※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

942 / 1140
勘違いした男の末路

 ────俺は人間。幻想郷にある「人間の里」に住んでいる、本当に、極々普通な一般人だ。その日暮らしで適当に生きている。定職にはついてない。働かなくても生きていける事を、知っているから。

 

「こら、太郎!さっさと仕事見付けてきなさい!!いつまでもそうやってグータラして!!この前紹介してあげた仕事もそう、無断で休んでてすぐに解雇されたんでしょうが!」

 

「うっせぇババア!俺の生き方に口出しすんな!」

 

「そんな食っちゃ寝するようなだらしない生き方があっていいもんですか!さっさと出て行きな!仕事探してくるんだよッ!」

 

「へーへー、くっそダリィなぁ」

 

 家を出た俺は、適当な飲み屋に足を運ぶ。当然、仕事をしていないのだから金は無い。親の財布からこっそり金を抜いたり、または……。

 

「あ、すまん」

 

「いってぇぇぇ!肩の骨折れたァァァ!!」

 

「えっ!?」

 

「オラオラ、慰謝料さっさと寄越せやオッサン!」

 

「そんなッ、金なんて持ってな……」

 

「持ってんだろうが!?あー痛え、肩痛えええ!!ぜってー折れてるぜこれぇぇ!!」

 

「わ、分かった、もう分かったから、もう騒ぐのをやめてくれ……」

 

「フン、最初からそうしときゃ良かったんだよ」

 

 こうやって、慰謝料請求と称して金を奪い取る。そんな様子を見ていた人達は、ヒソヒソと俺の事を噂している。でもそんな事を気にはしない。いつもそうだ。俺が何かする度にヒソヒソ、ヒソヒソと。鬱陶しいから、聞き流すのが一番だ。

 そしてその金で里にある飲み屋、鯢呑亭へ。

 

「はー、どいつもこいつも、クソばっかでよぉ!!働け働けってうるせーしマジムカつくぜ!どーして俺が働かなきゃなんねーんだ、わざわざ!」

 

「……」

 

「なぁ!アンタもそう思うだろう!?」

 

「……あはは〜……」

 

 看板娘の、おくのだ?なんとかって娘に愚痴る。口うるさい親の愚痴、前の職場の愚痴、ついさっき金を奪ったという武勇伝などなど。

 反応はイマイチだ。ムカつくから背を向けた瞬間尻でも触ってやろうとタイミングを見計らう。

 

「おーい美宵ちゃーん」

 

「はーいっ!」

 

 看板娘が他の客に呼ばれ、背を向けたその瞬間、尻を────触れなかった。尻へと伸ばした手が、弾かれるような痛みに襲われたからだった。

 

「つ〜〜〜ッ……いってえええっ……!何なんだよ……これは……!!」

 

 ムカつくから、客が居なくなったら襲ってやる。寝たフリでもして閉店間際まで店に残ってやろう。その頃なら客は居なくなってる。きっと、寝ている客を起こしに来るはずだ。それを利用してこの俺の息子を世辞も言えねえあの口にブチ込んでやる。

 

「んじゃ〜美宵ちゃん、俺ァそろそろ帰るね」

 

「えっ?今日は……早いんですね」

 

「うん、ちょっと用事があって。ほろ酔いのうちに済ませときたいんだよ」

 

「そうですか……分かりました」

 

 元便利屋だと吹聴していた紅眼の男が店を出る。アイツは、いつもあの看板娘と喋っている。一部の客から酷く鬱陶しがられている男だ。そして、奴と仲良くする奴もまた一部の客から疎んじられてる。

 確かアイツは、坂田ナントカって名乗ってたか。坂田なんて苗字、里に居ないような気がしたが。

 そしてその男は帰り際、俺の横を通って鯢呑亭を出た。その際、ズボンのポケットからポロッと紙を落とすのを見た。俺はそれが金か何かだと思って、男が店を出るのを見計らってからそれを拾った。

 

「ンだよ、ただの紙かよ!……って、何だ?」

 

 何か書かれている。書き殴るような字で、恨みをぶつけるように太い字で、たった4文字。

 

次は殺す

 

「ひっ、ヒイイイイイイッ!に、逃げねーとっ……」

 

「あっ、お客さん、お代……」

 

