アスモデウスも見送ると、紅魔館も日常に戻る。一応、警戒は続けさせているが、俺は一先ず、つい先程まで居た博麗神社まで戻った。
「あ、来た来た。どうだったの、紅魔館」
「来たよ悪魔。3人もな」
マモン、ルシファー、アスモデウス。中々の強敵だったと思う。しかし問題は無い。へカーティアや霊夢より強い者など存在しないのだから、この俺が彼女ら以外に負ける事は無いのだ。
負けようものなら、意地でも抗う。それが俺だ。マモンには実質負けたようなものだがアレは反則と言ってもいい。アレはズルい。
「それは酷いわね。でもアンタがここに戻ったってコトは、つまり?」
「そ。倒したよ。けど、その内の1人はマトモそうだったから、レイチェルの配下にしてやったさ」
「へぇ。レイチェルちゃん……確か悪魔を操る能力を持ってるんだっけ?でもまだ目覚めてないって……」
「うん。そいつをキッカケに目覚めてくれればって思ってるよ」
「成程ね。地底に居る悪魔はどうしたの?」
「……え?」
「やっぱり聞いてなかったのね。地底にも、悪魔が出現したのよ。温泉を介して気配を察知したわよ。あの温泉、地底から来てるからね。でも、アンタが最後まで話を聞かないから……全くもう。行こうとは思ったけど、そこまで強そうでもないから、きっと地底の奴らだけで対処できるとは思うわ」
「地底ッ!?地底にもって……マジか、クソッ!なぁ霊夢、他には居ねェのか!?幻想郷に!」
「居ない。探知できた限りでは地底の悪魔だけよ」
「了解、俺が狩ってくるッ!!」
一口に「地底」と言ってもかなり広い。一先ず、被害の有無を確認する為にもまずは入口から探してみようと思い、スキマで移動する。もう夏も本番に近いが、地底の入口からは更に暑い、しかも湿った空気が流れてきた。
「あれ、エスカルゴさん?こっちから来るなんて、なんか珍しいね?」
「ああキスメ……何か変な奴、こっち来なかった?」
「変な奴?エスカルゴさん以外の?」
「……お前ってたまに毒吐くよな」
「冗談冗談。んーとね、少し前に蛇みたいな眼の、よく分かんない妖怪が来たよ。地底でも類を見ない邪悪な気配だったね。……悪魔とか?」
「当たり。ソイツどこ行ったか分かる?」
「分かんない」
「了解。サンキュ」
軽く手を振り入口に身を投じる。キスメの発言を考えると、その悪魔が来たのは「さっき」。そして大きな騒ぎが起きた気配も無いので、きっと先程の紅魔館のようにどこかで誰かが襲撃を受けたという事実は無さそうだ。
敵の元に行くよりも前に、被害の有無だけは確認したかった。キスメをパスしたなら、後は敵の元へ能力で向かう。敵のそばを異世界と仮定し、そこへ移動する。
「っとにもー、何なのよあんたは!仕事の邪魔っ!どっか行きなさい、私より嫉妬深い奴なんてどっかその辺に居るでしょうよ!あーもう妬ましいッ!」
「この世界、お前より嫉妬深い者はそうは居まい。大人しく私にその身を委ねろ。どうだ?今より強い力を得られるぞ?」
「だーかーらー、私には仕事があんの!分かる!?あんたみたいな知らない悪魔と話してる暇は無い!さっさと出て行きなさいっ!」
「まぁまぁそう言うな────誰だッ!?」
そこそこ長身の女がグリンと俺の方を振り返る。話していたのはパルスィらしい。となると目の前のこの女は、七つの大罪の「嫉妬」を担当する悪魔、かもしれない。いや、間違いない。
「!……ほう、お前も中々の嫉妬心の持ち主だな……どうだ?私と共に世界を嫉妬心で満たさないか?」
「面白そうだな。だが断る。お前の名前も知らないというのに、どうしてそんな荒唐無稽な野望に手を貸してもらえると思った?」
「では名乗ろう。私はレヴィアタン。またの名を、リヴァイアサン・メルビレイ。七つの大罪が一つ、
