※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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モルモーの過去③

 私の計画が本格始動したのは人の世が落ち着いて暫く経ってからだった。狙った訳じゃない。ただ、ヘカテー様の配下として過ごす時間も短くなって、魔法もある程度究められたから丁度いいと思った。それがたまたまこのタイミングだった。

 でも私は、ヘカテー様にスカウトされる際、釘を刺された。だから、方法を変えた。支配ではなく、自分達以外を完全に滅ぼすやり方で自然に世界中の吸血鬼を私の血族だけにしようと考えた。

 この考えを話したのはエンプーサにだけ。所謂、悪友のような関係だったから、ヘカテー様にチクる心配も殆ど無かった。ラミアも大人な対応が上手いから、ヘカテー様に言ったりはしないと思う。でも私は、話すのはエンプーサだけにしておいた。別にコイツが気に入ってるからとかじゃない。

 

「……成程な、血族による吸血鬼界の支配がダメならいっそ他を滅ぼそうと……。自分が始祖である血族が残れば、実質的に支配するのと同義だから。理屈は分かるんだが……。お前が血統主義なのは、前々から知っていた。だが血統主義もここまで来るとただの病気に思えるな」

 

「んなっ……酷くなぁい!?モルモーちゃん、本気で考えてんですけど!?」

 

「無謀だ。無謀すぎる。大体、お前以外の吸血鬼やその子孫なんて、この世にどれだけ存在していると思っているんだ?」

 

「ッ……」

 

「お前も分かってるだろうが吸血鬼や吸血鬼の血を引く者はとても長命だ。吸血鬼とて我々悪魔の一種だからな。そして、成長は早く老化は遅い。悪魔の中では、子孫繁栄の象徴とも言えるだろうな」

 

「……だから?」

 

「吸血鬼は子沢山が普通だ。大神ゼウスのように、浮気をしてでも子孫を残すのが普通。それなのに、どうやって滅ぼすつもりだ?」

 

「それでも私がこの世の吸血鬼の真祖になる……いや成り代わる為には、それしかないのよ!!」

 

「ああ、それしかない。間違いない。だがそれは、モルモー、お前自身の親兄弟すら滅ぼすという事も忘れるな?」

 

「!」

 

「お前、前に言っていたよな。近親相姦で子を成し世に送り出したと。つまり、その行為の相手すらも殺さなくてはいけない。それが、お前の理想だぞ?できるのか?」

 

 私に親族殺しができないとでも思っているのか、エンプーサはヤケに真面目な顔で重々しく言った。それが可笑しくて堪らなくて……思わず笑った。

 

「ぷっ!あっはははははは!!何よそれ、ねぇ!?え、何?エンプーサ?私に、親族が殺せないとでも思ってるの!?」

 

「いや……お前の事だし、仮に親族は殺せても行為の相手は殺せないと思うんだ。ほら、短期間とはいえ子育てもしたろ?男にも感情が湧くだろ?」

 

「あんたに私がどう見えてんのか知らないけどさ、もし本気でそう思ってるなら、エンプーサ……あんた私の何を見てきたの?」

 

「ッ……!?」

 

「私、愛なんて知らないから。未熟だった頃の私の魅了(チャーム)に負けて、子種をブチ撒けるようなゲスに……、愛着なんて、湧くはずないでしょ?」

 

「……」

 

「産むなりすぐに次を求めてさ。バッカじゃない?次なんてねーよって。『あんたは道具。私が頂点に立つ為の道具でしかないのよ!』……って言ったら、凄くブチギレてさ。無理矢理、襲われた」

 

「抗えなかった、のか?……それとも未遂か?」

 

「未遂よ。すぐ殺したもん。それを知った親族は、私の計画を止めようとしたし、追放しようとした。だから殺した。どちらにせよ殺すつもりだったけど早まったのよね。暗殺から正面からの戦闘に」

 

「……」

 

「だからモルモーちゃんの経験人数は1人、回数はたったの1回。もう一生、交尾しないでしょうね。あんな気持ちの悪い行為、二度とゴメンだわ。私はあなたが羨ましいわよエンプーサ、交尾を楽しめる感性があるんだから」

 

「交尾とか言うな。スィヌスィアと言え」

 

「はいはい、夢魔のエンプーサちゃんは真面目ね。私は自分が吸血鬼界の頂点に立てればそれでいい。それでいいのよ……ッ」

 

「……モルモー?」

 

「……」

 

「……性の喜びを知ろう」

 

「そンなモン、知らなくていいわよ。トップに立つ喜びだけを知りたい。だから私、旅に出るわ」

 

「……本気、なんだな」

 

