※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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暴食の悪魔①

「この感じ……!漸く現れたか、暴食なる者が……!ふっふっふっ、早速そいつの面を拝ませてもらおうじゃないか……。……げふっ、もう動けん……やっぱり明日にしようか……。おーい店員、とりあえず、このパエリアなるものとフルーツパフェを1つずつな」

 

「お客様ッ、もう店内の在庫が完全に尽きました!どうかお引き取りを……!」

 

「何?在庫が尽きただと!?私を舐めているのか、三下の料理人風情がァァァァ!!」

 

「ヒィィッ!?」

 

「パエリアを食すまで私はここから動かん!今すぐ材料を調達に行けィ!魔界の店は常に営業しているだろうが!!分かったら行けッ、この店をこの私に潰されたくなければなァ!!」

 

「わっ、わかりましたぁぁぁ!!」

 

(持ち金、足りるかな……。まぁいい、足りなければルシファーにツケておこう。どうせコイツらはあのルシファーが死んだ事なんて知らないだろうしな)

 

 虔魔成長の為、時を加速させながら次々に食物を摂取した咲夜さんは、大罪の悪魔から「暴食」との判定を喰らい、魔界にて滞在していた暴食の悪魔を呆気なく幻想郷に呼び寄せてしまった。

 

 

 ◆

 

 

「お世話になりました、永琳先生……。鈴仙も……」

 

「本当に翌日退院で大丈夫なの?あと数日、ここで休んでいった方が良いと思うけれど」

 

「そうよ咲夜、1日どころかまだ半日も経ってないのに動くなんて……」

 

「大丈夫よ鈴仙、今日は仕事しないから。せめて、あと数日は弦月姫に忙しく動いてもらうつもりよ」

 

「そーそー、俺も居るし大丈夫だって」

 

「とにかく、何かあったら来なさいね。すぐに対応させてもらうから」

 

「その時はまたお願いします」

 

 永琳、鈴仙の見送りで俺達は紅魔館へ帰る。今は弦月姫という副メイド長が居るので、今回俺は働くという事はあまりしなくていい……らしい。

 

「おかえり咲夜。紅魔館へようこそ、赤ちゃん♪」

 

「おかえりなさいませ……っ!」

 

「お、おかえり……」

 

「「「「おかえりなさーいっっ!!!」」」」

 

門前まで瞬間移動してみると、レミリアを筆頭に紅魔館の住民が総出で出迎えてくれた。天子は少し気恥しそうに、美鈴は心から楽しそうに。弦月姫は出産を終えた母より赤ん坊……虔魔に目が釘付けだ。

 

「わぁ〜……!もう髪生え揃ってるんですね……凄い成長速度です!」

 

「それは弦月姫、あなたもだったけどね」

 

「!?」

 

 こと成長、自立という面において、人間ほど遅い生物は存在しない。馬は生まれてすぐに歩く。魚は生まれてすぐに泳ぐ。餌は与えられる事もあるが、自分で餌を探し、食べる事もよくある。

 人間の場合、歩くのに12ヶ月前後もかかるのだ。遅い。あまりにも遅すぎる。この人間の赤子特有の無力さは、ヒトの脳が発達した事による弊害だとか言われている。

 ヒトの肉体の、何と不完全な事か。脳が発達した状態では赤子を産めなくなってしまう。だから脳が未発達な状態で赤子は生まれ、出産後から本格的な成長が始まる。

 こういった種族の違いが妖怪の子の成長の早さの秘訣だ。脳は発達しておらずとも、そこまで出産の害になりにくい髪は生え揃っている。翼については仕方がない。種族的特徴だ。

 生物学的にも説明はできる。妖怪は、肉体強度がハンパじゃない。キズだってすぐ治る。細胞分裂が凄まじい速度なのである程度成長も早いのだろう。

 

「咲夜。身体は、もういいの?つい昨晩に生まれたばかりなんでしょう?」

 

「落ち着いて産みたかったから永遠亭に行っただけでして。心が休まるのはやはり紅魔館(ここ)だけですわ」

 

「……紅魔館があなたにとっての心休まる場になれたこと、当主として、心から喜ばしく思うわ」

 

「光栄でございます」

 

「それにしてもヤケに可愛いわね、次は男の子って言ってなかった?」

 

「ええ、男の子ですよ。ほら」

 

「ちょっ、ちんちん見せなくていいから!てか何で中途半端にフンドシみたいになってんの!ちゃんと隠しなさい、寒そうに縮こまってるじゃないの!」

 

「元から短小ですよ。赤子なんですから」

 

「あ、そう……子供になったエスカルゴよりも小さいから、寒くて縮んでるのかと……」

 

(ちゃんと血が繋がった……弟……可愛いっ……!!)

