終わりは、意外と呆気なかった。俺とモルモーのスペカを完全に読み切りパターン化させた霊夢は、レミリアの制止を振り切って単身弾幕の嵐の中へ。
弾幕の発射地点を読んで動いた霊夢は決して被弾せずに、まずは時間魔法が得意なモルモーを一度、思い切り彼女の顎を膝蹴りする。そのままの勢いで時計回りに回転すると、遠心力と重みの加わった、凄まじい蹴りが俺のコメカミに炸裂した。
本当に一瞬の出来事だった。たったそれだけで、戦いが終わった。数々の異変を解決してきたという確かな実力を、改めて実感させられた。
せめて夢想天生でトドメを刺されたかった所だ。だが霊夢の美脚で蹴られたならある意味ご褒美だ。そう考えるようにしよう。
因みにその後は予定通り魔女達の戦いに移って、最後には、魔法使いの頂点と悪魔の頂点とが接戦を繰り広げた。
最終決戦は霊夢&レミリアvs魔理沙&フランで、技術の霊夢達と火力の魔理沙達という、バランスが良いのか悪いのか分からない構図となっていたが、最後は霊夢達が勝った。圧倒的火力を圧倒的技術が上回ったという事だ。
「……スゲェな」
「ね。流石のモルモーちゃんもアレは捌けないわ。時間を止めればイケるけど……それすら読まれてそうだものね」
「それな。流石、長年咲夜さんとの交流があるだけあるよ、2人共。時間魔法を披露してもロクに動揺しなかったもんな」
「ホントよ。全く、あれは無いわー。もっとさぁ、慌てふためく様を見せろっての!」
「はは……」
己の魔法に自信を持っているからか、モルモーはキーッと子供のように喚いてはダカダカと地団駄を踏んでいる。するとそこに、試合を終えた魔理沙がやってきた。それに気付くとモルモーは俺の後ろに身を隠し、キュッと服を掴んできた。
「ようエスカルゴ、モルモー!」
「おう魔理沙、お疲れさん」
「……」
「ん?どーしたモルモー、お前、人見知りなのか?エスカルゴの後ろに隠れやがって」
「別に。てか、このモルモーちゃん相手に、なんでそんなに馴れ馴れしくすんのよ?この私を、誰だと思ってるの?」
「モルモーはモルモーだろ?」
「〜〜〜〜〜ッ……なんか、私、コイツ嫌い!」
「んなっ……酷いなぁ。会うのなんて、始めての時を含めてもまだ2回目くらいだろ?」
「何か、微妙に腹立つのっ!元人間のクセによくもそんな多彩な魔法を操れるわねッ……!向上心の塊はエスカルゴくんだけで十分だっつーの!」
「ああ、私の向上心に嫉妬してるのか。ま、それは褒め言葉だと受け取っておくぜ」
「そーゆーとこよ、そーゆーとこ!技術はまだまだ拙いけど、弾幕やレーザーの火力だけなら、ここに居る大抵の悪魔をも超越してる!後は技術を磨けばあの紅白に勝てる日もそんなに遠くはないかもね、知らないけど!」
「サラッとアドバイスしてるし……。と、とりあえずありがとな!」
「うっさい!これからエスカルゴくんとイチャラブするんだからあっち行きなさい!しっしっ!邪魔はご法度なんだからっ!」
「そ、そっか、そりゃ邪魔したな。またな!」
「おう」
「もう来なくていいわよっ!」
魔理沙が、ペアだったフランの方へ戻ると、漸く後ろから出てきた。霊魔と居る時に誰かと話すと、大抵は霊魔もこんな感じの反応をする。
まさかモルモーが人見知りを?いいや違うそれはおかしい。もし人見知りなら俺との初対面であんなイケイケすぎる態度を取れるはずがない。
「……何かヤケに魔理沙んこと敵視してない?ロクに関わりないのに嫌うのはちょっとどうかと思うぞ?俺が言えた事じゃあないとは思うけどよ」
「違うの。……凄いなって思うの」
「へ?」
「あの子、多分だけど水属性よね。なのに、まるで火や光の属性を持っているかのように、そういった魔法を操ってた。普通なら有り得ないわ。あなたは雷とか闇とかそういった気質を持ってるから、その魔法しか操れない。でも、あの子は元人間だから、逆説的に、向き不向きはあれど大体の魔法は操れるはず。人間は不安定な生物だからね、固定の気質はあまり無いはずなのよ」
「……つまり?」
「『本来なら不向きであるはずの魔法で、天才共と互角に渡り合ってる』……って言えば分かる?」
「かなりエグいな」
「かなりエグいのよ。だからもしあの子が水属性の魔法を使い始めた時……あなたは、正攻法であの子に勝てなくなるわね」
「ひえっ」
「いやマジで。割とマジよ。だからこそこの私でも