 看板娘の制止も振り切り、鯢呑亭を飛び出した。善良な客とかも追い掛けて来るが、俺は、逃げ足は昔から速いから、さっさと自宅に戻り汗を流して、さっさと布団に入った。

 

 

 ◆

 

 

 俺は夢を見ていた。これは、幼い頃の記憶だ。

 

「うわああぁん!にーちゃんが、にーちゃんがまた僕のお菓子食べたぁぁぁ!!」

 

「コラッ!太郎!お前って子は、どうしていっつも弟の物を横取りするんだい!兄弟だろう!?同じ物あげてるんだからそれでいいだろう!?」

 

「取られる方が悪いんだーい!お前は弟なんだぞ、にーちゃんの方が偉いんだ!強いし!」

 

「バカ言ってんじゃないよ全くこの子は……!!」

 

 幼少期は弟や友達の物を奪ったりしていた。親をいつも泣かせてきた。謝りに行った時だって、親に頭を下げさせて、俺は頭を下げなかった。

 だって頭を下げるってのは弱者が強者に向かって媚びへつらう時にする事だろ。俺は強者。強者だ。だから謝らない。後悔しない。顧みない。

 

「あっコラ!待ちやがれ!返しやがれ俺の財布!」

 

「スられるのが悪ィんだよ、このドグサレが!俺の酒代にしてやるぜ!!」

 

 青年期はスリや強盗紛いな事をしてた。でも俺は弟が自立しても相変わらず実家暮らしだったから、親に飛び火したけど、親が何度も何度も被害者達に謝って、金やその他諸々で償ってきたから、最初は烈しく責め立ててきた相手方も遂には折れ、大事にならなくて済んだ。俺は強者だが親には守られてるみたいだ。悪くない。

 そして最近では表立って悪事を働く気にもなれず親の紹介で働いてみたりしたが、ダルくて辞めた。それを何度も繰り返していた。

 そして、どうしようもなくムラムラしてきたら、旦那を殴って黙らせてその女房を犯したりもした。カワイイ女を見たら犯したくなるのが、男として、当然の心理だからだ。

 自慰なんてしない。性欲が湧いてきたなら性交、これが生物として普通の事だ。だからまぁ、少しは恨みを買ってたりもしてるが。

 

 

 ◆

 

 

「────う!太郎!起きな!あんた、今度は何をしたんだいっ!?」

 

「っ……うっせーよ、ババア……頭痛え……」

 

「あんた!自警団の人が家まで来たよ!!」

 

「……は?」

 

「逮捕状が出てるって……あんたって子は…………!」

 

「は?……え?逮捕?……俺、が?」

 

「はぁ……もう面倒見きれないよ……」

 

「お…………お袋……」

 

「……行きな」

 

「え?」

 

「出て行きな!あんたなんかうちの子じゃない!」

 

「お袋……」

 

「私はもうあんたのお袋じゃないよ!出てけ!この親不孝者がッ!!」

 

「……ッ!」

 

 突き飛ばされるようにして家を追い出された俺。目の前には赤髪の女が居た。こいつが俺を逮捕しに来たのか。

 

「────という訳で……って、聞いてますか?」

 

「犯してやる……!オラッ、ケツ向けろ!後ろから、思っきし突いてやっからよォ!俺のウデで、どんなカタい女も泣かせてきたんだぜ!!」

 

「黙りなさい」

 

「なっ!?」

 

 女に襲いかかろうとすると、素早い身のこなしで俺を躱し、逆に俺の手に、金属製らしい妙な腕輪を両手に填めてきた。

 

「逮捕完了。すぐさま裁判にかけられます。なお、弁護人は居ません。当然ですね」

 

「…………は?」

 

 

 ◆

 

 

「お前は幼少の頃から暴力、盗み、食い逃げ、窃盗などを繰り返していたようだな。情状酌量、更生、同情の余地もなし、と。小兎姫、どう見る?」

 

「即刻死刑で良いかと」

 

「ふむ」

 

 俺を逮捕した女は、小兎姫といった。普通の人間とは違う妙な格好をしている。青を基調とした変な服装だ。アレも人間寄りなだけで人外なのだろう。

 だからなのか、誰一人として殺していない俺を、即刻死刑にすべきと宣う。

 

「バカ言ってんじゃねぇ!俺ァ誰も殺してねえッ!確かに多少の悪ふざけはしたが、死刑にまでされる謂れはねェだろうが!!」

 