 

 今回は子育てをメインに紅魔館に住まう事になるという事なので、それはそれで忙しくなるだろう。勿論、咲夜さんを孕ませたのは俺なので文句を言うつもりは無い。当然の事だ。

 因みに魔界には近いうちに行く予定だ。母さんに日光などの弱点を無くしてもらう。我が家では最早恒例行事だ。

 

「少しの間は私も仕事を休むんですから、その間は普段通りに過ごしても大丈夫なんですよ?」

 

「いえいえ」

 

「1人の赤ん坊に常に2人居なくても……。まだまだ大人しい頃ですから、今の内に女遊びに勤しんでは如何ですか?」

 

「嫁から女遊びを推奨されるとはこれ如何に。いや確かにその通りかもなんですけど……」

 

「そうです、私はまだ休養期間ですから。虔魔も、まだ眠っていますし。……ね?」

 

「っ……う…………わ……かり、ました……。少しだけ……少しだけ遊んできます……紅魔館の中に居るので、次時間が止まったらそれ合図にすぐ駆け付けます……」

 

「分かりました」

 

 子育てはあくまでプライベートな事なので、一応俺の従者のシャロンは通常業務に戻している。更にレミリアの従者は天子だ。少し前の生活からは全く考えられない変化。俺が一番それに驚いている。

 一時的に子育てから離れた俺はパチュリーの元へ向かう。未だ襲撃のない「暴食の悪魔」がそろそろ現れるかもしれないという予想を伝える為に。欲に溺れ、「遊ぶ」のはそれからでも遅くはない。

 

「────というワケで、咲夜さんの話によると、咲夜さんは腹の中の子を成長させる為に、とにかく食べまくった。これは、暴食にあたると思うんだ。子を育てる為って理由はあるが、度が過ぎてるのは事実だ。1日に食べる量と考えたら異常な量だし。だからずっとなりを潜めてた暴食の悪魔が現れるかもしれないと思うんだけど……どうかな」

 

「そうね。これまで出現しなかったのは『暴食』に値する人物が居なかったから……だと思うから、もしそれに咲夜が該当するなら、これを機に現れるわね」

 

「で、暴食の悪魔と言えばベルゼブブ……またの名をベルゼビュートなワケだけど、今回ばかりはかなり厄介だと思うんだ……予想なんだけどさ」

 

「概念的な大罪ではなく物理的な大罪だから、ね?確かに、そういう意味では『暴食』は他の大罪とは異質な存在と言えるわ」

 

「そう。俺らの『能力』だと物理的な能力よりは、神様だとか紫さんみたいな概念に関する能力の方が強い傾向にある。けど大罪の悪魔は、揃いも揃って破滅までさせられるレベルに能力が強いんだよな。そうなると、概念というよりは物理的な方が厄介に思えるんだ」

 

「物理的な能力で破滅となると、破滅というよりは破壊という言葉に置き換える事ができる。物理的な能力の方が厄介だと思うのはそれが由来?」

 

「流石パチュリー。さすパチュだよ、ホントに」

 

「それ褒めてる?」

 

「マジで褒めてる褒めてる。ま、そういう事でさ、咲夜さんに産後鬱とかになってほしくないからさ、できるだけ紅魔館を巻き込みたくないんだ」

 

「そうね。紅魔館を巻き込むと咲夜は自分を責めるだろうからね」

 

「だからいつもの如くバリアを張ってほしいんだ。アスモデウスの時みたいに、館の中に侵入されないような強いバリアをさ。……お願いできる?」

 

「成程。直接侵入できないなら正面突破しかない。そこをあなたが迎え撃つのね」

 

「そういう事よ。マモンの例から察するに、標的に取り憑くには本人との接触が不可欠だから……俺らが咲夜さんを守り抜けば、この勝負、俺らの勝ちだ」

 

「だからまずはバリアで館全体を防御し、その上であなたを外に配置して敵を迎え撃つ。咲夜に余計な心労をかけない為に、この作戦は秘密裏に行う事とする。……そういう事ね」