『凄いな』って思うのよ」
「なら直接そう言ってやりゃあいいじゃん」
「お断り。敵に塩を送るような事はしないわ」
「敵って」
「だって敵でしょ。あの子もエスカルゴくんの彼女なんでしょ?なら私にとっては敵も同然だわ」
「言ってなくね?なんで知ってんの」
「表向きは普通の友人っぽく接してるみたいだけどそういう雰囲気が溢れてるのよ。この2人はエッチしてそうだなって感じの、特有の雰囲気がね」
「意味分かんねえ」
「つまり女の勘ってヤツよ」
「それなら仕方ない」
「飲み込みが早いわね」
女の勘かぁ、とモルモーのセリフを脳内で反芻。魔理沙が水属性という事実は、彼女が人間の頃から知っていた。だが彼女が水属性の魔法を使うようになったら?という事は余り考えてこなかった。
今、その話をモルモーから聞き、俺は少しだけ、魔理沙が恐ろしくなった。モルモーが言うなら多分そうなんだろう、という説得力がある。
「あ?待てよ?」
「どうしたの?」
「さっき、『人間は不安定な生物だからね、固定の気質はあまり無いはず』って言ってたよな?しかもその理由は魔理沙が元人間だから、ときてる」
「まぁ、そうね」
「俺も元人間なんだけど?」
「そうね」
「なら、もしかして俺でも雷や闇属性以外の魔法も使えるようになるのでは!?魔理沙だって、本来は水属性なのにアレだろ!?」
「無理でしょ」
「はぁ?何でだよ、条件は同じだろ?」
「まず前提からして違うわ。あの子は人間の頃からアレ系統の魔法を使ってたんでしょ?」
「…………まさか?」
「そ。分かったと思うけど、そのまさかよ。人間の頃からその魔法を使ってなきゃダメよ」
「そんな……。妖怪化すると気質が固定されるから?でもそんな話は天子からも聞いた事ねェけど……」
「もし他の属性も使いたいんなら人間の頃から人生やり直すしかないわね」
「ちぇっ。俺みてーなフツーの人間は、魔力なんて持ってねぇーんだよ。やり直したってそんなの無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーッ!!」
「そゆこと。諦めなさい」
「はぁ……」
本来の気質に逆らってでもそれらの属性の魔法を使えるようになったなんて。霊夢が天才で魔理沙は努力家?そんな認識、合ってるようで合ってない。
霊夢が天才なのは間違いないが、魔理沙だって、努力の天才だ。こんなの「努力家」なんて言葉では片付けられない事実だ。
ある意味、努力で自分の運命を捻じ曲げたようなものだろう。「水属性の魔法しか使えない」という運命を。
「だからこそパチュリーはバケモノなのよ。普通、気質は1人1つ。それによって、使える魔法だって属性魔法は幅が狭くなる。なのにさ、何よアレは。全属性を極めてるも同然なのよ。時間を止めなきゃモルモーちゃんですらも勝てないって、前に言ったでしょ?そういう事よ」
「そう考えたら、パチュリーはガチでヤバいんだ?凄いな……やっぱ強すぎるわ。あー、でも、物の例えだとしても、バケモノ呼ばわりはヤメロよな」
「はいはい、悪かったわよ」
運命を捻じ曲げた。人間の魔理沙ですら、それができた。なら、俺はどうだろう。与えられたモノ、求めたモノが手に入ればその時は満足して────俺は
「……はぁ。前途多難ねぇ」
「何が?」
「モルモーちゃんがエスカルゴくんを独占するにはどうすればいいのかしら」
「急にどうした」
「ううん、何となく。フランドールがあなたを独占した事件、あったでしょ。その時は、私はあの子に勝ったけどさ。独占するのも面白そうだなって今更ながらに思ったのよ」
「独占とかやめてね。ラブアンドピースが一番よ、やっぱな」
「は?ラブアンドピース?どの口が言ってるのよ?ラブラブセックスの間違いでしょ」
「……」
何だか今日はモルモーと話してばかりだ。けれどたまには悪くないな、と思う。
フランも魔理沙とツルんだり話したりして、心底楽しそうにしている。フランが楽しそうだと思わず口元が緩んでしまう。
遠くから眺めているだけでも癒される。ここまで癒されるのは、数多い彼女達の中でもフランや幻月くらいのものだろう。
そんなポカポカした気持ちのままパーティ会場に並べられていた料理を頬張り、お酒や紅茶なんかを口に運んでいると、唐突に聞こえてきた叫びが耳を貫いた。
「お母さーん!コンドーム買うから、お金頂戴!」