「────エスカルゴとモルモーの魔法について、大体の見当は付いたわ」
「時間魔法、でしょ。モルモーは時間魔法を使えるから、霊夢がそう推測するのも分かるわ。だけど、エスカルゴは?さっきのアレはどこからどう見てもバラバラで行動していた。エスカルゴに時間魔法は効かないけれどそれを考慮しても説明がつかない。どういう事……?」
「……エスカルゴも時間魔法を習得したんでしょ」
「習得したい、とは言ってたわよ。でも、モルモーでさえも完成には数百、数千年以上を要したらしい魔法を、こうも早く習得できると思う?モルモーと出会ってまだ数ヶ月よ?」
「そう言われると……流石に無理があるのかしら?」
魔法については人一倍知見が劣る霊夢。流石に、時間というものを操る魔法は、如何に向上心のあるエスカルゴとて難しいのかと思い始める。
とはいえ、そういった「急速な進化」を目の前で見た事のある霊夢は、レミリアの予想は外れているのではないかと考えていた。
例えば、親友の魔理沙は瞬間移動の魔法を急速に進化させていった実績がある。初めは魔法陣の上に対象が乗らなければ、その効果を得られなかった。次に、陣に乗らずとも指などで触れているだけでも瞬間移動が可能となった。
そして今では、少し詠唱するだけで移動可能だ。この進化は数年どころか数ヶ月の間に起きた事だ。瞬間移動がそう簡単な技術ではない事なんて、霊夢だって分かっていた。だからこそ彼も急速な進化を遂げ、時間魔法を短期間で己のモノにしたのではと考えるようになっていた。
何より彼には、モルモーという時間魔法の指導者にすらなり得る人物がいるというのも大きかった。
「だからこそ謎なのよ……妙に連携が上手いのも少し腹立つし……」
「何でそこで腹立つのよ。全然力を合わせたりする様子なんて無かったのにさ。ていうか、レミリアとエスカルゴが力を合わせてる所だなんて、想像すらできないけどね」
「フン。エスカルゴの隣にはいつもフランが居た。そのイメージが強いのも仕方ないわね」
「……そういう訳じゃないけど、別にそれでいいわ。とにかく、念の為、エスカルゴも時間魔法を使える前提で戦った方が良さそうね。万が一もあるわ」
「それは……少し警戒し過ぎだと思うけれど。まぁ、そうね、警戒はしておきましょう、警戒はね」
「……」
レミリアは、なまじ身近に時間操作が可能な者が2人も居るからなのか、モルモーの時間魔法を甘く見ているように霊夢には感じられた。
◆
「それでは決勝戦────始めッ!」
長い口上の後に、漸く試合が始まる。レミリアは自分の身体能力をフルに活かし、凄まじい素早さで空中を動き回る。狭い屋内でスーパーボールを投げあちこちに跳ね回らせているかのようだ。
霊夢は普段の異変解決の際の弾幕ごっこのように通常弾幕から入る。ホーミング弾も混ざっているがそれらは剣で斬った。どうも込められている霊力が普段より強いのか、彼女の弾幕を斬る度に俺の剣が重くなってきているような感覚に襲われる。
俺の剣には俺自身の力が込められている。これは所謂「魔の力」と言えるものだろう。そんなものが込められているなら霊力に弱いのも頷ける。
まさか、通常弾幕にまでそんな細工をするとは。理由は分からないが、霊夢も霊夢で、この戦いには勝っておきたいようだ。
単に負けず嫌いな面もあるからかもしれないが。しかしそれなら、こちらにも考えがある。
《お願い》
《分かったわ、目には目を作戦ね!》
「埴輪『杖刀人装備・埴輪兵士型』!!」
俺の力の対抗手段として霊力が使われるのなら、その対抗手段として神の力を使うまでだ。vs早鬼や八千慧とは違い物理攻撃には弱めのセラミックスのこの装備だが、霊力弾を防ぐくらいの事は容易い。そして、斬る事も。
