を急ピッチで終わらせてまで破片探しに出掛けたらしいし……」
「凄いね……」
追加で教えてくれたが、どうやらあの時の紅魔館では、「エスカルゴの血の匂いが空に広がった」とちょっとした騒ぎになったらしい。
普段は、お父さんがどのように死のうともこんな現象は絶対に起きないので、異常事態だと判断し、弦月姫お姉ちゃんに限らず多くの住人が破片集めに奔走したらしかった。
お父さんが言うには、破片の状態でも血の匂いがするので集めるのにそこまで苦労しなかったそう。集めている途中に子供達と会う事もしばしばあったらしい。
そういうのを聞くと、やっぱり私は、お父さんの血が薄いんだなぁと感じてしまう。
「とにかくッ。俺にも都合がある。なら秘封倶楽部である2人の出番でもあるだろう。俺は俺で動く。大部分は2人に任せる。ヤバい戦闘には手を貸すがメリーなら何とでもなる事が大半だろうし、蓮子はバンバンメリーを頼ってくれ。この子は頼りになるからな」
「はーいっ!宜しくねメリー!」
「もー……お父さん、面倒臭いだけじゃないの?」
「それは違うと断言しておく。アイツに関しちゃ、本気で取り組んでる。だからこそ奴の破片もすぐに集め切ったんだからな。でも俺には、倒すより先に守らなくちゃいけない存在がいるんだ」
「……分かった。蓮子、心の準備は大丈夫?」
「うん、オッケー!私が敵の気を引いて、メリーが封印するって流れでいい?」
「それでいこ。本気で封印するのなら、少し時間を掛けて術を構築しなくちゃだから……気を付けて」
「大丈夫だよメリー、私そんなにヤワじゃないし」
「……うん、知ってる」
不老不死になってまだ日が浅いのに、蓮子はもうそれに慣れ切っているのような反応をしてくれる。
嬉しいやら、心配になるやら、私としては複雑な心境だ。慣れてほしい気持ちもあるのに、もう少し自分を大事にしてほしいとも思う。
彼女の事だし、口で言っても止まらないのはもうよく分かっている。だったらせめて、私は、彼女が苦しまないように尽くそう。
それが蓮子の好奇心を満たす事にも繋がるなら。
(落ちてくる時のアレは、本当にただの隕石にしか見えなかった。けどもし、あの時点でクローンだと分かっていたなら……どうにかして受け止めて再追放しただろうなぁ……なんで後先よく考えずにすぐ破壊したんだか。やらかしたな、俺。あーあ)
「じゃ、早速行ってくるね」
「行ってきまーす!」
「おう、行ってきな。俺はここで、確実に追放する方法を考えてる。第三宇宙速度……以外の方法を」
「はいはい」
私はスキマを開き、蓮子と向こう側へ移動する。移動先は無縁塚。お父さんはここにクローンが潜伏していると予想している。私もだ。
お父さんは、いつなんどきでも退屈を嫌う性格をしている。それはきっと、クローンも同じなんだ。
「………………」
「「!!」」
居た。本当に居た。草が生い茂る地面に座り込み周囲のガラクタを積み上げている。廃人状態だとも言える程の落ちぶれっぷり。お父さんの姿でそんな様子だと、どうしてもやるせなくなってくる。
「日陰に居るって事は、つまりそういう事だよね。じゃ、メリー、お願いね」
にこやかにそう言うと、蓮子はクローンの方へと駆け寄っていく。クローンは蓮子の存在に気付くと情けなくも後退し、引き攣った顔を覗かせる。
「ひっ……な、なんだ、お前っ……!おおお前もっ、俺を殺しに来たのかっ!?」
「違うよ、私はお兄さんに会いに来たのっ!ほら、そんなに脅えてないで遊ぼう?お兄さんとだったらナニをシてもイイよ……?」
「俺のそばに近寄るなああーーーーーッ!!」
叫ぶクローンだが、お父さんの言う通り手出しをする様子は無い。頭を抱えて、蹲っているだけだ。情けない事この上ない。こんなのを封印しなくてはいけないなんて、賢者の娘も楽じゃない。
「蓮子、離れ……」
「────うるさいよ」
