《カルちゃんカルちゃん!聞いて聞いてっ!》
《……真夜中なんですけど……どしたん母さん……》
《あの後、夢子ちゃんが自分を見つめ直した結果、人格交代できたのよーっ!》
《は?……えっ、それって良い事なの?》
《アリスちゃんと仲良くしてるわっ!通り魔夢子は今の所なりを潜めてる。大丈夫だと思うけどね……。それにしても凄いわね、その日の内に目覚めるとは思わなかったわ!この夢子ちゃんが懐かしくって、つい涙ぐんじゃった……》
《そっか……》
《で、記憶はどうなのかって所だけど、試しに色々聞いてみたら、今の夢子ちゃんの記憶は、ちゃんと共有されてるって事が分かったわ。だってこっちの夢子ちゃんはアリスちゃん、あなたと顔を合わせた事はないし、存在すら知らないものね》
《そうだね。……そっかぁ、そっちの夢子も俺の事は知ってるんだね。明日、会いに行ってもいい?》
《ええ構わないわ、会いに来なさい!》
旧夢子は現夢子の記憶を持っているのに現夢子は旧夢子の記憶が無い。随分バランスが悪いものだ。そこは「どちらも記憶がある」か「どちらも記憶が無い」か「どちらも薄らとしか記憶がない」の方が収まりもいいし、バランスも良いだろうに。
さて、幼女通り魔夢子は果たしてどんなキャラをしているのやら。
◆
「……うーん、これは予想外」
「あははははっ!お兄ちゃん、おっきぃ〜〜〜!」
次の日、また魔界に遊びに来た俺は、夢子に酷く絡まれていた。夢子は、元から比較的高身長だが、俺はそんな彼女に抱きつかれて振り回されている。見た目がいつも通りなだけに違和感が酷い。
「身長、そんなに変わんないだろう……夢子、結構な高身長だし……」
「でもでも、お兄ちゃんの方がおっきぃよ!」
「分かった、分かったからお兄ちゃんはやめなさい夢子……違和感が仕事しまくってるから……」
「え〜?どーしてどーしてー?」
聞いていた話と違う。幼い頃から、通り魔以外は普通の従者だったと聞いていた。なのに何だ、この甘えっぷりは。予想とも話とも違うではないか。
《久しぶりに出てきたから嬉しいみたいよ。ずっと夢子ちゃんの中で意識だけはあったみたいだから……その反動で甘えん坊になったらしいの。昨晩は私にベッタリだったしね》
《意識だけあったのか……だから記憶も共有してる?とかいう事態になってるのか》
《そうみたい。でも新しい方の夢子ちゃんの意識は感じられないから、この記憶は旧夢子ちゃんだけの記憶になるのでしょうね》
《その方がいいよ。今の夢子にこうして俺と絡んだ記憶が残ったとしたら……どんな顔して会えばいいか分かんなくなるし》
《ふふっ、それも面白そうね。それでカルちゃん、この夢子ちゃんと何処まで進むつもり?》
《進む?…………いやいやいやいや何もしねーよっ!抱きつかれてるだけで十分!じゅう〜〜〜ぶんっ!何だよこのフワフワおっぱいは!ムラムラするよ、こんなの押し付けられてたら!今にも襲いたくなるくらいには凄いムラムラしてる!》
《抑えられて偉いわ。カルちゃんと夢子ちゃんまでそんな関係になったら、後はお母さんだけだもの、心細くなっちゃうもの》
《そういう問題っ!?》
《そういう問題よ。仲間外れは良くないもの》
《……》
旧夢子の人格を残しておいた時点で、いやもっと前から察してはいたが、母さん、どこかズレているような気がする。神として見る場合、これが普通……なのだろうか。
諏訪子とも神奈子様とも全くタイプが違うので、察しようにも察せない部分が多々ある。もしや俺が少しズレているのは母さんの影響もあったりするのだろうか。良くも悪くも……。
「ダメ夢子っ!お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの!夢子のお兄ちゃんじゃありませんっ!」
「あ!それはダメですアリス、私のお兄ちゃんでもあるのですから、独占は許しませんっ!」
