「なぁなぁエスカルゴ、見てみろこれ!」
「んー?……おっ、腹動いてる!」
「ああ!もう腹の中で大暴れだ!ふふ、これは早く生まれてきそうだな!」
紅魔館にて咲夜さんの代わりに家事をしていると早鬼が腹を見せてきた。すると、ほんの数秒に一度程度という超高頻度で、目に見えて分かる程に強く腹を蹴っているではないか。しかも服の上から見て分かる程だ。パワーに溢れている子供だ。
「マジか〜……ってか、早くない?成長……昨日より腹が大きくなってるような……?気の所為か?」
「んー、どうだろう?だがとにかく、最近よく腹を蹴られるようになってな!私達に似て強い子だぞ、きっと!絶対に組を強くしてくれる!」
「ある程度大きくなるまでは戦場に連れてくなよ?流石に分かってるとは思うけどさ……」
「そりゃあ勿論だ、狙われたら大変だからな。他の組に攻める時には本拠地に置いてくよ。護衛を数人置いて行ってな」
「……もっとさ、俺を頼れよ」
「ん?」
「どうしても勝ちたい戦いだったら俺も手を貸す。ヤクザ行為じゃなくて、戦闘ならね。子供を守る、早鬼を守る、早鬼と戦うくらいの事なら俺にだってできる。いや、させろ。絶対、時間を作って助太刀するから」
「……どうしても勝ちたい戦いだったら、か。なら、ダメだよ、やっぱりな」
「何でだよ?」
「どうしても勝ちたい戦いしかないからな。お前も忙しいんだから、そう毎回毎回力を借りるワケにもいかないからなぁ……」
「変な遠慮すんなよ。勝ちたい戦いしかないなら、それでいいから。戦闘がある予定ができた時点で、俺にも声を掛けろ。トランシーバー渡したろ?」
「……分かった。組員もお前を慕ってるようだしな、これからは遠慮なく頼らせてもらうよ。霊長園とのパイプも利用させてもらうが、構わないな?」
「おう」
「そうか!分かった!じゃあ改めて宜しくな!」
「はいよ」
パシッとハイタッチ、グッと手を握り合ったその直後。早鬼のスカートの中から、プシャッと液体が溢れてきた。ピシャピシャと床を濡らし水溜まりを作っていく。早鬼の顔を見ると、サーッと顔を青くさせている。
「……え?」
「あ……っ」
「早鬼ッ!?」
力なく倒れそうになる早鬼。慌てて抱き留めるがどうやら様子がおかしい。息も荒いし、謎の液体は止まらない。嫌な予感がした。
「おいおいまさか……やっぱ破水か!!」
「は、は……痛い、の……もう、我慢できそうに……、ないな……すまない……ッ」
「我慢してたの!?今話してた間も!?」
「あぐっ……ぐ、う、ううっ……!カハッ……ハーッ、ハーッ…………」
「組長さんは根性が半端ねぇ……つーか生まれる前兆じゃあねーかよっ、行くぞ永遠亭!」
瞬間移動にてすぐさま永遠亭へ。直接、診察室に行くと迷惑になるだろうと思うので受付近くへ移動して、ナースの鈴仙に早鬼を見せる。
それで全て察した鈴仙は「こっちへ!」と通してくれた。ベッドに寝かせた直後、鈴仙が永琳を連れやってきた。
「これはそこそこ早産ね、このまま産む?それとも
「ちょ、永琳先生、言い方!」
「このまま、だ……ッ!気合いで何とかしてやる!!勁牙組組長の意地、見せてやる……ッ!!」
「分かったわ。エスカルゴとウドンゲは早鬼さんを分娩室へ運んで。エスカルゴは……その後は待機よ。どうせまたパニくるだろうからね」
「んなっ!?」
「あなたがパニックに陥るとスキマ乱発するから、ホント迷惑なのよ。自覚してるの?スキマレベルの電流・電圧だと近くの機器も狂うんだからね?」
「だ、だって〜……」
「ほらエスカルゴ、運ぶよっ!」
「あ、お、おうっ!」
「……さて、こちらも準備もしなきゃ……。急すぎて大忙しだわ……」
永琳は準備に取り掛かり俺は待機。するとすぐに分娩室が賑やかになる。どうやら産まれたらしい。馬の出産は、個体差はあれど破水から20〜40分とか以前に本で読んだが、早鬼までそうだとは。
「おいエスカルゴ、来てくれ、元気な男の子だぞ!未来の組長、ここに誕生だ!」
「ちょっと早鬼さん、まだ処置が……」
早鬼に呼ばれて急いで入室。処置が済んでいないようで彼女のあられもない姿を見る事になったが、それはスルーして彼女と共に赤子を抱き上げた。
父母の4本の手で支えられ赤子は少しずつ機嫌を良くさせる。泣き喚きジタバタ動かしていた手足を収め、キュウウッと丸くなり笑顔を覗かせる。
