一時的に魔界へと里帰りした俺は、今となっては実家になっている、魔界の最奥のパンデモニウムでまったりしていた。
ゴロゴロして妹と魔導書を読み、あれやこれやと議論しては休憩したり、軽くイチャついたりした。抱き合ってみたり、足を絡めたり、顔の周りを撫で回してみたり、胸や秘部を露出、刺激しない程度に楽しんでいた。
「ふふっ……あはははっ、くすぐったいよぉ♡ もう、お兄ちゃんってばぁ…………ふーっ♡」
「うぉうっ……」
フーッと耳に息を吹きかけてみると、肩を竦めて擽ったがるが、仕返しとばかりにやり返してくる。本当に、本当に可愛い。娘とはまた違う背徳感や、ドキドキ感を味わえる。
「2人共〜、そろそろオヤツに……あら、お楽しみ中だったのね、ごめんなさいね」
「きゃっ!?」
「うわわ待って母さんっ、オヤツ食べるよっ……別にお楽しみ中だったワケじゃないから!」
「ふふっ、照れなくてもいいのに♪」
手を繋いで慌てて部屋を飛び出す。イチャつきは母さん公認だが、見られたり見られそうになるなら話は別だ。俺も恥ずかしいし、何よりロリスが近頃羞恥心を覚えたので、彼女の為でもある。
「テラスに用意してあるから、行きましょ♪」
「オッケー」
「わかったっ!」
「……ところで母さん。アリス見てて思ったんだけどアリス姉ちゃんと夢子ってどんな子供だったの?」
「あっ……私も気になるっ!」
「アリスちゃんは、こっちのアリスちゃんとあまり変わらないわね。魔法の訓練にお人形遊びにお菓子作り。瓜二つとまではいかないにせよ、同じだわ。夢子ちゃんは……ねぇ…………んー…………」
「……お母さん?」
「母さん?」
答えに詰まり、そのまま無言でテラスへ向かう。少し様子がおかしいなと思いつつ、俺もロリスも、大人しくついていく。
テラスでは夢子が菓子類の準備をしていて、すぐ食べられるような状態になっていた。
「お待たせ〜夢子ちゃん、準備ありがとうね」
「いえ」
「……ところで夢子ちゃん」
「はい?」
「2人がね、あなたの過去を知りたいって」
「……!そ……そうですか……『あの事』を……。それで神綺様は……」
「まだ言ってないわ。あなたの過去を話すにはまずあなたの趣味嗜好を含めなきゃ成り立たないしね、とりあえず許可を取ろうと思って」
「そうですね……やはり恥ずかしいですが……2人のお願いとあらば……。大丈夫です、神綺様」
「そう?それは良かったわ。それじゃ……、2人共、一度しか言わないからよく聞いてね」
「うん!」
「はーい」
◆
私が夢子ちゃんを生み出したのは、魔界創設から間も無い頃だった。魔界人の観察にも飽きたから、私の話し相手、戦闘相手の為の最強格の魔界人が、夢子ちゃん創造の時のコンセプトだった。
性格は私に従順。だけど、完全に従順だとそれはそれでつまらないだろうから、不完全な従順に、と性格を定めた。
見た目は美しく。大きな胸は、戦闘する上で邪魔だろうと思ったから少しだけ控えめ。肉体も少しは成長するようにした。今は幼女だけれど、数百年も後には少女になるように設定した。
すぐにでも戦いたかったから、戦闘技術は元からある程度は成熟させておいた。勿論、成長の余地は十分に残して、ね。
そして私は「創造」の力があるから、その一部を夢子ちゃんにも与えた。それが今もよく使っている能力。名付けていないけど、敢えて名前を付けるとするなら《刀剣を創造する程度の能力》かしらね。
でも夢子ちゃんには1つ、大きな欠陥があった。
「ただいま戻りましたー!」
「夢子ちゃん!あなたって子は、街の人を斬ったんですってッ!?ユキちゃんとマイちゃんから連絡が来たわよッ!!」
「……?戦っただけですよ?」
「嘘おっしゃい!一方的に斬り掛かったんでしょ!あなた、街の方では『通り魔夢子』の名で通ってるらしいじゃないの!」
「あ、はい!街の人達がそう呼んでくれます!」