「ええ。とりあえず、ヴァンパイアハンターとしてその土地その土地に潜伏する。目的情報がある所を徹底的に捜索して、一族郎党皆殺し。鏖殺してやるだけよ」

 

「そうか。ならば、もう止めやしない。そもそも、家族を殺した時点でお前はもう戻れないところまで来ていたのかもしれない。それなら、私が止めても今更だものな。そうだろ?」

 

「ええ。やっぱ分かってるじゃない、私の事」

 

 私は永遠に1人ぼっちだと思ってたけど、多分、もしかしたら、そうでもない……のかもしれない。

 でも私とエンプーサは吸血鬼と夢魔。夢魔の寿命とかは知らないけれど、きっといつかは別々の道を歩む事になる。というより今この時から別々の道に向かう事になるかもしれない。

 今が、今生の別れかもしれないなら────。

 

「────」

 

「ん?どうしたモルモー、ブツブツ呟いて……」

 

「……んーん、何でもないっ!またね、エンプーサ!またどこかで会えたら、その時はヨロシク!」

 

 時間を止めて、エンプーサにそっとキス。多くの血を吸って、多くの人間やその他を殺して汚れた、私の手。直接彼女に触れるのは、どこか申し訳なく思えたから。

 

 

 ◆

 

 

 各地を放浪して、かなりの年月が流れた。昨日はルーマニアのヴラド三世やその眷属、子孫を殺し、今日は彼と敵対しているオスマン帝国に来ている。

 なんでもオスマン帝国では、彼に抵抗する為に、世界各地から吸血鬼を集めて吸血鬼部隊を作ったと言われている。目には目を、吸血鬼には吸血鬼を、という事だ。何とも浅はかで────無謀だ。私に屠られるという事も知らずに。

 

「あの……門兵さん?」

 

「何だ、フード女。ここは吸血鬼部隊の中継地だ、関係者以外は立ち入り禁止だ。ほら、どっか行け。ここらは戦場になるぞ、女子供は逃げるんだな」

 

「私をこの部隊に入れてほしいの。私も吸血鬼で、ヴラドには個人的な恨みがあるから」

 

 もう殺したけれど、昨日の今日だからか、情報はまだ伝わっていないらしい。監視を設置するとかはしていなかったのだろうか。

 牙を見せると、門兵はニヤリと笑った。念の為にデイウォーカーなのは一応、隠している。その為のフード付きコートだ。

 

「……!ははーん……それなら待っていろ、上に話を通してくる」

 

「お願いしますっ♡」

 

 なーんて、素直に待つはずがない。門兵が背中を見せた瞬間に私は霧になる。門兵についていく形で侵入に成功した。

 この門兵は本当に吸血鬼部隊の隊長に話を通してくれるつもりだったらしい。しめしめ、とその場で実体化。ボス含め、その場に居た全員が驚いたのは言うまでもない。

 

「うわああああああっ!?どど、どこから来た!?お前、待っていろと言ったろう!斬り捨てられても文句は言えないぞ!」

 

「関係無いわ、私、死なないし。……ね、お兄さん、あなたがここの隊長さんかしら?なんか、偉そうにふんぞり返ってるけど?」

 

「……だったらどうする」

 

「この部隊さ、世界中の吸血鬼を集めて構成されたみたいな話を聞いたんだけど、それって本当?」

 

「そうだ。我が情報網は、世界各地に及んでいる。だが、ギリシャは……吸血鬼の情報が、これと言って入ってこないのだ。我が祖先はギリシャの者だ、と聞き及んでいる。故に存在するのは確実なのだが」

 

「うふふっ……それはそうよ。だって私、ギリシャの吸血鬼をほぼ皆殺しにしたもん」

 

「何っ?」

 

「世界中の吸血鬼を集めてくれて、ありがとうね。お陰で私の目的が早めに達成できそうよ♡」

 

「何を言っ────」

 

 時間を止め、ナイフを1人につき1本ずつ刺す。それだけで死ぬ。吸血鬼なんて、こんなモンだ。

 私や私の親族は、銀なんて弱点は無かった。でもどこかで余計な血が混ざったか、現存する吸血鬼は揃いも揃って銀が弱点らしい。銀のナイフを、胸に刺す。それだけで勝ててしまう。

 

「はぁ……。まぁた子孫、うっかり殺しちゃったか。ま、いっか」

 

 試しに血を舐めてみると、なんと部隊の隊長は、子孫の1人だった。先祖がギリシャの者という話も本当らしい。しかしそれでも、だ。それでも、日光以外の弱点なんて、そんなのは認められない。

 