「あーい!あーうぅっ!」
「目が閉じてるな、この子は糸目なのか?」
「赤ん坊はそんなもんだよ。大丈夫、俺達の子なら割と直ぐに目を覚ます」
そして約1時間後。早鬼があやしていると赤子が暴れ、彼女の手から落ちた。慌てて受け止めようとするが、赤子はクルッと空中で体勢を整え足を下に着地。立った。
「た、立った!立ったぞぉぉ!!」
「ええっ!?お、お師匠様〜ッ!あっ、赤ちゃんが立ちましたーーーっ!!」
ドタバタと永琳を連れてくる鈴仙。その頃には、とっくに目を開いていた。俺や早鬼に似て鮮やかな紅眼であり、笑顔が早鬼に似ているように見えた。
「う、うーん……
「まさか……生まれるのも早いし成長も……?」
「つまりエスカルゴの子供の成長は母の性質に左右される可能性が高い、のかもね?」
巫月と緋月は大きな差があるが、妊娠によって、母の体質が変わる事もあるそうなので、そういった事が要因となっているのだろう。
「よし、名前を決めたぞ!おい、お前!半紙と筆を持って来てもらおうか!!」
「え、あ、はいっ!」
鈴仙にそう言うと鈴仙は弾かれたように飛び出しそれらを持ってくる。創造しようと思ったのだが、思いの外鈴仙が早く、止められなかった。早鬼の、組長らしい「凄み」が垣間見えた気がした。
「この子の名は……駆翔!驪駒
「ヨーグルト……」
「紅魔館で食べたアレか?……って、白いドロドロと一緒にするな!」
「すまんて。にしてもスゲェ早そうだな。走るのも
人耳と馬耳の両方があるらしい。身体の構造など気になる事は色々あるが……とりあえず、あの黒翼は本当に羨ましい。早鬼に似て、漆黒のペガサスだ。
◆
数日後。赤子改め、駆翔とある程度の意思疎通ができるようになったので、永遠亭を退院。その足で紅魔館へ行きレミリアを始めとする紅魔館の面々に駆翔を見せる。ここあが目を輝かせていた。
「……?どうした、虔魔?」
「…………いえ。なんだか、ふしぎだな、と……」
「何がだ?」
「さきさんのおなかから、こどもがでたことです。こんなおおきなぶったいがとおれるだけのあなが、さきさんにあいてるのかなぁ、と」
「はは……そうだな。俺らの赤ん坊は生まれてからの成長が早いから、このままの大きさで出てきたワケじゃあないんだよ。もっと小さい状態で出てくる」
「それじゃ、おなかとそとをつなぐあなは、あるんですね。すごいです」
「凄い、のか……?」
「おなかのなかのものが、どばっとでてこないのがふしぎです……」
「ああ、そういう……」
ベルゼビュートが攻めてきた頃はまだ赤子だった虔魔は、今や普通に意思疎通が可能だ。弦月姫とは公私共に仲良くしているようで俺や咲夜さん、更にレミリアも安心している。
が、少し困った事があるようだ。虔魔は、周囲の何もかもが気になるようで「すごい」「ふしぎ」が彼の口癖となっているようだ。
何事にも興味関心があるのは、素晴らしい事だ。しかしそのせいでメイド妖精からは「面倒な奴」と敬遠されてしまっていて、仕事中は美鈴、弦月姫とばかり絡んでいるとの事。
天子はと言うと、主人の子供ではなく同僚の子供という事で、ドストレートに「あんたねー、少しは慎みってモンを覚えなさいよ!あんまうるさいと、皆から嫌われちゃうわよ!?」とアドバイスをしたらしいが……虔魔はそれに首を傾げ「てんしさんよりおおきなこえをだしたことないです。うるさくないですよ」と言い、天子は怒る気力を失ったそう。
屁理屈なんだか天然なんだか。咲夜さんに似て、ちょっぴり天然なのかもしれない。きっと彼は素でそう言っている。
因みに公私の内の「私」の時間は、パチュリー、フラン、レミリアとばかり話しているようだ。その3人共が知識人である辺り、色々察せられる。
駆翔を見ても、弟を観察ばかりして、話し掛ける様子はあまりない。なので俺は……。
「ほら。この前話したろ?あの子が兄ちゃんだよ。数ヶ月違いだけどな。ほれ兄ちゃんと遊んできな」
「おうっ!おれ、にーにゃんとあそんでくる!!」
「わ、はやい……。くるとくん、いっしゅん、ときをとめたのですか?」
「とき?なんだそれ?いーからあそぼーぜー!じゃおれがおにな!」
「おに?」
「たっちー!にーちゃんおになー!あはははは!!うおー!おやしきにはいるぜー!とつげきー!!」