ドンッ、ドンッ、ドンッと断続的に銃声が響く。音の発生源は、蓮子の手にある3Dプリンター銃。弾丸はクローンの翼や腹を的確に撃ち抜いていて、先程まで甘えるような表情だったはずの蓮子は酷く冷たい、まるで親の仇を見るかのような目で、彼を見下ろしていた。
「なっ……!?なんでっ……」
「あなたさえ居なければ、エスカルゴが苦しむ事は無かったんだよね。あの人は私の恩人だからさ……。恩人を苦しめたあなたは許せないの。だから私も、あの人の意志を継いで……あなたを苦しめるよ」
「っ……ざけんじゃねえよこの女ァッ!!」
「危ない蓮子っ!!」
「!!」
少し離れた場所で封印の準備をしていたのが仇となったか。クローンは蓮子に飛び掛かるも、私は、それを防げなかった。
私の素早さは並の妖怪と変わらないがクローンは腐っても吸血鬼。素早さの違いは歴然だった。当然蓮子も彼の動きを目で追えず……蓮子はいとも容易く胴体を貫かれてしまった。
「────!!」
「蓮子ぉおおおおっ……!!」
「……へっ、雑魚が」
「死なない、よ…………私も、不老不死……だし……!」
「なっ!?」
腕を抜いたクローンは怯えるように後退ったが、逃げる事は無く、声を震わせながら歯を剥き出して蓮子を怒鳴りつける。
「不老不死のバーゲンセールかよ、あ゙ぁ゙!?不老不死なんてそんな安いもんじゃねェんだよォ、このクソガキがァッ!英雄と称されたこの俺様をォ……!舐めんじゃねェぞ!?」
「英雄と称されたのは、あなたじゃない」
「!!」
「あなたのオリジナル、エスカルゴだよ。あなたはエスカルゴじゃない。同じ姿をしただけの偽物よ」
「ちっ……違うっ!俺は俺、エスカルゴだっ!!」
「彼が怒鳴るときは、その言葉に優しさがあった。口汚かったりした事もあったけど、よく考えれば、私を思いやる意味が込められてた。少なくとも私は言葉の中に優しさを感じられたよ。でも、あなたのその怒鳴りには優しさなんて欠片も感じられない」
「怒鳴りの中に優しさだと!?オメー、若いクセにどーかしてんじゃねーか!?怒鳴ってんのに優しさなんて感じられる訳ねェだろーがよっ!!ハンッ、ちゃんちゃらおかしいぜ!!」
「だってあなた、誰からも愛されてないじゃない」
「っ!?」
「彼は誰かを愛し、誰かに愛されてる。だから意識しなくても他人を思いやれるような性格になったんじゃないかな。でも、あなたにはそれが無いよね」
「やめっ……やめろよっ……!き、聞きたくないっ……聞きたくない!やめろおおおおおおお!!!」
「あなたは空っぽ!誰かを騙る事でしか自己肯定もできない程の空虚な存在でしかない!!そんな奴が私の恩人を苦しめるだなんて、そんなの許さない!彼は私の夢を叶えてくれたっ……絶対に叶わないって思ってた不老不死の夢を叶えてくれた!だから私は彼の苦しみの根源たるあなたを消す!!」
「嫌だああああああっ!!俺はっ、俺はハーレムを作って好きに過ごすんっ、ぶぎゃあああああ!!」
銃をもう一丁、懐から取り出すと、更に連射してクローンを蜂の巣にしていく。血を撒き散らし涙を流して蹲る。もう、手を出そうとはしないようだ。それでも蓮子は連射する。
殺さないよう、撃つ箇所はよく考え、見極めて。
「蓮子っ、もう大丈夫よ……術は整ったわ……あとはこの陰陽玉を依代にして封印すれば完了よ」
「……ありがと、メリー。ほぼ撃ち尽くしちゃった。お陰で溜飲も下がったけど」
「そう……なら、良かった」
霊的なものを封印するには何かしら器を与えると封印しやすくなる。
肉体を持つ「人」を閉じ込めるなら牢に閉じ込め物理的に囲う。それと同じ事で、霊的なものなら、それに相応する器を与えてやると良い。
この場合は、魂の依代を用意してやる事だ。奴の肉体は器。量産可能の器でしかない。封印するなら私は陰陽玉という器を与えて封じ込め、その上から魂と陰陽玉を結び付ける封印を施しお父さんに託す。
お父さんは、私と自分での二重に封印するつもりだけど、実際は私が二、三重に封印するので実際はもっと厳重なのである。