「意味が……分かってないのっ……?」
「通り『魔』ですから……凄くカッコイイってことは分かります!それに、人を斬るとキモチイイので……えへへへへっ……♡♡」
「……いい、夢子ちゃん?」
「はい?」
「人を斬るのは……殺すのは、良くない事なのよ」
「……え?」
「お家に攻めてきたり、あなたを襲ってきた誰かを殺すのは構わないわ。でもね?何もしていない街の人を殺してしまうのは、絶対にいけないことなの。悪いことよ」
「悪い……こと……」
「そう、悪いこと。悪いけどあなたをそういう子に育てた覚えはないわ」
「ッ……夢子はっ……悪い子、ですか……。悪い子は、私が、倒さなきゃ……ですね……っ!」
「夢子ちゃんっ!?」
夢子ちゃんはナイフを創造すると、それを震える手で自分の喉に突き刺した。すぐに回復させようとしたけれど、ダメだった。私の力でも夢子ちゃんの回復は間に合わなかった。
だから回復じゃなくて蘇生した訳だけど、その時少しだけ精神構造をイジったの。
その結果、通り魔で辻斬りな夢子ちゃんは死に、今の夢子ちゃんが生まれたの。同一の肉体を持つ、別人格の夢子ちゃんが、ね。
どうして「上書き」しなかったか?だって、ただ従順だとつまらないのと同じことで────普通の従者なんて、つまらないでしょ?
だったら何かしら遊び心を加えた方が、この子も私も、楽しく過ごせそうだものね。
◆
「じゃあ……今の夢子は……」
「恐らく二重人格。あの頃の夢子ちゃんは、意識の深層に追いやられてるから、多分もう出てこないと思うわ。今の夢子ちゃんの自我が強いからね」
「でもさ、母さん。二重人格なら……ふとした拍子に出てくる事も有り得る……よね?」
「……かもね♪」
しかし、その自我すらも創造されたモノなのか。そう思うと少し複雑だ。夢子はこの話を終始真顔で聞いていたが、何を思っているのだろう。
「でも……何で、お母さんは、悪い方の夢子の人格を消さなかったの?」
「だって、勿体ないでしょ?」
「勿体ない……?」
「確かにあの夢子ちゃんは悪い事をした。でもね、それだけであの子の全てを否定したくはないのよ。それに、一緒に過ごした時間は楽しかったからね。あの子も確かに私の子なの。私だけじゃなくって、夢子ちゃん本人にもそれを覚えていてほしかった。だから、別人格という形にして、『思い出』を保存しているの」
「そう……なんだ…………………そっか……」
少し間を置いて、小さく頷いたロリス。彼女は、母さんの理屈に納得したようだ。俺はというと……、やはり少しだけ疑問を抱かずには居られないが。
母さんの言いたい事は何となく分かる。しかし、どこかズレているような気もしなくもない。何故、そのように感じてしまうのかは分からない。けれど確かにそう感じるのだ。
「夢子は、自分にもう1つの人格がある事についてどう思ってるワケ?」
「特に何も」
「言葉に表すと?」
「『ああ、そうか』……ですね。別人格がある事も、私は前から言われていました。しかしどうでもいいというか、何というか。私は私ですので」
「……自分の事に興味が無さすぎない……?無理して興味持てとは言わないけど、自分についてだしさ、もう少し関心を持った方が良い気がする」
「そういうものなのですかね……神綺様はどのように思われますか?」
「うん、良いんじゃないかしら。別人格とはいえ、自分を見つめ直すというのも大事な事よ」
「そうなんですね。分かりました」
もしこれで夢子の別人格が表に出たら……その時はどう対応したものだろう。「死者葬送」で分離させ旧夢子のみ成仏させるのも有りだろうが、それは、母さんの意思に反する事だ。
封印するのもいいが片方の人格のみ封印だなんて器用な事、俺にはできない。絶対に無理だ。
……いざの時は、対処こそ俺がやるとしても処置は母さんに任せる事にしよう。