「ああっ、駆翔くん!?あわわっ、どうしましょうお嬢様、あの様子じゃ色々……」
「良いわよ美鈴、好きにさせなさい。何か壊れたらエスカルゴに直させましょ」
「……それもそうですね!」
駆翔は鬼ごっこを唐突に始めて、虔魔にタッチ。あまりにも突然過ぎて対応できず、ポンッと弟から叩かれた肩に手を置き、虔魔はキョトンとした顔で俺を見上げながら問う。
「……おとうさま、これは?」
「鬼ごっこ。駆翔にタッチできれば虔魔の勝ち」
「かち……?なるほど。しょうぶ、ですか」
「そうだな」
「おかあさまにいわれました。こうまかんのしつじたるもの、まけることはゆるされない、と」
咲夜さんは、相変わらず厳しい教育を施しているようだった。しかし、駆翔と虔魔の、この短時間のやり取りを見て顔を綻ばせているのを見るに、少し丸くなったのを感じられた。
「────それで、早鬼。もう少しくらい紅魔館で過ごすんでしょう?」
「ここに住まわせてもらう時に約束した通り、出産したからもう畜生界に帰るよ。永遠亭にも、何日か世話になったしな」
「だけど駆翔くんと虔魔くん、すぐ打ち解けられたみたいだし、今引き離すのは良くないんじゃない?互いに事情とか把握もしてないし、あと数日くらい延長したっていいのよ?」
「だがなぁ……駆翔、かなりのじゃじゃ馬だぞ?多分今頃、館の中は……」
「キャーッ!何なのよこのガキィー!スカート捲るな!!」
「あっはははは、ごめんなさーい!」
「めいどへのふていこうい、ゆるしません!」
「にーちゃん、おれとたたかうのか!?いーぞ、うけてたつ!!」
天子の叫びが聞こえたその直後、紅魔館の一角が爆散した。ポカンと口を開けているレミリアの顔がほんの少しツボにハマった。
「エ・ス・カ・ル・ゴ〜!!」
「は、はい……」
「今すぐ直せ!!!!」
「はいぃぃぃ!!」
親なので、俺がレミリアにボコられた。そして、早鬼は更に数日、紅魔館にて滞在する事になったのである。2人が紅魔館を出る際は皆とても悲しんでいたので、早鬼が紅魔館に馴染んだ事が俺としても嬉しかったものである。
三男:十六夜
種族:吸血鬼
能力:未開花
時を操る程度の能力の前兆なのか、それとも単純に両親の血の影響か、咲夜、弦月姫の能力による時間停止は効かない。へカーティアの凍結による時間の停止は通じる。
何事にも興味を持ち、近くの者に「何で?」と納得できるまで質問攻めする。彼が満足するまで問答に付き合えるのは紅魔館ではレミリア、パチュリー、フランくらい。
美鈴は受け流すのが上手い。
咲夜に尋ねると「仕事をしろ」のように仕事関連で怒られるのが分かっているので、母親には尋ねないようにしている。
異常なまでの知的好奇心の他には、紅魔館を守ると幼いながらも考えていて、メイド等に危害を加える者には容赦しない。が、ナイフ術などはからっきしなので、大抵はフィジカルでどうにかする脳筋。
せいぜいが「ナイフで切り付ける」程度。しかし、彼の活躍によりイタズラ目的で館に侵入する妖精は減った模様。
それについてメイド長咲夜は「妖精程度ならスルーして構わないと教えているのに」と少しばかり頭を悩ませている。侵入者に対して厳しすぎる。
虹龍洞ベビー。
何でも興味津々な虔魔と人見知りな霊魔では相性は最悪だろうな、とエスカルゴも霊夢も咲夜も考えているので、迂闊に会わせられない。
妖舞とはそれなりに気が合う様子。
駆翔によるスカート捲りを「不貞行為」と言うが、自分もよくスカート捲りをする。下心は無く「服の構造を知る為なので不貞行為ではない」と本心から思っている。
四男:驪駒
種族:驪駒と吸血鬼の混血
能力:未開花
走るのが好き。走る速さで人物の価値が決まる、と思っているので、両親の事は本気で尊敬している。尚、勁牙組組員の事は本気で見下しているが、その内容や振る舞いがお子様すぎるので、何を言っても何をしてもホッコリされる。今や、ブラック企業の癒し枠らしい。
戦闘は足技メイン。ライダーキックが好き。
好きな食べ物は無いが、嫌いな食べ物も特に無い。大体何でも「うまい!」と食べる。多分母に似た。
無邪気、無意識に人を引っ張っていくその様子から天性の
ウマ娘ならぬウマ息子。
馬って出産早いんだな……。
いや、自然界じゃあ長い時間かけてたらダメなのは当たり前だけども。人間と比べると早いなぁ。