「よっす、また来たよ。昨日ぶりだな」
「いらっしゃい。……あれ?息子くん?」
「はっ、はじ、初め、ましてっ……」
「そ。息子の博麗霊魔。かなりの人見知りなんだが少しは慣れさせないとと思ってさ。宜しく頼むよ」
「手しか見えないけど、一先ず宜しくね霊魔くん」
「あうぅ……よっ、よろしくっ……お願いします……///」
いつもの如く行きつけの定食屋こと赤蛮奇の働く飲食店へ。今回は、里を散歩するという名目で次男霊魔を連れ出している。
霊夢や姉妹も、霊魔のこの酷い人見知りには辟易しているので、いい加減、他人にも慣れさせないと里などに妖怪退治に行かせられないという事から、俺に連れ出してほしいと頼んできたのである。
面倒臭いのでは?と思ったが、男同士の方がいいという尤もらしい言葉に言い負かされこうなった。
因みに、前日には外の世界のとある魚をこの店に卸した。レシピブックを店に託してあるので今日はその料理を食べられそうなら食べに来たというのもあった。
「で、どう?レシピに追加できそう?」
「それで来たのか……。全く、気が早すぎるよ。普通こういうのはもっと時間を掛けてレシピ化させて、メニューに追加するもんなんだからね?」
「じゃあまだダメかぁ」
「だから気が早いんだっての。最後まで聞いて」
「ッス」
「追加、できたよ。お陰様で新しいメニューがね。少し高いけど、食べてく?」
「え、早くね?料理人達、昨日寝た?一日で解体の仕方から料理まで漕ぎ着けるもんなの?」
「普通に寝たよ。ま、相当無理はしたけどさ、本のレシピをまるっと丸ごと真似しただけだから、一応簡単ではあったみたいだね」
「ほへぇ。じゃあ早速食べますかぁ」
「鉄火丼?」
「うん。霊魔はどうする?」
「お、同じので……」
「んじゃ鉄火丼2つお願い」
「はーい。……って、店先でメニュー聞くとか……。気が早いのは私も同じか。まっ、好きな席に座って待っててよ。お冷、持ってくから」
「はいよ」
俺が店に仕入れたのは、マグロだ。人間の頃からマグロが一際大好きだったが、幻想入りしてからは当然、外の世界に行くまで久しぶりに食べる機会も全く無かった。だから俺は考えた。幻想郷でもまた好物のマグロを食べられるようにしたい、と。
一番簡単なのは自分で店を開くことだ。土地ならあるようだし、外とのパイプを持つ妖怪はそこそこ限られているので、俺なら簡単な事だった。
その上、クジラなどを捕まえて競りにかけるのも最近は好事家向けにしかやっていないので、新しい金儲けの方法としては最高だった。
とはいえ、何よりも大きな問題があった。分身に任せるにしても面倒臭いという事だった。
創造魔法と錬金魔法を駆使して店を建設。それは簡単だ。仕入れるのも分身にやらせればいい。故に簡単だ。しかし、調理方法を分身に覚えさせるのがズバ抜けて面倒だ。
分身は、作成する際に俺の知識をコピーされる。それの意味するところ、俺が全てのメニューを把握しなければいけないという事だ。
分身を作ってから覚えさせるというのは何よりの愚策だ。その通りに行動してくれるとも思えないし学習機能なんて備えてないからだ。
そこで、俺は考えた。行きつけの店に融通して、そこの店員に頼めばいいのではないかと。
赤蛮奇の働く店の店長とは顔見知りではあるし、お得意様という程でもないがかなり通っているし、妖怪差別も無いという先進的な思想の店長なので、
「外の世界の魚ですって!?やるしかねェ!!」と二つ返事でOKしてくれた。
なお、従業員達に不満が出てくるのではと危惧もしたが、そんな店長についてくるような従業員だ。彼らも心から喜んで引き受けてくれたようだった。
赤蛮奇もどこか楽しげだし、本当に良かった。
「はい、お冷。あと、店長から伝言なんだけどさ、もし良かったら他の魚もお願いできないかって」
「え」
「見ての通り、『外の世界の魚が食べられる』って誘い文句に釣られて、お客、増えてきてるじゃん」
「あ、ああ……確かにいつもの昼時よりは多いかな」
「だからかなりの儲けが見込めそうなんだってさ。だから、あの、マグロ?ってヤツだけじゃなくて、他の魚も仕入れてくれないかって。勿論、それらは高値で買い取らせてもらうって言ってた」