「……やっぱりそう来たわね」
「使える
「ええ、知ってる。霊符『夢想封印』!」
「!!」
霊力には霊力でも対抗できる。だから俺は霊力のバリアを用いて身を守ろうとするが────やはり霊夢の霊力の強さには、俺では対抗できっこない。俺が結界を斬る時のように、弾幕で俺の結界を中和したかと思うと、溶けるように結界は消え、弾幕の通過を許してしまう。
露出している顔を守る為に頭を抱え、蹲るように身を縮める。一部ではカリスマガードとかいう妙な呼び方をされているアレだ。全身に被弾してしまうものの、ガードされている部分はしっかりと袿姫の鎧が守ってくれた。
しかし、俺はバカだった。激しい弾幕の嵐の中、顔を守る為という理由で顔を覆った。つまり、霊夢から目を逸らしたのだ。
「…………あっ」
弾幕が止み顔を上げたその時には、霊夢はもう、俺の背後に回り込んでいた。振り返ろうとするも、時既に遅し。霊夢は、俺を場外に吹っ飛ばさんと、そのスベスベした美脚による、凄まじい蹴りを俺に喰らわせ────られなかった。
「時符『キング・クリムゾン』」
時間をほんの0.5秒……いや念の為に1秒スキップさせる事にした。彼女の蹴りは俺の背中の辺りを、一度……二度、蹴った。すり抜けているので被弾こそしないものの、あんな二段蹴りを喰らっていたら、確実に吹っ飛ばされていただろう。
勢いがついている分、一度目よりも二度目の方が蹴りも鋭く、そして激しかった。
キンクリの効果時間中に俺は霊夢の背後に移動。この1秒のスキップ後、霊夢は「確実に蹴ったのに蹴った感触が、蹴った覚えがない」という、奇妙な感覚に襲われるはず。その直後に彼女に抱きつき、吸血してやる。それでジ・エンドだ。
「────はぁッ!!」
「がはっ……!?」
キンクリの発動中、二度の蹴りを見届けた俺は、悠々と霊夢の背後に移動し羽交い締めにする用意を整える。それなのにキンクリ終了の直後、目の前に居るはずの霊夢の蹴りが、土手っ腹に突き刺さり、真横に吹っ飛ばされた。
このままでは、体勢を整える前に場外アウトだ。吹っ飛ばされる最中、俺は自分の真後ろにスキマを開き、吹っ飛ぶ距離を稼いで体勢を整えた。
「……い、てぇぇ……」
「アバラ、突き刺さったでしょう」
「ああ、グッサリとね……。クソ、まさかの三段蹴りだとはね。予想外だった。鎧も砕けちまったよ……」
手元にはセラミックスの剣が残った程度で、鎧のヒビは全身に回り、脱皮のように全身からパキパキ剥がれ落ちた。神の力を纏った剣があるなら、まだマシではあるが。
「正確には、二段蹴り+溜め蹴りね」
「ああ……成程」
二段蹴りが終わって攻撃モーションが止まった、俺はそう判断した。が、止まったのではなく、力を溜めていたのだ。だから、キンクリであと1秒か、2秒程度スキップさせていたなら……。
「でもおかしいだろ、何で俺の前に居る霊夢の足が後ろに居る俺に当たるんだよ……って、そうか」
「気付いた?」
お祓い棒によるスキマだ。霊夢はアレでワープもするし、そこから卒塔婆を飛ばしたりもする上に、今回は足だけを突っ込んで蹴りに利用した、というワケだ。中々に厄介な能力の使い手だ。
問題は片方のスキマはお祓い棒の届く範囲にしか開く事ができない事だろう。もしお祓い棒から遠く離れた場所にスキマを開けるなら、俺が距離を稼ぐ為に開いたスキマと俺との間に霊夢のスキマを設置する事で、場外に吹っ飛ばせるからだ。
だからお祓い棒の届く範囲にしか片方のスキマを作れないと仮定できる。きっとこれは霊夢の能力の応用か何かだろうが、そういった制約があるのならまだやりようがある。