 

「永琳みたいに先を読むじゃん……まぁそういう事。それならイケると思うんだ」

 

「どんな能力か分からない以上、それが最善手かもしれないわ。それでいきましょう」

 

「助かるよ。いっつも頼りきりで悪いと思ってる。紅魔館じゃ、パチュリーが一番防御力あるから……」

 

「構わないわ。頼りにされるのは悪い気しないし。悪用されるならまた別だけどね」

 

「流石に、防御を悪用する方法は思い付かないや。流石の俺でもね」

 

「思い付かなくていい────」

 

 苦笑交じりにバリアを張ろうとするパチュリー。しかしその瞬間、爆音にも似た凄まじい轟音が上の方で聞こえてきた。

 少し遅れて縦揺れの地震のような揺れも図書館を襲い始めた。小悪魔母娘が3人で本棚を倒れるのをカバーしなければ、図書館は、地獄のような様相を呈していたかもしれない。咄嗟に動けるのを見ると双子は司書として立派に成長しているのが分かる。

 

「上で何か起きたわね。この気配は、まさか…………早速おいでなすったかしら?」

 

「あーあ、昨日のうちに対策しときゃ良かったね。女遊びしてる余裕も無いとはね」

 

「私とは遊びだったの!?」

 

「そうじゃなくて」

 

「ふふっ……分かってるわ、冗談。さ、早くあなたも上に行きなさい」

 

「おうよ、行ってくる」

 

 上に出ると、美鈴と天子が、グラマラスな体型の少々妖艶な悪魔と対峙している場面に出くわした。荒れ具合を見るに、2人掛かりでもジワジワと敵に押されているらしく、エントランスからその奥に、館の内部まで徐々に戦場を変えているようだ。そのルートから察するにコイツは間違いなく咲夜さんの方へ向かっている。

 

「美鈴、天子っ!何があった!?」

 

「どうもこうも、見ての通りよ!攻められてる!」

 

「ヤバいですよコイツ!まるで攻撃する度に弱点が移動してるみたいな感じがします……!発勁もロクに効きません、どういう事なんだか……もしや耐久力は鬼並みでしょうか……!?」

 

「ッ……!?」

 

 ムチムチボディを揺らして歩き、蝿のような翼を軽く羽ばたかせる悪魔。額に2本の角が生えていて尾はライオンのようにも見える。この特徴、やはり間違いない。ベルゼビュートだ。

 

「テメェ、ベルゼビュートか」

 

「んん?何だ、私を知っているのか。まァ、お前が誰だか知らんが、さっさと道を開けな。ガリガリの骨皮共が……ちゃんと飯を食っているのか?」

 

「わ、私がガリガリですって!?心外です!!」

 

「そーだそーだ!俺はともかく美鈴はムッチムチのエロ体型(ボディ)なんだぜ!?」

 

「えぇっ!?」

 

「私は!?ねぇ私は!?」

 

「天子は……うん、エロい!」

 

「んにゃああああそうじゃなくってえええ!!」

 

「煩いな。さっさと道を開けないのなら……死ね!」

 

 瞬間、ベルゼビュートの姿がブレたかと思うと、一瞬でこちらとの間合いを詰められていた。美鈴、俺は咄嗟に回避できたが天子は僅かに回避が遅れ、ベルゼビュートの攻撃をモロに喰らった。

 

「────ハッ!!」

 

「ッ……!?」

 

 緩めの掌底を当てられただけに見えたが、天子は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、奥の壁にドガァンと叩き付けられた。血を吐きメイド服を汚し、手足をピクピク動かしているだけで、すぐに立ち上がれる様子はない。

 

「なっ……あんな勢いには見えなかっ…………まさか、今のって……!?」

 

「私の……発勁、ですか…………!?何故コイツが私の技を…………!!」

 

「フッ、それはお前のお陰さァ。私ゃこう見えても真似が得意でねェ。一度喰らった攻撃は、一度だけ真似できる。もし小分けにすれば、何度か使える。そういう能力なんだ」

 

「そッ……そんな……!?」

 

 暴食なのに何故そんな能力が、と思ったが、成程これは厄介だ。つまり、食べた物を戻す(リバースする)理屈だ。

 食べた(喰らった)物(攻撃)を吐き出す(お返しする)。小分けにすれば何度でも。暴食から転じてここまでチートになるとは、流石は大悪魔といったところだ。それはつまり────。

