「突然だけど、悪魔による会合を開こうと思うの」
「藪から棒にどうした」
「あなた、顔が広いでしょ?だから、各地に悪魔の知り合いが居る。そんな悪魔達を利用してこの私の名を広め、支配を磐石なものとしたいの」
「支配してないよね?」
「いいからそういう事にしてよ。細かい指摘をする男はモテないわよ」
「はいはい」
レミリアは悪魔の頂点は吸血鬼だと考えている。確かになと思わなくもない。弱点は多いが、その分とてつもない戦闘能力があるし、様々な技能をほぼデフォルトで備えているからだ。
モルモーは現存する吸血鬼の始祖な事もあって、現代の吸血鬼にある弱点は何一つ存在しないというチートだ。彼女曰く、「世代交代する過程で余計な血が混ざったんだと思う」との事だった。
「会合の期日は一週間後。何を話すかもまだロクに考えてないけれど、とりあえず、悪魔の頂点が我々吸血鬼という事を知らしめるのが真の目的、とだけ伝えておくわね。因みに、パチェによるとその日の夜は満月よ」
「分かったよ」
「純粋な悪魔を呼んで」
「混血を含めたら俺の子供は全員だもんな。了解、今から招集の旨を伝えてくるよ」
「ええ、お願い」
◆
「よっ、くるみ♪」
「お兄さんっ……!久しぶりっ!」
「ああ、ちょっと久しぶり。元気してた?」
「ええ!たまに夢月や幻月と口喧嘩はしたけど!」
ぎゅむっと抱き着いてくるくるみは、相変わらず良い匂いだ。ロングの金髪を指に絡ませながらサラサラと撫で、動物のようにスンスンと匂いを嗅ぐ。
少し汗の匂いが混じった少女の匂い。外で門番をしているからかそれなりに汗をかいているようだ。
「相変わらずだな……。ちょっと皆に話があるから、エリーも含めて、中に入ってくれるか?」
「え……でも門番しないと……」
「分身を置いとくから大丈夫だよ」
「はぁーい」
思えば、夢幻姉妹は手が早いタイプだ。なのに、そんな2人と「口喧嘩」で済んでいるという事は、あの2人も、少しは口で解決するという事を覚えたらしい。
俺としては嬉しい限りだ。
「こんちはー、来たy……」
「ダァァァリィィィィンっ!!」
「ふぎゃっ」
玄関を開けた途端、幻月に飛びつかれ、そのまま押し倒されてしまった。彼女は俺の股間……いや腹に馬乗りになっていて、ムニムニムニムニ、俺が子や彼女達にやるように両頬を揉みくちゃにしてくる。
「もー!もぉーっ!地底で戦ってから、全然会いに来てくれないじゃないのよーっ!夢月はテキトーに山を破壊しようとするし、私はムラムラするしで、ホント禁断症状が出る一歩手前だったんだからね!分かってるゥ!?」
「あ、ああ、すまない……許して?」
「来てくれたから許すわ!……って、なんでくるみ?エリーまで……」
「悪魔達にちょっと用があって」
「悪魔……なるほどねー、でもエリーは悪魔じゃないハズだけど?」
「え?」
「エリーって、一応、括りとしては妖怪……だよね?悪魔ではないと思ってたけど……違ったっけ?」
「うん、悪魔……とはまた違うね」
「えっマジで!?俺、今までエリーの事も悪魔だと思ってたわ。すまん!」
「別にいーよ、悪魔に囲まれてる中で悪魔じゃない私が居るのが逆におかしいくらいだしね。そういう事なら私は外に居るね。お兄さん、ごゆっくり♪」
「あ、うん……」
「ほらダーリン、夢月が紅茶を淹れて待ってるわ、早く行きましょっ♡」
「はいよ」
「ちょっと幻月、私もお兄さんとくっつくのっ!」
「うっさいわねー……片腕だけよ!」
「はいはーい♪」
幻月が、独占せず譲歩した。これは、嬉しいやら悲しいやらだ。喧嘩しないのは平和だし、嬉しい。しかし独占されなくなるのもこれはこれで悲しい。面倒な性格だと自分でも思うが、やはりどうしてもそう感じてしまう。
「いらっしゃ〜い。お兄さんの好きなアールグレイ淹れたよー」
「サンキュー、夢月。んじゃ早速、本題に入るね。レミリアが悪魔だけを集めた会合を開きたいそう。んで、その参加者を募ってるワケよ」
「レミリアぁ?別に行ってもいいけど、会合って?何か話し合いでもするならパスするわ、そういうのダルいもん」
「そーね、姉さんの言う通り」
「私は行くよ、お兄さんも参加するなら!」