『嫉妬』を司る、嫉妬の悪魔である」
「嫉妬の悪魔……リヴァイアサン・メルビレイ!?」
俺の知るリヴァイアサンは海の怪物。旧約聖書に登場する海の怪物だ。嫉妬の悪魔だなんてそんなの聞いた事がない。聖書なら様々な出版社の訳の本を読み漁ったが「嫉妬の悪魔・リヴァイアサン」との記載はどこにも見られなかった。
「リヴァイアサンか……ふむ……」
リヴァイアサンは、蛇の怪物としても描かれる。そして蛇とは嫉妬の象徴とも言える存在だ。だからリヴァイアサンと蛇と嫉妬という要素が絡み合い、嫉妬の悪魔・リヴァイアサンが誕生したワケか。
因みにだが、リヴァイアサンの読みを変えれば、レヴィアタンとなる。別の存在だと思われがちだが実は同一人物だ。奴が言った通り、レヴィアタンとリヴァイアサンは同一だ。
ジュピターとユピテル、ジュリアス・シーザーとユリウス・カエサルが「読みを変えただけ」なのと同じだ。
「どうだ?嫉妬深き者よ」
「……俺ァ、エスカルゴ・スカーレット。吸血鬼だ。てかリヴァイアサンさ、悪魔が悪魔に取り憑くとかそんなのアリなのか?いや、今更すぎる質問だが」
「勿論。私は、私が決めた獲物にのみ食らいつく。ただそれだけの事よ」
「シンプルだな。……だけど俺には俺の事情がある。その子も……パルスィもだ。確かに俺達は嫉妬深いがそう簡単に身体を受け渡す訳にはいかねー。分かるだろ?」
「ならばもう、仕方がないな。力ずくでその身体、貰い受けるッ!」
「!!」
グワッと両手を振り上げ襲い掛かってくる。だがそれはフェイントで、俺が剣を取り出して、構える一瞬の隙を突き、パルスィへ向かって行った。
「その身体、寄越せェッ!!」
「きゃっ!?ちょっと、何────」
「おい待てふざけんなッ!」
ダメだった。掴もうとするが俺の手はすり抜け、リヴァイアサンはパルスィに取り憑いてしまった。
パルスィの緑眼は真紅で蛇のような瞳孔へ変貌を遂げ、纏う雰囲気も普段とは異なる、邪悪で、酷く汚らしいものへと変わってしまった。
「テメェ……やりやがったな!?」
「ククク、これは素晴らしい、良い具合の『嫉妬』じゃないか……!純度が凄まじい、この世の誰よりも純粋な『嫉妬』だァ!!『嫉妬』を力に変えられる
私なら……純粋な力に変えられる私ならッ!!もう、ルシファーにへーこらする必要も無い!!昔っから気に食わなかったんだよ、元々は天に居た堕天使の分際で、我々悪魔にデカい顔をするルシファーが!そして妬ましかった、奴の持つ力が!だがこれ程の
「ルシファーを殺したって悪魔の頂点にはなれねェだろうよ。俺、悪魔の頂点じゃあないからな」
「な、に……?」
「共に堕天使ルシファーを殺そう?ルシファーならさっき殺してやった。思ったよりは雑魚だったよ。俺の方が強い。やっぱ神様とかの方が強いよね」
「……ッ!成程……!私に『傲慢』や『強欲』などの他の欲は見えないが……確かにお前は欲望塗れだッ!マモンの狙いもお前だったか!」
「ああ。彼女が俺ごと殺した」
「ク……ククッ……あーっはっはっはっはっはっ!!いいぞ吸血鬼ィ、気に入った!この女も素晴らしい嫉妬心だが、お前は『嫉妬』『傲慢』『強欲』もの三欲を内包しているらしい!!妬ましい妬ましい!羨ましいぞ!お前のその欲望を全て私が飲み干し、私の力に変換してやろう!!」
「────来い。だが覚悟しろ。俺に取り憑きたいなら、殺してやるからよ」
パルスィに強制的に取り憑いた時点で、コイツを殺すのはもう決定事項だった。俺や俺の知り合いに害を成すなら、問答無用で殺す。大悪魔だろうとも変わらない。アスモデウスの方は、話が通じたので殺さなかっただけだ。