「き……さ、ま…………!」

 

「ん?生きてる?へぇ、さっすがモルモーちゃんの子孫、強いんだねェ。死に際なとこ申し訳ないけどあんたの名前、教えてくれない?」

 

「いい、だろう……!名を、知り……我が血族達を……殺す、つもりか……!貴様が、死ぬ、だけだ……!」

 

「いいから早く言いな、家族に私を殺してほしいんでしょ?」

 

「我が名、は……ヴァルディン・スカーレット……!我らスカーレット家を、舐める……な、よ……!!」

 

「スカーレット?……ふーん、姓を持ったのね」

 

「本家の、者は……こんなもの、では、ない…………!我がスカーレット家は…………我が分家、もう1つの分家、本家の三つからなる、巨大な、巨大なッ……血族による、組織だ……貴様、なん……ぞ…………」

 

「あ、死んだ。……ふーん。スカーレット家、ねぇ。でも分家とかだと養子のパターンとかたまーにあるからねぇ……。でもま、一応の参考にはなるかもね。ありがと、ヴァルディン」

 

 

 ◆

 

 

 そんなこんなで吸血鬼狩りを続けて、更に数百年経過した。弱すぎる子孫も含めて、強い子孫以外は殆どの吸血鬼を殺し尽くした。いい機会だからと、ギリシャに里帰りでもしようかな、と思っていた。そんな折に、ヘカテー様から別れを切り出された。

 脳内通信だったから直接会ってはいない。

 慌ててギリシャに帰って、エンプーサ、ラミアと合流。そこに、クラウンピースの姿は無かった。

 ニンフは自然が死滅するまで死なない。そして、クラウンピースは地獄のニンフ。つまり地獄が存在する限りは死なない。

 それらの意味するところ────ヘカテー様は、クラウンピースを連れていった、という事だった。

 当然、クラウンピースへの嫉妬心も湧いてきた。だけど、それ以上に、ヘカテー様をして「面白い」などと言われた吸血鬼が気になって仕方なかった。

 そこで私は、吸血鬼狩りをしていた頃の情報網を駆使して、幻想郷なる世界を知っている吸血鬼を、遂に突き止めた。それこそが、現在のこの世界ではトップクラスの実力者と謳われている男の吸血鬼、クレイドール・スカーレット。嘗てオスマン帝国に仕えていたヴァルディン・スカーレットの血縁だ。

 因みにこのスカーレット家については、情報網を駆使してもロクな情報を得られなかった。せいぜい

「クレイドールは強い」くらいで、分家か本家か、キチンと私の血を継いでいるのかも、この時点ではよく分からなかった。

 分家と分家と本家で交配をしているらしく現代の吸血鬼にしては強いらしい。純血に近いからだ。

 

「てなワケで、スカーレット家に凸るわよっ!私についてきなさい、エンプーサ!」

 

「はぁ……?スカーレット家と言えば、実在するかも不明な吸血鬼の名家……なんだろう?潰すのならまたお前1人で行けば良いだろう」

 

「違うわ、情報を探りに行くの。情報によればぁ、クレイドール・スカーレットってのがヘカテー様の居る幻想郷に行って、帰ってきたらしいのよ。で、そこで男吸血鬼に負けたって」

 

「なっ……クレイドールだぞ?吸血鬼については疎い私ですら知っている強者だぞ。それを倒すだと?」

 

「ね?ヘカテー様が言ってる吸血鬼って、もしや、クレイドールを倒した吸血鬼なんじゃないかな……?そう思ったのよ」

 

「……成程、それは有り得そうだな。だが居場所は?居場所を知らなければ使者も飛ばせないし自ら赴く事すらできない」

 

「問題ないわ。突き止めるのなんて簡単。あなたはついてくる?ついてこない?」

 

「無論だ」

 

「んふっ♡ おっけー♡」

 

 

 ◆

 

 

「お前か、俺様に会いたいと宣っていた吸血鬼って奴は。まァ、楽にしろ」

 

(このクソガキ、態度だけデカイのね〜……1000年も生きてないでしょ、このガキ。ホントにこんなのが強いワケ?モルモーちゃんが吸血鬼を軒並み殺したお陰なんじゃないの、コイツが有名なのって?)