「……分断された時点で負けは確定……かな」
俺が霊夢の弾幕を捌き始めた時点で、モルモーと分断されていた。彼女は今レミリアと戦っている。モルモーに望みをかけて、俺は霊夢との戦いに集中する事にした。
◆
「あーあ、分断された……。時間止めてもいいけど、エスカルゴくんの妨害になりかねないわよね……」
霊夢の弾幕を剣でひたすら斬る彼を見て、何とかサポートに行けないかと考えるも、目の前で素早く動き回るレミリアを見て考えを改めた。ここはまず目の前の事に集中すべきだと。
「半殺しにしてあげるわ、モルモー?」
「私も不老不死みたいなモンだしぃ、そんな槍じゃ半々殺しにすらできないよ?」
「さぁて、それはどうかしら────!!」
やれやれという風に両手を肩の高さにまで上げるモルモー。そんな彼女を狙いレミリアは深紅の槍を投擲すると、ボヒュッという鈍く汚い音と一緒に、モルモーの手首から先が吹っ飛ばされていた。
貫くとか貫かないとかそんな次元ではなかった。モルモーはそれに気付き、内心舌を巻いた。
「この威力……さっすが、私の子孫ね。エンプーサが死ぬのも納得できるかも。でも……何かしら、いつもよりも邪気が強いというか……強くなった?」
「ええ、今夜は満月だから」
「?満月……だから何?」
「我々は満月の夜に真の力を発揮する。ご先祖様は知らないのかしら?」
「いやぁ〜、モルモーちゃんにそんな特性ないし。あぁ、そっか。余計な弱点と一緒にそんな特性まで得ちゃったんだ。でも残念、モルモーちゃんは常に全力を出せるから♡」
「なら見せてみなさい、その全力とやらをね……!」
「年長者への敬意というものがまるで感じられない言動ね、レミリアちゃん♡……いいわよぉ、半殺しにしてあげる!」
創造魔法にてナイフを大量に生成すると、それを一気に発射する。けれども、そのような弾幕は己の従者の弾幕で見慣れていたので、レミリアは、スイスイとナイフを回避していく。その先にモルモーがナイフを持って待ち構えているのを知って尚、だ。
「誘導か、中々姑息な手を使うね」
「まんまと誘導されたあんたが悪いのよ。ほぉら、腹にズブリと────」
「ふぅん、銀のナイフか。でも大して効かないね。純度が低すぎるわ」
「っ……こ、コイツ……!」
今にも腹部に突き刺さりそうになったナイフを、レミリアは素手で掴んだ。刃は肉を切って血を溢れさせるが、彼女はそれすらも意に介さずバキャッと握り潰した。
しかし如何に純度が低いとはいえ銀は銀である。ナイフを握り潰した際にできた傷は中々治らない。モルモーはそんなレミリアの血中の鉄分を操作し、酸欠状態にしようと思い付いた。
「ちょ〜っと見た目はグロいけど、勝つ為なら多少グロくても……!────」
「…………ッ!!」
尖った何かが体内から飛び出してくる妙な感覚に襲われたレミリアは、彼からモルモーの持つ魔法を事前に聞いていた事もあり、これから自分が彼女に何をされるかを本能的に察知していた。
そして、場外判定のギリギリまで後退した。
「!……そっかぁ、レミリアちゃん、私の魔法が何か知ってるんだっけ?じゃあ……私が近付けばいいだけだよねっ!?」
「くっ……!!」
モルモーとレミリアの追いかけっこが始まった。
モルモーの磁力魔法は、基本的には普通の磁石とあまり変わらず、距離を取ればそれだけ磁力は弱くなっていく。だから、レミリアはモルモーと距離を取った訳だが、モルモーが魔法を発動させたままで接近するなら話は別だ。
追いかけてくるモルモーから逃れるべく、高速で空を翔ける。
「速いねレミリアちゃん、モルモーちゃんでも中々追い付けない……けどねェ!時符『ザ・ワールド』!