 

「分かった、一撃で殺さなきゃダメなパターンだ、アイツは!」

 

「……やはりそうなりますか……」

 

「そこの男は見る目があるね、もしかして同類?」

 

「そうかもな。お前の身体ぁ、どう見てもダメージ残ってねーよな。美鈴の攻撃を喰らったにしては、あまりに無傷すぎる。そう、俺と同じで、自動回復(オートリジェネ)するタイプの肉体だろ」

 

「そしてその攻撃への耐性を得るのさ。どうだい、それでも私に勝てるかな?」

 

「思ったよりチートじゃあねぇーか、暴食の悪魔。となれば…………美鈴、20秒頼む!」

 

「40秒イケますよ!」

 

 天子は天人、頑丈すぎる程に頑丈な肉体だ。故に回復は後回しにして今は防衛を優先させようか、と思っていた。だがダメだ、ここは一か八かに賭けるしかない。

 

「治癒『完全回復(ベホマ)』……大丈夫か天子……?」

 

「げふっ……あ゙ー、苦しかった…………。ありがとう、助かったわ……」

 

「奴の弱点、視えるんだよな?」

 

「ええ。だからさっきから美鈴と組んで奴の弱点に的確に攻撃を仕掛けてた。でも、発勁も緋想の剣もダメで、こうなった。もっと圧倒的な攻撃力が必要だから…………3人で殺るしかないわ」

 

「じゃあ、天子は好きに動いて。んで、俺と美鈴は天子に合わせる」

 

「でも奴、何発も美鈴の発勁を喰らったわ。多分、まだストックがある」

 

「……何発かの発勁を、一発に纏めてお返しするのもできる、よな?多分……」

 

「正直、もう喰らいたくないわ、あんなの。だけど美鈴、私と手合わせする時、どんだけ手ェ抜いてたのよ……何よあの発勁の威力!ムカつく!!さっさと潰しましょ、ご主人様!!」

 

「なら念の為に……治癒『自動完全回復(リベホマ)』」

 

「……?また魔法を掛けたの?私に?」

 

「美鈴は打たれ強い。俺は自動回復がある。天子は自動回復しないから、念の為に」

 

「そりゃ有難いわね、これで暴れられるッ!天子、戦線復帰ィッ!!」

 

「頼むから大怪我はやめてくれよな……」

 

 美鈴が奴を足止めしていた隙に簡単な作戦を立て俺と天子は戦線復帰する。戻ってみれば、凄まじい発勁の応酬をしていた。

 美鈴が打ち込めば、耐えたベルゼビュートが同じモーションで美鈴に打ち込む。それに耐えた美鈴は更に威力を上乗せして敵に打ち込む。そうなると、たとえ打たれ強いとはいえ、次第に美鈴が押されるようになってきてしまう。

 肉体強度の差は、種族の違いと同じように決して努力でカバーできるものではない。

 

「気功符『かめはめ波』ァァアアアッッッ!!」

 

「ぐぁあああぁっっ……!?」

 

「ご主人様っ、見て!全身をぶっ飛ばしてるッ!!これなら弱点も何も無いわ、畳み掛けるわよ!」

 

「お、おう!」

 

 俺が美鈴にかめはめ波を打たれた時、あのように貫かれるというよりは彼方に吹き飛ばされるような感じだったと記憶している。

 だが見ての通りベルゼビュートは動いていない。つまり、それの意味するところ────。




暴食の悪魔・ベルゼビュート
能力:暴食を司る程度の能力(仮)
ハエの翼を持つ悪魔。ゴミに群がるその様子から暴食にはハエの姿が当てられた。元々この悪魔は、バアル・ゼブルという神様、または天使だった。
しかしその信仰を良しとしなかったヘブライ人により「バアル・ゼブブ」、ヘブライ語で「蝿の王」という名に変えられてしまった。
同じ料理は二度食べないという信条を持つ。お金は払える時は払うが、払えない場合には七つの大罪の誰かにツケる悪癖がある。
一度受けた攻撃に耐性を持ち、どんな攻撃も一撃で仕留めなければ次は無意味となる。火で攻撃すれば火、水で攻撃すれば水の耐性を得てしまう。更に、受けた攻撃は一度だけ真似る事ができる。ただし、斬撃などの武器が必要な攻撃だと真似ができない。相応の武器を持てば可能。
暴食に対する美徳は節制。
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