「イイね、くるみ。俺は勿論参加するよ。だから、できれば幻月と夢月にも来てほしいかな〜……って、思ってるよ」
「「うーん……」」
「無理強いはしない。希望だけ聞かせて。今すぐに決めなくてもいいから」
それからも暫く悩み抜いた2人。最終的には首を縦に振ったワケだが、レミリアが主催だと、参加を迷ってしまうらしい。恋人でも家族でもないのに、圧倒的年下に主導権を握られたくない……とのこと。俺には正直よく分からないが彼女達なりのプライドなのだろう。
「満月の夜っていうのも気になるね。それ吸血鬼が最も力を発揮する条件じゃん。会合と称して、皆でバトルでもするんじゃないの?」
「……あ、でもそれフツーに良くない?そうすれば、レミリアを倒して私達の強さを分からせるとかさ、できるじゃん!?」
「その時は私がレミリアと戦うね♪」
「えー?そこはお姉ちゃんの私でしょ?姉対決よ。だってレミリアってお姉ちゃんじゃん」
「だからこそだよ。姉さんの方が私より強いから、姉さんより弱い私がレミリアを倒した方がいいよ。だってそうすればレミリアの中で『幻月って悪魔はコイツより強いの……!?』ってなるじゃん!?」
「あっはは、それも面白そ!」
「でしょー♪」
まさに悪魔。支配や束縛を嫌い自らの力を誇示。例え相手が年下だろうとも。いや、年下だからこそかもしれない。
俺も、ひとつ間違えれば2人から見てこのようにされていたかもしれない。そう思うとあの時幻月に勝てて良かったと冷や汗ダラダラになる。
「幻月も夢月も物騒ね〜。ね、お兄さんもそう思うでしょ?」
「……まぁねぇ。でもま、悪魔だし、多少はね……」
「多少、なのかなぁ」
夢幻館の悪魔の中では、やはりくるみが俺に近い感覚の持ち主らしい。同類がいると感じたからか、少しだけ安心してしまう。
「今更なんだけどさ、ダーリン?吸血鬼って悪魔の一種じゃん?悪魔って他にどんな種類がいるの?」
「そこはさ、俺より圧倒的お姉ちゃんの幻月の方が詳しいんじゃあねぇの?」
「いやー……私達、夢幻世界に引きこもりだし、少し魔界に遊びに行く程度だから……世間の事については疎いっていうか……」
「だから、何なら圧倒的子供のお兄さんの方が色々詳しく知ってると思うよ」
「成程ねぇ」
圧倒的子供のお兄さんとかいう矛盾の塊しかない謎の言葉は置いといて、2人の言う理由は納得だ。外の情報が入ってこない世界に居たり、ほんの一部でしか活動しないというなら情報に偏りは出るし、無知なジャンルがあっても仕方ない。
「俺もそこまで詳しくないけど、神が悪魔、天使が悪魔に成るってのはあるみたい。『名は体を表す』なんて言葉があるだろ?神としての名前をイジられバカにされたりすると、神としての力が失われて、悪魔になるんだと。天使の場合は、神に逆らって、戦いを挑んで負けると悪魔に成る。神には、対象を悪魔に変える力があるんじゃねーかな」
「『名は体を表す』を地で行くのね。でもそれってどーゆー理屈なの?」
「それは分からん。……かつて、バアル・ゼブルって神様が居た。そいつを主神とする宗教があってさ。でもその宗教の儀式とかをよく思わない他の宗教の信者共が、主神バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと呼んで蔑んだ。蝿の王だとか、そういった汚い意味らしい。その結果、バアル・ゼブルとしては死んでしまい、神ではなく悪魔になった……とさ」
「へぇ〜……。でもそれで言うと、バアル・ゼブルの信者共の信仰心も弱かったのね。信仰心があれば、対抗できたんじゃないの?敵を潰したりさ。もしもお兄さんがバカにされたりしたら、少なくとも私と姉さんは全力で敵を捻り潰すよ」
「んね。昔の人間だって、戦争しまくったってよく本で見るわ。主神をバカにされてるってのになんで宗教戦争を仕掛けなかったんだろ。気弱すぎるわ。そんなんだから主神を失うのよ。主神が居なきゃ、宗教としては終わりも同然なのにね」
「だな。そこは分かる。俺も、信じてる誰かが敵にバカにされたら間違いなく潰すだろうな。ましてや名前をバカにするとか有り得ない」