「いやぁ〜……競りと違って金儲けの為に融通してるワケじゃあないし、昨日と同じく無料で融通する。俺が楽して外の世界の魚を食べたいから、こうしてばんきちゃんの店に頼んでるんだから。儲けた分は店員達の給料に当ててくれ。メニューとか捌き方を覚えるのも大変だろ?」
「まぁね。じゃあ、そう言ってくるよ」
「おう。あ、魚のリクエストがあったら言ってよ。捕まえてくる」
「お願い。あの本、色んな魚の調理方法が載ってたから、店長も皆も張り切ってるよ」
「はは……マジですかい」
マグロの調理本を渡せば良かった、と少しばかり後悔したくもなるが、後悔先に立たず。後の祭り。ともかく、これで里の皆も外の魚を食べられるし、俺は楽して贅沢できるし、店も儲かる。
「お待ち遠様。鉄火丼……あれ?霊魔くん寝てる?」
「顔伏せてるだけ。気にしないでくれ」
「かなりの照れ屋なんだね……ここまでとは」
「ほら霊魔、来たぞ」
「……うん」
「顔上げろって」
「まぁまぁ。いいよいいよ。それじゃごゆっくり」
頭でなく本体が運んできたので、ほっぺぷにぷに出来なかった。少し寂しいが本体が対応してくれるというのも乙なものだった。
霊魔は、俺と赤蛮奇の会話を聞いて何か思う所があったのか、店を出るなり紅魔館に行くと言って、猛スピードで飛び去った。
赤蛮奇は、霊魔のその意外な程の行動力にほんの少しだけ驚いているようだった。
それから暫く里では外の魚ブームが巻き起こり、店は常に満員御礼だった。
旬の魚が代わってブームが下火になってからも、満員御礼ではなくとも常に客が店の凡そ半数の席を埋めてはいたのでかなり儲かっているようだった。
そして、ほんの少しだけ暇が貰えるようになったある日のこと。
「……ちょっといい?」
「んー?何?また何かの魚、足りなくなった?」
「いや、そうじゃなくってさ。……もうすぐで今日の仕事は終わるから、店の裏で待っててくれない?」
「OK、分かった」
彼女にそう言われた俺は、食後、会計を済ませてすぐに店の裏へ。すると割と早く彼女も出てきて、合流した。
「よし、行こうか」
「え?」
「甘味処。立ち話もアレだろ」
「……うん」
手を繋いでみたかったが、寒いからかポケットに手を入れているようだったので、俺もそれに倣い、ポケットに手を入れて歩き出す。
彼女はこんな気候なのに俺が半袖である事に鋭いツッコミを飛ばしてきたが、動きやすいからな、の一言でそれをいなす。
長ズボンにしている時点で動きやすさは激減だが敢えて言わないでおく。服装によりデバフがかかるなんて恥ずかしい事、言わない方が吉だ。
服装まで考えると、霊夢が腋出し巫女服なのも、割と納得がいく。肩周りは自由な方が動きやすい。腋出しなら腕を動かしやすいのは自明の理である。
対して赤蛮奇は見るからに動きにくそうだった。まぁ、彼女は体術を使うワケでもないし、弾幕主体だったらそこまで考えなくても良さそうだ。
「腕、寒そう」
「ん?……まぁな。今日は風もあるみたいだし、少し肌寒いかもな。問題ないけどね」
「…………じゃあ、こうしてあげる」
「ッ!?」
ポケットから手を抜くと、なんと赤蛮奇の方からスルリと腕を組んできた。一瞬ビクリと肩を震わせ歩みを止めかけるが、素知らぬ顔で歩き続ける。
しかし言わずにはいられない。
「えっ……と…………どう、した?なんか積極的だな、エスカルゴくん照れちゃうゾ……?」
「言わないで。……何も、聞かないで」
「……分かった」
これはヤバイ。赤蛮奇が腕を組んでくれるなんて思ってもいなかった。まして俺がそれをやる側だと思っていたくらいだ。
流石の俺も、もう分かった。多分、彼女に告れば受け入れてもらえる。嫁カノや家族を除けば彼女が一番俺の子供達との面識もあるし、ハーレムにも、すんなり溶け込んでくれるだろう。
「か……甘味処の次、何処に行こうか……?」
「……2人に、なれる場所」
「……了解」
そして遂に、里の出合茶屋にて2人きりになる。ヤる為に来たのではなく、2人きりになる為だけに部屋を貸してもらっている。
備え付けのちゃぶ台に日本茶を用意して、反対に座る相手を見つめる。気まずい空気にも感じたが、久しくドキドキするような感覚がしたので、俺は、特に何かを話す事無く彼女の発言を待つ。それでも彼女は頑なに口を閉ざしているので……。