 

「で?幻想郷について知りたい、だったか?」

 

「ええ、そうよ。教えてくれる?」

 

「断る。……お前らは、そこの吸血鬼に会うのが目的だろう?だがあそこの吸血鬼は全員俺様のものだ。従姉妹レミリア、そしてフランドールは俺様の嫁。それの彼氏を名乗りやがる吸血鬼・エスカルゴは、次こそ俺様の手でブチ殺す……!!奴らは俺様の獲物だからな、お前らには何の情報もやらねえ!」

 

「じゃあ狙わないから。てか、異界なんでしょう?私にもエンプーサにも、異界に入る技術は無いわ。戦う事しか能がないから。知識欲を満たしたいの。それだけよ」

 

「ふん。……幻想郷は、ここより遥か東の国、日本にある結界に閉ざされた世界。そして俺様の従姉妹のレミリアが本家の当主で、紅魔館という館を、湖のほとりに構えている。俺様もまた、スカーレット家分家の当主だ。ここに居る俺様の配下は眷属だぞ」

 

「……分かった、もういいわ。幻想郷が実在する事、男吸血鬼が存在する事さえ分かればそれでいいわ」

 

「……!待て、やっぱり狙うつもりだろう!?俺様の獲物だ!横取りは許さねえ!!」

 

「うっさいわ、ガキ。負け吸血鬼のクセにキーキー醜く喚いてんじゃないわ、カス」

 

「ッ……!?オイお前ら、アイツらを殺せッ!!」

 

「オイ、モルモー!何煽ってんだクレイドールを!勝てるのか!?」

 

「勝てるけど、とりあえずここは逃げとくわよん、エンプーサ♪」

 

 時間を止めてエンプーサと館を抜け出してきた。もしここでこのガキを殺せばクレイドールを倒した更なる実力者として有名になる。それは、私の本意ではない。だから敢えて殺さずにいた。鏖殺して、目撃者そのものを無くすのも良いが……万が一の事がある。

 そして、生意気なガキだからか、私の血を継いでいるかどうかは最早どうでも良かった。確かめるに値しないとすら思えたから。

 

《えっ?クレイドールが戻ってこない?》

 

《そうです、ご先祖様。実は私共も、眷属を使ってクレイドールを見張っていたのですが……結界の穴を通り抜けた以降は帰ってくる気配を見せないと》

 

《……ふーん。幻想郷の吸血鬼に殺された、かな?》

 

《恐らくは。どうなさいますか……?》

 

《やめときましょ。これきり、クレイドールの事は忘れて、こっちはこっちで平和に繁栄しましょう。

スカーレット家は滅んだ(・・・・・・・・・・・)。そういう事よ》

 

《はっ。承知しました》

 

 クレイドールが幻想郷に行って、戻ってこない。それはつまり、彼の死を意味していた。

 子孫からの報告でその事を知った私は、ラミアやエンプーサに再度声を掛け、幻想郷に侵入する事に決めた。ヘカテー様が目を付けた吸血鬼を殺して、私達を捨てた事を軽く後悔させたよう、と言って。真の目的は、その吸血鬼を私に従順になるよう躾け惨たらしく殺す為だった。

 それから私は眷属を増やす事に力を注いだ。大体5000人くらい居ればそれでいいはずだ。テキトーに育てて、エスカルゴを探す為の駒にしよう。

 子孫によれば幻想郷を覆う結界には穴があって、クレイドールはその穴を通って幻想郷に到達した、とのことだった。けれどそんな穴を探すのは面倒に思えたので、無理矢理にこじ開けた。

 そこで、遂に出会った────。

 

 

 ◆

 

 

「ま、そんな事があったから、私は幻想郷に来る前から、幻想郷の吸血鬼=モルモーちゃんの子孫って考察をしてたの。クレイドールからもそれらの旨は聞いていたから、レミリアとフランドールの彼氏のあなたはモルモーちゃんの子孫じゃない、つまりは殺戮対象って決めてた……ってワ・ケ!まさか細胞、血を継いでたなんて思わないしィ?」

 

「あはは……成程ねぇ……」

 

「で、あなたから見てクレイドールってどうなの?強かった?」

 

「うんにゃ、口だけ。雑魚だよ」

 

「あはっ!やっぱそうよね〜!雑魚は雑魚らしく、大人しくしてりゃいいってのに、私が吸血鬼狩りで余分な吸血鬼を減らしたからか何か知らないけど、アイツがふんぞり返っててさー。バッカみたいね」

 

「はは……モルモーも言うねぇ」

 

「ふふっ、そうでしょ?……これで私の話はおしまいだけど…………どうする?」

 

「エッチしよっ!」

 

「うふふっ、待ってました♡♡」

 

「モルモー、フォーリンラ〜ブっ♡」

 

「きゃー♡ もーっ、ガッつきすぎぃ♡」

 

 少しは、彼女の事も知れたと思う。満足だ。まだ気になる事もあるにはあるが、それは追々、彼女に聞いていく事にしよう。

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