ロリスが夢子に食ってかかると、夢子はギロリと彼女を睨み、俺の腕を抱えて反撃する。
ロリス相手に話す時は、お嬢様に対する口調と、姉妹としての口調が混ざっているらしいが、俺には兄に対する口調にしか向けてこない。普段の、少し執拗いくらいの坊ちゃん扱いは何処へやら、だ。
そもそも年齢的には夢子の方が圧倒的に歳上なのだから、俺を兄扱いするのは無理がある。いいや、寧ろ無理しかない。レミリアやフランが俺を兄呼びするようなものだ。無理しかない。
「夢子の方が俺から見たらお姉ちゃんなんだけど、そこら辺はどう考えてるのさ?」
「妹でいい!こっちのアリスはもっと妹であっちのアリスはお姉ちゃん!お兄ちゃんはお兄ちゃん!」
「ワケがわからないよ」
夢子が長女だろうに一体何を言っているのやら。フランとレミリアは自分が歳上なのを分かっているので、俺を弟扱いするが……それに慣れていると弟やロリス以外から兄扱いされるのはどうもムズ痒い。
「いいから夢子はお兄ちゃんから離れてっ!」
「やーだっ!お兄ちゃん、不老不死なんでしょ!?斬っていい!?斬っていい!?」
「うん!?興味あるのそっち!?」
「うんっ!勝手にその辺の人を斬っちゃダメなのは分かるけど、お兄ちゃんが『いいよ』って言えば、斬ってもいいと思うから……!」
「ダメだよ夢子っ!」
「アリスは黙ってて!」
「……いいよ、斬っ────」
「どりゃあっ!!」
「きゃあああああ!!お兄ちゃん!!」
躊躇いが無さすぎて逆にビビる。斬ってもいいと言おうとしたその瞬間、首が飛んだ。満面の笑み、しかも目をキラキラ輝かせながら俺の首を刎ねた。
夢子は俺の頭を拾い上げ、ギュッと抱き締める。数秒後、その頭も含む肉体は消え俺は復活するが、俺が何か口を開く前に、夢子はリスキルしてくる。
「はぁっ……はぁっ……♡ あははぁ♡ ゾクゾクする……うふふふふっ……♡」
「やめて夢子ッ!!」
「!」
リスキル四度目にして耐えきれなくなったらしいロリスが叫んだ。夢子の動きはピタリと止まって、俺はロリスの思いを汲む為にも少し離れた所で復活する。
「アリスっ……だ、だって、お兄ちゃんがいいよって言ってるんだし……」
「もうやだよぉ……お兄ちゃんが斬られるとこなんて見たくない……!うぅ、うえぇぇぇん……」
「え、ちょっと……泣かないでアリスっ……どどっ、どうしようお兄ちゃんっ……!」
「これで分かったろ?こういう事は良くないって」
「え……?でも……お兄ちゃんはいいって……」
「ああ、OKを出した。でもアリスはどうだった?アリスはハナからそれらについて反対してたろう?
『自分』と『相手』だけじゃなく、それ以外の人の気持ちも考えて行動するのが大事なんだ」
「っ……う、ん…………分かった、もう気を付ける……。ごめんなさい、アリス……」
「ん……いいよっ……」
「……えへへ……良かった……!」
◆
「なんつーか……初めて子供の相手に疲れた……俺の子供達ではまるで見られない流れだからさ……」
「フフ、お疲れ様、カルちゃん」
「かなり荒療治だったけど、アレでいいの?アリスなんかは泣いちまったし……その、トラウマとかにはなってないかな?大丈夫……だよな?」
「大丈夫よ、アリスちゃんは強い子だから」
「そ、そう……」
「これで……あなたのお陰で、こっちの夢子ちゃんも徐々に常識を覚えてくれるはずよ。ところでヤケに静かだけど、2人はどこに?」
「外で遊んでるよ。夢子には竹刀を持たせてる」
「そう、それなら安心ね。……ありがとうね」
「いいんだ。
「うふふっ……そうよね、今は夢子ちゃんにとってもお兄ちゃんだものね♪」
「あと少ししたら今の夢子に戻るのかな。さてさてどうなる事やら、だね」
「そうね。でも、あっちの夢子ちゃんも凄く可愛いでしょ?」
「うん。きっと、昔から無邪気な子なんだろうね。そういう子供は大好きさ」
「これからも頼りにしてるわ、お兄ちゃん♪」
「任せて、母さん」