……で、いいんだっけ?」
堂々と時間魔法を使うモルモー。その近くで戦闘している彼は一瞬戸惑っていたようだが、すぐ何か考えが浮かんだのか、長々とした詠唱を始めた。
「んふふっ……さぁて、レミリアちゃん?ゼロ距離で食らったら、果たしてどうなるのかしら……?」
限られた数名以外動きが完全に停止した世界で、モルモーはレミリアに、ひしっと抱きついた。彼はそんな彼女を見て、思わず制止の言葉を発しそうになったが、この戦いは「殺害NG」である。
モルモーがルールを守っているという事を信じ、彼は魔法の詠唱を続けた。
「────そして時は動き出す……♡」
「ぐっ……!?いつの間にッ……まさか、時を……!?ぐふっ、ぐえっ……んぎぎぎぎっ……がああッ……!!ぐあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!!」
押し寄せる吐き気、体内からの刺すような痛み。レミリアは堪らず悲鳴を上げ、裁縫に使う縫い針のような太めの針を全身から吹き出した。
「きゃっ♡ イイ匂いだわ〜♡」
「ハーッ……ハーッ…………ハァッ……ハァッ…………」
「大丈夫?酸素、まだ取り入れられてる〜?一応、ある程度は調節できてると思うけど……」
「くっ……かふっ……は、は…………はぁ……はっ……」
「んー、そろそろやめとこっかな。あんたに大怪我させると、エスカルゴくんがうるさそうだし」
「……!がああああぁぁああぁぁぁっっ!!!」
「きゃあっ!?」
血を流したまま、激しい蹴りを顔に仕掛けてやるレミリア。再生に気を回すより攻撃に気力も体力も全振りしているようだった。
「ちょっ!?何よ急にッ!?」
「今は戦ってんのよ……!気にするとか、気にしないとか、怪我するとかさせるとか、関係ないでしょ!この私をッ……このレミリア・スカーレットに慈悲をかけるつもり!?」
「……ふーん?じゃあ、いいよ。彼に遠慮しないで、ぶっ倒してあげるわ────ッ!!」
その時、地面からカッと赤黒い光が立ち上った。それはモルモーの相方、エスカルゴの魔法であり、地獄の力を使った雷魔法だった。
「へカーティアをも味方につけた今……!地獄の雷の力は俺のものだァ!!アーッハッハッハッハァ!!喰らえィ、霊夢ゥ!!獄雷『
「……って、私まで巻き込まれそうなんですケド!?ちょっとエスカルゴくん!!ひゃあっ!?」
「モルモー、
「ったく、ホントにもうっ!」
「「停止世界『魔法仕掛けの恋』!!」」
時間を止めて、2人の周囲に魔力弾を設置する。停止を解除してやれば第1波の弾幕が激しく2人に襲い掛かり、回避し終えた所で再び時間は止まる。
そんな波状攻撃を加えても中々トドメは刺せず、焦れったい思いが抑えきれなかった。
「これで終わりよッ!!エスカルゴくん!トドメを刺すわよ、今度こそ!」
「あいよっ!」
「「加速世界『魔法仕掛けの恋』!!」」
スペルの名前自体は同じだが符名が違う。霊夢の夢想封印に「神霊」や「霊符」等のパターンがあるように、符名での区別も面白そうだと思い、考えたスペルだ。他には2種類の同名のスペルがある。
「これ、は…………霊夢っ!!」
「問題ないわ」
時間を加速させる事で弾幕をも加速させる。
弾幕は発射されてから少しの間は遅い。しかし、僅か数秒でグイグイ加速して、対象を襲っていく。最終的には、小粒も大粒も大玉もそれ相応の太さの線にしか見えなくなってくる。
因みに、人的被害などが出ないよう加速するのは無生物のみである。それこそ雲だとか、風だとか、雨だとか……弾幕とかだ。
「速すぎて
「……少なくとも私はまだ被弾してないわ。つまり、回避可能な弾幕よ」
「……ッ!?」
「いつかエスカルゴが言ってたっけ。『世の中には覚えゲーってモノが存在する』……って」
「覚えゲー……ですって?」
「そうでしょ、エスカルゴ?」
「……ああ……そうだね」
波状攻撃は、それぞれ速さが違うだけでパターン自体は同じ。だから弾幕が遅い内にパターンを記憶すれば目を瞑ってでも回避は可能なのである。
一定の加速度なので徐々に回避を早めればいい。目で見るレミリア、読む霊夢。2人の違いはそこにあった。
「うぎぎぎ……あの紅白、強すぎでしょお!?ねぇ、何なのあいつ!?エスカルゴくん!!」
「霊夢は……最強の巫女。俺の、自慢のお嫁さんさ」
俺は思わず、笑みを浮かべ、ついついそんな事をモルモーに惚気たのであった。