俺はこんな名前なので、子供の頃からずっと名前イジりをされてきた。だからストレスが溜まり不良モドキを気取っていた恥ずかしい時期もあるのだがまぁそれは置いといて、誰かの名をバカにするのはそれだけで大きな罪だと思う。
外の世界ならまだしも、幻想郷や人外の世界なら特にそうだ。人外の世界では文字通り名は体を表すからだ。
「んじゃっ、そろそろ俺は行くよ」
「え、もう?まだ少しお茶しただけじゃない」
「期日が1週間後だからね。他の悪魔達にも伝えておかないとだから。ほら、今の幻想郷ってそこそこ悪魔多いから」
「むぅ……仕方ないわね。じゃあ、その会合とやらが終わったらまた遊びに来てね?」
「すぐ来ないと妖怪の山を吹っ飛ばすよ?」
「おい夢月、サラッと物騒なコト言うな……」
「じゃーねーお兄さーん、また来てね♪」
3人に見送られ夢幻館を出発する。次に向かうは博麗神社だ。
吸血鬼を悪魔の一種とするなら、今の博麗神社は悪魔の巣窟だ。巫女の霊夢は元より、霊麗、霊魔は純血の吸血鬼。そして霊愛は半妖だが、会合が開催されるのは満月の夜。つまり霊愛を含めても良いと俺は考える。
「レミリア主催の会合があるみたいだからさ、もし良ければ一週間後の夜、紅魔館集合な」
「会合とかは面倒だからパス。子供も呼ぶとなれば会合と称したパーティなんだろうけど……悪魔達だけ呼ぶっていうのがどうにも解せないわね」
「それは分かる気がする。霊愛はどうする?」
「お父さんも参加するんだよね?それなら、参加、してみたいけど……私、半妖だし……」
「わざわざ『満月の夜』なんだから、外でパーティするだけだと思うよ。だから霊愛も吸血鬼化するし大丈夫だろ。もし曇ったら、俺や霊夢が神奈子様を神降ろしして、あの方の暴風で雲を晴らすさ」
「ん……なら、参加する。霊麗は?」
「私も参加したいけど、霊魔が1人になるから……。うーん、ギリギリまで考えとくね」
「僕は1人で大丈夫。皆で行ってきてもいいよ」
「幼い子供を1人にしとくのは不安だわ。霊愛よりしっかりしてるから、そこら辺は大丈夫だろうとは思うけど……うーん」
「私は人間の血が強いんだから仕方ないでしょ!?そこまで成長も早くないしっ!そこで霊麗や霊魔と比べないでくれる!?」
「1人で留守番させられるかどうかを比べてるだけでしょ?いちいちそんな騒がないでよ」
「〜〜〜〜〜ッ」
「まぁまぁ。霊魔、どうせなら一応参加してみたらどうだ?レミリアが居るし」
「……レミリアさん……」
「……え?何?レミリアと何かあったの?」
「レミリア、霊魔のこと可愛がってくれてるんだ。悪魔と神様で団体戦をしたのは前にも言っただろ?そん時も色々面倒見てくれたんだ」
「ふーん、あのレミリアがねぇ……。それなら霊魔、あなたも参加してみない?霊魔も来てくれたなら、レミリア、喜んでくれると思うけど」
「で、でも、紅魔館、メイドさん……ばっかり……。ジロジロ見られるの、恥ずかしいし……」
「なら、霊魔には従者のシャロンを同行させるか。色々面倒見も良いし、他のメイドと業務を分ければ他のメイドと同じ空間に居る時間は短くなるはず。霊魔よ、引き篭ってないで外に出る努力はした方がいいんじゃあないか?何れは霊魔も里の人間の依頼とかで、里で妖怪退治もするようになるかもだし。慣れるだけ慣れとけ」
「ッ……うん……」
「確か、面識はあったよな?」
「うん……あるけど……」
「
「うぅー……分かった〜……」
(((こういう押しに弱い所、
◆
「そういうワケで、当日シャロンには霊魔の面倒を見ててもらいたいんだ。頼めるか?」
「勿論ですっ!霊魔さん……あの方ですね!」
「あんま特別扱いはしないでくれよ?そういうのに慣れてない子だから。フランクに接してくれると、多分あの子も楽だと思う」
「分かりましたっ!」
「…………!!」
紅魔館における、俺達のそんな会話を聞いていた者が1人。その者は、俺が去った後で、シャロンに接触を試みた。
その後、レイチェルを通してアスモデウスを召喚して、彼女も呼ぶ事に。そしてその時にレミリアに紹介する事に取り決めた。
更にエリスやモルモーなどなどにも声を掛けて、遂に「その日」になった。