「面白い!ならばお前を気絶させ、その隙に肉体を乗っ取るのが得策か!よし、そうしよう!その強き欲を私に寄越せェェェ!!」
「!!」
パルスィの姿で殴り掛かってくるレヴィアタン。マトモに殴り返せば、肉体はパルスィなので派手に弾けてしまう事だろう。
果たしてどうするべきか。こういう時の対処を、
「────『死者葬送』」
「ッ…………!?あぐっ、あぐぐぐぐぐぐっ……ギッ、ぎぎぃがぁぁあああぁぁああっっっ?!」
すれ違いざまにて切り伏せる。すると胸を抑えて凄まじい叫びを上げる。勝った。そう確信したが、やはりそこは大悪魔。何と一度ではこちらの攻撃は通用しなかった。
「ちっ、少し焦ったか。もう一度だ────」
「待っ……てっ…………!」
「!?……パルスィ?」
右眼が、パルスィの緑眼に戻っている。半分だけ戻れたようにも見えるが、果たしてどうだろうか。気配はパルスィのが混ざっているように感じるが。
「こう、なったら……もう……ッ!舌切雀『謙虚なる富者への片恨』……!!」
「うわ弾幕ッ…………あれ?」
パルスィは分身した。緑眼のパルスィと、紅眼のパルスィ。緑眼の方は、息を止めていたかのように肩で大きく息をしていて、紅眼の方は何が起きたか把握していないようだった。手をグーパーさせて、身体の主導権がある事を確認していた。
「何が起きた……?何故、お前がもう1人居る?」
「お生憎様……私は分身できるのよ……ッ!!それを利用して、分身する時にあんたに私の分身を……仮の肉体を
「パルスィ、お前……」
「トロトロしてないでさっさと倒しなさいよ、バカエスカルゴ!あんたなら倒せるんでしょ!?」
「お、おう、今度こそな!」
パルスィの姿だが、気配はまるっきりアイツだ。なら、殺すだけだ。如何にパルスィの姿でも、全く躊躇わない。躊躇ってはいけない場面だ。
「おのれェェェ……殺すッ!!私はこの肉体の全力を引き出せるのだ!嫉妬の残穢を残した事、死んでも後悔するのだなッ!!」
俺の方へ向かってくるので、今度は剣を縦に構え唐竹割りにしようとする。
しかしレヴィアタンは剣を振るわれる直前に口を大きく開けた。俺は口内に赤く光るモノを見てすぐ瞬間移動を使用。
ついさっき自分が居た所を見てみれば、奴の吐く炎が地面を焦がしていた。
「あっぶねぇ……!」
「何よアイツ、火まで吐くの!?」
火炎を吐けるという話は聞いた事がある。だが、海の怪物というイメージが強くて忘れられがちだ。そして、口内は鋭い歯が生えていて全身は固い鱗で覆われている。だから、パルスィの分身体の今なら問題無く斬れるはずだ。
「仕方ねェな……パルスィ、俺の後ろに来い!!」
「何よその自信たっぷりな顔!妬ましい!あんたが私の前に来て守りなさいよ!」
「じゃあもうそれでいいよ!」
俺がそっちに行けばレヴィアタンも俺の方向へ、つまりパルスィの方へも来るというのに、全くよく俺をそこまで信じて身を任せられるものだ。まだ、確実性があるワケでも無いというのに。
「殺して奪う、殺して奪う、殺して奪うッ!!!」
「お前は殺されて奪われる側だよッ!!地獄で後悔するといい!『魔界断裂斬』!!」
「えっ?ちょっと何処に……きゃああああっ!?」
「何だッ、この凄まじいパワーはぁっ……ああ、う、うわああああぁぁああぁぁぁっっ!!??」
飛び上がり、剣を叩き付けると、その圧で後ろのパルスィ、前のレヴィアタンは吹っ飛んだ。そしてレヴィアタンは地割れに落ち、地面補修の為の修復魔法をかけると、地割れは閉じた。
まるで
「ねぇちょっと……地面、滅茶苦茶なんだけど?」
「あー。魔力不足で、一部しか直せなかったんだ。もう少ししたら全部直すよ」