「が…………が、ぐ………………う……」
「封印するわ。生きたまま、ね。それがお父さんの望みだから」
「や、め……ろ…………もう、あんな所には……っ」
「「さよなら」」
蓮子がクローンの胴体に残りの銃弾を放ったその直後、封印の術を完成させ、クローンの魂を完全に封じ込めた。これで、意識はあっても、動かす身体そのものが存在しないという状態に追い込めた。
◆
「はいコレ、封印されたクローン」
「はいどーも。じゃ、太陽系外縁天体より、エッジワース・カイパーベルトより遥か彼方に、コイツを追放しますかぁ♪」
「ねぇねぇ、エスカルゴのスキマってさ、どこまで繋げられるの!?」
スキマを開こうとしたお父さんに飛び付くようにして蓮子が尋ねる。先程のクローンへの色仕掛けもそうだが、案外蓮子は男を手玉に取るのが上手かもしれない。
蓮子に飛びつかれたお父さんが、ニヤッと口元に笑みを浮かべるのを、私は見逃さなかった。
「そりゃどこまでもだ。……と言いたい所だが、実はそうじゃないみたいでな。俺のはメリーや紫さんと違って、超高電圧で空間を歪ませて──ってやり方なんだけどよ。行き先が遠くなるにつれて、電力の出力がな……かなりの出力を要するんだけど……」
「出力が無いんだ?」
「……まぁな。量はある。なのに出力がな……」
「じゃ、エッジワース・カイパーベルトは……」
「それくらいなら越えられるよ」
「それくらい!?」
「俺、宇宙が好きだからさ。本当なら宇宙どこでもスキマで行けるようにしたいんだ。別な能力だと、いちいち定義付ける必要があるからさ、楽なようで少し面倒なんだよ」
「へ、へぇ……そっか…………なら、太陽系だったら、いつでもどこでも行けるんだ……」
「へへ、そういうこった。因みにもう少し鍛えれば地球からオールトの雲まで行けるようになるぞ」
「ホント!?すっご!!すっっっご!!」
いつになるかは分からないけどね、と小さい声で付け足したのを、私は聞き逃しはしなかった。多分お父さんの言う「もう少し」は、数日〜数年くらい大きな幅があるんだろう。
お父さんは不老不死なのだし、それくらいの幅があっても、おかしくはないと思うけれども……。
「なぁに、俺なんて全然。だって、紫さんだったら鍛えるまでもなく宇宙の果てまで行けるんだぜ?」
「…………え!?」
「さっきも言ったが俺のやり方は『空間を力ずくで歪ませ、繋げる』。ワームホールだからな。だけど紫さんの方は、『空間の隙間を広げ、移動する』。力がそこまで必要無いんだ」
「な、成程……じゃあメリーは!?」
「わ、私っ!?た、多分、お母さんと違って純血のスキマ妖怪じゃないから……鍛えなきゃダメ、だとは思うよ……やった事もないしね……」
「あと、スキマ妖怪ってのは通称だ。そんでもって唯一無二の種族。紫さんが原点にして頂点みたいな感じだよ。メリーは……彼女程の能力の使い方は多分できないだろう。多分だけどな」
「そうなんだ……いやそれでも十分凄いよ、見慣れたせいで忘れてたけど、ワームホールってヤバいよ?そうポンポン作れる方がおかしいしね」
「えへへ……」
「ふん、そうだろ、俺たちゃ凄いんだぜ」
「スマートなのもいいけど、力ずくもイイね……私はどっちかできるようになるかなぁ……?」
「できるようになるといいね」
ワームホールを使える自分に目を輝かせる蓮子。彼女は、大学では物理を専攻しているので、余計にワームホールが気になるだろう。
果たして、彼女に今のとは別の能力が開花するとしたらどんな能力になるのだろうか────。
「ところで、なんで蓮子は服に穴が?ヘソチラは……流石に刺激が強すぎるんだが……」
「えっ!?そこに興奮する!?……これはさ、あの、クローンに殴られて、ズバーンと……。だから初めて死にかけたんだよね……アハハ……。再生する感覚は少し気持ち悪かったけど……」
「……堕ちるとこまで堕ちたな、コイツ」
手の中の、クローンが封印された陰陽玉を見て、お父さんは嘲るように笑った。