「悪ふざけ……?あなたが何組もの夫婦を破局させた事実を知らないの?」

 

「あぁ?」

 

「あなたが旦那さんに暴行し、動けなくさせた上で目の前で奥さんを……。そんな事が何件もあったわ。そしてその後、2人で立ち直った夫婦は凡そ半数。たったの半数。残りはどうなったと思う?」

 

「……」

 

「まず離縁。更に心中。心を病んだ奥さんが自死、旦那さんが後追い自殺。この里で起きている犯罪の凡そ8割、自殺の理由の9割以上に、あなたは関係している。直接手を下していないから殺してない。そう言いたいんでしょうけど間接的にならあなたは大量殺人犯よ。里でも類を見ない事例ね」

 

「被害を受けた夫婦はかなり多数だ。100や200では済まないだろう。何年も何年も、そのような荒んだ生活を送っていたのだからな。では何故、今お前を逮捕するに至ったか────分かるか?」

 

「……知らねえよ、ンなこと」

 

「家族のお陰よ。あなたの弟さんは商いで成功し、若くして指折りの富豪となってるわ。あなたが生活出来ていたのは、弟さんが実家にお金を入れていたお陰。被害者に謝罪したのはお母さんで、慰謝料を渡していたのは弟さん。あなたは何をしてきた?」

 

「何も。俺は自由に生きるって決めてたんだよッ、ガキの頃から!!」

 

「何故?」

 

「何故ってそりゃ……あんたらも思わないのかよ!?アイツを……エスカルゴを見て!!」

 

「!……エスカルゴさんが、何?」

 

「だから、あんだけ強くて、女を取っかえ引っ変えしてるアイツを、俺はガキの頃から見てきたんだ!だから俺ァ強くなろうとした!勝てると思えば年上だろうと喧嘩を挑んだし、金も女も奪ってきた!!そうして生きてきたんだ、強くなる為に!!だから俺も女を取っかえ引っ変えしてンだ!俺を逮捕するくらいならアイツにも何か言ってやりゃいいだろ!何で、どうして俺だけなんだ!!」

 

「あの人は妖怪。あなたは人間。今私達は、人間の決まり事に則ってあなたを裁いています。そこにもなにか文句が?」

 

「ッ……おかしいだろ、妖怪だからって!!」

 

「それにあの人は関係を持っている人を全員心から愛してます。性欲のはけ口としてしか見ていない、あなたのような人間と比ぶべくもない。自警団にも協力してくれますしね」

 

「……何か、他に言いたい事は?」

 

「俺だって被害者だっ……!」

 

「はい?」

 

「坂田っつーヤローに、『次は殺す』って書かれた紙を突きつけられたんだよ!鯢呑亭で!!そうだ、俺の懐に入ってる、見てくれ!」

 

 俺の後ろに立っていた見張り役が懐をまさぐる。念の為に持って帰ってきておいて正解だった。その紙には確かにその旨が書かれていたものの、それが

「坂田」という者の仕業である証拠は、どこにもありはしない。

 

「小兎姫、戸籍を」

 

「はい。………………坂田、なんて苗字は居ませんね」

 

「なっ……じゃ、じゃあ偽名だ!」

 

「だとして、お前が第三者に『殺す』と言われても仕方のない所業を繰り返してきた事は、身に染みてよくわかっているだろう?被害が出ていないのなら我々も動けない。よってその紙は廃棄する。そして今ここで、判決を言い渡す」

 

「な……んだ、と…………?」

 

 ────どうして勘違いしちまったんだ。ただの人間である俺が、吸血鬼のあの人と同じ位に自由で快適に生きられるなんて。

 強さ云々じゃなかったんだ。そんなのは二の次、三の次。そもそも、種族が違えば生き方すら違う。そんなの、分かっていたはずなのに。

 

「即刻死刑に処し、10日の間、晒し首とする」




エスカルゴの振る舞いを見て育った男子の話です。ある人には「いいヤツ」に見え、ある人には「好き勝手に振る舞うヤツ」に見えます。しかしながら、そのどれもがちゃんとエスカルゴなのです。
エスカルゴが幻想入りして20年近く経ってますし、1人の人間が立派な大人になるくらいの年月は経過しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。