「さっさとしてよね。……助けてくれて、ありがと。それだけは言っとくわ……」
「パルスィの照れ顔、久しぶりに見たな」
「うっさい!あんたね、何でも出来すぎるのよっ!ホント妬ましいったらありゃしない!!」
「何でも出来たら苦労しねーっての……」
◆
《そう、大罪の悪魔達は幻想郷に────。大変な事になったわね、カルちゃん》
《構わないさ、俺が解決してみせる。しかも奴ら、肉体を乗っ取るのが目的らしいけど、凍魔の一件で乗っ取りへの対策も得たし、大丈夫。今日もそれでパルスィを救えたからね》
《そう……》
もし凍魔の一件が無ければ、今回のパルスィは、きっと救えなかった。俺自身がこの身体を受け渡す以外に、パルスィの身体からレヴィアタンを剥がす方法は恐らく無かっただろう。
真っ当な方法で救えて、本当に良かった。
《そんな事よりも、大罪の悪魔が魔界出身なのが……いや、母さんの魔界出身なのが、何よりビビったよ。魔界ではサタン、ベルゼブブに次いで地位が高い。それがレヴィアタン。それも初耳だし。だけどその逸話の舞台である魔界ってのが母さんの魔界だったなんてな……》
《魔界は魔界。別な呼び方はあれど、世界で言えばオンリーワンだからね》
《……母さんは、本当に凄いよ。母さんの生み出したこの世界は、幻想郷のみならず、外界の全世界にも影響を与えてるんだから》
《主に悪い意味でだけどね……。『七つの大罪』は、魔界人達の欲望をコントロールしようとしたのが、そもそもの始まりだった。魔界は魔法のメッカとも言える世界。開発も行使も、殆ど思うがまま。その弊害で、当時の魔界人達には、欲望をコントロールするという概念すら無かった。魔法で全てを可能にしてきたからね。……それを束ねた結果、七つの大罪という肩書きを持つ7人の悪魔が生まれた》
《じゃあ外の世界の聖書とかの記述は?》
《彼らが自称しているだけの逸話。それらも全て、私が捏造した記憶なのだけど》
《マジか》
《元は魔界人モチーフだったの。それなのに彼らが悪魔となったのは、魔界人達の悪意を、あまりにも集めすぎたから……。そして私が与えた力より更に力を増したのは、彼らが万人から恐れられるようになったから……。やがて私も彼女らを逃がしてしまうくらいの移動能力を身に付けた……》
《つまり七つの大罪のこの暴れっぷりも、魔界の、即ち母さんの始末の付け方が悪かったって事かな?全く、ちょっと気を付けてくれよー……》
《分かってるわ、ごめんなさいね。残り3人よね、もう少し頑張ってくれる……?》
《はいはい、ここまで来たら最後までだ。ま、俺に任せて。母さんに代わって、俺が今度こそ、大罪の悪魔達を殺しきってみせる。アスモデウス以外ね》
《分かったわ。じゃ、宜しくね、カルちゃん》
《うん》
嫉妬の悪魔・リヴァイアサン・メルビレイ
能力1:嫉妬を司る程度の能力(仮)
能力2:人型に変身する程度の能力(仮)
海の怪物とされているが、炎を吐く攻撃もする。
リヴァイアサンはあくまで種族名であり、本来沢山存在している蛇の怪物。彼女もまた蛇の怪物の姿をしているが、彼女は一族の中で唯一人型の悪魔にも変身が可能。
尚、神に凶暴さを危険視された為、繁殖を防ぐ為により凶暴とされる雄が駆除されてしまい、現在では何人(何体)かの雌しか残っておらず繁殖不可能。リヴァイアサンの一族は滅亡の一途を辿っている。
それ故に、リヴァイアサンは神綺を恨んでいる。
嫉妬に対する美徳は感謝。
蛇は、嫉妬の象徴とされています。星座の中では、乙女座(特に男性)に嫉妬の要素があるそうです。
つまり巳年生まれの乙女座の男性は嫉妬深いという事ですね。血液型占いと同じくらいに眉唾モノな話ですが、エスカルゴが嫉妬深いのはソレですね。