「ばんきちゃ……いや、赤蛮奇」
「!」
「もう、分かってるとは思うけど……改めて言わせてもらう。俺と付────」
「待って!!」
「ッ!?」
「ッ……!ご、ごめん……急に大声出して……」
「あ、いや……それはいいんだけど、どうした?」
「……言わせてよ」
「え?」
「あんたから……じゃなくてさ、私に言わせてって。その方が……他の人達から詮索されなくって、楽だと思うから」
「……そっか。分かった」
長い間を置き、何度も何度も深呼吸をする。目を真っ直ぐに見つめてきて、遂に意を決したように、キッパリと言う。
「………………好き。今までよりもっと……仲良くして。それで………………私とも……付き合って……?」
「ふふっ……照れるばんきちゃん、可愛いよ。俺らも付き合っちゃいましょーか!」
「軽っ……こっちはめっちゃ緊張してるのに……」
「改めて言われると俺でも照れるよ。緊張もする。でもさぁ、ばんきちゃんはこんな俺のどこが好きになったのさ?」
「……ウザイし、鬱陶しいし、最初は嫌いだったよ。でも、どれだけ拒否しても構ってくるし……」
「……」
「何なのアイツ、みたいに思ってた。いつもほっぺ触ってくるし……。あれ割と嫌だった時もあったよ」
「え゙っ」
「当たり前でしょ。好きでもない奴に顔を触られて喜ぶ方が変だよ。自惚れすぎ。……だけど、店に来たのに、それが無かった日があったでしょ?」
「あー……何度かあったな。多分そういう時は前回に強めに拒否られたから控えてたんだろうな」
「だと思う。……それで、触られなくなって、安心はしたけど……なんて言うんだろ…………」
「寂しくなった?」
「!」
「……当たり?」
「……当たり。それで、姫と影狼に、嫌なはずなのに妙に気になるって相談した。それで2人に『それが恋なんだよ〜!!』って……何か、応援されたの」
「そっか。じゃ、姫と影狼に挨拶に行かなきゃだ。今度、2人で挨拶に行こうか。私達、付き合う事になりましたって」
「……うんっ♪」
◆
その後、博麗神社にて。気分が舞い上がった俺は霊夢に報告しちゃおう、とノリノリで話していた。
しかし霊夢は、俺が話し終わると、ふっと小さく息を漏らして苦笑いした。
「……嘘でしょ?まだ付き合ってなかったの?」
「え?まだって……え?」
「だって赤蛮奇……結構前からアンタの事ばっか私に聞いてきたりしてたし。好きなのは分かってたわ」
「え、てかそんなに霊夢と赤蛮奇って繋がりある?そこからして驚きなんだけど」
「赤蛮奇は里に住んでる妖怪だからね、妖怪退治や買い物とかのついでに様子を見に、少しね。最初は驚いたわ。まさか、自ら妖怪である事を明かして、人を驚かすどころか能力を有効活用してあの仕事に役立ててるなんて。恐れられなくなったら力を失うだけなのは分かってるだろうに、どうしてそんな事してるんだか。ま、力に執着が無いってのは悪い事じゃないんだけどさ」
「その時に、俺の事を色々霊夢に聞いたのか」
「ええ。答えられる範囲である程度は答えたけど、あまりに質問攻めだったから鬱陶しくなってさ」
「おいおい……」
「だから言ってやったのよ。『押せばいい』って」
「……成程な。じゃあ赤蛮奇は律儀にもアドバイスを実行したワケだ。ヤケにグイグイくるなぁ、なんて思ってたから、疑問が晴れて良かったよ」
「そ。で?ヤッたの?」
「んーん、まだだよ。赤蛮奇が、あまりにニコニコしてるから……」
「へー……あいつが、ニコニコ、ねぇ」
「最初は嫌われてたみたいだけどね。ウザイって」
「前に言ったと思うけど私も最初はそうだったわ。ぶっ飛ばしてもぶっ飛ばしても食い付いてくるし、鬱陶しいことこの上なかった。でもそういう奴って気になるのよねー……ね、
「そう、なのかな。でも嫌われるのはあんまり心象よくないから、これからは控える事にするよ」
「それがいいわね。私や赤蛮奇の場合は、たまたま結果オーライになっただけかもしれないしね」
「だな」
嫁にハーレムの相談なんておかしな事をする、と今の自分の行動を振り返り、思わず自嘲する。でもそのお陰で今の俺があるとなると……おかしな事でも実行してみるのがいいのかもしれないな、と考えた俺であった。